‘06 02月号
 #11 大草原の小さな墓標 A 


 迷いの果樹園……。この現象とあのボロ家の男との関係は?

「ホット・パンツさんよ。足跡をたどるのはもう頼りにならないぜ」
「すでにおまえさんもオレらも何度も何度もここを通過してるから入り乱れちまっている。方位磁石でもだめだしな」
 ジャイロ。そしてジョニィが木に「J」と「→」を組み合わせた記号を刻む。
「道を曲がるたびに木に『印』をつける。この果樹園のどの地点で『迷う』のか…?確実に見ながら進むんだ。家の前にこの道をまっすぐ行ったら次のコーナーを『左』」
 再度、果樹園からの脱出をはかるため馬を駆る。
「つきあたりはもう一度『左』」
 印を刻む。
「そして最後は『右』だ」
 ジャイロ、ジョニィ、ホット・パンツの目の前にまた顕れるボロ家(…とガウチョの死体)。

「ジョニィ!もう一度行くぞッ!今度こそだ、今度こそここをでるぜ」
「木の印をたどるんだ。もう2時間近いロスになってる」「ジョニィ『印』はどこだ?行くぞ」
 2時間とは少なくない時間である。
「す…すでに…探したよ。この木だ、『印』はこの木にある」
「でも考えられない…いったいなんなんだ?どういう事かまるでわからない」
「確かに曲がる時、ぼくはこの木だけに傷をつけた」
 狼狽するジョニィ。
「でも考えられない…いったいなんなんだ?どういう事かまるでわからない。確かに曲がる時、ぼくはこの木だけに傷をつけた」
「つけたのはこの木だけなんだッ!」
 ゾッとする光景。なんとそこかしこにジョニィがつけたはずの印がある。
「何が何だかさっぱりわからないッ!いったい何なんだこの場所はッ!しかもこの『文字』はッ!この『傷』はッ!!」
「そうだッ!全部ぼくの『筆跡』だッ!」
「ぼくがつけているッ!!なぜ4つにも5つにもぼくの『字』が増えているんだッ!示す方向もバラバラだッ!!」
 事態は混乱に進む一方である。

 ホット・パンツ。
「『敵』はやはりあの小屋の男って事か?」「『スタンド攻撃』」
「これはそれだって事なんだな……?何時間も前からすでにオレたちは攻撃されていた」
 そしてジャイロ。
「『目的』がわからない。あの男がなぜガウチョと撃ち合ってたのか。もし『敵』ならオレらを迷わせて『何をしたい』のか?」
「じゃあどうするんだ?ジャイロ・ツェペリ。あんたはもっとここらをうろつきたいのか?あと何週するつもりだ?行くんなら行って来なよ……オレはもう走り回ったりしない」
 確かにこのまま走っても同じことの繰り返しであろう。
「………さっきあの男はガウチョにこう言った」
「『自分を倒さなくてはここから出られない』……と」「いや」
「『殺さなくては』…だったかな。どういう事なのか……?あいつの所へ行って答えてもらおうじゃあないか!」
「そこでだ……」
「もしヤツが『敵』と確定したなら『3対1でヤツを始末する』…その取り決めでいいな?」
 ムムッ!意外!ホット・パンツがこういう提案をするとは…。
「………」「オレはお前を信用したわけじゃあないと言ったはずだぜ」
「ガウチョが殺されている。もう卑怯だとかきれい事は言ってられないぜ。ここはリスクを最小限にして『事』を収めるべきだ……やるなら『3人』でやる」
 ジョニィも話し合いに加わる。
「ジャイロ。このままだとこの場所で日が暮れてしまうぞ。それだけは絶対にだめだ……」
「今現在『Dio』がどの地点を走っているか知らないが夜を越したら一日以上差が開く」
「Dioに『カンザス・シティ』に先に行かれてしまう……それだけは…絶対に!いやだ…!!あいつにだけは!」
「次の『遺体』は渡したくない……!!いや誰だろうと!そうだろ!?ジャイロ。君はそうじゃあないのか!?この状況はリスクを最小限で脱出しなくては…!!」
 マルコの…父の顔が浮かぶジャイロ。

「いいか…確定したらだ…もし『敵』とハッキリしたなら奇襲をかける」「それはオレがやる…」
「君らがヤツと話せ。その間にオレはヤツの背後に回って、そして仕留める。3対1だ。それでいいな?」
 ホット・パンツの作戦。
「ヤツの背後に回るだって?」
 ジョニィ。
「そんな事がおまえに出来るのか?ヤツは眠った猫じゃあないんだぜ」
 なかなかセンスの良い例えをするジャイロ。
ドシュー―――ッ
 いきなりスプレーをぶっ放すホット・パンツ。
スプレーから出た「肉の泡」は木の上を越えて行く…と同時にホット・パンツの左腕がしぼんでいく。
そしてスプレーから手を離すホット・パンツ、するとスプレーは「肉の泡」と共に飛んでいき屋根の上に着地する。
さらに驚くことに、肉の泡は左手の形に戻りスプレーを握りしめて動き出した。
クリーム・スターター』……オレの『手』がヤツの背後に回る…ヤツの所へ行きなよ…片をつけてここを出て行こう」


