馬琴関連覚書


八犬伝・馬琴関係で見たり読んだりしたものを記録しておきます。
これは他人のためというより、自分の物忘れ防止の意味あいが強いです。


06/08/20 八月納涼歌舞伎 南総里見八犬伝
(東銀座・歌舞伎座)
 今年の八月納涼歌舞伎の第3部が「南総里見八犬伝」と言うので、見に行った。
 配役についてはこちらを参照していただくとして、ここでは原作との違いなどを中心にあらすじを述べていきたい。

●発端
 富山(とみさん)の山麓での杣人たちの語りから始まる。三年前、里見義実と安西景連の戦があり、飼い犬の八房が安西の首を取ったこと、そして約束どおり息女の伏姫は八房に共に富山に入ったことが説明される。ここまでは原作とほぼ同じだが、その後、里見家は(原作では最初に滅ぼされたはずの)山下定包によって滅ぼされたことが語られる。つづいて富山山中の庵室に舞台が変わるが、そこで里見に恨みをもっているのは玉梓の怨霊ではなく、安西景連の怨霊である。その後、伏姫が川面に映った犬の顔に驚くのは原作とほぼ同じだが、懐胎を告げるのは童子ではなく洲崎明神の使いである仙女天香である。伏姫と八房は金碗大輔の銃弾に倒れるが、そこで飛び散った八つの玉を持つ勇者は、里見家再興の任を追っている。

●序幕
 大塚村の蟇六の家。里見家再興のために村雨丸を滸我成氏に献上するため旅立とうとする犬塚信乃は、別れを悲しむ浜路を宥めている。浜路が去った後、信乃は額蔵こと犬川荘助の勧めに従い風呂に向かうが、部屋の留守を任された荘助も呼び出されてしまう。その留守に部屋にやってきたのは主・蟇六で、自分の刀を村雨丸とすり替える。しかしそれを外から見ていた網干左母二郎は、蟇六が席を外した隙に、さらに自分の刀と村雨丸をすり替える。この村雨丸のすり替えの場面、原作とは異なるが、舞台上ではやむを得ないところであろう。その後信乃は滸我に旅立ち、悲しみに暮れる浜路は自害しようとするが、左母二郎はそれを押し留め、信乃を追いかけようと唆し、逐電する。
 場面は転回して蟇六家の表座敷。浜路を嫁に迎えようとやってきた簸上宮六主従に対し、蟇六と亀篠夫婦の慌てぶり、献上した村雨丸がなまくらであることがバレてドタバタとした追いかけあいになるのを楽しむ滑稽なパートになっている。

●二幕目
 円塚山の場。寂寞道人の火定した跡に駕篭を止めた左母二郎は、浜路をかどわかしたのは自らの妻にするためで、本物の村雨丸も自分が持っていると告げる。浜路は従うそぶりを見せながらも、刀を奪い切りかかろうとするが、逆に左母二郎によって切られてしまう。止めを刺そうとした左母二郎だが、突然燃え上がった祭壇から現れた寂寞道人こと犬山道節によって討たれる(左母二郎と道節は同じ坂東三津五郎が演じているため、早変わりになる)。村雨丸を信乃に届けて欲しいと頼んで息を引き取った浜路を弔うところに、荘助が現れ、道節と争いになる。その間に犬坂毛野、犬田小文吾、犬村角太郎、犬江親兵衛が登場し、闇の中での探りあい(だんまり)となる。もちろん、原作では道節と荘助以外の犬士は登場しないが、この後30分の幕間となるため、顔見せとしての意味合いが強い演出である。

