‘09 12月号
 #53 現象と女神 

「いや…………この新しい『現象』……」
 列車縮地『遺体』大統領ルーシー…。混乱…しかしこの混乱は恐らくまだ序盤なのだろう。
「ほんのちょっぴりだが……理解が間違っていた」
 空間にある割れ目のようなものに左手の人差し指を伸ばす。

ブウウウウ  ブン!!

 腕が割れる。空間が割れているのか?
「スキ間だ……」「空間のスキ間の中へ入れるぞ…」
「中を動ける…」「『ルーシー』を中心にスキ間の面が空間に…出来ている」
 車窓の外にも割れ目のような場所が見える。そこにどんどん土地が引き寄せられてくる。
まるで地割れに呑み込まれているようである。遥か向こうで畑を耕している農民2人もがんがん近付いてくる。
「ルーシーのスキ間に家も山も何本かの川までも…」
「土地が集まって来ている…」
「その『スキ間』をわたしは動けるぞ……『D4C』!!」
「『遺体』ではない!この現象はわたしの『能力』だッ!『遺体』が能力を引き出してくれているッ……」
『D4C』のさらなる段階ッ!!

 スポットライトはJ&Jに移る。
列車先頭の機関部と並走するジョニィとジャイロの愛馬・ヴァルキリー。
ジャイロはすでに列車に乗っており、機関室ににじり寄っている。ついに人影を認める。
ガバアッ
 鉄球を振りかぶり中に突入する!!しかし、そこには奇怪奇妙な光景が展開されている。

 鏡…であろうか?そこに埋め込まれているように男が座っている。右足が爆破されたかのように損傷している。
両手で機関車の操縦桿を握っている。
「おまえ何者だ…!?立て!」「何やってる!!」
 ジャイロが尋ねる。
「………!!鏡…」「それは……」
 ジョニィが何かに気付く。
「おい、ナメてんのかッ!立てと言ってるんだぜッ!!」「すぐに壁に両手をつけェッ!!」
「ジャイロ!それは大統領の仕業だッ!」「鏡だッ!」
「その男は鏡の中のもうひとつの世界の中に座らされているッ!!その運転士は無関係だ。大統領にやられた事だッ!」
「前にも見た!Dioは国旗のスキ間に入れられた!!」
 改めて鏡の中を覗き込むジャイロ。
「!?」「その体に縄でしばられているものは……」
 さらに覗き込むと、奥の方に両手両足を失っている男が横たわっている。まだ生きているようである。
「『鏡』の奥に誰かもうひとりいるぞッ!」「何者だ!?おまえッ!?スタンド使いかッ!!」
「ジャイロ!!それは『D4C』の能力ッ!!もうひとつの世界なんだ」「ここはもうおしまいだッ!彼はそうさせられたただの運転士!」
「オレは直接こいつに訊いてるんだよッ!答えろッ!!」
 強引に口を割らせようとするジャイロ。そして口を開く運転士。

