‘06 03月号
 #11 大草原の小さな墓標 B 


リンゴォ・ロードアゲインが幼かった頃…

農夫であったリンゴォの父親は徴兵され戦争へ行き――
そして何があったのかは知らないが戦場から脱走した

その後、捕らえられるとどこかの牢獄で……病死した
父を失ったロードアゲイン家――母と2人の姉、
そしてリンゴォは貧困と裏切り者としてのさげすみで
生まれた土地にはいられなくなり
全国を転々としなければならなかった
生まれつきリンゴォは皮膚が弱く、ちょっとした事ですぐ皮膚を切り出血した

どんなに医者にかかっても原因はまるでわからず
寝ているだけで肘をすりむいたし、もし口の中を切ったりすると
呼吸さえ困難になった
病床にふせる事が多く、学校などは一度も行った事はなかった


そんなある夜中、10歳のリンゴォが目を覚ますと…
かすかな光の中に軍服を着た見た事もない大男が立っていた
男は体から異様な臭いを放ち、何も考えていない牛のように
生のジャガイモを右手で口にほうばっていた
そして男は空いているもう片方の手でリンゴォの首を絞めるとこう言った


「おまえは騒ぐなよ」
「食い物さえ満足にねえ家だと思ったら、久しく忘れていたぜェ…こんな美しい皮膚をよォォォォォ」
 リンゴォが視線をキッチンに送るとすでに物体と化した母と姉と…机に刺さっている血に濡れたナイフ。
リンゴォにのしかかり顔をズルズル舐める軍人クズレ。
「美しい!スゲェ美しいッ!百万倍も美しい!」
 何と比べているのか?というより稚児趣味全開で上着も脱いでベルトも外して…
「ありゃ!」
 腰に差していた拳銃がない。それは幼いリンゴォの手にあった。震える身体で銃口を軍人クズレに向けている。
「おまえよくここから盗ったな〜〜けっこうスゴイじゃん!でもわかってんのか?それってよォ悪いガキのする事だ。それを軽々しくあつかうんじゃあない。鼻血がよォ、いっぱい出てるぜ。大丈夫か?どこか病気なのか?スゲェ血が出てる。いいか!!…もしそれを撃ったらどんだけの衝撃がおまえを襲うか考えてみろよ。もっと鼻血が吹き出るぜ。そりゃ一生背が伸びなくなるくらいたくさんだ」
「しかもまだ怒っちゃあいないがオレも怒るぜ。もし撃ったらオレはものすごく怒る!ただじゃあおかねえからな…お前を殺す前にお前の母親と姉貴どもの両腕両脚を切り刻んでブタどもの餌にしてやるッ!だがオレみたいな軍隊出にゃあわかる。おまえはいい子だ。撃てっこねえ…銃を下へおけ」
「やさしくするから下におけって!おまえをオレの息子として育ててやるからベッドの下におくんだ!」
 能弁になっている軍人クズレ。しゃべりまくるのは身の危険を感じて自己防衛に入っているからだろう。ナダメたりスカシたりして「飴と鞭」を使っているが飴が「オレの息子にしてやる」では何のうまみも感じないが(笑)
「ゲホゲホッ!ブッ!!」
 鼻血が気管に入ったのか咳き込む。そして拳銃を床に落としてしまう。
軍人クズレがその銃に殺到するッ!しかしリンゴォが間一髪先に銃を拾い上げる。

ドグオォォオ

 口から後頭部へ弾丸が抜けて軍人クズレは即死する。ちなみに確実に自殺したい人は銃口を咥えて引き金をひけば良い。口蓋の奥を貫通して生命機能を司る脳幹が破壊されるからである。コメカミに銃口を当てても骨にはじかれて死にきれないことがあるそうだ。

すでに少年の鼻血は止まっていた
目には力がみなぎりその皮膚には赤みがさした
彼には『光』が見えていた
これから進むべき『光輝く道』が……


から吸い込む空気は今までにないほど
さわやかに胸の中を満たした

以後、リンゴォ・ロードアゲインの生きる上で
原因不明で出血したり
呼吸が出来なくなるという事は2度となくなった
公正なる闘いは内なる不安をとりのぞく
乗り越えなくてはならない壁は『男の世界』

