最後の言葉 5






 そして、とうとう別れの日となった。フッチ達の方が三日程早い出発である。
二人きりでの別れの挨拶は、昨晩済ませた。・・・だから、もう未練はない、はずだ。


後は笑顔で別れるだけ。ホント、それだけだ。


 とりあえず、見送りを。まだ城に残ってる他のメンバー達が入り口あたりに集まっ
ていた。荷物を背負ったフッチとハンフリーさんが中心に立ち、その横をブライトが
ぱたぱたと飛んでいる。


「フッチ君、元気でね。」
「オマエならまた竜騎士に戻れるさ」
「ハンフリーさん、道中お気をつけ下さいね」


 人々が二人に別れの挨拶をつげている。オレはそれを無表情で眺めていた。まるで
自分には関係ないかのように。しかし、フッチがこちらの存在にきづいてしまう。

「・・・・サスケも見送りにきてくれたんだね。」
「・・・・あたりまえだろ」
「・・・・元気でね」
「おまえも」
「うん・・・・・」

 ホント普通の挨拶だ。誰だってかわせる、いわゆる普通の。こんなものでいいんだ
ろうか?オレ達って一応仲良しじゃなかったっけ?

「それじゃ、皆さん、今までありがとうございました。そしてお疲れ様!
今度は戦場じゃない土地でお会いしたいです!」

「おう!頑張れよ、フッチ、ハンフリーさん!」
「さようなら」
「またね!」


そしてフッチとハンフリーさんはもう一度深く頭をさげた後、しばし手をふって、
その場を去っていった。自分の信じた道を目指して…・。




・・・・こんなものだろう、と思った。意外に別れの場面はこんな簡単なものなのか
もしれない。もう、心残りだって、ない。昨晩言えなかったあの言葉は、もう奥底に
しまってしまおう。忘れてしまおう。



・・・でも、・・・なんかこれって自分に無理やり言い聞かせているみたいだ。・・
変なの。







その時、余計なつっこみが横からはいった。

「おい、サスケ!こんなあっさり別れちまっていいのか?」

シーナがサスケの肩をつかみ、ゆらしながら訴える。

「そうよ!もっと熱いお別れのシーンを期待してたのに!!」
ニナを中心とした女の子達が騒ぐ。

「なんだよ、それ・・・。こんなもんなんじゃねえの?」

「・・・また、おまえの素直じゃない病が再発した・・・。
いくら年頃だからっていったって、ここぞと言う時に素直になってねえと、
後で後悔するぞ。」

シーナがため息まじりにつぶやく。

「あら、シーナが素直すぎるのよ。」

 シーナはすぐに女の子達との冗談めいた会話の方に移ってしまった。
今のシーナのセリフは、本人は別にさほど深い意味でいったつもりは
ないのかもしれない。




 しかし。今の自分の心にはかなりの重しとなった。そして胸がチクリ、と痛んだ。





・・・後悔?


・・・別にしてねえよ・・。後悔なんか・・。

素直になるも何も、オレとフッチは別に深い仲じゃねえんだから。

いい友達で。

これからも、ずっといい友達で・・・・。

それはオレが望んだ事で・・。

そしてもう二度と会うことがないかもしれない・・・。


・・・会えない?・・・・もうフッチに二度と会えない?

なんともいえない、せつなげな感情がどっと溢れ出てきた。

その瞬間、何かが、つうっと頬を伝って、落ちた。この水は・・・・・涙・・だよな?


自覚した瞬間、涙がとめどなく流れてきた。もう止まらない。
普段は男が泣くなんてみっともないって思ってたくらいなのに。


自分で調節がきかないほど、流れる涙なんて初めてだった。




オレってホント素直じゃねえ!!!後悔ばっかりだ!!ずっと後悔してばかりいる!!




どうしてあの晩、言えなかったのだろう。なんで言わなかったのだろう。
ちくしょう!!ちくしょう!

オレはあいつが・・・すげえ好きなのに。ホント、好きなのに。



オレの異変に気づいたシーナが、ぎょっと驚いた。それにあわせて、女の子達も。















 その頃。後ろを気にして歩いているフッチがいた。そうなると、当然歩くスピード
が落ちてくる。そしてそれにハンフリーが気づかないはずがなかった。

「・・・・・フッチ。俺はここで待っているから、一度城に戻ったほうがいい・・・」
「・・・・え?」

フッチが驚きに目を見開く。

「・・・気になることがあるんだろう?ならば行って来い。」

「・・・・でも・・・・」

「御前が、後悔しないなら、戻る必要はない・・・
・・・しかし、言い忘れたことでも、あるんじゃないのか・・・・?」


 フッチは一瞬黙り込み、ピクッと反応する。そして呟いた。

「・・・ハンフリーさんにはなんでもバレちゃうね・・・・。
・・そう、僕言い忘れたことがあるみたい・・。
城を出発した時から、ずっと後悔してたんだ・・。
ずっと・・・うん、昨日の晩から。」

下をむいたままのフッチの表情はよくみえないが、声が涙声に変わりつつある。

「行って来い・・・」
「はい!!」


フッチは荷物を放り出して、駆け出していった。ブライトが後を追おうとするが、
それをハンフリーは抱きとめ停止させながら、フッチがすぐ戻ってこないようだったら、
今日は一度城に戻ってもう一日出発を延長した方がいいかまで、考えたりして。。











 最初に気づいたのは、シーナだった。それにあわせて他の者たちも目を輝かせる。
シーナが、泣いているサスケの肩を激しく揺らし、

「おい、サスケ!!あれ・・・」


 オレの耳にはシーナの声は届かなかった。
しかし、無理やりシーナに振り向かされて、顔をあげたとき。



 すごい勢いで、抱きつかれた。支えきれずに二人で倒れこんでしまう。
オレは一瞬何が起きたのかわからなかった。頭が真っ白になった。




 更に驚いた。何かが自分の唇にふれる。やわらかい感触・・・・・


・・・・・・・それはフッチのものだった。




「きゃ〜!!!!!フッチ君やる〜!!!」
「すげえぞ、フッチ!!!!」


 周りがすごい声援をあげて騒ぎ始めた。しかし二人の耳にはもう届かない。


「サスケ!!サスケ!!僕、君がすっごい大好き!!
もう、これっきり会えなくなるなんて、やだよぉぉ・・・!
忘れられちゃうなんて絶対やだ!!!!!」


 フッチが大泣きしながら自分にすがりつく。
そしてオレは自分が情けなく思った。先をこされてしまったのだ。


「ちくしょう!!惚れたのは、オレの方が先なんだぞ!!絶対忘れるもんか!!
忘れるはずないだろぉ!」

 二人はまわりなど全く気にせず大泣き大会を始めてしまった。
強く抱きあったまま。

その二人の光景をみて、冗談ぬきでもらい泣きする者も現れた。
それほど、心うたれる光景だったようだ。




 愛と呼ぶには まだ幼いけれど 恋というには 深すぎる 激しい感情。




そして二人のいえなかった最後の言葉は、大観衆の前で暴露するという、昨晩とは
うってかわった結果ではたされることとなったのだった。





【END】










とりあえずこれでおしまいです・・。
でもなんかしりきれとんぼ?
今度続編書くかもしれませんねえ・・。