漢の冒険




「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜む・・・・」



シーナが珍しく眉間に皺をよせ、真剣に悩んでいる。
・・・とサスケは思ったが。場所が良くなかった。
シーナが立っている場所は大浴場の入り口前ではないか。

風呂場の番人であるテツが「兄ちゃん、入るんだったらとっとと入れや。」
などどシーナに呼びかけているが、それでも彼は動かない。

(ま、ロクなこと考えてねえだろ・・・・・・・・)

シーナの普段の行動から想像するに、どうせ他の男連中と「女湯を良く覗ける
スポット」について話あったり、「現在女風呂に誰が入ってるか」をかけて妄想話
をしたりなど、くだらない前例をあげていけばキリがない。

サスケは無言のままその場を去ろうと思ったのだが。
シーナにしっかりと肩を掴まれてしまった・・・。

「サスケ!オレは今、究極の選択に頭を悩ませている!!!」
「・・・・・・・今度は誰に告白するかとか?ハンナさんとかどうだ?」

サスケは全く相手にせず、軽くあしらおうとしている。

「オレはまだ死にたくない。・・・じゃねえだろ!・・ま、それも
重大なことだけど、今はそれどころじゃねえんだよ!!」
「・・・じゃ、なんだよ」

本当に真剣に悩んでいるのか?たまたま風呂場の前に立っていただけだったのか?
それほどシーナの瞳は真剣そのものだったのだ。

「・・・・・いいか、落ち着いて答えてくれ・・・オマエの意見をぜひとも
取り入れたい。オレはもはや冷静な判断が出来なくなっている・・」

シーナはサスケの両肩を掴んで、まっすぐに見つめてくる。
サスケは思わず喉をごくりと鳴らした。


「・・・今。風呂にリィナさん達・
大人の女性魅惑の香り☆集団が入っていった・・・!!」



サスケはガクリと肩を落とした。

真面目に聞こうとした自分がバカだったのだと・・・。
それに気付いたシーナは逆ギレした。

「バカやろう!真面目に話しを聞け!」
「とっとと覗きにいきゃあいいだろうが!(もっとも簡単に覗ける方がたじゃ
ねえけどよ。)」

「そう思ったさ!!そりゃあもう!!しかし、しかしだな!!!!」

シーナの、サスケの肩を掴む力が強まった。まるで抓られているような感触。


「・・・・・・・・・・・・なんと!!!ほぼ同時に、男湯の方に
美少年集団が入っていったんだよおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



それがどうしたと厳しくつっこみをいれたくなるサスケだったが、
同時にサスケ自身も「そりゃあ珍しい」と思ったのだ。

シーナのいう「美少年集団」とは、シーナの好みから想像するに
ルック・フッチ・コーネル・テンプルトン
あたりと推測される。

特に、ルックが公共の施設・大浴場に姿を現すことなどめったにないのだ。
というより、今回が初めてか!?

「・・・・・・・そりゃあ、珍しいこともあるもんだ」
「だろ?そう思うだろ!?あのルックまで入っていったんだぜ!!」

シーナは興奮のあまり、滝のような汗を流している。

「・・・・・・・・・まあ、そこまでの話はわかった。
で、オマエは何したいんだ?」
「ここまで言ってわからんのか、鈍いヤツだな。
要するにだ。

・・・・・・・・・・・・・・どっち覗いたらいいと思う?

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「だーかーらー。
魅惑の女風呂か、まさに今限定のレアもの男風呂か。
どっちを覗くべきか。」

サスケの頭は真っ白になった。
どうしたら、そういう発想に行き着くのか。というか、そんな変態根性
丸出しのシーナに鈍いやつ呼ばわりされたくなんかない、と本気で思った。

その時。サスケの代わりに背後から返事が降ってきた。


「僕なら、絶対男湯。」


「「え?」」

シーナとサスケ、同時に声の方向を見ると、そこにはこの城のリーダー、ナオが
立っているではないか。一瞬呆気にとられてしまった2人を無視してナオは話を続ける。

「だって、もう二度とないチャンスかもしれないんだよ?
ルックまで入ってるんだろ?僕はルックを襲う気はないけれど、やっぱ綺麗な人
だって認識はあるもの!それにコーネルや僕のお気に入り・フッチもいるんで
しょ?」

シーナはそれを聞いて、みるみると表情が変わり目を輝かせた。

「・・・・そうか、そうだよな!!オレはもう迷わねえよ、ナオ!
さすがオマエ、リーダーって感じだな!その判断力は立派だよ!!」
「いやはや、それほどでも。」

ナオは照れながら頭を掻いている。そんなことでリーダーだと認めてもらえて
嬉しいのか、ナオ・・。サスケはもはやうんざりしている・・。

「さ・行くぜ!新天地へ!!!」
いつのまにか仲間に加わったナオを引き連れて、シーナはスタスタと行ってしまう。
どうやら彼専用のにお気に入り覗きスポットがあるらしい。

サスケは呆れ果てて、もうほっとこうと思ったのだが・・しかし!!
大事な事に気付いたのだ!

「ちょ、ちょっと待て!!!」

シーナとナオが振りかえる。

サスケ:「おまえら、本気で行くつもりか?」
シーナ:「なんだよ、今更。当然だろ?」
ナオ:「サスケは行かないの?フッチいるよ?」

サスケ:「・・そうだよ、フッチがいるんだよ!!!!オマエら覗くんじゃねえ!!」

シーナ:「何を今更。」
ナオ:「やーねー。独占欲丸出しにして。」
シーナ:「ねえ、奥様。」
サスケ:「奥様ごっこはもういい!!!これ以上は行かせねえ!!」
シーナ:「なんだと!?やる気か!?」
サスケ:「うるせえ!!」
シーナ:「男のロマン、風呂場見物を阻止するということは・・・!キサマは我ら隠密を
裏切るつもりか!?」
サスケ:「忍者のふりだかなんだか知らないけれど、ダメなもんはダメだ!!!!」

シーナ:「ならば、仕方あるまい・・・。各なる上は・・・・・・・・・!!」
ナオ:「力づくで!!!!!」

その瞬間・シーナが何か呪文を唱えたと同時に周りに閃光が飛び散る。
サスケが一瞬それに気をとられた隙に、ナオが懐から何やら取り出したかと
思うと一気に地面に投げつけた。

「!?」

小さい破裂音と共に、周りに灰色の煙が立ち込める。爆発の威力は最小限だが
その分煙の量が尋常じゃない。あっというまに部屋中煙で覆われ、視界を奪われる。

「煙幕・・・・・・・・・!!」

視界が開いてきた頃には、すでに2人の姿はなく・・。

「ちくしょうっ!!シーナのヤロウ、普段は無力なくせしてこんな時ばかりに
実力を発揮しやがって!!ナオのヤツもいつの間にあんなもん隠しもって
やがるんだ!!!何より奴らのコンビネーションは一体なんなんだよ!!!!」

怒鳴ってる場合ではない。こうしてる間にも、自分の思い人にキケンが迫っている
かもしれないのだ!!

テツの怒鳴り声「忍者ごっこなら他所でやりやがれ!!!」を後目に
サスケも一瞬のうちに姿を消して、2人の後を辿っていった・・・。