 ガウチョの死体を土に埋めている謎の男。彼にジャイロとジョニィが近づいていく。
「あんたは何者だ…?目的をはなしてもらおう……なぜガウチョを殺した?」
 ゆっくりふり返る男。ジャイロとジョニィを見た後、後方に居るホット・パンツを一瞥する。
「会話をするのは…ひとりずつにしたい。どちらかひとりあそこの彼くらいまで後に下がってもらえないか…」
「…あのなあ…おまえさんが何をしたいとかはオレたちには関係ねえ事だ。今の質問にサッサと答えな」
「もしここで今からオレと撃ち合いになるとしたなら……だ…君はオレに勝てない」
 挑発的な言葉を発する男。
「『左の彼』なら可能性はある。だから君が後に下がれ。会話をするのは『左の彼』とだけだ」
 ……………。
「悪い事は言わない…君は下がれ」「もう少し話をしてやろうか」
「左の彼にはいざという時、オレを殺しにかかる『漆黒の意思』が心の中にある…だが君はそうではない…そういう『性(さが)』」
「だから下がれ」「それが理由だ」
 対峙する男とジャイロ&ジョニィ。そして男の話は続く。
「君はオレが攻撃したらそれに『対応』しようとしている」「それが心体にこびりついている」
「『才能』ではすぐれたものがあるのかもあしれないがこびりついた『正当なる防衛』ではオレを殺す事は決して出来ない」
「受け身の『対応者』はここでは必要なし」

 腰のホルダーに手を伸ばすジャイロ。
『こいつは…この男は…』
 鉄球を放るジャイロ…しかし男の弾丸がジャイロの胸をとらえるッ!
だが鉄球の方は左肩に命中すれども致命傷とはならない。

「はッ!」
 …夢想…か!?
『これは…今のは…』
 いつの間にかジョニィが前に…いやジャイロが下がったのであろうか。
『なんだと…わずかにそれる…鉄球が…』
『オレが投げても命中しないのか!?急所に命中させる『確信』がない!』 

 そしてジョニィと男が一対一で話す。
「おまえの狙いはなんだ!?『テロリスト』かッ!政府と関係があるのかッ!?」
「遅れましたが自己紹介させていただく……名は…」
「『リンゴ・ロードアゲイン』」
「3年ほど前、砂漠で『能力』を身につけた『スタンド使い』…。能力名は」
「『マンダム』」
「そう認識していただきたい」
「ほんの『6秒』
「それ以上長くもなく短くもなく」「キッカリ『6秒』だけ『時』を戻す事ができる。それが『能力』」
 やはり能力者だった…本体名はリンゴォ、スタンド名は『マンダム』。マンダムってッ!(笑)
スタンドのヴィジョンは、よく形状が解らない。人型ではないようであるが…。
「君らが馬を駆っている時…ほんの少し…たったの『6秒』だけ『時』を戻しても君らはそのささいな事に気付きもしない」
「だがただ『走り終わった』…という『記憶』だけは残る」
「だから『曲がる予定』の位置をより手前で道を曲がってしまう事になる。周囲の風景に区別がつかないなら…『木』に印をつけても同様…」
「キズをつけようとした予定の『木』よりも『6秒』モ戻った手前で、その位置でキズをつけて『道』を曲がってしまう」
「そして何度でも…時を戻すのは『6秒』以上さえ間隔を開ければ何度でも繰り返して戻せる…」
「だからこの果樹園地帯からは決して脱出する事は出来ない」
 時を戻す…小規模ながらも人外、いや天の定めたルールにも逆らっているのだから天外の能力とでも言うべきか。
「おまえの狙いは…!?ボクらを迷わせるのが何だというんだ!?」

「このオレを『殺し』にかかってほしいからだ」
「公正なる『果し合い』は自分自身を人間的に生長させてくれる」「卑劣さはどこにもなく…漆黒なる意志による殺人は」
「人として未熟なこのオレを聖なる領域へと高めてくれる」
「乗り越えなくてはならないものがある。『神聖さ』は『修行』だ」
「だから君たちに全てを隠さずに話している……『能力』にも『目的』にもオレにはウソはない」
「よろしくお願い申し上げます」「どうする?決めるのは君たちだ…」
 ロードアゲインの圧倒的な世界観ッ!!
『真実で言っているのか?フザけてるのか?こいつ…どうかしてる』
 ジョニィも嫌な汗を流す。
「これが『男の世界』……反社会的と言いたいか?今の時代……価値観が『甘ったれた方向』へ変わって来てはいるようだがな…」

