あと一歩だけ   2
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「しーまちゃん、なんで頭抱えて暴れてるの?」
「気にすんな!!」

・・とオレに怒鳴られても、ケーイチは心配そうな表情でこちらを眺めている。

「・・・思い出しハズカシだ」
「・・・え?」
「思い出し笑いってあるだろ?それの恥ずかしい版だ!」
「なるほど」

ケーイチはのんきに納得しているようだが、オレはそれどころじゃない。
もうすぐ来るかもしれない「恥ずかしい」元凶のことを考えると、頭を抱えて
ゴロゴロするだけじゃ足りない心境だ。

何がそんな恥ずかしいかっていうと・・
思い出すのも顔から火が出てしまいそうだが。


お、オレは昨日・・何故か赤坂と・・手、手をつないで・・帰ってしまった!
今思えばオレはなんてことを!昨日はなんだか色々とありすぎて、
そういう成り行きになっても特に気にせず・・

東野さんのことで、ちょっとショックを受けたり、とか。

赤坂にちょっぴり感謝・・むしろ嬉しかった、とか。

微笑んだあいつを見て、か、可愛いと思ってしま・・

って、うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

今のナシ、ナシだ!

あいつにしては珍しく、落ち込んだオレを励まそうとしてあんなことをしたのだ!
そもそもなんで落ち込んだのかを思い出すと更に落ち込みそうになるのだが。


・・・深く考えるのはよそう。



「・・・・・・おはよう」


・・・オレの時が止まった。金縛りにかかった・・
げ、元凶が・・後ろにいる!!

「おはよう赤坂くん。朝練にもお互い慣れてきたね〜」

のほほんと挨拶をかわすケーイチ。(ケーイチがいてホントに良かった)
ど、どういう顔をすれば・・!!

「・・・そこの馬鹿はなんでうずくまってるんだ?」


・・・・・・なんだと?


「あのねー、」
「ケーイチッ、言うな!!」

オレは勢いよく立ちあがって、ヤツに向き直った。
なんだよこいつ、いつも通りじゃねえか!相変わらず憎まれ口叩きやがって!

「ほらとっとこ練習だ!先輩たち来る前に掃除だ掃除!」

1人で悩んで損した気分だ。あいつにとっては、昨日のことはどうでもいいモン
だったらしい・・・ムカツク!オレだって別に・・どうでもいいんだよもう!

箒をぶんぶんと振り回して掃除を始めるオレ。ムカムカする気分を取っ払うために
掃除に集中しすぎたため、後ろの会話なんか全然聞こえなかった。

だから、赤坂が何か言ったって・・・



「・・・元気そうで、良かった」


「え、赤坂君なんか言った?」
「いや、馬鹿は風邪ひかないなあって」
「・・赤坂君、島ちゃんに聞こえてたら、また暴れ出しちゃうよ・・」



・・・なんにも聞こえなかった。








「ごめんね、待たせちゃって〜!」
「すまん」

東野さんたちがやっと来た。遅刻だけれど、二人とも走ってきたようなので許してやろう。

「島くん、赤坂くん。昨日はホントありがとう。おかげで宿題間に合ったよ〜
スズメの泣き声聞こえるまでやってたから、キヨちゃんなんてまだ爆睡中なんだよ」

・・・・ここにいる全員が、なんで「キヨちゃん」とやらの睡眠状況を知ってるんだよ、と
思っただろう・・・。え、思ったのは俺だけ?いやきっと、海老原サンもそう思ったはず。
だってそんな顔してるもんな・・・オレと同じ、なんだか気に食わない顔。

「キヨちゃん」ってのは今やオレらの敵だぜ?

いくら東野さんの親友だからって・・そう、親友。っていうか幼馴染?

そもそもこの二人、仲良すぎなんだよ・・


昨日だって


東野さんは嬉しそうで、迎えに来た「キヨちゃん」に飛びついて、


二人で手をつないで歩き出して・・・


なんだかすんげえむかついて


ムカムカ・・


・・・・・・って、また思い出してどうする!!

再び思い出しハズカシをやってしまうところだった!!

「・・・また島ちゃんが頭抱えてる」
「島くん、どうしたの?気分悪いの?」


いらぬ心配を受けてしまい、居心地の悪い気分になるオレ。

赤坂だけがいつもと変わらぬ無表情でオレを眺めていた。






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「・・・ちくしょー、ここにもねえよ」

授業がある上に部活の練習に励みすぎたせいでへとへとになって家に帰ったオレに、
クソ親父が容赦なくお使いを申し出てきた。プリンタのインクを買ってこいぃぃ?
つり銭を小遣いとしてくれなかったら、絶対行ってやらねえとこだったんだが。

しかしどこのコンビニ行っても、親父が使ってる機種のインクが売ってない。
どこにでも売ってるって嘘つきやがってあの親父!

仕方なく、かなり離れたコンビニまで足をのばした。この見慣れた風景・・・
昨日通ったばかりだな。

・・・・・そうだ、赤坂の家の方向だ。
お互い無言で歩き続けた道・・・おっと、もう思い出しハズカシはごめんだぜ。



周りが暗くなり始めると、ここらへんも人気が少なくなるようだ。オレ以外に歩いて
いるヤツは見かけない・・と思ったら。

前の方に人が・・いる?

