「船旅で世界一周ですか。何とうらやましい。でも退屈しませんかネ」
「日本近海はともかく、太平洋やインド洋はすごく揺れるそうです。船酔いに気をつけてください」
「九十日間も船上だと、食事が大変でしょう。きっと梅干しや納豆が恋しくなるでしょう」
私が、ピースボートの船で九十日間世界一周の旅に参加することが決まったときの、私の周辺の反応はだいたいこんなものだった。実は、かくいう私自身も参加を決めてから心配していたのは船内での時間の過ごしかたであり、船室や同室になる人のことであり、また食事のことだった。しかし、これらの心配はすべて徒労だった。
航海中は、毎日ゲストスピーカーによる多方面に亘る講義があり、興味のある講座に出席するだけで一日がすぐ過ぎてしまう。退屈するどころか時間が足りないほどである。シネマルームでは一日中映画が上映されているので、鑑賞したい映画も多いが割愛せざるを得ない。ゆっくり読書に専念しようという当初の計画は、計画だおれに終わってしまった。重い思いをして積み込んだ本はトランクに入ったままである。
部屋は4人部屋の2段ベッドで、ちょっと窮屈だが気になるほどではない。どんな人と同室になるのかが心配だったが、4人とも初対面から気が合った。学んだこと、思っていることを話し合って、まるで高校時代の寮生活に逆戻りしたみたいだ。心配した揺れも、インド洋で多少揺れたくらいで、かえって楽しかった。このまま平穏無事な航海が続くのはおもしろくないから、どこかで台風にでも当たっていちど船酔いをしてみたいなど冗談が飛び出すほどである。
ウクライナの船と聞き当初食事が心配だったが、これも思ったより良い。朝は、納豆に海苔、味噌汁に梅干しが食べられる。梅干しを大量に持ち込んだ人もいたようだが、その必要はなかった。昼は、スパゲッティだったり、お蕎麦だったり、日によってメニューが変わる。天気が良ければ、デッキランチというてもある。夜のディナーは、豪華とまではいかないが、ピースボート側の努力のおかげか口にあう。美人のウクライナ娘にサーブしてもらえるのだから、楽しくないはずがない。その土地土地のフルーツが出るのも楽しい。
それになんといっても、最高の楽しみは、さまざまな人生経験をもった、いろいろな年齢の人々とお知り合いになれ、貴重なお話を聞けることだ。カメラマン、絵の達人、パソコンマニア、ヨット競技の監督、お医者さん等あらゆるタイプのプロ、セミプロから教えてもらえる。講座の先生方とも四六時中一緒に生活しているのだから、個人的に直接指導してもらえる特権もある。
ともかく船旅は楽しい。こんな幸せで、贅沢な旅は人生始まって以来のことだ。ピースボートに乗るのが4回目だとか、6回目だとかいうリピーターが多数乗っておられる。私も病みつきになりそうだ。皆さんも、ぜひ機会を見つけて体験されることをお勧めしたい。