「た…助けてくれェ…」「お願いだァ…この手を離したら死ぬ……」
「今、握っている操縦ハンドルを離して中に入ったら『死ぬ』って教えられた」
「助けてくれェ〜〜〜、さっき失敗して脚が一本吹っ飛んじまったァァァ」
 何とも奇怪な現象。
「中……鏡の中?」
「倒れている中のその男はもう『ひとつの世界』のおまえか?」
『同じ人間同士が出会ったら破壊されて死ぬ』『同じ物同士が出会っても破壊されて消滅する』
『握っているハンドルを離してこいつの全身が鏡の中へ入ったら……』
「そこにいるのはもうひとりの『おまえ』か。その『鏡の中』に倒れているヤツは?両手両足を切断されて……」
「(改めて何てこった…)同じ人間のいるもうひとつの世界が…(マジにあるとは)」
 自分の目で見ない限りこんなことは信じられない。改めて実感するジャイロであった。
「た…助けてくれェ…」「お願いだ…そっちへ引っぱりだしてくれェェ…」
「ハンドルを握っている手もしびれているぅ…さっき石炭を炉にくべる時、手を離したから指を何本か失くしちまったみたいだァァ…」
 ジャイロは運転士の左手小指が失われていることを確認した。
「何でオレがこんな目に遭わなきゃならねえんだぁぁあ……」
「オレはただの週給20ドルの機関車の運転士だああ」
「お願いだ……そっちへオレを引っぱってくれよォォォ〜〜〜ッ」
 非常に不運な人らしい。
「いや…20ドルの給料も含めて気の毒だが無理みたいだな。あんたを『鏡』のこっち側へ引っぱった瞬間、そのしばられている手足も体といっしょにこっち来るだろ…」
「あんたそのロープほどけるか?」「同じ手足が出会ったら瞬殺で破壊されるな」
「じゃあ『鏡』を割って出してくれッ!『割れ』よッ!!それなら簡単だろォー―――ッ」
「ハッキリ言う!……」「無理だ!考えてみろ。鏡を粉々に割ったらきっとそれっキリだろ」
 本当に不運な人らしい。
「何でだよォォ〜〜」「何でオレがこんな目に遭うんだよォ?」
「関係ないのによ……給料安いんだッ!!」
「どっちに転んでもダメな事ってあるもんだな…」
 涙と鼻水と涎でグショグショの運転士。
「ヴァレンタイン大統領……この列車の運転を続けさせる一番の方法って訳だ…」
「しかも最後は自動的に口封じさせる!そういう仕組みにもなってる」
「何なんだよォ…何、感心してんだよォォォォ。おい!おまえ何とかしてくれよォォ」
「泣くのはかまわないがそのハンドルは離すなよ…それしかない」
「幸運を祈りながらな…オレたちが大統領を倒せばきっと助かる」
 帽子を目深に被り直してジャイロは出ていく。

「………………!!」
 大統領が窓の外を見る。
「ジョニィ・ジョースター、追いついて来たか…」
 ジョニィが左手から弾爪を撃つべく構える。
大統領がルーシーを抱きかかえ、弾爪の盾とする。
その時、ジョニィの瞳に黒い炎が灯る。リンゴォ・ロードアゲインが言うところの漆黒の殺意か?

ドバ ドバ ドバ ドバッ

 ジョニィが4発の弾爪を発射する!
「……なんてヤツだ…『ルーシー』を撃つのか…」
 4発全てルーシーの背中に命中してしまう!!
しかし!!『弾痕』が移動して大統領を追いかける。
大統領はルーシーの身体を離し後ずさる。ソファに跳び乗るが、椅子の脚を伝って弾痕は追いかけてくる。

バン

 弾痕を新聞紙で挟み込む。
「どジャアア〜〜ん」
「はさめば……何て事……」
 新聞をパラァと広げるが、自分の手の違和感に気付く。
ギャルギャルギャル……
 両手の甲に2つずつ弾痕がある。
「『穴』は『穴』…!そのもの自体は…はさみ込んでもD4Cの『もうひとつの世界』へ送り込めないのか…」

ドバッ  ドバッ 

 さらに2発の追撃弾を撃ったジョニィ、両手の同じ場所に1発ずつ命中。
『弾痕』が腕を引き千切ろうと激しく回転する。
その時、何か閃くものがあったのか空間のスキ間に両手を差し込む。

ドン!  ボムッ

 車窓の外にいた2人の農民が倒れる。頭部にタスクを受けたのだ。何故?
「!?」「何だ…!!」
 ジョニィも異変に気付く。
「これは………!!」今までの現象が頭を巡る。

『女神』だ……
『ルーシー・スティール』……
この遺体に選ばれた『ルーシー』は…
まさに…
この現実に存在するわたしの『女神』だ
『陽』のあたる所 必ず『陰』があり…
幸福のある所 必ず反対側に不幸な者がいる……
『幸せ』と『不幸』は神の視点で見ればプラスマイナス『ゼロ』
『安定した平和』とは!
平等なる者同士の固い『握手』よりも絶対的優位に立つ者が
治める事で成り立つのがこの『人の世の現実』!!
今の現象…
この場所に集まって来ているのは『地面』だが…
実はこのルーシーのゆがみに
『吉良(きちりょう)』なるものだけが集まって来ている
『害悪なる』ものは遥か向こうの!
どこかの誰かへ!!吹き飛んだッ!!
無関係のあの農民が今ッ ヘタをつかんだッ!
おそらく害悪は『ろ過』されて
その『スキ間』へはこの世の『良い事』だけが残るッ!!
これは『円卓のナプキン』だッ!!
世界中の後の者はそれに従わざるをえないッ!!