彼はそう信じた……それ以外には生きられぬ『道』


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 場面は戻る。ホット・パンツは胸に銃弾を受け意識を失い、ジャイロは腹に銃弾を受けているが立ち上がる。
「まさか息子よ…あの小屋へ行こうとしているんじゃあないだろうな?あのジョニィ・ジョースターを救いに…」
 
オヤッ!?
「ジャイロよ、小屋へ行ってはならぬ。行けば負けるぞ」
 父上…
「それはおまえ自身でそう感じてわかっているはずだ。自分ではヤツには勝てないと…」
 何故か父上登場ッ!
「小屋へ『行く』動機はなんだ?」「それは『感傷』だからだ…だから負ける」
「なんとしても『友』を救いたいという『感傷』…『感傷』はおまえの心のスキ間に入り込み動揺を生む」
「『感傷』は我々一族を!……そして先祖から受け継ぐ『鉄球』を破滅に追いやるぞ」
「行ってはならない!」
「おまえには『勝利』なぞ!必要のない事だッ!『鉄球』は国王のためのものッ!戦闘をする技術ではないのだ!」
 幻なのか?魂なのか?徐々に天へと昇って父上の姿。
「黙ってこの場を去りこの果樹園を出て行け!これは命令だ!おまえはツェペリ一族の長子!」
「しかも言ったはずだ!罪人が『少年』だろうと『無罪』だろうとそれにも『感傷』をまじえてはならないッ!すぐにこのレース自体も撤退するのだッ!!」

「お言葉ながら父上」「『感傷』ですと…!!それは違います」
「しかもあの野郎…オレの事を『対応者』だと?」
「偉そうによォー――くだらねー事言いやがって……」
 反骨者ジャイロの怒りが出る。
オレは『納得』したいだけだ
「マルコが本当に処刑されなくてはならないのか!?」
「ジョニィが見つけたがっている『遺体』とは何者なのか?」
「『納得』は全てに優先するぜッ!!」
「でないとオレは『前』へ進めねえッ!『どこへ』も!『未来』への道も!探す事は出来ねえッ!!」
「だからこのスティール・ボール・レン・レースに参加したッ!」
「見えたぞッ!見えて来た!父上!」
「『勝利』の感覚が見えて来たッ!」
 ジャイロを諭すような父上の幻影。しかし逆にそれはジャイロを発奮させる。
「オラアアァアアッ!!!」

 ブン投げた鉄球は『右目の遺体のスタンド』のパワーを纏い、ロードアゲインが入った小屋の壁を走るッ!
そしてジャイロのスタンドの特性―物体の透視により小屋の中を見る。
 ロードアゲインは遺体の謎解きをしたメモと、御丁寧に×がついている地図を開いて見ている。
「間違いなくまだ生きている…ジョニィ。そして持っていた『地図』…『カンザス・シティ』!次の『遺体』の場所がヤツにバレた…!!」
「だがリンゴォ・ロードアゲイン。ここから先はおまえもオレも後には引けなくなる。いわば詰め将棋に追い込まれる」
「『一手』ミスった方が負ける…オレやおまえがどう決定しようともな!どうあがこうともだッ!」
「オラァァァァァッ!!」

 ジャイロの第二投ッ!!
今度は壁を突き破りロードアゲインの右側頭部に命中するッ!!!
グンッ
 ロードアゲインが竜頭を回す。

 時は戻る…。

 投げたはずの鉄球がジャイロの右手に戻ってきている。いや、まだ投げていないのだ。
「まだいたのか…おまえの行為などもう何事でもない。既に言った筈だ」
「時を『6秒』戻せると……くり返し何篇だろうとな……!!オレの『雇い主』はおまえをついでに始末しろとおっしゃるだろうがオレにとってはその価値は何もない。この果樹園を出してやるからひとりでここを出ていけ!」
 もちろん、おとなしく出て行くタマではない。
「何かよォー、気のせいかずいぶんと上から見下されてる感じがすんだがなああー」
「おまえさん…その腕時計を動かして『時』を6秒戻すとか言ったが」「今、鉄球を投球したのはおまえさんの体内を調べるためだ」
 単なる投擲ではなくスタンド能力を使用していたジャイロ。
「『公正』に言ってやるぜ。鉄球の『スキャン』は今、おまえの左鎖骨の位置に古傷があるのを見つけた」
「オレの次の投球はその『鎖骨』を狙う!」
 恐るべしジャイロのスタンド…本人も忘れていた傷を探り出してしまった。
「その古傷への衝撃は…おまえさんの『左半身』を確実に麻痺させるだろ」
「右手首の『腕時計』のつまみなんてその指で動かせねえぜ」
「『左腕』はおろか『左脚』…『左瞼(まぶた)』さえも落ちる…しゃべる事も出来ない。やろうと思っても『6秒』なんてやり戻しはもうきかねえんだ…!そしてその麻痺は同時におまえの左胸にある『心臓』をも停止させる」
 廃人どころか死亡宣言を出すジャイロ。

