学校紹介
地球大学について

 第26回ピースボート「北回り世界一周の船旅」に洋上地球大学が開校した。この地球大学は、船上で行われる講座と現地の訪問をリンクした平和教育プログラムであり、国連ユネスコの公式プログラムとして認定された。卒業要件を満たすには、船内講座や語学講座への出席、現地検証ツアーへの参加、ゼミのレポート提出が義務づけられている。

 具体的には、
1. 船内講座:航海中に、訪問国が抱える問題や平和活動について、水先案内人や現地のNGO活動家が講義する。この講座は地球大学の学生のみを対象にしているわけではないが、学生はこの中から50講座以上を聴講しなければならない。
乗船している一般の人の中には、戦争や殺戮の話ばかり聞かされて楽しくないと言う人もいるが、中東、旧ユーゴ、中米などにおける緊迫した世界情勢について教えられるところが多い。また、ゲストとして乗船しているインド人とパキスタン人、ユダヤ人とパレスチナ人など、紛争当事国の人どうしが会話を交わす姿は、ピースボートという特殊な環境以外では決して見ることのできない光景であろう。

2. 語学講座:毎朝行われる英語、スペイン語、ロシア語などの語学講座に、60%以上出席することが卒業の要件である。国内の語学学校なら、高額の授業料を支払わなければならないが、ネイティブスピーカーから無料でレッスンを受けることができる。

3. 現地ツアー:寄港地では、観光、見聞、検証、交流のための各種オプショナルツアーがピースボートにより用意されている。この中から現地との交流や検証を対象にしたツアーを5コース以上選んで参加することになっている。
恵まれない人たちを支援している現地のNGOや学生が、ピースボートの活動に賛同してこうしたコースをアレンジしてくれている。それだけに現地住民からも歓迎され、和やかな国際交流が実現する。商業ベースでは絶対真似のできないピースボートならではの企画といえよう。

4. ゼミ:水先案内人の講座のうち、特定の分野(ナショナリズム、中東問題、国連、地球環境、持続可能な社会など)について4テーマを選択しレポートを作成する。関連の講義を聴くのはもちろんだが、船内図書館を利用するなどして、そのテーマについて研究することが必要になる。提出したレポートは、水先案内人のコメントを添えて返却される。

 筆者の場合を例にとると、日本到着までに半月を残した時点でゼミが1テーマ残っており、その他の卒業要件は全部クリアーできた。最終課題として、20枚以上の修了論文を作成して発表するか、または数名のグループで共同研究を行い公開討論会を開催しなければならない。筆者の場合は、男性2名、女性1名、特別参加アドバイザー2名が組んでパネルを構成し、「日本の安全保障を考える」という難問に挑戦している。

 これだけ多方面にわたる講座に出席し、レポートを書くだけで一日がすぐ過ぎてしまう。ゆっくり読書に専念しようという当初の思惑は計画だおれに終わってしまった。シネマ・ルームで上映される映画も鑑賞したいが、とても全部見るわけには行かない。地球大学を卒業することがこの旅の目的ではない。卒業したからといって、何かの資格が得られるわけではないし、社会的な評価が上がることもないであろう。では何故卒業にこだわるのか、自問自答してみた。

 地球大学に入学してみて、「世界の平和」「地球の未来」について学習することの意義がなんとなく分かるような気がした。平和な日本に暮らしていると、こういった漠然としたテーマについてふだん真剣に考える機会が少なかったことを反省させられた。ピースボートの講座や寄港地でのツアーは、「世界の平和」「地球の未来」を考える上で貴重な情報を提供してくれる。卒業という目標をおくと、自分の中で学習の成果が目に見えるようになった気がして、張り合いも増した。

 こうした素晴らしい面がある反面、ピースボートで見聞しただけで正確な情報が得られると期待するのは危険である。水先案内人の顔ぶれを見ても、ほとんどが各国の平和運動家であり、現実の社会、政治を動かしている側の人は見当たらない。したがって船上で得られた情報のみで判断すると、場合によっては一方的、偏見的な見方をしてしまう恐れさえある。
 この種の危惧を回避するためにも、これまで見過ごしがちだった国際情勢や民族、宗教などのニュースや記事に、帰国後はもっと関心を払おうと決心した。いろいろな視点から眺めた情報と、今回のツアーで得られた経験を照らし合わせ再確認することにより、知識が自分のものとして定着されるであろう。地球大学はそのきっかけを与えてくれた。


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