◆「壬生義士伝」(浅田次郎)文芸春秋
主人公は、盛岡南部藩を脱藩して新撰組に入隊した隊士・吉村貫一郎。鳥羽伏見の戦いで死んだ吉村とその家族の生涯を通して、幕末から明治に移り変わる時代を描いています。
順を追った小説と言う形では無く、吉村貫一郎を知る人々が
明治になってから彼を語ると言う形を取っているところがミソ。
見る人によって変わる、人間の複雑さがわかります。
最初は単純な人間に思われた人物が、語られるにつれて肉を付け、重い深い人物像に変わっていくところは、謎解きのようで興味深く読ませます。
また、吉村貫一郎を語る人物達は、彼を語ると同時に自分をも語ってしまうところが面白い。「人間は他人を自分の計りでしか計れない」ということがよくわかります。吉村貫一郎の「義」は他の人間の「義」とは違っていた、その「義」が見える人間と見えない人間の差も面白いところです。
生きる事や死ぬ事を真剣に考えない現代に、人間の品格を考えさせる話でした。
◆「薬子の京 上下」(三枝京子) 講談社
藤原薬子については、いままで様々な薬子像が描かれて来ましたけど、この中の薬子は藤原種継の娘として北家を守ろうとする政治家です。あの妖艶なイメージは無いけれど、その分、解りやすい人に描かれてます。
それにしても、入内した娘の方は結局どうなったのだろう??
この中では出家してますが、自殺説もありますよね。
◆「山河寂寥―ある女官の生涯」(杉本苑子) 岩波書店
「壇林皇后私譜」の次の時代になる作品です。伊勢物語の時代でもありますね。
主人公の「ある女官」とは正一位尚侍藤原淑子。藤原基経の異母妹です。はじめ文徳天皇の女御明子(染殿の后)のもとに出仕、後に清和、陽成、光孝、宇多の各天皇に仕える女官として、正一位まで上り詰めた実力者です。
藤原氏の他氏排斥の仕上げに時代にあたるので、謎の事件の多い時代です。この小説の中でも不可解な死が多く、天皇の殺人事件などもあり、その点ではミステリーのようでもあります。
事件としては承和の変、応天門の変、登場人物は在原業平、菅原道真など。あまり小説になっていない時代なので面白く読めました。
◆「平成お徒歩日記」(宮部みゆき)新潮文庫
宮部氏と編集スタッフが、歴史上有名なルートを実際に歩いたレポート。
徒歩こそが主要な移動手段であった歴史時代の、距離感や時間の感覚を体験しようという試み。でもせめて、もう少し歩いて欲しい(笑)
歴史上の人物が実際に歩いたルートを歩いてみるのは楽しいですよね。京都では随分歩きましたけど、昔の人は思った以上に健脚です。藤原行成の日記では、御所と道長邸を何往復もしてるんですから、貴族といえど足は鍛えられてますよね。
そういえば以前、同じような試みをした本を読んだことがありました。タイトルなどは覚えていないのですが、佐々成政の針の木峠越えや、河井継之助の八十八里越えなどを実際に歩いていて、迫力のレポートでした。
◆「邪馬台国はどこですか?」(鯨統一郎)創元推理文庫
一応「推理」です。連作集。
「'99このミス」で8位か9位くらいにランクされてたはず。今回は読み返し。
舞台となるのはお客の少ないバー。登場人物は、史学専攻の大学教授とその助手、歴史マニア、バーテンの4人だけ。その4人が繰り広げられるめちゃくちゃ歴史談義。歴史書ではないのですが、学生時代を思い出す楽しい本。
でも、本物の邪馬台国論争はもっと訳わからない気もします(笑)
学生時代、「隠された十字架」で歴史を能動的に楽しんで良いと知った私達は、とにかく定説を覆すことに情熱を燃やし、訳のわからない新説を思いついてはいい加減な検証を言い合って盛りあがっていました(笑)その頃をなつかしく思い出しました。
◆「獅子の座ー足利義満伝」(平岩弓枝) 中央公論社
とても華やかな時代ですが、少し抑え目に描いている気がします。
政治的な事柄が中心だからでしょうか・・・。
もう少し長くなっても、細かく書き込んで欲しかったですね。
基本的には足利義満を、井沢元彦の「天皇になりたかった将軍」と同じ視点から描いた作品です。でも仮に義満の子が天皇位に上がったとしても、過去の歴史の例では、こういう場合は皇統に近い内親王が中宮に立つので、その子は、母方から見れば充分皇統を継いでいることになるんですよね。
結局、娘を入れるか息子をいれるかの差しか無いように思えてしまいます。権力の構造からしても、日本的にトップは祭り上げられて、No.2が実権を持つというパターンが新たに発祥するだけだから、結果は同じじゃないかと言う気がしますね。
◆「東福門院和子の涙」(宮尾登美子)講談社
ちょうど大河ドラマで登場しています。将軍秀忠の娘で後水尾天皇の女御になった和子の話。
その和子が宮中に受け入れられるまでの様々な苦労話(陰湿ないじめ等)が中心なのですが、これでもかというほどのいじめは凄まじいです。まあ、今想像しても「このくらいはあったろう」と思いますが、古い体質のところに新しい勢力が入り込めば、必ず起きる現象ですよね・・・とは言っても、矢面に立った本人にとっては、大変な苦労でしょうが。
でも、後水尾天皇との間には7人の子がいるわけですから、仲睦まじかったと言う説もあります。和子自身は、頭も性格も大変優れた人だったそうですから、天皇も次第にその魅力に惹かれて行ったのでしょうね。幕府の莫大な経済力をバックにして、戦乱で荒廃した京都の町を立て直した人でもあります。
◆「太平記紀行」(永井路子) 中公文庫
単なる史跡ガイドではなく、縁の地を巡りながら「太平記」の時代の謎を解き明かそうとする内容。
歴史ブームから取り残された南北朝時代、このややこしく判りにくい時代を、
実際に現場に立つことにより少しでも解明しようとしています。
なかでも、寺社勢力の見直しと言う視点が新しい。現代の日本では宗教勢力は過小評価されていますが、広大な荘園と強大な僧兵を持った大寺院は、権力と武力を備えた大勢力であったといえるでしょう。歴史の視野から外れてしまった感じがありますね。
◆「陰陽師 九巻」(岡野玲子/夢枕獏) 白泉社
「瓜仙人」「源博雅 思わぬ露見のこと」「内裏炎上ス」の3篇です。
管ギツネが可愛いな。
◆「まやかし草紙」(諸田玲子)新潮社
平安時代、京都で起こった若い女性の連続怪死事件。
事件の裏にいるのは時の皇太子か? それとも宮中の陰謀か?
その謎を女房が解く話です。ややこしくて判らなかったです…すみません^^;
|