第八夜 運命の変遷 |
「お誕生日おめでとう!季子ちゃん」 「乾杯しよう…」 「チョ…チョット!何、僕を無視してるんだ!?」 「…だいたい何でオマエは居るんだよ?オレと季子ちゃんのパーティーに」 「今ごろ言うなよ。レストランに入った時から3人だったじゃないか」 「そういう場合は気をきかせてこないのが普通だろう。何でオマエは普通に待ち合わせに来ているんだよ」 「季子が3人の方が楽しいって言ったから来たんだよ」 「あ〜…」吾人は右手で目を覆い、天を見上げた。「そういうのを気がきかないというんだ。オレの日記には今夜季子ちゃんとどんなに素晴らしい夜を過ごすかもう書き込んであるんだぞ」 「アホみたいなことをしてるな」 「まるでトト神みたいね」 「そのとおり!トト神のマンガの予知のようにこの運命は決定していたはずなのに…」 「運命に関係するスタンドっていうのは…他に何かいたかな?」 助け舟を出すように季子が話しに乗ってきた。 「後は何かいるか?」 「……いないような気がする…いや、居ないな」 「そうね。運命の能力というのは強力な力だからそんなチョクチョク登場しないのね」 「でもよォ〜、100%の予知で運命を決定するって言っているけれど全然外れているよな」 「外れてはいないさ。解釈の違いだよ」縫希は言った。「予知自体は当たっている。例えば「承太郎の顔が真っ二つになる」という予知は成就されただろ」 「でも承太郎がリタイアするという予知は外れただろう」 「承太郎に化けたオインゴがリタイアしただろ、外れているとはいえないさ…でも」 「運命を知ることができても、それは運命を決定しているということではないんだろ」 「でも予知は当たっている」 「だから予知で運命を見ることができるけど、その運命は外れることもあるのさ」 「予知は100%当たる、それが能力だ」 「だから予知の見た運命と実際に起こる運命は違うのさ」 「それじゃあ予知とは言わないぞ。タダの想像…いや妄想だ。また同じことを言うことになるが予知は100%当たる…予知で見た運命と実際が違うなんてことはないだろ」 「いや、だからな…」 ここで季子がクスクス笑い出した。 縫希と吾人はバツが悪そうに顔を見合わせた。 「そうね…あそこにオレンジがあるでしょ」 「なんだって季子ちゃん!」 「ウソだろ季子ッ!」 「もちろんウソよ。いえ、本当かもしれないけどね」 「つまり……どういうことなんだい?」 「つまりさっきの予知と運命の関係ね。オレンジの外観が「予知」、中身が「運命」…。中身が例えキウイだろうがバナナだろうが見かけは必ずオレンジなのよ。つまり予知は必ず当たるということなの…ただし中身はオレンジとは限らない」 季子の話を聞いた2人はしばらく内容を咀嚼(そしゃく)した。 「でもね吾人…。あのオレンジの中身がキウイだなんてことはあると思う?」季子は吾人に訊ねた。今、自分が言った事を覆すような言葉を放つ季子に吾人はめんくらった。「予知として得た運命がその予知通りの運命にならないという出来事は、オレンジの中身がオレンジではないと同じくらい在りえないことだと私は考えているの。それこそ万が一…いえ、もっと低い確率だと思うわ」 「でも季子…事実起こったんだ。「弾丸が承太郎を貫く」というトト神の予知は「承太郎の絵を貫く」になった。エピタフが見た「ドッピオの頭が吹っ飛ぶ」という画像は「空の絵が頭に貼りついた」というものになった。オレンジはキウイになったんだ」 「そのとおりよ縫希。確率は低いけどオレンジはキウイになるわ。この運命の変遷…『カーマ・クレーンジング』を故意に起こすことが出来るのは現在までに唯1体「時を飛ばす」キング・クリムゾンのみよ」 「……『カーマ・クレーンジング』。…運命の変遷。でもそれは承太郎にも起きたじゃないか」 「吾人…誕生日を祝ってくれてありがとう。縫希も一緒にもう一度乾杯しましょう」 「あ…あぁ、そうしよう」 「季子ちゃん誕生日おめでとう」 「季子、誕生日おめでとう」 季子はニッコリと微笑んだ。 (つづく) |