「いや…………この新しい『現象』……」
列車、縮地、『遺体』、大統領、ルーシー…。混乱…しかしこの混乱は恐らくまだ序盤なのだろう。
「ほんのちょっぴりだが……理解が間違っていた」
空間にある割れ目のようなものに左手の人差し指を伸ばす。
ブウウウウ ブン!!
腕が割れる。空間が割れているのか?
「スキ間だ……」「空間のスキ間の中へ入れるぞ…」
「中を動ける…」「『ルーシー』を中心にスキ間の面が空間に…出来ている」
車窓の外にも割れ目のような場所が見える。そこにどんどん土地が引き寄せられてくる。
まるで地割れに呑み込まれているようである。遥か向こうで畑を耕している農民2人もがんがん近付いてくる。
「ルーシーのスキ間に家も山も何本かの川までも…」
「土地が集まって来ている…」
「その『スキ間』をわたしは動けるぞ……『D4C』!!」
「『遺体』ではない!この現象はわたしの『能力』だッ!『遺体』が能力を引き出してくれているッ……」
「『D4C』のさらなる段階ッ!!」
スポットライトはJ&Jに移る。
列車先頭の機関部と並走するジョニィとジャイロの愛馬・ヴァルキリー。
ジャイロはすでに列車に乗っており、機関室ににじり寄っている。ついに人影を認める。
ガバアッ
鉄球を振りかぶり中に突入する!!しかし、そこには奇怪奇妙な光景が展開されている。
鏡…であろうか?そこに埋め込まれているように男が座っている。右足が爆破されたかのように損傷している。
両手で機関車の操縦桿を握っている。
「おまえ何者だ…!?立て!」「何やってる!!」
ジャイロが尋ねる。
「………!!鏡…」「それは……」
ジョニィが何かに気付く。
「おい、ナメてんのかッ!立てと言ってるんだぜッ!!」「すぐに壁に両手をつけェッ!!」
「ジャイロ!それは大統領の仕業だッ!」「鏡だッ!」
「その男は鏡の中のもうひとつの世界の中に座らされているッ!!その運転士は無関係だ。大統領にやられた事だッ!」
「前にも見た!Dioは国旗のスキ間に入れられた!!」
改めて鏡の中を覗き込むジャイロ。
「!?」「その体に縄でしばられているものは……」
さらに覗き込むと、奥の方に両手両足を失っている男が横たわっている。まだ生きているようである。
「『鏡』の奥に誰かもうひとりいるぞッ!」「何者だ!?おまえッ!?スタンド使いかッ!!」
「ジャイロ!!それは『D4C』の能力ッ!!もうひとつの世界なんだ」「ここはもうおしまいだッ!彼はそうさせられたただの運転士!」
「オレは直接こいつに訊いてるんだよッ!答えろッ!!」
強引に口を割らせようとするジャイロ。そして口を開く運転士。
「た…助けてくれェ…」「お願いだァ…この手を離したら死ぬ……」
「今、握っている操縦ハンドルを離して中に入ったら『死ぬ』って教えられた」
「助けてくれェ〜〜〜、さっき失敗して脚が一本吹っ飛んじまったァァァ」
何とも奇怪な現象。
「中……鏡の中?」
「倒れている中のその男はもう『ひとつの世界』のおまえか?」
『同じ人間同士が出会ったら破壊されて死ぬ』『同じ物同士が出会っても破壊されて消滅する』
『握っているハンドルを離してこいつの全身が鏡の中へ入ったら……』
「そこにいるのはもうひとりの『おまえ』か。その『鏡の中』に倒れているヤツは?両手両足を切断されて……」
「(改めて何てこった…)同じ人間のいるもうひとつの世界が…(マジにあるとは)」
自分の目で見ない限りこんなことは信じられない。改めて実感するジャイロであった。
「た…助けてくれェ…」「お願いだ…そっちへ引っぱりだしてくれェェ…」
「ハンドルを握っている手もしびれているぅ…さっき石炭を炉にくべる時、手を離したから指を何本か失くしちまったみたいだァァ…」
ジャイロは運転士の左手小指が失われていることを確認した。
「何でオレがこんな目に遭わなきゃならねえんだぁぁあ……」
「オレはただの週給20ドルの機関車の運転士だああ」
「お願いだ……そっちへオレを引っぱってくれよォォォ〜〜〜ッ」
非常に不運な人らしい。
「いや…20ドルの給料も含めて気の毒だが無理みたいだな。あんたを『鏡』のこっち側へ引っぱった瞬間、そのしばられている手足も体といっしょにこっち来るだろ…」
「あんたそのロープほどけるか?」「同じ手足が出会ったら瞬殺で破壊されるな」
「じゃあ『鏡』を割って出してくれッ!『割れ』よッ!!それなら簡単だろォー―――ッ」
「ハッキリ言う!……」「無理だ!考えてみろ。鏡を粉々に割ったらきっとそれっキリだろ」
本当に不運な人らしい。
「何でだよォォ〜〜」「何でオレがこんな目に遭うんだよォ?」
「関係ないのによ……給料安いんだッ!!」
「どっちに転んでもダメな事ってあるもんだな…」
涙と鼻水と涎でグショグショの運転士。
「ヴァレンタイン大統領……この列車の運転を続けさせる一番の方法って訳だ…」
「しかも最後は自動的に口封じさせる!そういう仕組みにもなってる」
「何なんだよォ…何、感心してんだよォォォォ。おい!おまえ何とかしてくれよォォ」
「泣くのはかまわないがそのハンドルは離すなよ…それしかない」
「幸運を祈りながらな…オレたちが大統領を倒せばきっと助かる」
帽子を目深に被り直してジャイロは出ていく。
「………………!!」
大統領が窓の外を見る。
「ジョニィ・ジョースター、追いついて来たか…」
ジョニィが左手から弾爪を撃つべく構える。
大統領がルーシーを抱きかかえ、弾爪の盾とする。
その時、ジョニィの瞳に黒い炎が灯る。リンゴォ・ロードアゲインが言うところの『漆黒の殺意』か?
