OEK第128回定期公演

プッチーニ 歌劇 「トスカ」(演奏会形式)

2002 10.4(金)@県音楽堂コンサートホール

(サイン   指揮 ルドルフ・ヴェルテン)
マエストロ  ルドルフ・ヴェルテン

ソリスト  左から

トスカ           ラウラ・ニコレスク
(本物の方が美しく見える・・・本当)

カヴァラドッシ    ニコラス・エッターマン
(マッチョな画家・・・連行する方が引っ張られている?)

スカルピア  アレキサンダー・クリュニュフ
(一見誠実な公務員風→みごとな悪役)


クリュニュフ氏とエッターマン氏 

「現場は混乱していた」・・・

これは佐々木倫子作「動物のお医者さん」11巻101話のト書き。
主人公ハムテルの母(オペラ歌手)が、地元で「トスカ」の公演で主役を歌うお話。

「トスカ」は、数年前に地元出身の濱 真奈美さんがコンサート形式(ピアノ伴奏)で既に公演を行って
いるが、地元合唱出演者の間でこの本が回し読みされていたらしい。
この数ページで「トスカ」のお話が実にお手軽にわかるのだ。
(それだけでない、ワナが仕掛けられている・・・笑)

佐々木倫子センセは、ひょっとしてかなりのオペラ通なんだろうか。
参考文献だけでは書けないような‘傑作’、という事を、実際「トスカ」に参加してしみじみ思った次第。



「トスカ」は音楽堂コンサートホールで2度目のオペラ。

昨年の「カルメン」は、主要人物以外はすべて舞台貼り付けの‘合唱隊’であり、
通常かげうた(そとで歌う)でさえ舞台に並んで歌ったものだ。
が、今回は合唱団には動きが入り、一部の役付きの方にはどっさりと負担が、
全体にはそこそこに負担が・・・。


合唱指揮の香田 裕泰氏との最初のころの練習で、
「十分に予算が足りない時にする公演は‘トスカ’」、などと先生がおっしゃっていた。
主要人物が少なく、必要最小限の舞台装置で出来るという事で。
(「椿姫」も、その最たるものだろう。)
オペラはまともに取り組むと、とんでもなくお金を食う。
事務局はとにかくギリギリの予算で十分楽しめるオペラを目指したようだ。


主役の3人は、特に名前が知れ渡ってる方々ではないが、
ヨーロッパのオペラ劇場で活躍しており、いずれも実力派ぞろい。
昨年の「カルメン」のエスカミューリョ役といい、
事務局は実に低予算ですばらしい歌手を招聘してくる。
特に、ラウラ・ニコレスクさんの‘リリコ・スピント(力強く鋭く響かせる声)’は、みごとにコンサートホール
に響き渡り、聴衆を魅了した。前日までかぜで調子悪かったにもかかわらず・・・やっぱプロだ。

ソロのある堂守とアンジェロッティは大塚博章氏,香田裕泰氏。
が、いっぱいいっぱい出番のある重要なスポレッタやシャルローネは合唱団員。
力のある方達ではあるが、歌だけでなく(これだって全部イタリア語だ、暗譜だ!)
相当の演技をも要求されるのは、あまりにも負担が大きかったと思う。



今回は設定は「現代」という事で、衣装も我々合唱団は普段着のまんま。
教会に集まる民衆という事で、さすがにジーンズはダメだったが。
舞踏会シーンに登場のために苦心惨憺した「椿姫」を思うと感慨深い・・・(笑)。
さすがに兵士の役になる男声の方々は、レンタルされてきた軍服。
何かの映画かドラマかに使われたのか、すごく油臭かったという話だ。
‘司祭様’は、なんと事務局の方!
白髪まじりのおヒゲの方なので、それらしい衣装を着ると、本物をつれてきたかのようにハマリ役だった。

‘カヴァラドッシ’が連行されてくる場面、通し稽古では後ろ手に縄だったが、本番前に手錠になった等、
いろいろ工夫はあったが、もっと積極的に『現代』に置き換えてもいいのでは、とも思う。
デカプリオの主演した映画「ロミオとジュリエット」みたいに。
コンサート形式,定期公演であることにこだわらず、オケをピットに入れ、
必要最低限のセットだけ(いや、幕を張るだけでもいいんじゃないか)で舞台を全部使う、
でもよかったと思う。

合唱団は御堂に三々五々集まってくる民衆だが、エンジェルコーラスとシニアとをファミリー単位にし、
(女声が圧倒的に多いので、まるで一夫多妻な取り合わせだが)
家族の和気藹々とした雰囲気に、との演出。
だが、合唱団の立つ段はやたらせまく、演技どころでない。
「椿姫」の時のような演出からの演技指導は、ほとんど無かったようなもの。
お祈りの言葉から歌への間はいったいどうしていればいいんだか、戸惑うばかりだったし。
(指揮者からは、マリア像への拝み方に指導が入った。カトリックでは指は組まないのだとか。)
工夫しなさい、と言われましても・・・だった。
演技なしで暗闇のなかを舞台に立ち、歌う時に照明が当たる、なんてのも良かったのではないか。
・・・とかなんとか言いながら、少ない出番で目立ちたいと、
わざわざ目立つようにマリア様にお祈りに行った私って・・。



オペラの練習は待ち時間がホントに長い。
離れた部屋で出番を待つにも、タイミングがわからず不安が募るばかり。
通し稽古で出番が終わっても、全体が終わってダメ出しがあるまで待たなくてはならない。
(役付きの方はそれ以上・・・)
よけいなストレスがたまった練習だったが、客席からたっぷりリハを観たので、良しとしよう。
本番も2幕後半から3階席から観たことだし。
みごとな本番!
お客さんの拍手は、客席が明るくなっても続いていた。

ところで、‘スカルピア’はトスカが「歌に生き愛に生き」を歌うシーンで、
リハーサルでは憎らしくもホントに何か食べていたが、本番ではどうだったんだろう?
私の座った席からは見えなかったのだ・・・どなたか教えて〜!


   ・・・・と、書きましたら、掲示板で
    「確かに何か食べていた」というお返事が。
   ‘スカルピア’クリュニュフ、おそるべし?!



動物のお医者さん101話 おしまい

「現場は混乱しています」・・・


これは2日前の通し稽古で、副指揮の諸遊 耕史氏がホントに言った言葉。
聞いた時、「動物のお医者さん」を思い出して、笑いそうになったのを必死でこらえた。
プリマドンナは風邪を引いている、小道具は差し替えられる、連絡がうまく繋がらない・・。
舞台裏はこんなものである。

ところで、「動物のお医者さん」では、あまりにも予算をケチったため、
H大獣医学部の学生‘兵士達’はリハーサルにも参加出来なかったらしい。
「主役と一緒に退場すればいいのさ!!」と演出に言われた彼らは、
トスカの後を追って、城壁から次々と飛び降りるのだ。

先にマンガの方を読んでしまった合唱団員は、「トスカ」のDVDを観て、
マジで「何でトスカの後に飛び降りないの?!」と思ったそうである。


動物のお医者さん101話 城壁からダイビングシーン
白泉社 花とゆめコミックス
「動物のお医者さん」第11巻