あと一歩だけ  4
++++++++++++++++++++++++++++++++++





うっすらと目を開けると、見たことのない天井が視界をかすめる。
白い天井・・もしかして天国だったりして。


「・・・・!!っ?」

誰かが話し掛けてくるのがわかる。・・・母ちゃん?父ちゃん?
んー、どうやら天国じゃないらしい。

「・・・・赤坂は?」

オレからやっと出た一言が、「赤坂」と言う名前だった。

「あの子は大丈夫、大丈夫だから・・・」

その一言を聞いたけでなんだか安心しちゃって、
またオレの意識がうっすらと遠のいていった・・










「しーまちゃん!坊主頭似合ってるよ〜〜〜〜!今は包帯だらけだけど!」
「うるせえ!名誉の剃髪だ!」

ただいま、オレは入院中。
結局あの事故は、救急車やらなんやら出動して大騒ぎになったらしい。
あんときの車のナンバーをケーイチが見ていたので、犯人も直につかまるとか。
許せねえからな!人をこんな目にあわせておいて!

「とにかく元気になってよかったよ、島ちゃん。」
「ケーイチ・・・心配かけたな」

ケーイチの必死の形相もすごかったからなー。ホントみんなに心配かけちまった。

「それにしても、かっこよかったよ島ちゃん!惚れなおしたよ!」
「そうか?」

でへへと頭を掻くオレ。ん?惚れなおした?・・・ひとまず置いとこう。

「だって、赤坂くんかばって落ちちゃうんだもん!
しかも赤坂くんが怪我しないように自分が下になってさ!」
「いやもう、何がなんだか必死で・・」


身体が勝手に動いたんだよな・・・。


「でもあの時、島ちゃんの流血ぶりみて本当に死んじゃったかと思った。
すごかったもん〜」

「まあ崖って言っても下は普通の道路だったし、端っこの芝生に落ちたから運が
良かったんだよ。それに頭ってのは血が大げさにでるもんなんだって。
実際はそこまでたいした怪我じゃなかったんだよ。」

「でも頭ぶつけるのって、すごい危険だっていうよ〜
それこそ線が一本ぶっとんじゃったかもしれないじゃん!」

「まーな。でも精密検査もしたけどそこらへんは特に異常なしだったからさ。
それよりも問題は、今回の怪我の治療のためにオレが丸坊主に
ならなきゃあいけなかったってことだよ!!」

「大丈夫だよ島ちゃん。若いんだからすぐ生えるって」

ちくしょう、他人事だと思って。
・・・まあそんなことはどうでもいい。

それよりも、もっと気になることがある・・・・

あいつは?

あいつはどうしたんだ?

「なあ、ケーイチ・・赤坂は?」

「赤坂くんねー、もう大変だったよ・・大泣きしちゃって。
カスリ傷だけですんだもの島ちゃんのおかげだって」
「・・・・大泣きしたのは怪我のせいじゃないんだろ?」
「・・・・うん。島ちゃんのためにだよ」

母ちゃんが言うには、あの事故の後すぐに赤坂の母親も飛んできて。
そりゃあもう色々とお詫びを言われたらしい。しかしうちの母ちゃんは、
「人を助けて怪我するなんて、うちの息子も少しは男前になったもんだ」と
明るい笑顔で対処したとか・・・

それよりも、真っ赤にまぶたを腫らした赤坂の方を気の毒に思ったからだそうな。


あの赤坂が、
泣きはらして・・・


やっぱ、あの車許せねえ。赤坂の心に一生消えないような傷を残しやがったんだから。






そして次の日から・・・

お見舞い連中がくるようになった。

まずは東野さんと海老原さん。いつものスマイルで終始会話し、
母ちゃんにも好印象の様子。

次、クラスの連中。
散々騒いだ後お見舞い品だけ置いて帰っていった。
ここが個室で良かったよ・・(大部屋は満室だった)

次、ケーイチとその兄弟。
いくらちっこいガキどもといえど、一気に3人に乗られると流石に重いっていうか・・・
もう死にそう。ケーイチがなだめすかして大変だった。

しかし。


・・・こ、こない!
あいつがこない!


一番気になるあいつがこない!


なんでこないんだよ!
すんげえ不安になるじゃねえか!


「裕介・・・母さんいったん帰るわね。交代で夕方からおばあちゃんがくるから」
「んー、・・・オレ寝てる」
「そうしなさい。入院もそんなに長引かないわよ。今週中には退院だから」

母ちゃんが去っていく足音が、夢心地に聞こえる。
目を閉じてベットに横たわっていたオレだったが、やがて、一つの足音が・・・


「・・・・・・?」


オレの病室の前で、止まった。
まだ夢から覚めないオレは、ゆっくりと寝ぼけたまぶたを開けていく。


赤毛・・
ちっこい身長・・・・・・・


赤坂!?
やっと、やっと来たのかよ!


赤坂が入り口のところに、立ち尽くしていた。
ヤツはそこで立ち止まったまま、こっちに向かってこない。

「赤坂・・・こっち来いよ」

オレがなんとか手招きすると。

・・・・赤坂がゆっくりと近づいてきた。
あの時のような、泣きそうな顔をオレに向けて。

その顔を見てしまうと、俺も心が痛むんだってば・・。

「島・・・ありがとう、ごめん・・・・・」

赤坂が下を向いたまま、つぶやく。

いいよ、気にすんなってば・・・って、
どうやったら上手くつたわっかな・・・

オレ、言葉で表すの下手だから、あの時も赤坂を待たせた挙句、
こんな事故に巻きこまれることに・・・・

いいや、もう、やっちゃおう。
考える前に行動!の方がオレの性にあってるらしい。

「赤坂、こっちむけよ」
「・・・島?」

赤坂が顔をあげた。やっぱり涙がにじんでる。

オレは更に身をおこして赤坂に手を伸ばす。
震える赤坂の肩に手をかけて、



・・・・赤坂を一気に抱き寄せた。



そのままぎゅっと手に力をこめる。


「・・・島?」
「気にすんなよ」
「島・・・」
「おまえが、無事で・・・・・良かった」

その一言が引き金になったのか、赤坂から嗚咽が漏れ出した。
こいつも手におもいっきり力をこめて、オレにしがみつく。
涙をぼろぼろ流して俺の寝巻きをぬらしていった。

「なあ、泣かないでくれよ・・」

いつも強気でオレにちょっかい出すおまえに、そんな泣かれると・・




さすがに鈍感なオレでも、もうわかってる。




オレは赤坂が好きで。


赤坂は・・・オレのこと、好きなんだ。


気付くのに大分かかっちまったけど・・・


「なあ、赤坂・・・」

赤坂は涙だらけになった顔でオレをゆっくりと見上げる。


「オレ、おまえのこと、好きだ。」


赤坂が更にしゃくりあげて、オレの首にしがみついて一言。


「僕も・・・・」


予期してた答えだけれど、やっぱり聞けて安心した。
かなり遠回りしちまったな、オレたち・・




しばらくその体勢でいたんだけれど。
赤坂が涙で顔をぬらしながらも笑顔になって、

「島、坊主頭も似合ってるよ」

なんていうもんだから。

「惚れなおしたか?」

なんて調子にのって聞きなおしちゃって。

「うん」

とかいう素直な返事が戻ってきたのに驚きまくって。

お互い顔をあわせて・・なんだかテレ笑い・・・







+++++++++++++++++++++++++++++++++







<<モドル   5へ>>