ほんの1センチ。 1


 地図製作が思うように進まない・・・・。

 最近はそのせいでどうもイライラしがちだ。仕事が進まないのは
今に始まったことではないのだが。ここら周辺はもうそろそろ
地形のチェックも終了だし・・・と思った矢先に戦争が起きたり
して領地が変わる。その度に調べなおしたりして・・・。

 それでもってちょっと息抜きがわりに本拠地の見取り図なんか作ろう
と思った自分が馬鹿だったのだ。

 この城、仲間が増えれば増えるほど、どんどん増築してくんだもん・・。
しかもあっというまに。誰が作業してるのかわからないくらい。でも
造りは結構完璧なんだよな・・・。夜中に静かに(?)作業してんの
かなあ・・・・。

 しょうがない、もう一回りしてみるか・・・。とりあえず展望台の
望遠鏡から本拠地を一望しようと階段を上りかけた時。ふと前の事を
思い出した。




 その時も望遠鏡目的で展望台を尋ねたのだが。すでに先客がいたのだ。
少年二人のバカップルが。忍者のサスケと元竜騎士のフッチだ。
二人とも一応戦闘員なんだから僕の気配に気付いたっていいだろうに、
お互いのことしか眼中にはいらないのだろう、楽しそうに寄り添いながら
会話している。

 しょうがない、また後で来ようと背中を向けた時。フッチの
驚きの声が小さく聞こえたので、僕は隠れて入り口の方から顔だけ出して
様子を伺うと、サスケがフッチを抱き寄せてキスをしていた。

あ〜、おあついねえ・・・・・・・・。

一瞬でも心配して損したと僕は静かに階段を降りていった。

・・・・それにしても、サスケも随分大胆になったもんだ。
前はフッチがサスケが何もしてくれないと嘆いていたことが
あったくらいなのに。(何故僕がそのことをしっているかというと、
フッチからちょっとした相談にのったことがあったからなのだ。)

 そうだよなあ、結構最近までは・・・・

・・・・あ!!!!もしかして・・・・そうか!!!
ある想像が僕の中で答えを導き出した。サスケがそうなったのは・・・。





 これが数日前の出来事。今日もあのバカップルがいるのかなあ・・・。
見渡してみると、お、違った。片割れしかいない。どうしたのかな?

「お〜いフッチ、一人でいるなんて珍しいじゃん!」
「あれ?テンプルトン!!・・・・・・・・僕たちだっていつも一緒な
ワケじゃ・・・・。修行内容が違うときだってあるんだし・・・」
「てれるなてれるな。ホントは一緒にいたいくせに。」

僕がからかうようにフッチの顔を覗き込んでニヤリと笑うと、

「・・・っ・・テ、テンプルトンは望遠鏡目当て?」
フッチはなんとか話をそらそうとしているらしい。

「そう。前来た時先客がいてさ、遠慮したから。今日はゆっくりね。」
「・・・・・・・先客って・・・・・」
「そう、君たち。」
 少し僕は意地悪かもしれない。フッチは話の転換に失敗し、更に追い討ちを
かけられて真っ赤になる。まあ、こういう所がサスケもたまんないんだろうなあ。

「かわいいなあ、フッチは。」
「なっ・・・・君に言われたくないやい!!」
「サスケに言われた時は素直に喜ぶくせに。」
「・・・サスケと、僕は・・・そりゃあこういう関係だし。
でも他の人に言われるのはなんかイヤなの!!」
「子供扱いされてる気がして?」
「・・・・・・・・!!テンプルトンはつっこみ厳しいよ・・・・。」
フッチはあきらめたかのように溜息をつく。

「そうだねえ、3年前に比べりゃあ僕も君も身長のびたよね。でも僕たちの年齢じゃ
まだまだ子供だもん。もうちょっと少年時代を満喫しようよ。」
「そりゃあ、ね・・・・」

 フッチは少し寂しそうに笑った。3年前とは性格も変わってしまったフッチ。
(表面的には)僕も3年前にフッチに起きた事件は知っているから、あまり
昔の事を話すのはやめることにした。フッチは幼かった自分の行動を今も
悔んでいる。それでフッチは自分の騎竜を失ってしまったわけだから。
まあ、僕的にはフッチがしたことは間違ってなかったと思うけどね。

「あ、そうそう、フッチ良かったじゃん。最近の君達バカップルの
コミニュケーションの多さといったら。君の望んでいたとおりになっただろ。」
「・・・・!!」
 更に赤くなるフッチ。あんな相談を僕にしてきたってことはフッチも相当
好きもんだろうに(ようするにエッチってこと)、いざ言われると照れちゃうんだから。

「・・・確かにそうだけど、・・・・なんでこうなったんだと思う?・・その」
「・・・え?」

 思わず馬鹿面してききかえしてしまったではないか。
フッチ、サスケがそうなったきっかけに気付いてない・・・?
あのオクテ忍者が積極的になった理由っつうたら、あんた・・・。

「フッチ気付いてないの?」
「え!?テンプルトン、なんか知ってるの?」
フッチがずずいと僕に顔を寄せる。真剣な表情だ。本当にわかってないらしい。

「・・・・サスケもかわいそうに。というか複雑な男心を分かってやれよ・・・。」
「・・・僕だって男、だもん・・・。そりゃあサスケ相手にはちょっと違うけど・・」
フッチが少し拗ねたように俯いた。

