あと一歩だけ  3
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「思い出しハズカシ」で悶絶死しかけてから早数週間。

赤坂の顔を見るだけで真っ赤にそまるオレだったが、
それ以外は特に何事もなく日々順調に経過した。
まあ、あれからヤツと2人っきりになる機会がないってこともあるが・・

赤坂自身特に態度が変わることなくいつもと一緒なので、オレが変に意識
するのもどうかと思い、それなりに振舞う事に慣れてしまったというのもある。

赤坂は相変わらずオレの顔面にボールを投げるし。(鼻血放出)
東野さんは相変わらず金髪男といちゃついてるし。
ケーイチは相変わらずオレのためにオロオロしてるし。(いやホントごめん)

ああ・・ホントむかつくくらいの日常だ・・・




++





「しーまちゃん!そんなに急がなくても・・・」
「何言ってんだ!オレがこの日をどんなに待ちわびたことか!!」
「そりゃあそうだけど・・・」

日曜日のデパート。大変混雑してて胸くそ悪いが
オレはどうしてもここのおもちゃ屋に用があった。だって前から予約してた
ゲームがやっと入荷されたんだぜ?これを喜ばずにおれようか!!

「ケーイチにも貸してやっからよ!」
「約束だよ〜」
「おう!でも弟達には秘密にしろよ。壊されたらたまらんから」
「多分平気だと思うんだけど・・」

といいつつケーイチは頭をかいた。なんせ前科があるからな、要注意だ!


「あ、島ちゃん・・・・あれ」
「ん?・・・・・・・赤坂?」

うげえ!
また偶然会っちまったのか?もはや偶然も2度くると偶然じゃないような・・!

「赤坂君、女の人と一緒にいるね。なんだか赤坂君に似てる気がする」
「ホントだ。・・・姉ちゃんじゃないの?」
「そうだね〜、おーい赤坂くーん!」

げ、ケーイチ呼びかけるなよ!
俺の行く手には限定版ゲームが待ち構えているというのに!
(早くゲットしたい)

先に気付いたのは、女の人の方だった。
赤坂をトントンとつつき、オレ達の方向を指差している。
そのまま2人でこっちまでやってきた。

「赤坂くん。お姉さんとお買い物?」
「えーと・・お姉さんじゃなくて・・・」

ん?姉ちゃんじゃないんだったら一体誰だってんだ?こんなに赤坂に似てるのに。

「うちの息子がいつもお世話になっています〜」

そう言って、女の人がにこやかに頭を下げてきた。

「「む、むすこ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」」

ケーイチと声が重なっちまったじゃねえか!息子だって?
ってことはこの若い女の人・・赤坂の・・母ちゃん?

先に立てなおしたケーイチが、再び話し掛けている。
「若いお母さんですね〜、いいなあ赤坂くん」

赤坂も微笑を浮かべている。やっぱ身内が誉められるのはいいもんなんだなあ。

あとは適当に会話をしたあと、その場をすぐに離れてしまった。
なんせオレには限定版ゲームが待ち構えているからな!

「ねえ島ちゃん。赤坂くん、
お母さんのお手伝いで買い物ついてきたんだね、えらいなー。」
「ああ?そうだな」

オレの心はすでにおもちゃ屋に向いていた・・・




++




次の日。今日は朝連がなかったので、ゆっくりと寝てから学校にきたオレとケーイチ。
そのケーイチが、赤坂と顔をあわせて最初に飛び出した、第一声・・・。
「赤坂くーん、昨日はびっくりしたよ!キレイなお母さんだね!」

