バイバイ 前編
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「成二ー、買い物つきあって。んで荷物持ちよろしく」
「はああ?オレこれから友達と遊ぼうと思ってたのに。」
「いつも宿題見てやってんだろ?ほら行くぞ」

いっつも自分勝手な兄ちゃんに無理やりひっぱられ、今日も
奴隷のようにこき使われてしまうのか・・そもそも宿題なんでいつも
ちゃんと見てくんないじゃないかよ!こんなのもわかんないの?って
馬鹿にするだけでさ!

「兄ちゃん・・荷物重い」
「ん、じゃあそこで休んでいこ」

そこには兄ちゃんの大好きなクレープの屋台があった。
兄ちゃんはそこのおっさんと楽しげに会話しつつ、勝手にオレの分も
みつくろってクレープを2つ購入してきた。
兄ちゃんは外面はホントいいからなあ・・、クレープ屋のおっさんが
少々まけてくれたらしい。

「あそこのベンチで食べよ」
「うん」

渡されたクレープを食べてみると、オレの好みの味だったりして・・
そういう所はやっぱり兄弟だけあって熟知してるんだなあと思った。

「はあ、疲れた。」
「疲れたって、兄ちゃんは荷物全然持ってないじゃないか」
「歩きまわって疲れたんだよ」
「体力ないから・・」

思いっきり兄ちゃんにはたかれた。

「おまえのでかい図体を役立てる時なんて、これくらいしかないだろ!
ほら、もう帰るぞ」

オレら兄弟は、弟であるオレの方がはるかに身長が高い。
いつもえらそうな兄ちゃんに唯一勝てる点はこれくらいのもんだけれど、
オレは自分の成長の良さに心底感謝している。


家に帰ってからの兄ちゃんは、休む間もなくジョギングへ行ってしまった。
部活後でもそれが兄ちゃんの日課。
時にはオレもついてったりしているのだ。

前はこんなに真面目だったけ?兄ちゃん・・
いつ頃からか、いつもどこか余裕を見せていた兄の表情が変わりはじめて・・

兄ちゃんが苛立ってる時に出てしまう癖、爪を噛むのが頻繁に起きるようになった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




兄ちゃんには、仲の良い友達がいる。
いや、友達はたくさんいるみたいだけれど・・
こう、その人だけは特別のようだった。

オレから見ても、かっこよい人だと思う。

・・と話題にした矢先に、早速その人が尋ねてきた。

「はーい・・いらっしゃい穂村くん」
「久しぶりだな、成二。羽深いるか?」
「そろそろジョギングから帰ってくると思うんだけれど・・」
「今日はおまえ、ついていかなかったのか?」
「うん。兄ちゃんオレと並ぶと、上から見下ろすなってうるさいし」
「おまえの方が背が高いのに、それは無理な相談だな・・」
穂村くんがおもしろい兄弟だと笑う。他人事だと思って!

あ、帰ってきた。

「・・穂村?」
「よう羽深」
「お帰り」

爽やか(?)に汗をかいてるらしい。いつもなら即行シャワーをあびにいく
ところなんだろうが。

「なんか用?」
「城戸じゃなくて悪かったな」
「馬鹿いってんじゃないよ」

・・・・城戸?
誰だソイツ。兄ちゃんの新しいお気に入りの人?

・・・なんだか珍しい。

「ま、入れよ。成二なんか出してやって」
「うん」

「僕はシャワー浴びてくる」

兄ちゃんはそのままいなくなってしまった。
穂村くんを兄ちゃんの部屋に通して適当に飲み物を出してしまえば
オレは用ナシなので、自分の部屋に戻ることにした。

穂村くんと兄ちゃん、よく部屋にこもることあるけど・・
何やってんのかな。ゲーム?・・するような感じでもないよな・・

穂村くんちはすんごい金持ちで広いらしいんで、ならばそっちで
会えばいいのになあなんて思ったりもした。

ま、こんな日もよくあることだから、オレにとっちゃどうでも
いいんだけど・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ある日、オレが学校から帰ってきて一息ついた後、友達と遊ぼうと思って
外に出た時。

バタバタと勢いよく走ってきたヤツがいきなり門に飛び込んできて、
オレと激しくぶつかった。

「い、いってえ・・・」

オレより小柄なヤツ(ほとんどの人がオレより小さいとは思うが)だったので
ふっとばされることはなかったが、むしろ相手をささえることになってしまい
仕方なく様子をうかがうと。


・・・兄ちゃんじゃん!!


ただ驚きなのは。

兄ちゃんが目尻に涙をいっぱいためていたということ。

な、何があったんだよッ
いつも強気で余裕ぶった顔見せてるおまえが!

泣き顔なんて初めてみた!!

兄ちゃんが瞬きすると、涙が一筋頬をつたった。
正直ドキッとした。

兄ちゃんはオレに見られて心底嫌だったのだろう。
顔を見られまいと下を向き、いきなりオレを突き飛ばして家に入って
しまった。

母さんが何やら言ったみたいだけれど、兄ちゃんは何も言わずに
自室に飛び込んでしまったらしい。

な、なんなんだよいったい!?

オレは体当たりされた上に突き飛ばされた恨みを忘れて、頭を抱えて
その場にしゃがみこんでしまった。

だって、こんな珍しい光景・・!!

どうしらいいんだ?
これをネタに、兄ちゃんをからかえばいいのか?
そんなことしたらオレ、絶対兄ちゃんに殺される・・!!