バギャァア

 扉を蹴破り小屋の中へ入るジャイロ。老朽化しているのか、その衝撃で木材の破片がバラバラと落ちてきている。
そして対峙する二人。その距離、歩幅にして一歩。
「この距離ならよォォォー――」
「もうお互い絶対にはずしっこねえぜ」
「どうする?もう後には引けなくなったな。おまえやオレがどう決めようとな」
 息をするのもためらわれる緊迫感。退路はすでになく、進路は互いの屍の向こうにある。

バッ  ゴォォオオ

 お互いの一撃がお互いの急所を打つ/撃つ。
ロードアゲインの銃弾はジャイロの喉仏に命中…恐らく即死。しかしジャイロの鉄球も予告通りロードアゲインの左鎖骨を砕く。
『こ…こいつ!!『心臓』が…『左腕』がッ…』「ガフッ、うぶっ!『左腕』……うぐっ!!」
 即死ではないがロードアゲインの命も1分とたたずに消え去るだろう。
『『相討ち』…かっ!ジャイロ・ツェペリ!!く……!!『6秒』…過ぎる……!!』
「うおおおおうううッ」
 ロードアゲインは銃を逆手に持ち自信の右手首…いやそこにはまっている時計の龍頭にむけて発砲する。

 時は戻る…。

 乾坤一擲(イチカバチカ)で放った弾丸が龍頭を上手く回した。
「やはりよォォォ、戻したな……」「『6秒』!…」
 対峙する二人。その距離、歩幅にして一歩。
「で…どうする?『再び』か?」「再びかァァー――ッ!!
「おもしろいぞジャイロ・ツェペリ」
 ロードアゲイン。
「少しいい『眼光』になったッ!!だが所詮まだおまえは『対応者』に過ぎない!」
「決めるのはおまえじゃあねぇー――ッ!お互い後には引けねえッ!!」
 再び交錯する2つの電撃ッ!雷鳴ッ!稲光ッ!!!
しかし結果は1回目と異なる!鉄球はロードアゲインの左腕にガードされ、弾丸はジャイロの喉ではなく右肩を貫通する。
左手は砕かれたが、ロードアゲインは倒れこんだジャイロにすぐさま第二撃を撃ち込むべく構える。
ガブゥウッ!!」
 しかしッ!ガードしたはずの左手を貫いて木の破片が鎖骨に突き刺さっている。膝から落ちるロードアゲイン。
『木の破片…こ…これは…』
 ジャイロが傷の痛みを我慢し、起き上がる。
「左腕で…」「…リンゴォ…ロードアゲイン…」
「その『左腕』で…『鎖骨』を防御したな……。オレを『次の2発目』で止めを刺そうと…」
「その『防御』の為の動きのせいで…『急所』には命中せずわずかにそれて肩に着弾した!
 ドッ と崩れ落ちるロードアゲイン。
「『木の破片』。空中に飛び散っていた『木の破片』を『最初の6秒』、前の時に覚えていてそれを『鉄球』で打ち込んで来たのか…」
 秒が刻々と過ぎ去る。
「見事だ…ジャイロ・ツェペリ」「『一手』」
「オレはしくじったってわけか…」

