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歴史小説
2002年


宮尾本平家物語一
「宮尾本平家物語二」
宮尾登美子
宮尾登美子
「仲蔵狂乱」
水葬
松井今朝子
諸田玲子

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「宮尾本平家物語一 青龍之巻」(宮尾登美子)  朝日新聞社

巻一では清盛七才の頃から平治の乱までの時代が描かれています。
特に前半は保元の乱に至るまでの後宮の女性たちを描いていて、宮尾流の女性描写が見事。

この時代の女性を生き生きと描いた小説はなかなかないと思うので、とても興味深く読めました。特に印象的なのが、祇園女御、持賢門院璋子、美福門院得子、そして清盛の義母である宗子、清盛の最初の妻の結井など。全体に歴史上の人物というより、等身大に描かれているのでそれぞれの人物が生々しい。若い清盛像も新しいですね。



「宮尾本平家物語二 白虎之巻」(宮尾登美子)  朝日新聞社 

巻二は、時子の異母妹にあたる滋子が後白河上皇の御所へ出仕するところから福原遷都まで。平家の最盛期からかげりの見え始める時代までを時子の視点を中心に描いています。

前半、滋子が後白河上皇の寵を得て高倉帝を産むまで、そして徳子の入内、懐妊までの女性達の戦いは読み応えがありました。後半になると鹿ケ谷の陰謀、重盛の死、上皇配流、以仁王と一族の未来に暗雲が立ち込めてきます。人物像が等身大に描かれてるので、登場人物の行動に無理がなく違和感なく読めます。滅亡までの物語が楽しみですね。平家物語なので義経の奥州下りでは金売吉次も登場します。

エピソードごとに章を立てているので時間が前後するところが戸惑うのですが、全体を読み進むと、大きな時代の流れが感じられて引き込まれます。




「仲蔵狂乱」(松井今朝子)  講談社文庫

第8回時代小説大賞受賞作。文庫解説が萩尾望都さん。江戸中期、孤児の身から江戸一番の歌舞伎役者に登り詰めた中村仲蔵の生涯を描く作品。

市川新之助の仲蔵でTVドラマ化されたので記憶にある方もいらっしゃるかも。あの時は「仮名手本忠臣蔵」の定九郎の新しい型を作った役者の一代記という感じだったのですが、原作はけっこう濃いかも。

要はサクセスストーリーなのですが、歌舞伎という特殊な世界と、仲蔵の性格の柔らかさで静かな小説になっています。全編に散りばめられている歌舞伎の演目が華やか。

それにしても、すでにこの時代から歌舞伎の血縁はややこしいのね。私も母からよく話を聞くのですが、誰と誰がどういう血縁関係なのか、まったく覚えられません(^-^;)
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3才にして親と死に別れた幼児はその容姿の良さから、歌舞伎の世界の唄うたいと踊りの師匠の夫婦に引き取られ、厳しく芸を仕込まれる。その甲斐あって子役として成功するが、贔屓の富豪に引き取られ堅気の道を進むことになる。

しかし結局は堅気の商売にも馴染めず、再び歌舞伎の世界に舞い戻ることになる。だが、4年の間に昔のことを覚えている者も少なくなり、有力な血縁もない仲蔵は最下層からの出直しとなった。ここで死ぬほどの地獄を見た仲蔵だったが、やがては生まれ持った才能と芸の工夫で座頭にまで出世していく。


◆「水葬 (諸田玲子)  文芸春秋

江戸中期の尊皇運動弾圧事件、明和事件を題材にした時代劇。
といっても思想的な難しい内容ではなく、いわゆる「連判状もの」です。

山県大弐の誓書をめぐって、幕府隠密と忍者が取り合いをする話。ただ、主人公が藩士の妻という立場なので、普通の時代小説とは一味違っています。前半は謎解きミステリ風、後半は忍者活劇。

小幡藩の藩士、奥村賢太郎の妻・芙佐は長男の出産のため城下を離れ、黒濱村に滞在していた。そこへ江戸の夫の元へ密書を送って欲しいと、謎の武士が現れる。

しかし武士は芙佐に狼藉を働いたことから、芙佐は武士を殺し、密書を始末してしまう。
その後、芙佐のまわりを怪しい人物がうろつくようになり、ついに子供がさらわれる。
子供を取り戻すため、芙佐は密書を手に入れなくてはならなくなってしまった。

主婦が主人公の活劇というのも珍しいですが、江戸時代なのに怪しげな忍者が出てくるのも楽しい。時代が戦国だったら、もっと面白くなっていたような気がするんですが、そうなると藩士の妻が主人公というわけにもいかないから、これでいいのかも。気楽に楽しめる小説です。


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