「成二ッ・・・」
「え?」

しゃがみこんだまま見上げると、穂村くんが珍しく息を荒くして立っている。
穂村くんも走ってきたみたいだけど・・兄ちゃんを追っかけてきたのか?

「今、羽深が・・」
「帰ってきたよ」
「そうか・・」

なんだ?兄ちゃんのご乱心には穂村くんが関係してるのか?
確かに兄ちゃんをここまで動揺させることができる人物ってのは、オレが
知ってる限りでは穂村くんしかいない気がする・・

「・・出てこないとは思うけど、一応兄ちゃん呼んでみよっか・・?」
「・・いや、いいよ。ちゃんと帰ってきたか確認したかっただけだから」
「そう?」

一体何があったのか、聞いてもよいものだろうか。

「あのさ、穂村くん・・・兄ちゃんどうしたの?」
「・・・・・・・」
「兄ちゃんさ、・・・泣いてた・・みたい、なんだけど・・」
「・・・・そうか」

穂村くんは兄ちゃんの部屋の窓をゆっくり見上げる。カーテンしまってるから
中の状態が全然わからないけれど。

「すまない、な」
「え」

やっぱり、穂村くんが原因なのか?

「とどめはオレがさしたようなもんだ」
「とどめ・・?」

どういうことなんだよ、それ。

「じゃあな、成二・・・色々と悪いけど」
「あ・・・」

穂村くんはそれだけを言い残して、後ろを向いてしまった。
いいのか兄ちゃん?穂村くん行っちゃうぞ。

でも、これ以上オレが首をつっこんではいけない気がしたので、
穂村くんの後姿を眺めるくらいしかできなかったけれども。


その後予定通り友達と遊んだものの、なんだか上の空になってしまった・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「え、兄ちゃんも帝北中行くの?」
「ああ」

だって兄ちゃんもう3年じゃん!わざわざ転校すんのかよ。
せっかくオレにバスケ推薦の話がきたから心が傾いていた時に、
兄ちゃんの転校話まで湧いてでた。

ふざけんなよ!
やっと兄ちゃんの支配下から解放されるチャンスだってのに・・
また兄ちゃんと一緒のところになってしまったら、
新生活までもが兄ちゃん一色に染まってしまう・・!!

これ以上兄ちゃんと比べられるのはごめんだってのに!

「に、兄ちゃんホントに転校すんの?」
「もう、決めた」

兄ちゃんは特に動揺するでもなく、無表情で返事する。

「なんで、だって兄ちゃん鷹取一中で」
「もう、決めたんだよ」

言葉をさえぎられた。
頑固な兄ちゃんのこと・・、これ以上言っても無駄だということはわかる。

父さん母さんとも、もう話し合って決めてしまったようだ。
寮制ということもあって最初は渋っていた母さんだったけれども、
結局は許してしまったらしい。

父さん母さんは、オレはどうするか尋ねてきた。

どうするって・・
まだ、そんな深く考えていなかったけれど・・

オレは、兄ちゃんがそうする以上。
答えは一つしかない。

「オレは、鷹取一中に行く」

これ以上、兄ちゃんの後を追いたくない。
オレはオレなんだ。

羽深の弟、弟と周りから言われ続け、どんな努力をしても「羽深の弟だから」と
決め付けられ。

正直うざくてたまらなかった。


・・・でもオレ自身が兄ちゃんから離れられなかったのも、真実。

だかれこれを機に、兄ちゃんから離れたい・・そう強く決意した。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




兄ちゃんは春休みになると、鷹取一中バスケ部には行かなくなった。
皆に挨拶もしないまま、あそこを去るつもりなんだな。

それは単にめんどくさいからなのか。
それとも、少しは後ろめたさがあるのかな・・

穂村くんは?
穂村くんにも何も言ってないのか?
まさか穂村くんまで一緒に転校だったりして・・それもありえると思った。

兄ちゃんはここんところ、表情がない。
笑ったりはするけれど、上辺だけというか。

兄ちゃんは、オレには全然本心を語らない。
弟だからって、年下だからって。かなり馬鹿にしてるよな。

そんな兄ちゃんが、寮に移動する前日の夜に、こんなことを聞いてきた。

「成二」
「ん、何?」

夕飯を食べた後、自分の部屋で寝っころがりながら漫画を読んでる時に
兄ちゃんが入ってきた。

「成二は鷹取一中に入学したら・・部活、どうするんだ?」
「はあ?」

なんで今更そんなことを聞くんだよ。

「まだ考えてないけど・・少なくとも、バスケ部には入る気ないよ」

これは嫌味になってしまうだろうか。
でも、実際そうなんだから。

たとえ入りたくても・・入れるような雰囲気じゃあなさそうな・・
気がする。
そもそも真と比べられるってわかってて、バスケ部に入るはず
ないじゃん。


「そっか・・・・・・ごめん」


・・・・・・・・・・・・ええ?

兄ちゃんが謝った!?かなり語尾が小さくなってたけど、確かに謝ったぞ!?
気は確かかよ。

寝転がってたオレは思わず飛び起きて、兄ちゃんを凝視してしまう。

無表情だったはずの兄ちゃんの顔には少し影がさしている。
が、兄ちゃんはオレの返事を待たず、ドアをパタンと閉めてしまった。


ちょ、待てよ・・ッと引き止めたいところだったけれども止めたところで
何を話していいのか、よくわからない・・・

しばらく兄ちゃんが立ってた方をぼーっと眺めてしまうオレだったが。

やっぱ、兄ちゃんも多少は・・・・感情があったんだな・・・・・





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