Interview Part3
●これまでの芝居、そして大事件
妹:僕が一緒にやったのは『欲望という名の電車』、『NINAGAWA・マクベス』、それから『気になるルイーズ』、それから去年の『シャドー・ランズ』
津:もう僕にとっては全部こうなんて言いますかね・・・
妹:節目ですか?
津:ええ、それに残っている作品ですね。ほんとにそうです。
妹:(笑)光栄です。光栄です。あの、『NINAGAWA・マクベス』はさ、平幹二朗さんが急病になって、あなたがピンチヒッターに立ったんだよね。
津:はい、はい。
妹:そして『NINAGAWA・マクベス』ってのは彼で完成した部分があるわけね。それでロンドンへ行ったんだよな。ロンドン公演。大変だったでしょう?
津:ええ、だから最初は言ってみれば急遽の代役ですから、全部自分の思うように動いたりできないわけですね。明かりのプランも決まっていますし、ここからここに来て、この明かりからこの明かりへ入るというポジションも全部決まってますから、全くのコピーをしたんですよ。平さんのビデオを見て、もう動きは、この台詞のときは右へ動き、ここで左へ、ここから前へと、全部コピーしました。違ったのは立ち回りだけですよ。
妹:うん、あなたのほうが激しかった。
津:激しいというか、例えば平さんが20手ぐらいですと、僕は80手ありましたから。それで國井さんていう殺陣師が「ツカさん若いんだから、大丈夫だ80手」って。
妹:(笑)だけどあの殺陣は激しかったね。
津:あれは酸素吸入器が欲しくなりましたね。終わったあと。
妹:でもすごかったじゃない、ロンドンで。ものすごい絶賛。それから東京で凱旋公演した。
津:そうですね。
妹:蜷川君は外国へ持っていくのも再演も全く同じで変えない、演出も変えない、役者は変わったけど、美術も変えないってね、頑強にあのままやったのね。そのあと、君に大事件があったんだよな。
津:ええ、忘れもしません。
妹:あなた麻雀やってたんでしょ、そのとき。
津:そうです。
妹:つまりくも膜下出血で倒れたとき。倒れたっていうのは聞いたけども、倒れ方がまたドラマチックだね。
津:ドラマチックでしょうか(笑)。
妹:こう、麻雀をやっていたんだろう?
津:ええ、たまたま。
妹:そしたら、僕はよくわからないけど、大変な大変なヤクマンだったんだね。
津:大変な、まあできないヤクマンじゃないんですけど、そう滅多にできない、ヤクマンとヤクマンが重なったダブルヤクマンという、ちょっと舌巻きますけどね、ダッブルルルヤクマンということが起きてたんですよ。
妹:それでやったという、みんながそれを見たわけでしょう?
津:ええ、そうです。
妹:そしたらスーッとひっくり返ったんでしょう? 椅子から落ちたの?
津:いえ、ズルズルズルですね。で、出したんですよ、僕の向かいの人がね。ああ、それ当たりだ。僕親だったんです。高いよって言ってひっくり返して、みんな「おお!」なんて言っているときには、僕はもうズルズルズルって。だからお芝居をしたと。
妹:君はびっくりして、大げさに芝居をしたと思われたわけだ。森塚敏さんがいたんだろう?
津:敏さんは僕のほっぺたをはたきながら、「おい、もういい加減にしろ。いつまで芝居やってんだ、これ!」っていう感じだったんです、最初は。でも僕は下でゲーゲー吐いてましたから、どうも具合が変だと。で、その辺にいたほかのお客様が「ちょっと倒れて吐いてるってのはここ(頭)かもしれないよ。すぐ救急呼んだほうがいい」っていうことになって、そこから先はもうおぼろですね。目が覚めたのが2日後ですよ。
妹:それであなたが2日後に言った言葉がさぁ、
津:(笑)
妹:これがあんまり悲劇的な感じがしないんだよな。
津:そうですね、なんか、どうも・・・
妹:ほんとなの?
津:いつもその雀荘に行くとイカ丼っていうのを頼むんですよ。イカ丼頼んで始まったんですよ。で、始まった直後に倒れちゃったんですよ。それでだから集中治療室で目を覚まして、僕は、それは、ね、腹減ってますからね。「俺のイカ丼まだか? 腹減ってしょうがない」って言って。
妹:(笑)あの、えっちゃんがいたんでしょう? えっちゃんていうのはほら、僕はえっちゃんって言ってるけど、君の上さんなんだけども、彼女はオペラ歌いで、僕が舞台をやってる、いろいろやって、カルメンでも有名なオペラ歌手なんだが、それがあなたの奥さん。
津:ええ、そうです。彼女もこんなマスクなんかして、集中治療室ですから。それで「んん?」と思ったんでしょうね、それは。「あ、この人はおかしくなっちゃった」って、あとで言ってましたから。
妹:ひょっとしたらさ、言語障害ってのはないの?