ドバ ドバ ドバ ドバッ
ジョニィが4発の弾爪を発射する!
「……なんてヤツだ…『ルーシー』を撃つのか…」
4発全てルーシーの背中に命中してしまう!!
しかし!!『弾痕』が移動して大統領を追いかける。
大統領はルーシーの身体を離し後ずさる。ソファに跳び乗るが、椅子の脚を伝って弾痕は追いかけてくる。
バン
弾痕を新聞紙で挟み込む。
「どジャアア〜〜ん」
「はさめば……何て事……」
新聞をパラァと広げるが、自分の手の違和感に気付く。
ギャルギャルギャル……
両手の甲に2つずつ弾痕がある。
「『穴』は『穴』…!そのもの自体は…はさみ込んでもD4Cの『もうひとつの世界』へ送り込めないのか…」
ドバッ ドバッ
さらに2発の追撃弾を撃ったジョニィ、両手の同じ場所に1発ずつ命中。
『弾痕』が腕を引き千切ろうと激しく回転する。
その時、何か閃くものがあったのか空間のスキ間に両手を差し込む。
ドン! ボムッ
車窓の外にいた2人の農民が倒れる。頭部にタスクを受けたのだ。何故?
「!?」「何だ…!!」
ジョニィも異変に気付く。
「これは………!!」今までの現象が頭を巡る。
この遺体に選ばれた『ルーシー』は…
まさに…
この現実に存在するわたしの『女神』だ |
『陽』のあたる所 必ず『陰』があり…
幸福のある所 必ず反対側に不幸な者がいる……
『幸せ』と『不幸』は神の視点で見ればプラスマイナス『ゼロ』 |
『安定した平和』とは!
平等なる者同士の固い『握手』よりも絶対的優位に立つ者が
治める事で成り立つのがこの『人の世の現実』!! |
今の現象…
この場所に集まって来ているのは『地面』だが…
実はこのルーシーのゆがみに
『吉良(きちりょう)』なるものだけが集まって来ている |
『害悪なる』ものは遥か向こうの!
どこかの誰かへ!!吹き飛んだッ!!
無関係のあの農民が今ッ ヘタをつかんだッ! |
おそらく害悪は『ろ過』されて
その『スキ間』へはこの世の『良い事』だけが残るッ!! |
これは『円卓のナプキン』だッ!!
世界中の後の者はそれに従わざるをえないッ!! |
『力』!! 『栄光』!! 『幸福』!!
『文明』 『法律』 『金』!
『食糧』 『民衆の心』!!
このわたしがッ!
最初のナプキンを手にしたぞッ! |
舞台は列車の外を駆けるジョニィに。
「な…何だ?」「今、撃ちこんだ『爪弾』が…どうなった?」
「6発……」
ジョニィが首を傾げる。
「今…列車の中で何が起こっている……!?」
さらに場面は転換して、機関室脇のジャイロ。
「ン……」
ジャイロの左腕を何かが這い上っている。
「これは……」「?」
「このムズがゆさは!?」「この小さな跡は?」
「『傷痕』?」
『…そうだ、さっき確か…指を…(魚に?)』
さらに傷痕が腕を上る。
「おい!!?動いてるッ!!?」
「オレの腕を登って傷が来て…」
ブチンッ!
なんと傷が頸動脈まで登ってジャイロを出血させる。
『理解…したぞ…』『ついにナプキンを取ったという事で…』
『あと『ジョニィ』と『ジャイロ』を始末すれば…それで終わりだな…』
『行くか…外へ』
空間のスキ間を伝い直接外へ降り立つ大統領。
一触即発の最終ラウンドの鐘が今、鳴り響いたのだ!!!
|