バイバイ 後編
++++++++++++++++++++++++++++++++++





『まだ考えてないけど・・少なくとも、バスケ部には入る気ないよ』

なーんて兄ちゃんと会話をかわしておきながら。
オレは今、あっさりと鷹取一中バスケ部に所属していたりする。

最初は抵抗もあったものの、島先輩と意気投合したりする内に
すっかりなじんでしまった。

穂村くんもいるしな。

真がライバル視(?)してた東野先輩は思ってたタイプと全然違って
とっても可愛い人だった・・男なんだけどな・・。

そして前にちょっと聞いたことがある城戸先輩とやらは普通に
かっこよい人である。東野先輩とやたらと仲がいいけどな・・・。
真とも・・一応、仲がよかったみたい・・なんだけど?

部活内のムードも全然悪くない。むしろ居心地がいいくらいだ。

しかしこうして馴染んでくると、前の鷹取一中バスケ部の話も
小耳にはさむようになる。(特に島先輩から)

島先輩は真の本性を見事に見抜いていたので心底すごいと思った。
他に残留した先輩方も、真のことそう思ってんのかなーなんて
考えたりしたけど・・

でも、城戸先輩は時々真のフォローをする。
東野先輩は「友達」だと言う。
穂村くんは、何も変わってない。

オレは・・・「兄ちゃん」とは呼ばずに、「真」と呼ぶようになった。
(あいつを前にしてそう呼べるかは未だ疑問であるが)

真は、今はどうしてんだろうな。
あいつのことだからあっちでも上手く馴染んでいるんだろうけれど・・

・・・って、そんなことどうでもいいはずなのにッ!!


・・・結局、オレってヤツは真に縛られたままなんだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「穂村くん」
「・・・成二?先帰ったんじゃなかったのか。」
「うん、みんなには先に行ってもらった。」

体育館の戸締りをした後、鍵を職員室に返しに行くのは
いつも穂村くんの役目だった。

穂村くんはしっかりしている。頼れる部長だよな。

薄暗くなった校庭を2人で並んで歩き始める。
思えば穂村くんと2人だけで会話することなんてなかったような。

だって、いつも間には・・兄ちゃ・・真がいたから。

「オレ、まさかこうしてバスケ部に入って、穂村くんが先輩になる
日が来るとは思わなかった」
「そうか?オレはなんとなくこうなる気がしていたけどな。」

クールな穂村くんは、相変わらず落ち着いたそぶりで
そんなことをいう。

「で?何か聞きたいことがあったから、わざわざ残ってたんだろ?」

・・穂村くんにはお見通しらしい。
まあ、いつも穂村くんを待つ時はオレ1人なんかじゃなくて、部員皆で
待ってるもんなあ。なんだかんだ言って仲が良い部活だと思う。

「穂村くんは、さあ。真と・・連絡とってんの?」
「オレが?」
「うん。」
「いや、全然とってないな。おまえの方が羽深情報は豊富だろ?」
「オレ?弟でありながら全然。アイツあんまり連絡してこねえもん」

穂村くんは「あいつは結構面倒くさがるヤツだから」と笑った。

穂村くんは、真のこと・・オレ以上によく知ってると思うよ。

「・・・・・・・穂村くんも真のこと・・裏切り者って思ってたりする?」
「いきなりな質問だな。」
「うん、その・・なんとなく」
「あれだけ島と言っときながら、やっぱり兄のことが心配か」
「そ、そんなんじゃない!」

穂村くんがフッと笑ってオレをからかいやがる。
ちょっと気になっただけだって。

「あのさあ、穂村くん・・」

ずっと気になっていた、あの日のこと。
実はそれを聞きたくて、穂村くんと話せる機会を狙っていたのだ。


「真・・なんであの時、泣いてたんだ?」


穂村くんは「オレがとどめをさしたようなもんだ」って言ってたっけ。
真がオレに話してくれるはずもないし・・

ただ、オレの記憶に張り付いて離れない、真の泣き顔。
今までずっと一緒に暮らしてきたけれど、真のあんな表情を見たのは
初めてだった。

鷹取一中のバスケ部に入ってからの真は、今までの猫っかぶりとは少々違って。

イライラする度に爪をかみ、
嬉しい時は純粋な笑みをうかべ・・
思いっきり怒った時もあったっけ。

・・・・・・・・そして、涙を流していた。

ほんと時々だけど、な。
あの真が、驚くほど感情をあらわにしていたんだ・・・

「気になるか?」
「・・・うん」

「まあ、羽深本人は去ってしまったし・・今更オレが蒸し返す必要もないだろう」
「えっ・・」
「忘れろよ。羽深だってそう望んでる」

・・すんなり教えてくれるとは思ってなかったけどさ。

「泣いてたことと、鷹取一中から居なくなったことは・・少しは関係あるのかな」
「・・・・・・・さあな」

穂村くんはズルイ。
きっと全てを知っていて、自分の中だけに閉じ込めている。

「成二にとって、羽深はどんな兄だった?」
「はあ?」
「おまえ、前に言ってたよな。打算的で狡猾で外面が人一倍よくて・・
みんな、真の本当の顔に気付いてないって」
「うん、まあ。」