津:それは、うちの家内が一生懸命、「この人は舞台の仕事してる人だから、絶対ここ(言葉、言語中枢)にこないように」
妹:こないようにって言われても。
津:ええ、そうなんですよね。プレッシャーといいますか、あちこちからお医者さんがプレッシャーをかけられたということで。頭を開ける話も、ここ(額)から開けるほうが僕の出血場所は抽出するのに都合がいい。でもここに傷が付いたら、俳優だから、なるたけ目立たないところっていうんで、僕は側頭部ですけどね。そういうことを家内も一生懸命、「お願いしますからここにこないように、なんとか、ここにきたらこの人はもうダメになりますから」って。
妹:くも膜下出血をして倒れたっていうんでね、ええっ!?と思ったんだけど、あなたの仕事見てると、そのあいだのボサッと抜けた期間て、あんまりないんだよね。
津:ですからくも膜下やって、入院が60日で、4月に倒れて、その年の12月にはまた帝劇やってましたから。帝劇で1ヶ月昼夜やってましたから。『テンペスト』という。それも劇場と、日比谷の近くにある病院で点滴を1時間半終わったらやって、それで帝国ホテルに泊まって、あの三角状態でもって毎日やってましたね。やっぱりそれは当然体力も落ちているわけですし。
妹:でも今すごいじゃないですか? パワフルで。
津:いやいやいや。
妹:で、あの、芝居のね、僕と一緒にやった去年の『シャドー・ランズ』のもうひとつ前に、非常に印象的な舞台があるんだよな。『ゲットー』
津:ああ、『ゲットー』
妹:うん、あれはすばらしかったねぇ。
津:あれで腰痛めましたね。椎間板ヘルニアというのをやってしまって、半年間大変でした。
妹:あの傾斜が急な舞台でしたからね。
津:あれも休演するかという瀬戸際までいったんですよ。
妹:あ、そうなの?
津:ええ、初日の日にやってしまいまして。初日は1回公演でしたから、でも次の日は昼夜で、とにかく昼間だけはあれしましょうとプロデューサーが言ってくれたんですけれど、なんとかかんとかっていう注射を打って、やるだけやりましょうって。で、もしだめなら・・・
妹:あの傾斜の舞台効果っていうのは、演出家は望むんだよね。傾斜してるっていうのが客席にくるっていうんでね。だけど役者の生理で考えたら、あれはちょっと問題だね。
津:あれはちょっときつすぎる傾斜でしたね。あのスキー場のゲレンデみたいなもんですよ。前に出たらつんのめっちゃうんですから。全部、全体がそうですからね。もう登場するときに階段登って、上からドドドドッて降りてくるのが、もう大変でした。
妹:でも、あれはグランプリもらったじゃないですか。
津:ええ。
妹:それから『シャドー・ランズ』でしょう。あれも同じくひょうご舞台芸術だよね。おもしろいのやるよね。
津:そうですね。
妹:『シャドー・ランズ』のときはぐっと抑えた演技で、陽気なやつとは正反対の性格だったね、あれね。
津:ええ、やっぱり学者ですから。まあ、学者ですからってことはないんですけれど、本の書かれ方がまったく物静かで、普通のあんまりはしゃぐことのない学級のといいますかね。そこへアメリカからわりと陽気な、物事をはっきり言う、さばさばした女性が入ってきて、
妹:オックスフォードの学者には考えられないような価値観ぶつけたりね。
津:で、最終的にはああいう話になっていくということですからね。
妹:でもあれもまた、なかなかいい作品だったね。
津:ええ。だからここ何年かはほんとに作品に恵まれて、まあでもだいたいみんな大変な舞台ですから。
妹:あれもすっごく抑えて抑えてやったでしょう?
津:そうです。
妹:あなたの性格とは正反対だな。あの学者。
津:ええ。あの、河童さんと同じでBですからね。ほとんどもう、
妹:Bはひどいっていう言い方する感じ(笑)。
津:いやいや、ひどいんじゃなくて、あんまり抑えては、
妹:そう、抑えてはできない。目の前の思ったことはすぐやる。
津:解放しちゃう。
妹:いっちゃう。
津:腹に溜めないって言いますかね。
妹:でもあれ抑えて抑えてたけど、一番最初のね『欲望という名の電車』でのミッチー、あれも抑えてたけど、全然違うよね。
津:そうですね。
妹:『シャドー・ランズ』のほうがまだ論理的にわかるでしょう。
津:ええ、ええ、そうですね。あれまた再演するかどうかわかりませんけれど。
妹:『シャドー・ランズ』? ああそう。
津:ええ、そういうあれもあるんですよ。でも、あのー、装置の、あの、ね、河童さんのご子息の。あれはものすごい評判がよかったですね。ちょっと話が飛びますけど。
妹:(笑)急にきたけどね。あの、あなたたちが2人でギリシャへ旅行をするっていう場面で夕焼け雲が出てくるんですね。その雲の絵を僕の息子が描いたという話ですよね。
津:そうです、そうです。僕はあれで感動しましたのはね、雲も素敵なんですよ。ばーっと写真なのか絵なのか、とても作品に合っている雲で。でもあのときの河童さんの喜びようが、僕はね非常に好きだった。「これね、息子が描いたんだ。ちょっと見て。いいだろう!」って僕に言った。
妹:(笑)
津:それでしばらくして、また誰か来ると、「これ息子が描いたんだよ。いいだろーあの色!」
妹:(照れ笑い)まずいよそれー。
津:いや僕はそういうのがとても素敵だなぁと思って。
妹:いやあのね、注文したのは難しかったんですよ。夕焼けだ。だけどね、燃えるような夕焼けじゃないんだと。透明感がある、すごく透明で、静かーな夕焼けなんだと。そしたらね「赤くないの?」って。いやピンク色はある。下のほうはすこーしピンク。上のほうはオレンジかな。でももっと上のほうはね、まだ紫っていう感じになってない、ブルーなんだと。青い空が残ってるくせに、夕焼けになりかけてる。透明なんだって言って。
津:それ全部河童さんがサジェッションなさって。
妹:そうそう。言ってみればガラスのようなって、「ガラスのような雲?」なんて言って(笑)。
津:あれはものすごく素敵でした。
妹:それで割合とうまくできたからね。
Part4
戻る