「おい、やめるぞッ!」
 ここでホット・パンツが動く。
「もう行こう!ジャイロ、ジョニィ!」
「そいつイカレてるぜ。ゆっくりと道を進んで行けばこんな所、間違えず抜けられるはずだ!」
「つき合ってらんねーな。もうそんなヤツにはかまうな」
 チラッとホット・パンツを一瞥するロードアゲイン。とッ!
ドシュウウゥゥッ
 背後からホット・パンツの奇襲が成功する。ロードアゲインの右前腕部を斬り落してしまったッ!
「よし!ジャイロ!ジョニィ!あとはまかせるぞッ!ヤツに左手でその銃を拾わせるなッ!」
「やれッ!!」
 しかし一瞬、撃つことを躊躇(ちゅうちょ)してしまうジョニィ。
その間に切断された自分の右手に左手を差し出すロードアゲイン。
「その銃をつかませるなあぁぁぁぁー――ッ」
ドバドバドバッ

 ついにジョニィが発砲ッ!ロードアゲインは銃をとる…と思いきや何故か腕時計の竜頭をつまむッ! 

ゴォオォ

「………………」
「………………」
「つき合ってらんねーな。もうそんなヤツにはかま………えッ!!?」
 何事もなく…右腕も元どうりのロードアゲインが立っている。
ドシュウウゥゥッ
 背後からホット・パンツの奇襲が…かわされる。
「『6秒』だ……」
「『6秒』だけ時を戻せる…『公正(フェア)』にだ……すでに公正にそれは話した」
「この腕時計の『秒針』をつまみそれだけ戻す。それでスタンド能力『マンダム』のスイッチが入る」
「何度でも聞くぞ…どうする?」
「オレを殺さなくてはここからは絶対に出て行けないッ!」
ドバアッ
 ロードアゲインのコルトが火を噴きホット・パンツの左手を貫く。
「うおおおお」
 痛みは伝達され苦痛にうめくホット・パンツ。 

ドドドドドドドドドドド

 ジョニィの眼に決意の炎が浮かび上がる。ロードアゲインの言うところの漆黒の意思だろうか?
ジョニィ…両手の人差し指を立てる。
ロードアゲイン…遅れることなくコルトを構える。

ドガァアン

 3発のタスクがロードアゲインに命中ッ!しかしロードアゲインの弾丸は……
ゴオオ
 ジョニィの額に命中ッ!さらに2発の弾丸を頭部と左頬に撃ち込む。
そして右に振り返るやスプレーを手に獲ったホット・パンツの左胸にも撃ち込む。
「ばっ…ばかなッ!!」
「ジョニィィィィィぃぃぃぃいいいいー――ッ」
 ジャイロの鉄球が風を巻き、ロードアゲインのコルトが火を噴く!
「うぐっ」
 弾丸がジャイロのどてっ腹にッ!しかし鉄球はロードアゲインの右頬をかすめ後方の家の壁を砕くにとどまる。

「やはり…おまえは…ジャイロ・ツェペリといったか……」
「おまえは『対応者』にすぎないッ!」
「それを放ったのは射程の外だ…!!友を失ったからその『鉄球』を放りやがって……」
「汚らわしいぞッ!そんなのではオレを殺す事は出来ないッ!」
 ジャイロは生きている。内臓を傷つけたのか口から血を吐いてはいるが…。
「この弾倉にはまだあと『一発』残っているが……」
「オレが仕とめるのは『漆黒の意思』でオレの息の根を止めようとかかってくる者だけだ」
「おめなんかにはとどめを刺さない……決めるのはおまえ自身だ」
 資格なきものには命を奪う義理はない。
「目的はあくまで『修行』であり、人としてこの世の糧となるため…」
「そして『スタンド使い』としてオレを認めてくれ…そしてこの場所に送り込んでくれた『あの方』には恩義がある」
 あの方…そうSBRレースの黒幕ファニィ・ヴァレンタイン大統領である。
「このジョースターの『左腕』にあるとかの『遺体』は『あの方』のために回収させてもらう……」
「感謝いたします」
 ジョニィの脚を持ち、引きずってボロ家(今の攻防でさらにボロボロになったが…)に入ってしまう。

うおおおおおおおおおお
 壁に減り込んだ鉄球がジャイロの元に転がって戻る。
「あいつ…あの野郎…これは…ヤツの……ワザとなのか……」
「それとも偶然か?」
「たしかあの銃は一八七四年製コルト。射程距離は……」
「『鉄球』がころがった…この距離…ジョニィから一歩遠い」
「ジョニィはまだ生きている」
「まだ脳は破壊されていない。弾丸はまだ頭蓋骨で止まっている」
 まだ間に合うッ!ジャイロの瞳に決意の光と正義の炎がゆらめく。
まだ救えるッ!ジャイロの反撃が始まるッ!!