でっかいのと小さいのが・・二人。

ってアレ、赤坂じゃねえか!!


「・・・この道なんだけど・・」
「だから、ここを曲がって・・」
「よくわかんないなあ。悪いんだけど、一緒に来てくれたら・・」

「おーい赤坂!!」


特に深い意味もなく赤坂に声をかけたつもりだったんだが。

赤坂が一瞬・・安心した表情を浮かべた・・ような?もしかして今ピンチだったのか?


「・・・あ、友達来たの?じゃいいよ、ありがとう」


でかい方がそれだけ言い残してすぐにその場を去ってしまった。
なんだあれ。知り合いじゃねえの?

「よう、邪魔したな」
「・・・いや」
「今のヤツ何?知り合いじゃねえの?」
「・・・・知らない人」
「は?」

やっぱ知り合いじゃなかったのか。

「んじゃナンパか?」

ハハハと笑って、冗談のつもりで言ったのだが。

赤坂は無表情・・いや、なんだか脅えた様子で下を向いてしまう。
お、オレ、なんか考えなしに余計なことを言ってしまったかも!!

よくケーイチに、考えてから口にしろと遠回しに注意されるのだが今まさに・・!

ぐるぐる頭の中で思いを巡らしているうちに、赤坂がぽつりと呟いた。


「何はどうあれ・・・助かった」
「い、いや・・」
「ただ、道を聞かれただけだと、思ったんだけど・・」
「?」
「さすがに、そこまで一緒に来てほしいと言われると・・」

オレの頭の中に、今日学校で配られたプリントが頭をよぎる。



『最近、不審者が多発しています。女子だけに限らず、男子も注意して
なるべく複数で下校すること・・』



そん時はクラスのヤツラと「男もかよ−」なんてゲラゲラ笑い飛ばしてしまったんだが。

今こうして脅える赤坂を見ていると・・・
なんだか急に腹立ってきたぞ?あの男、赤坂になんかしよーとしてたのか?

「おい、赤坂・・・なんかされたのか?」
「え」
「おまえちっこくて弱そうだから狙われるんだよ」
「なっ・・」
「だから!オレが送ってってやる」
「・・・・・!!」

一瞬怒り顔になった赤坂の表情が、すぐに和らいだ。
やっぱこんな暗い道じゃあ、こいつでも心細かったのだろうか。

つい送ってやる、なんて言ってしまったが・・さすがに手はつなげない。
昨日の今日で・・だしな。

「ほら、行くぞー」
「あ、うん」

しばらく無言で歩き続けたオレらだったが。

「・・・島、なんでこんなとこにいたんだ?」
「オレ?親父に買い物頼まれて放浪してるうちに・・こんなとこまで来ちまった。
あ、そこのコンビニよっていい?」

オレは赤坂の返事を待たずにコンビニに入る。赤坂も黙ってついてきた。


・・・・よっしゃ!ここにはインク売ってたぜ!

「あーかーさーかー、買ったからいくぞー」

雑誌のコーナーで立ち読みしてた赤坂が顔を出した。

「ありがとーございましたー」

店員の声を背に、オレらはコンビニを後にする。

「ほら赤坂」
「?」

オレはコンビニで買った、つめたーいコーラを赤坂に投げた。

「これ・・」
「オレのおごり。気にすんな、親父が釣り銭使っていいって言ってたから。
・・・・炭酸駄目だったか?」
「いや、ありがとう」

赤坂は素直に受け取って、早速缶のタブに手をかける。

「隣り公園になってんだな。ゆっくり飲むか?」
「・・・うん」


2人でベンチに座ったものの。いざこうなると何を話していいのかわからん・・。
誘ったのはオレの方だったんだが。

な、なんだか気まずいぞ・・・

そうだ、そもそも普段はオレにケンカふっかけてばかりいるコイツの憎まれ口が
炸裂しないからおかしいんじゃないか。調子が狂っちまう。

ま、文句言われないんだったら、それにこしたことはないんだが・・

なんとなく上手い会話が見つからず、お互いコーラをすする時間が続いた。


・・・ゴクン。


赤坂が飲み干す音までが聞こえた。・・・・・喉乾いてたのかな?

「島・・・」
「!!!な、なんだよ」

いきなり話しかけられたから驚いたじゃねえか!!

「試合・・もうすぐだな・・」
「あ?・・ああ、そうだな」
「・・いつも文句ばかりたれるオマエがなんでそんな静かなんだ?」
「あんだって?」

やっと赤坂の毒舌復活か?

