最後の言葉 4





・・・・・・・やがて、戦いは終わった。


同盟軍は見事勝利し、そして、ナオはいなくなった。

一説によるとナナミの姉ちゃんは生きていたらしく、また最大の敵であったジョウイと
いう彼らの幼馴染とも何かあったのだろう、同盟軍の軍師であるシュウさんの口か
ら、今後ナオを偶然みかけたとしても声をかけないように、それが彼らの幸せでもあ
るのだから、という通達があった。


 皆、特に何も言わなかった。わかっていることなのだろう。ナオは最終的にこの
土地の王になる道は選ばず、ナオの愛する者達と生きていく道を選んだのだった。




 オレ的には、戦争が終わったといって、すげえ喜ぶわけでもなく、まわりの盛り上
がりに混ざって初めて、ああ、ホント全てが終わったんだな、って実感が湧いた。

 そうなると当然、オレは任務終了ということでロッカクの里の戻らなければいけな
い訳で・・。オレの避けたかった事実であった。


戻るということは、あいつにもうあえなくなる。下手すりゃ、もう一生・・。




 城中大騒ぎの祝いの宴の最中だってのにオレの心はすげえブルーだった。それはもう
どうしようもなく。不謹慎ではあるが、戦争が終わった事を悔やむかのように。

その時、オレをブルーにさせた元凶が声をかけてくる。


「サスケ、どうしたの?なんかおとなしいじゃん。飲み物とかいる?」

「あ、いいや。さっき飲みすぎたから。・・それになんでもないから!」

「・・そう?あ、この料理すごいおいしかったんだ、ほら、口あけて!」


フッチがフォークにさした肉料理をオレの口に無理やりはこんでくる。
しょうがないから口を開くとフッチが嬉そうに微笑んだ。

・・なんか照れるなあ。でも、こういう雰囲気が大好きだったんだ、ホントに。
この日常がもう無くなってしまうなんて、信じられない。オレは無意識にフッチの
腕をつかんでいた。フッチが不思議そうにみあげてくる。


「・・サスケ?」
「・・フッチ、ちょっといいか?」
「うん」

今、とにかくフッチと二人きりになりたかった。フッチの手をつかんだまま、オレは
スタスタと歩き出した。フッチは黙ってついてきた。フッチも何かを予感していたの
かもしれない。







 ここは城のてっぺん。フェザーとかいうでかい鳥がいつもいすわっている所だ。
オレとフッチは空が近い、高めの場所が心地よくて、よく風にあたりながら歓談
しあったものだ。この屋上や、展望台とかがオレ達のお気に入りだった。


「もう日が落ちちゃったねえ。夕焼けすごいキレイだったね。」
「そうだなあ・・」

いつものほのぼの的な雰囲気。こうしてまた一日が終わって、
また次の日にコイツに会って、会話して・・。


その全てがもう、崩れてしまった。今日でもうオシマイ。

フッチ達はもう明日には出発してしまうのだ。その話をきいた時、オレは、
「ふ〜ん・・。そっか・・」
としかいえなかった。ホント口下手なオレ。その時、フッチの顔がさびしげだったの
は気のせいだろうか。まあ、そうだよな、こんなに仲良かったヤツにそんだけしか
いわれなかったら寂しいよな、普通。



「・・ねえ、サスケ」

「なんだよ?」

「・・僕ね、もう少しここにいたかった気がする・・」

すごいドキンとした。フッチはいきなり確信をつく。

「でも、もうだめだよね。僕には・・」

そういいかけてフッチが口をつぐむ。
その先は何を言いたかったのか大体予想がついた。


 フッチには自分の道があるのだ。


ブライトには出会ったけれども、まだ竜洞ぶは戻らず、
今度はハルモニアまでいって竜についての情報を集めてくると前に言っていた。

竜洞に戻ってくれるのならまだ連絡のつけようがあるかもしれないが
(現在ロッカクの里にいるフウマがかつては竜洞にいたってぐらいだし)、
行く先のわからない旅にでてしまわれてはどうしようもない。

ホント、どうしようも・・。

だから、今ここで、何かコイツにいわなければダメなんだ。
今のオレの心情を素直に。

・・でも上手く形にできない。
どういったらいいのだろう?

オレは半ば錯乱気味におちいった。

くそっ・・!



 フッチはさっきからアイヅチをうつ程度にしかしゃべらないオレをどう思っている
だろうか。・・・・しばらく沈黙が続く。




「フッチ・・オレも・・」

「え?」

うつむきがちだったフッチが顔をあげる。




「もうちょっとここにいたい・・。」





それがオレの精一杯の言葉だった。こんな淡白なセリフでもフッチの顔に
微笑がうかぶ。そしてフッチがオレにもたれかかった。その後もずっと沈黙。
しかしこれはさっきとは違って気まずいものではなかった。とても心地よい瞬間。




・・・・・・・・・このまま、ずっと一緒にいれたらいいのに。




「ねえ・・サスケ」

先に沈黙をやぶったのはフッチの方だった。

「・・・なんだよ?」

「僕ね・・」

「・・・・・?」


お互いの視線がぶつかる。
しばらくみつめあったままになった。

なんだよ?何がいいたいんだ、フッチ。

フッチの瞳が寂しげにゆれる。表情も・・。

オレの顔もどこか寂しげな感じになっているだろう。

・・オレから言わなきゃだめだ。

フッチだって・・きっと同じ事を思ってくれているに違いない。
何故か、そう確信できた。


「フッチ」
「え?」


大事なその一言を言おうとした、その瞬間。

かなりの恐怖がオレを襲った。

せっかく勇気を奮い起こしたというのに。


・・・・・今ここでフッチに告白をして、そしたらこれからどうする?
どっちみちこのままお別れなんだ。お互い違う未来があるのだから。

これ以上コイツのことを好きになって、
なのにもうずっと一緒にいられないなんて、・・・・そんなのつらすぎる。


ならば、このまま、この関係のままで、何も変わらないで、
トモダチのままで、明日になれば離ればなれになって、
ずっと時がすぎて、いつのまにかこの城のことも思い出となって、
ずっとオレの心の奥にしまって・・・





 誰にもあかすことのない、キレイな、大事な思い出に。





 これはあまりにも弱すぎる考えだろうか?でもオレはとにかく怖かった。
こんな思いは初めてだったから。これ以上深入りしたら、オレは・・。



「サスケ・・?どうしたの?」
「・・・・ああ・・・・・・」



・・・・どうする?どうしよう?もう今しか時間はないのに。


これを逃したらもう、二人の時間は二度と。







その時。
フッチの首にまかれていたスカーフがゆるんでいたらしく、
するりとほどけて空を舞った。この雰囲気が崩れる瞬間でもあった。


「あっ!!」

「・・・・・・あ、、!オ・・・・・オレ、探してくる!」

「えっ・・!?いいよ!!別に!そんなことより・・!」

フッチの瞳に涙がにじんでいたのをオレはみのがさなかった。
フッチもこれが最後だとわかっているのかもしれない。




でも・・・オレは逃げた。逃げたのだ。




フッチが引き止めるのをふりほどいて。

そこから飛び降りて屋根に移り、その場を去った。

オレは怖かった。臆病だったのだ。

とにかく。どうしていいかわからなかったんだ。

でも、これでよかったのかもしれない。

いや、良かったんだ。別れの挨拶は完了したのだ。




・・・・・これで全てはオシマイ。













残されたフッチは。ただ立ち尽くしていた。涙をぼろぼろ流して。
「・・サスケ・・ッ・・サスケのばか・・・・・・・・・」
悲しいフッチの叫びが、静寂の闇に溶け込んでいった・・。