「最近さあ、身体測定やったよねえ、ホウアン先生の所でさ。」
僕は溜息をつきながらフッチにヒントをやる。

「え?・・・うん、やった。僕特に異常なしだったよ。」

 そりゃあみればわかるよ。すごい健康そうだもん。ちなみに僕も異常なし。地図職人
ってのはとにかく体力が必要だからねえ。時にはモンスターだって片手で倒すよ。
・・・じゃなくって。

「そんときさあ、サスケすっごく喜んでなかった??」

今度は僕がずずいとフッチの顔を覗き込む。フッチは少し困ったように、
「え・・・あ、そういやあそうだった。
サスケがとうとう僕の身長追い越しちゃってさ!!そりゃあ1センチくらいだけど。
サスケの喜びようみてたらなんかすっごい悔しくて。だから、
次回は絶対勝つって・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・あれ?」


 やっと気付いたらしい。ニブイ奴だ。

「・・・もしかして、それが・・・・原因・・・?」
フッチが僕におずおずときいてくる。
「それ以外考えられないだろぉー・・・。」
僕は呆れ顔で答えてやる。その時のフッチの反応といったら・・・。

顔を赤らめて、それを両手で押さえながら、

「・・・サスケって・・・かわいい・・・・・・。」


 
 僕は思いっきり脱力した。(そしてずっこけそうになった。)
「・・・そう、良かったね・・・・。」
「ああ〜vvvvvもう、かわいすぎる〜!!サスケにいったら怒られる
けど、ああ、ホントかわいい!!」

サスケにちょっと同情。年上の恋人をもつと結構大変かもねえ・・。
「そうそう、かわいいねえ。だから君はもうサスケを追い越さないように
してやんないとね・・・。」
「うん〜。年上としてちょっと悔しいけれど、サスケの男心を汲むことにする・・」
フッチは嬉しそうにそう答えた。

 まあ、ようするにサスケは好きな子よりは身長が高くないとカッコ悪い、と思って
いたようで。でもこれでもう安心。今まで我慢してきたことも全部解き放って
堂々とフッチに触る(あ、なんかお下品)ようになったわけだ。

 そんな会話を続けながら、ちょっと呆れ顔で望遠鏡を覗き込んだ、その時。

・・・・・・・まずいものをみてしまった。

 その、偶然望遠鏡の焦点が道場の方を向いていたわけなのだが・・・・。
道場脇の所で、今話題の人物になっていた少年忍者が女の子と
密会している・・・・・・・・。

 これは・・・その、告白シーン・・・・・・?サスケはまんざらでも
なさそうな・・・・。まあ、女の子からの告白、だろうけどさあ・・・

 しまった、僕がいつまでも沈黙でいるとフッチに怪しまれる。修羅場に巻き込まれる
のはゴメンだ!!!!
 しかしフッチはこういう時は勘が良いらしい。
「どうしたの?なんかおもしろいものでも見えた?またシーナがナンパでもして
失敗しているの?」
フッチがこちらに興味をむけてしまった。ヤバイ!!!!

「イヤ、特には・・・ハイヨーさんがフライパンもってスタリオンがつまみ食い
したのをおっかけまわして、あのスピードに見事おいつき、今フライパンにて
正義の鉄拳を食らわしている所だったよ・・・。あ、スタリオンが弟子入り
させてくれって頼み込んでいるみたい・・・」
「へえ、そりゃあすごい。・・・・・・・・僕もみして〜。おもしろそう!!」
ああ、とんでもない言い訳をしてしまった!!!(ホントだよ、全く)
力は僕より上なフッチにより見事押しのけられて、フッチは望遠鏡をのぞいてしまう。

・・・・・・・・すまない、サスケ・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」


フッチの動きがピタリと止まる。そして見えはしないが、フッチの体から怒りの
オーラが・・・・・・・・!!!間違いなく、これは怒っている・・・・!!
それはもう頂点的に!!
「あ・・・・あの?フ、フッチさん?」
僕が恐る恐るきくと、
「なあに?」
怒りの四つ角を顔に浮かべたフッチが恐ろしい程の微笑を浮かべこちらに振向く。

「・・僕、用事ができちゃった。テンプルトン、またね・・・。」
オーラを背中にしょったまま、フッチがどしどしと怒りをこめた足取りで階段を
降りていった。

やばい・・・・・・・・・、が、ま、いいか。サスケが悪いんだし。
(開き直り)もちろん申し訳ない気持ちもいっぱいだが。

 ちょうどその時、チャコがすれ違いで展望台に入ってきた。
「どうしたんだ、フッチ?顔は笑ってたけど迫力が並じゃなかったぞ。」
「・・・・これみてみ・・・」
僕は人差し指で望遠鏡を指し示す。チャコは不思議そうに覗き込むと。

「・・・・うわぉ、これはやべえ。随分とおもしろそうな展開になってる
みたいだなぁ」
「ねえ・・・・・。」
フッチがさすがに怒っているとはいえ、今のサスケ達に割り込むことはしないだろう。
だからこのまま望遠鏡を覗いてたってフッチはきっと登場しない。

 さて、今後の展開はどうなるのだろう。
とりあえず今回はここまでだな。ま、かなりの気晴らしになったけれど・・・。
サスケ、すまなかったよ・・・・。



 次の日、サスケの左頬が腫れていたのを僕は見逃さなかった・・・。