「なんだか調子が狂うよ」
「お、オレだって」

オレと同じこと、思ってたのか。普段こいつと2人っきりでまともな会話したこと・・
全然なかったもんな。いつも部活の誰かがいたし。

赤坂はどっちかっていうと、海老原さんと一緒にいて・・・



チクリ



うおお、なんか痛かったぞ!ここ、胸のあたりが・・・
そうだ、昨日と同じ。今日の朝とも同じ。

東野さんが、金髪男と一緒にいるとき・・金髪男の話をする時・・

いつも胸がむかついて、チクリって感じの痛みが走って・・


「島はさ。」
「・・・なんだよ」

赤坂がいきなりオレの方に向き直って、じっと見つめやがる。
よせやい緊張するじゃねえか。

「島は・・東野さんが・・好きなの?」
「・・・・・・・はあ?」

いきなりの質問で超ビックリしたじゃねえか。
っていうか、心を覗かれたのか・・とも思ったぞ!

「な、なんだよいきなり。おまえだって・・」
「僕だって、東野さんのことは尊敬してるよ。あくまでも・・・尊敬。
でも、島は・・」
「お、オレがなんだってんだよ・・」



だって東野さんは男だし!

いや、男とかそういうの抜きにしたって。

東野さんには、あの金髪男が・・

・・いや、違う!

そういうんじゃなくって・・!



な、何をいきなり言い出すんだよコイツは

激しく困惑気味のオレを見て赤坂が一言。



「お子様の島には馬鹿な質問だったか。

・・・ごめん、今の忘れてくれ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!




今、かなりどっかーんときたぞ!
お子様ってなんだ!!

そもそもてめーだってオレと変わらずお子様だろーが!!

「なんだと?てめーには言われたくねえ!」
「島は中身がお子様なんだ!外見だって充分ガキだけどな!」
「むっかーーーーーー!!それこそてめーには言われたくねえ!
オレよりちっせーくせに!」
「身長なんか関係ないだろ!」
「てめーとは一度きっちりケリをつけにゃあいけねえと思ってたんだ!」

・・・結局ケンカになってしまった。




後で気付いたことなんだけど。
オレ、怒り狂ってて頭ぶっとび過ぎてて、そん時は気付かなかったんだけど。


赤坂って、普段はオレに憎まれ口は叩くけど、こんなに声を荒げてケンカしたこと・・
なかったんだ。


それほど、赤坂も必死だったわけで・・


オレはそんなことも気付かず。




・・・・・とんでもねえことを、これからしちまうのだ。




「もう勘弁ならねえ!!赤坂、歯あ食いしばれ!!」
「なんだよ、殴ろうってのか?やれよ!」

赤坂が目を瞑って歯を食いしばった。
よーし、覚悟しろよ!

オレは赤坂の胸ぐらを掴む。

赤坂も更に体を強ばらせた。

オレは一気に赤坂を引っ張って、そして。





・・・思いっきり、赤坂に・・・キス、した。





オレも逆上してたし、赤坂は赤坂で何が起きたか一瞬わからなかったようなので
お互いの口をくっつけたまま(それをキスという)結構長い間その状態でいたと
思う。

もう少し息が続いたなら、いっそ舌まで入れてやろうかと思ったのだが。
さすがに苦しくなったので・・


「ぷはーっ、ど、どーた赤坂!!オマエだって充分・・」


と、言いかけて、オレの時は止まった。

『キス一つで動転しやがって、おまえだって充分お子様だろ!』と
からかってやるつもりだったのに。


赤坂は、口を抑えて、真っ赤な顔をして・・・オレを見つめている。







非難するわけでもなく、怒るわけでもなく、暗闇でもわかるくらい
蒸気した頬を真っ赤にほてらせて・・

いつもうつろな目をしてるくせに、なんだこんなに開けたのかよと
驚くくらいに見開いた瞳をうるませて・・




す、すんげー胸が高鳴った。


お、オレ・・・



お互い時が止まったまま、どれくらいベンチにいただろう・・・





・・・ファーストキスはコーラの味でした。






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「島ちゃーん、また思い出し恥ずかし?なんだか昨日よりパワーアップしてるけど」
「う、うるさい!」

またしても朝練時。オレはケーイチに見守られる中、昨日より倍の力で頭をつかんで
ジタバタしていた。

き、昨日は心臓がうるさくて、く、口の感触が消えなくって・・全然眠れなかったんだ!

なのに今。眠いどころか、オレの目の冴えっぷりを見てくれよもう!

「島ちゃんしっかりしてー」
「もうほっといてくれ!」
「駄目だよ島ちゃん!今ここで僕がいなくなって島ちゃんを独りにしてしまったら、
島ちゃんは独り言を呟きながら、妖しい動きで暴れまくる変な人扱いを受けてしまう!
・・・友達として、それは嫌だよ!!」
「・・・ケーイチ・・!そこまでオレのことを・・!」
「島ちゃん・・」
「ケーイチ!!」

・・・とケーイチの友情に感動して、お互い漫画のネタのように抱き合った。
(当然ギャグだ)

さて、こんなことしてる間にも、オレを悩ませる元凶が少しずつ近づいてきている。

さすがに今日は・・あいつもいつも通りには行かないかもしれない・・

ど、どうしよう・・

どういう風に言えば・・



「うわーーーーーーー!!やっぱオレ旅に出る!」
「わー島ちゃん、ここから飛び降りたって行ける場所は雲の上だけだよ!!」



雲の上でもいい。

とにかくオレに、考える時間をくれるのならば・・・






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