今週のめい言

「これが『男の世界』」

○今月見直した男はホット・パンツ。高貴な出生だから甘チャンかと思えば、「3対1で始末する」「不意討ちをかける」というなかなかの策士っぷりを見せてくれました。どういう環境で育ったのかが気になります。上流階級だ貴族だと言っても、その世界は謀略や暗殺などが横行することは珍しくありません。例をあげれば、平安時代に栄華を極めた藤原氏は自分のライヴァル達を次々と落としいれ失墜させました。菅原道真をはじめ紀氏に伴氏に源氏と数え上げればきりがない!ホット・パンツもそんな策略が跋扈(ばっこ)する修羅場をくぐり抜けてきたのかもしれません。

○ホット・パンツのスタンド「クリーム・スターター」。復習してみると、能力は「肉の泡を吹きかける」。この際の肉は、自らの身体を消費しているようですが、他人に触れていればその人の肉を消費して泡とすることが可能。能力を解除すれば肉は元に戻るようである。今回、追加された情報は(1)肉は泡状だけではなく棒のように硬い状態で放出することもできる。それを鞭のように振るえば成人の腕を切り落とす程の破壊力を持つ(2)放出した肉は削った身体の形態にすることが出来る(本物の腕とは独立した存在である)。その「第二の身体」ともいえるものは遠隔操作可能となっており、感覚は本体とリンクしている。

○リンゴォ・ロードアゲインのスタンド「マンダム」。それにしても…「マンダム」と見た時点で何人がアゴをさすったのだろうか?よく考えるとこのネタって30代半ば以上専用かな??……閑話休題。わずか6秒とはいえ「時を戻す」。同じ<時間支配>者である承太郎やディアヴォロと違い「右腕にはめている腕時計の竜頭をひねる」という動作が必要。バイツァ・ダストもそうであったが「時を戻す」というのは「時を止める」「時を消す」よりも難度のある能力ではあるらしい。一度出た結果をチャラにして新たな結果を求めるというのは、他の能力よりも宇宙の法則に逆らっているということなのでしょう。同じ「時を戻す」能力であるバイツァ・ダストと異なり、記憶が保持される。

○ジャイロ達を果樹園に封じ込めたのはこの「記憶が保持される」という特性を利用したものであった。ただ…この能力で「左→右→左」と行って元に戻る理屈がよくわかりませんけど(笑)。

○余談ですけどロードアゲインは右利きですが右手首に腕時計を巻いています。銃をもった状態でも「時を戻す」ためには当然のことです。実は承太郎も右利きなのですけど右手首に腕時計をしています。これは第三部の時からそうです。仗助の髪型のように、何か小さい時に感銘を受けた出来事でもあったのでしょうかね。

○さて…ジョニィに続いてロードアゲインから厳しい言葉を投げかけられたジャイロ。相手が攻撃してから動く「対応者」と言われてしまいました。ロードアゲインが望む決闘スタイルだと、ジャイロのような「対応者」は確かに不利であろう。ほんの数瞬、わずかな刹那の動作の遅れが勝負を決定的に分けてしまう。師曰く「拙速は遅巧に勝る」。ただ、このようにヨーイドンで勝負するには不利だがSBRレースのような長期戦では不意討ちや奇襲を捌ける「対応者」の方が有利であり、ジャイロは決して弱くないのである。

○ところでジャイロがロードアゲインに投げた鉄球は射程外からではないような気がします。それでもッ!鉄球はロードアゲインから外れた。ここに何かのカラクリがあるような気がします。ロードアゲインは何らかの知覚障害をジャイロ達に起こしているのではないでしょうか?それが果樹園から出られない真の理由では?それは何か。わかりません……。

○では上記の線で予想をしてみましょうか。「時を6秒戻す」…この際に時は6秒遡り、あらゆる事象が元に戻る。しかし個々の記憶は継続される。ここで同じ時間を体験することで脳が多少の混乱を発生して遠近感や物体の認知感を狂わされて、弾爪や鉄球が狙い通りの所に行かないのではないでしょうか。……ちょっとインパクトのない予想でしたね(ハハッ)

○さて…頭部に被弾してかろうじて生きているジョニィ。生きていて欲しいホット・パンツ。ロードアゲインに再び挑むジャイロにいかなる勝機があるのか?眼を離すなッ!

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