「おはよう・・昨日は僕もびっくりした」
「オレなんかもっとびっくりしたぞ」

オレも会話に口を出す。びっくりしたのは事実だからな。

「島ちゃんなんか、心はすでにゲームに飛んでたくせに」
「うるせえな!・・ところで赤坂、えらいじゃねえか、
休みの日に母ちゃんの手伝いするなんて!」
「え?」

ずるーい島ちゃん、それ昨日僕が言ったセリフ!とのたまうケーイチを押しのけて、
更に言葉を続けるオレ。

「手伝いだろ?違うのか?」
「・・・いや、からかわれるかと思ったから・・・・」

オレらの間に、一瞬風が吹き抜けた。

「・・・からかう?どうして?」

ケーイチが首をかしげている。

「おい赤坂、オレを見損なうなよ?ガキじゃあるまいしさ!オレなんてばあちゃんっ子
だから未だにばあちゃんのお供に色んなとこついてくぜ!」

冗談ぽく答えてやったら。・・またふわりと笑いやがって。その、照れるじゃねえか・・

「ごめん・・・前にからかわれたことがあったから」

一瞬見とれてしまったオレだったが。ケーイチの言葉ですぐに現実に戻れたよ感謝!

「そーだよ!島ちゃんなんかすごいおばあちゃんっ子で、
今回のゲーム買う時のお小遣いねだりぶりと言ったらもう見てる
こっちが笑っちゃうほどあからさまでおもしろくて」

感謝とりけし!余計なことは言わんでよろしい!!!

赤坂はまた笑い出す。
「やっぱりお子様だ」
「うるせーなもう!ケーイチ、黙りやがれ!」
「うわわ、ごめん」

あー、でもなんだかいいな、こうして3人で会話するのって。
・・・・嫌いじゃないぜ。


その後、すぐに予鈴のチャイムが鳴ってしまったのでこの場はお開きとなった。
赤坂と別れたあと、ケーイチと2人で廊下を歩いている時。
(オレとケーイチはクラス同じ)

「島ちゃんと赤坂くんって、良いコンビだよね」
「・・・・・はあああ?」

いきなり何言い出すんだコイツ。

「バスケ時も良いコンビだけど、普段も良い感じだと思うよ。」
「おまえの目は節穴か!あいつの殺人パスはいつもオレの顔に直撃し、
そのたびに鼻血流出してんだぞ?」
「それほど島ちゃんのこと信頼してパスしてるんだよ。実際赤坂くん、島ちゃんと
コートにいる時ほどホントいい動きするもん!」
「・・・・・そーか・・・?」
「そうだよ」

ケーイチに言いくるめられてしまった気がするが・・・
「良いコンビ」・・・か・・・

まあ、いいけどさ。と思いつつ、なんだか気恥ずかしくって鼻の頭を掻く、オレ。




++





はー、いい天気だ・・雲一つない青空を眺めながら、高台にある坂の上から風景を
見下ろしながらゆっくりと道を下っていく。ホント、爽やかな気候だ。

ただ、オレの心を脅かす存在が・・・・・横に・・・・横にいる!!

な、なんで赤坂と2人でこの道を歩くことに!?

そもそもケーイチがいけないのだ。3人で日曜日遊ぼうよなんて言い出すから!
このメンバーで遊ぶなんて初めてのことだったし、赤坂も素直にうなずいたので、
話は簡単に進んだのだが。

まさか、待ち合わせ場所に行く前に赤坂と合流してしまうことになろうとは・・・!!!
油断だった。こいつのことだからどうせ早めに行ってるだろうと思ったのに。

「・・・・島」
「うぉっ、な、なんだ?」

オレってばあからさますぎだ!これじゃ明らかに挙動不審だろう!?

「今日はどこに行くんだ?」
「え、今日?・・・うーんとそうだな、まずはゲーセンめぐり」
「おまえらしいコースだ」
「文句あるか?」
「いや、ない」

なら最初っから悪態つくなっての!

「島・・・・」
「なんだよ」
「おまえ、なんか気にしてる?」
「・・・・・・!!」

し、心臓がばくばく言ってる!マジ痛いって!
気にしてる?って気にって・・・、やっぱおまえこそ気にして・・!?