「腕で『防御』しなければ正確に間違いなくオレの急所を貫いていただろう…あんたなら」
「それじゃあまた…相討ちになってしまう…また『6秒』戻して繰り返して永遠に決着はつかないな。もっともその『6秒』は…すでに過ぎてしまったようだが」
「やめろよ。妙な事はやめろ……あんたに『次の』『2発目』はもうない。その『銃』を床に置くんだ。既にオレは納得した…もうあんたを仕留める意味はない!」
「だから対応者だと言うのだ!『光の道』を見ろ……。進むべき『輝ける道』を……」
 柱を背に身を起こすロードアゲイン。
『社会的な価値観』がある。そして『男の価値』がある」
「昔は一致していたがその『2つ』は現代では必ずしも一致してない。『男』と『社会』はかなりズレた価値観になっている……」
「だが『真の勝利への道』には『男の価値』が必要だ…おまえにもそえがもう見える筈だ…。レースを進んでそれを確認しろ…」
「『光輝く道』を…オレはそれを祈っているぞ」「そして感謝する
 まだ動く右手を動かし銃口をジャイロに向ける。

 ゴオォオ

 鉄球をロードアゲインの胸に打ち込み止めを刺す。
ようこそ……男の世界』へ……」
 血を撒き散らし倒れるロードアゲインだが、その顔には笑みを浮かべている。
血と埃と…そして光。決着がついて残されたのは静寂する小屋。
「脈はまだあるようだな……ジョニィ…。どうやらお互いな……」

今週のめい言

「ようこそ……
 『男の世界』へ」

『男の世界』とはいったい何なのか?実に様々な表現で語られたこのワード…。『男の世界』=『男の価値』=『光輝く道』。スタンド名が「マンダム」ということからも解るように、1970年に放映されたマンダムのCMをしたチャールズ・ブロンソンが醸(かも)しだすあの男汁あふれる世界観でしょう。無骨で不器用…心にある思いをうまく表すことができない。守りたい大切な者があれば自分の身体を捨ててでも守り、目的を持ったのならばいかなる障害があろうとも排除し達成する。先月号で『漆黒の意思』というものがあったが、これは後者のことを指している。つまり『漆黒の意思』とは『男の世界』の一部なのである。

○ロードアゲインの目的とはなんだったのだろうか?『修行』とは言っていた。仏教(…と一言でくくるのは無理があるのだが)は悟りを開くことに一生をかける、それと同じように自分を高めることに一生をかけようというのがロードアゲインの目的だったのだろうか?私は違うと思う。ロードアゲインは「『男の世界』を目指したままで人生を終える」ことではなかったかと思う。「おれを殺しにかかって欲しい」と言っていたロードアゲインだが、その実は「おれを殺して欲しい」だったと私は考える。最期の瞬間のあの微笑…『男の世界』に生きるということは「内なる不安をとりのぞく」のだ。ロードアゲインが恐れることは『男の世界』から出てしまうこと。不安のない状態で眠る……これぞ至福であろう。

○『男の世界』とはまさしく様式美の世界。高みへ昇るという行為、それを行なうということが目的なのかもしれない。

○ここでSBR7巻荒木先生の巻頭コメントを引用します。「最近よく考えるのは、自分はこんなんでいいのか?という事だ。自分は「正しい道」を歩いて来ているのだろうか?「納得」する事が必要で、ジャイロもジョニィも「納得」する為にこのレースに出てるわけで(略)」

○非常に不思議だと感じるのが、ジャイロは何故に「納得したい」という思考をもつようになったのか?ということである。荒木先生の思考からと言うのは簡単であるが、物語に入り込んで考えてみると非常に不思議である。キリスト教を信奉する者にとって「神」は絶対である。ジャイロの母国(ネアポリス王国)は元々教皇領の警護団に起源を発し、またローマ・ヴァチカンに近いことからもキリスト教を篤く信仰しているに間違いはないだろう。そしてジャイロの家は由緒正しき伝統的な家柄であり、革新とは縁遠いはず。ジャイロの父親の「罪人が『少年』だろうと『無罪』だろうとそれにも『感傷』をまじえてならない」という言葉は古い家系の長子なら普通ならばスンナリと受け入れたはずである。父親を拒否し、「神」に逆らうような思考である「納得したい」というものをジャイロはどんな過程で手に入れたのだろうか?

○さて、ロードアゲインとの死闘に勝利したジャイロだが心配なのはジョニィとホット・パンツ。特にジョニィは頭部に強い衝撃を受けているので、記憶を失っていても不思議ではないでしょう。続いては「遺体争奪戦」「SBRレース4th.STAGE決着」と立続けにイヴェントが待っている。息する暇もないかも!?ではまた。

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