あと一歩だけ
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「ひゃー、今日も練習疲れたぜー」
「でもご飯がおいしく食べれるよね、これだけおなか空いてれば」
「まーな!!」


練習を終えた島と三上が制服に着替え、校門までさしかかった時。
いつもマイペース・無表情な赤坂が珍しく急ぎ足で、袋を小脇に抱え
走りながら二人を追い越した。

「・・赤坂?どうしたんだ、そんな急いで。海老原さんと帰るんじゃないのか?」

島に呼び止められ、くるりと振りかえる赤坂。

「・・・これ、東野さんの忘れ物・・・」

そういって脇に抱えていた袋を指差した。

「もうかなり先に行っちゃってるんじゃないかな?東野さん、なんだか急いでた
みたいだし」
「まだ走りゃあ追いつくんじゃねえか?」
「・・・・・・・」
「・・・・この練習の後、また走るの・・やだね・・・」

黙った赤坂とぽつりと呟いた三上を見かねて、言い出した島が結局
請け負うことになる。

「しょうがねえな、これ本当に東野サンの忘れ物なんだろうな?
部室に置いとくつもりの物なんじゃねえのか?」
「・・それはないと思う。練習前に、この袋の中に辞書が入ってるって
東野さん言ってた・・今日、それ使って宿題やんなきゃいけないって・・」
「!!辞書がはいってんのか!!どうりで重いと思ったぜ!」

文句をいいながらも赤坂から袋を受け取った島は、暁の去った方向に向かって
走り出した。

「ケーイチ、先帰ってていいぜ!ったくこっちじゃ俺んちと逆方向なんだよなー」

そう叫ぶ島の声が少し嬉しそうだったのは気のせいだろうか。

「・・・・・・」
「・・・・島ちゃん、なんだかんだいって嬉しいんだよ、きっと。」
「・・・・うん」
「島ちゃん、東野さんに懐いてるもんね」

三上ののんびりとした口調に頷いた赤坂は、島が去った方向をじっと見つめていた。

「・・・・やっぱ僕も行く」
「え?」
「どっちみち、家の方向こっちなんだ・・・それじゃ」
「あ、うん」

置いてけぼりになった三上は、後から来た海老原に声をかけられ
一緒に帰ることとなった。
(これまた無口でマイペースな海老原とどう話していいか、悩むことになる)







「・・・・島?なんでそんなところに突っ立てるんだ?」

先に行ったはずの島が、角を曲がったところで呆然と立ち尽くしている。
不思議に思った赤坂が島の目線を追ってみると。


ずっと前方に、仲良くよりそう2人組みがいるではないか。


「・・・・あれって・・・」

島は返事をしない。赤坂も、島の反応を見た時からなんとなく予感はしていたので
あえてそれ以上は言わなかった。



前方を歩いているのは。

暁・・・これは問題はない。問題は隣にいるBチームの少年の方だ。
前に島達が二年の教室を尋ねた時に、変な因縁をつけてきた金髪の先輩である。


その二人が、手をつないで歩いてるのだ。


「・・・島、届けなきゃ・・」
「・・・ああ・・・」

反応が薄い島にかわって、珍しく赤坂が大声で暁を呼ぶ。

「東野さーん・・東野さん!!」

赤坂の声に気付いた二人が、急いで手を振りほどいた。「二人」というよりは
金髪の方が積極的に振りほどいたようだが。

「あれ?赤坂くん・・と島くん!!」

相変わらずの笑顔を以って、暁がこちらへ振りかえる。そしてやっと気付いたのか
島の手にある袋を指差した。

「あああああ!!ごめん、僕忘れてた!!!ありがとう持ってきてくれたんだね」
「なんだよ、それ」

良い雰囲気のところを邪魔されて苛立っているのか、金髪の少年がぶっきらぼうに
尋ねてくる。

「辞書とか、教科書とか、勉強道具一式!明日提出の宿題あったでしょ?」
「・・・・宿題?うわっ!!オレも忘れてた!暁見せてくれ!!」
「どっちみちキヨちゃんと一緒にやる気でいたもん」

嬉しそうに袋を受け取る暁。赤坂は笑顔(本人はそのつもりだが実際は無表情)で
応対したが、いつもうるさいほど元気な島が何故か静かなのを不思議に思った暁が
声をかける。

「島くん?島くんも、ありがとね!」
「・・・いや・・」


手をぶんぶんと振りながら去っていく暁達。しつこく手をふる暁に、彼のピコピコ
動く触覚を引っ張る金髪の少年の姿が見える。


その場に残された島と赤坂は、無言のまましばらく立ち尽くしていた。

「・・・島、帰ろうよ・・」
「・・・・・」

赤坂が島の腕をひっぱった時、やっと島が口を開いた。

「・・・あの二人、手つないでたな・・」
「・・・うん」
「・・・男同士なのに」

憎しみがこもっているのか、怒っているのか・・唸るような、島の声。

違う、憎しみなんかじゃない。

島は嫉妬しているのだ。

大好きな暁の手を握っていた、あの金髪の先輩に。


赤坂はあえてそこに触れず、返事をする。

「あの二人・・幼なじみみたいだよ?」
「幼なじみだからって、中2になった男同士が手をつなぐかよ。
・・・それに、あの金髪男。私服だった・・わざわざ東野さんを迎えにきたんだよ」

島だってわかっている。何故自分がこんなにイライラしているのか。
わかっているけれどそれを口にすることは出来ない。

まだ、口に出来るほどの自覚はしてないから。




「中2だって中1だって、仲良しなら手をつなぐんだよ」

そう呟いた赤坂に驚いて、島が顔をあげる。

そこには、初めてみた赤坂の優しい笑顔があった。

「・・・・赤坂」

そうして、赤坂はゆっくりと島の右手を握る。

頬を赤らめた島の手を引っ張って、赤坂は歩き出した。

「・・・帰ろう。明日も練習頑張ろうね」



島はただ、コクンと頷くことしか出来なかった。






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