「おまえの様子、なんだか変だ」
「う、うるせえな」
「・・・僕のせい、だろ?」
「おまえのせいってわけじゃ・・・」
「僕、別に・・・・あのこと、気にしてないよ」
「え」
「島特有の冗談だったんだろ?」
「・・・・・・・」

あのこと・・ってのは、オレがおまえに・・その、キスしてしまったことだよな。
今更しらばっくれても意味ないし、こうなったら正面から堂々と立ち向かおう。

冗談、冗談か・・・確かに冗談のようなものだった。オレのことをガキ扱いするおまえに、
なんとか一泡ふかせてやりたくてやったことだったけれども・・・

実際やってしまうと。

おまえの顔がまともに見れなくなって。

お互い顔を真っ赤にそめて。

その後、どうやって家に帰ったかすら覚えてないほど気が動転しちまって・・


その気持ちをどう伝えれば良いのだろう?


・・・・いや、伝えなくてもいいんじゃないだろうか。

冗談だって笑ってしまえば。
実際赤坂がそう聞いてきてるんだし。

でも、それで解決する、問題なのか?

この場を嘘で乗り切っても・・オレの心にずっとしこりが残ったまま・・

毎日を過ごすのなんで、耐えきれない、かも。


「・・・・赤坂」
「・・・?」


赤坂が顔を上げてオレをまっすぐに見つめる。そんなにマジに見ないでくれよ。
緊張するじゃねえか。

「あ、あれはだな・・」
「・・・・・・・・・・」
「その、なんていうか・・・」

駄目だ。上手い言葉が見つからない。

オレは言葉をゴニョゴニョ濁してばかりでいたずらに時が過ぎていくだけだったが、
赤坂は辛抱強くオレの言葉を待っている。

なんて言ったらいいんだろう?

そうだ、あの時・・・赤坂がオレに聞いてきた言葉。

『島は・・・東野さんのことが・・・好きなの?』

好き?そうか「好き」って言葉があったか。

・・・え?そうなるとオレは赤坂が好きで。す、好き・・・・!?
オレが今一言「好き」と口にする・・・すなわち、こいつに告白することになんのか!?

いつのまにかオレの手が汗ばんでいる。
だ、駄目だ口が動かねえ。ここまで緊張したの、初めてかも!?


流石に赤坂がオレの困惑の様子を見て、口を開いた。

「島、僕・・・・・・・・・・・」





その時。車のエンジンの音が向こうから近づいてきた。なんてうるせえ車なんだ!

「!?」

こんな高台にある、急な坂をあんなスピードで走ったら危ないだろう!?
しかもオレ達のいる場所はカーブ地点なんだぞ!?

そういえば、母ちゃんたちもこの道について文句たれまくってた。
とっても危険だって・・・囲いもガードレールしかないし、そこを超えてしまえば
高台からまっさかさま・・・

「赤坂!!!危ない!」
「え・・・・」

車が一気にオレ達の横を駆け抜けていく。カーブぎりぎりを通過して。
当然歩行者用の白線なんか飛び越していた。

車のミラー部分が赤坂の腕をかすったので、赤坂は顔を一瞬ゆがませると共に
バランスを崩した。そのまま、ガードレールの向こう側に体勢が傾き・・・

「赤坂!!!!」
「・・・・島」
「島ちゃん!赤坂くん!」

オレが赤坂の腕をつかんだのと、オレ達の遅刻にしびれを切らして迎えにきた
ケーイチが叫んだのとほぼ同時に。

オレと赤坂はガードレールを飛び越えて、がけ下に向かって一気に・・・・・下の方に・・・

「島ちゃーん、赤坂くん!」

・・・・落ちていった。

ケーイチがガードレール上から必死な形相で顔を出したのが見える。
他に通りすがりの人もいたのだろう、悲鳴等が聞こえてきて・・・・




その後はよく、覚えてない。




赤坂が、今にも泣きそうな顔でオレを覗き込んで、何か叫んでる気がする・・・

でも、オレには何も聞こえないんだ。

赤坂の手に、べったりとはりついた赤い・・モノ?

血か?

・・・赤坂、怪我したのか?

違う、オレの血・・・・だ・・・・・・・良かった・・




大丈夫、大丈夫だから、そんな、顔、すんなよ・・・・・・・









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