』!! 『栄光』!! 『幸福』!!
文明』 『法律』 『
』!
食糧』 『民衆の心』!!

このわたしがッ!
最初のナプキンを手にしたぞッ!


 舞台は列車の外を駆けるジョニィに。
「な…何だ?」「今、撃ちこんだ『爪弾』が…どうなった?」
「6発……」
 ジョニィが首を傾げる。
「今…列車の中で何が起こっている……!?」

 さらに場面は転換して、機関室脇のジャイロ。
「ン……
 ジャイロの左腕を何かが這い上っている。
「これは……」「?」
「このムズがゆさは!?」「この小さな跡は?」
「『傷痕』?」
『…そうだ、さっき確か…指を…(魚に?)
 さらに傷痕が腕を上る。
「おい!!?動いてるッ!!?」
「オレの腕を登って傷が来て…」
ブチンッ!
 なんと傷が頸動脈まで登ってジャイロを出血させる。

『理解…したぞ…』『ついにナプキンを取ったという事で…』
『あと『ジョニィ』と『ジャイロ』を始末すれば…それで終わりだな…』
『行くか…外へ』

 空間のスキ間を伝い直接外へ降り立つ大統領。
一触即発の最終ラウンドの鐘が今、鳴り響いたのだ!!!


今月のめい言

「D4Cのさらなる段階だッ!」

○大地が縮んでいく理由、ルーシーの周りに「空間のスキ間」が出来ている――列車の中から外まで展開しています。この「スキ間」に大地などがドンドン取り込まれた結果、大地がルーシーに近づいてくるのだ。

○ところが大統領によるとこれは『遺体』ではなく自分(D4C)の能力ということだそうです。「D4Cのさらなる段階だッ!」とノタマッテいます。本当!?『遺体』の影響で能力が引き出されたということでしょうか?元々『矢』のように能力を引き出していた『遺体』ではありましたが、「吉良からバイツァ・ダストを引き出した」ように大統領からあの現象を引き出したということでしょうか?この概念は唐突ではありますけど。

○「スキ間」というのはやはり普通の物質というのは無事でいられない。大地がドンドン削られて縮むくらいですから。ところが大統領はこの「スキ間」の中に入れるらしい、そして移動できる。これだけでもすでに攻撃は受けない、「スキ間」に攻撃が削られてしまうからです。しかもこの「スキ間」に「害悪」なるものは吹き飛んでしまうらしく、ジョニィの弾爪が命中していたにも関わらず弾き出されてしまいました。

○大統領を暗殺して完全決着させるためには、物に挟まれて逃がさないためには即死させるのが望ましい。この条件はJ&Jには不利です。鉄球や弾爪は破壊力は低いため人体の急所に命中させなければなりませんが、D4Cによりそれは妨げられるだろうし、その上「スキ間」による「害悪のふっ飛ばし」もあります。可能性としてヘタを掴むのがJ&J自身の可能性もあります。即死が無理なら、物質の間に挟まることを細心の行為で防がなければなりません。なかなか難儀ィです。とりあえずこの「スキ間」から大統領を引きずり出さないとならないでしょう。

○「鏡の中の世界」というとまるでマン・イン・ザ・ミラー(以後、MITMと表記)であるが――マイケル・ジャクソンの冥福を祈ったり願ったり――MITMの世界は生物の居ない世界である。鏡を通して「隣の世界」が見れるというのは理屈に合わないですが、理屈に合わないことは能力のせいにしましょう。鏡が「隣の世界への扉」になっているから見れるのかもしれません。これは鏡(反射物の総称という意味で)だけに起きる特異現象でしょう。少なくても国旗が「扉」だった時は「隣の世界」は覗けませんでしたから。

○それにしても…今月号には運の悪い人が続々出てきます。安い給料のうえに、現実とは思えない不可思議な現象、拷問にかけられているのも同然の状態ともはや気の毒としか言えません。やっと助けが来たと思ったら「無理です」と言われて去られるし…何とか耐えて頑張ってくれッ!

○奇怪魚によって噛まれた傷がジャイロの頸動脈まで移動して出血させるという、急に何だ?という現象。よく考えると「空間のスキ間」と「肉体を傷が移動する」とは異なる現象のような気がします。もしかして、ジャイロに有利に働く展開となる可能性もあるかも…。もし、ジャイロが有利となるのならスタンド能力の復活があるかもしれない。

戻る