穂村くん、よく覚えているなあ。

「本当の顔って?」
「・・・え?」
「羽深の本当の顔ってどんな感じだ?」

まさか、そんな質問をされるとは。
穂村くんは、どんな答えを期待しているのだろう。

「だから、打算的で狡猾で・・」
「それは聞いた」

真の本当の顔。
いつもえらそうで、オレを足蹴にして。

でも

あいつ、本当は・・

「弱い・・・」

そう、あいつの心は意外に繊細だ。
いつも強気で、余裕そうな表情をしているくせに・・

穂村くんにはいつも弱い自分も見せていたんだろうな、真。
・・・オレには全然見せなかったけれど、でもなんとなくわかる。

「弱い、か・・・」

穂村くんは口元を綻ばせる。

「ほんと、弱いやつだった。」

うわ、ハッキリ言うなあ穂村くん。

「・・・情けなかった?」

オレが恐る恐る聞き返すと、穂村くんは意外そうに視線をこっちに向ける。

「まさか。
オレは羽深の弱いところが・・好きだったよ」

・・・・・・・・・・・・・え!?

「ほ、穂村くん?」
「成二、おまえは強いよ。
・・・羽深はおまえに救われてる面も大分あった」
「オレに?」

オレなんて、全然相手にされてなかった。
むしろオレなんかより・・・

「穂村くんの方が、よっぽど頼りにされてた。」

真は穂村くんだけは扱いが違ったよ。

「それも昔の話だ。
羽深にとって、オレはもう必要ないらしいからな」

「え、それはどういう・・」
「そういう意味だ」

穂村くんは黙ってしまった。

必要ないって・・なんでだよ。
真はいっつも穂村くんの話ばっかりしてた。

家が金持ちとか、
性格わるいーとか。

あいつ根性曲がってるから人をあまり誉めることはしないけれど、
穂村くんのことは・・やっぱり信頼してたと思う。
会話の節々でそう感じとれたもんな。


「バイバイ・・だって。」


穂村くんがそっと呟いた。

「え?」
「最後に会った時、そう言われたんだ」

さようならって。

なんで真・・

ただの挨拶じゃなくて?
・・・バイバイ?


「成二」
「わっ」
「ほら、おまえはこっちだろ?」

気付かないうちに、もう別れ道まで来てしまっている。
穂村くんは相変わらず優しい笑みを浮かべたままだった。

「じゃあな」
「ほ、穂村くんっ」

穂村くんはオレの呼びかけに反応し、首を少しだけ後ろに向ける。

「また、また・・明日なっ」
「・・・ああ」

「またねっ」

穂村くんは、動きを止めてオレの方をじっと見つめる。

・・ん?どうしたんだ?

「今度はバイバイ、じゃないんだな」
「・・・・」

一瞬目を伏せると、それだけ呟く穂村くん。
そして独り、歩いて行ってしまう。


前にもこんな光景があった。
オレは去っていく穂村くんの後姿を、ただ眺めているだけ・・

またしても、そこにはオレが立ち入れない空間ができていた。






+++++++++++++++++++++++++++++++++





うーん、中途半端に始まって中途半端に終わって
しまいました。なんだか成二×穂村な気もしてきました。
(節操なきサイト故に)
文章が思いっきり変な部分は、成二一人称だからということで
彼の日記のような感覚でお読み頂ければ幸いです。

内容的にも大分謎な部分が多かっただろうと思います。
羽深がなんで泣いてたの、とか穂村と羽深は一体どういう
関係なんだろう、とか。

書いてる自分も謎なのです・・・!!

あ、そこ物を投げないで下さい!
機会がありましたらシリーズちゅうことで、裏話も書いて
いきたいと思います。穂村独白と羽深独白バージョンね。
今回は成二独白ってことで・・。(今後の原作次第では
海老原もからませたいと思ってる節操皆無なワタクシです)

こんなダラダラした話ですが読んでいただいて
どうもありがとうございました。







<<小説TOP   前編へ>>