●三幕目
 滸我成氏の館。信乃が成氏に拝謁のためにやって来る。居並ぶ重臣の中には、原作では千葉自胤の家臣である馬加大記もいる。信乃は村雨丸がすり替えられたことを申し開きするが、間者と疑われて芳流閣に逃れる。成氏は家臣の犬飼現八を呼び出し、信乃を召し取れと命じる。そして舞台は変わって、芳流閣の大屋根の場。やや傾斜のある場所で、信乃は捕り手たちとの大立廻りを演じる。そして最後に現れた現八と互いに立ち廻るうち、一気に舞台が垂直に90度回転し(がんどう返しというらしい)、行徳入江の場へと展開する。夜釣りにやってきた犬田小文吾の前に、信乃と現八を乗せた小船が流れ着き、小文吾はまず信乃を介抱し、続いて義兄弟である現八を介抱する。そしてお互いが玉を持ち、また現八の頬にある牡丹の痣と同じ痣を持っていることを知る。そこに現れた宿屋の客、ゝ大はその玉の由来を三人に説明する。そこに、小文吾の父である文吾兵衛が現れ、大塚で荘助が火あぶりにされることを告げ、犬士たちは刑場へと向かう。原作とはことなり、房八や犬江親兵衛のエピソードは省略されている。
 庚申塚の刑場では、荘助が磔柱につるし上げられている。信乃、小文吾、現八が助けに入るが、荘助は足元の薪に火を点けられてしまう。そこに現れたのは犬山道節と犬坂毛野で、道節が村雨丸を抜き放つとその威徳によって激しい雷雨となり、荘助にかけられた火は消え、荘助は無事救出される。原作では助けに入るのは十条力二郎・尺八たちだが、ここでは道節と毛野になっている。この二人がどう出会ったかの経緯は、省略されている。

●大詰
 馬加大記の館。前幕では成氏についていた大記は、ここでは山下定包に従っており、城中に定包を招いて酒宴を開いている。そこに評判の田楽一座が招かれ、女田楽・朝毛野(原作では旦開野だが、筋書にはこう書かれている)が舞を披露する。その舞に心を奪われた一同は、宴の座を対牛楼に移す。そして舞台は変わり対牛楼。朝毛野に懸想していた大記は寝室に彼女を呼び寄せるが、朝毛野は犬士の一人、犬坂毛野に転じ、父の敵として大記を討ち取る。つづいて、犬士に従う侍たちを相手に、山下定包が薙刀を振るう。そこに八人の犬士が勢ぞろいし、定包を取り囲む。定包と犬士たちは後日改めて正々堂々と戦うことを約束し、そのまま団円となる。

 脚色は渥美清太郎。昭和22年の帝国劇場での上演のために作られた台本らしい。今回は犬村大角と犬江親兵衛は勢ぞろいの際に登場するだけでエピソードはなかったが、上演記録を見ると過去には庚申山や古那屋の場面もあるため、上演時間の都合でカットされたようだ。一度完全版を見てみたいものである。
 ともかく、歌舞伎を生で見るのは学生時代に課外授業の一環として見て以来、実質初めてのことだったが、演目がよく知っている八犬伝ということもあり、非常に分かりやすく楽しめた。歌や舞、アクションや笑いもふんだんに含まれ、テレビドラマや映画といった今の娯楽の源流がここにあると実感できた。次回、南総里見八犬伝が上演されるのはいつになるかはわからないが、別に八犬伝でなくとも、機会があればまた歌舞伎を見に行きたいと思う。

06/09/03 《告知》倉吉市で里見時代行列があるそうです
(倉吉市・福井さんのメールより)
 里見家九代・里見忠義が、幕府によって改易となり、配流されたのは伯耆国倉吉。その倉吉市でこの9月、里見時代行列が行われる旨、メールがありました。転載の許可をいただきましたので、以下転載します。
突然のメールにて、失礼いたします。
私、鳥取県倉吉市の新市ブランド化プロデューサーを務めております
福井と申します。
来る9月3日に、里見氏終焉の地で開催される里見手づくり甲冑行列の
お知らせをさせてください。
(今回は、時間の都合で、千葉県館山市から手づくり甲冑をお借りして
の行列となります)
遠隔地ではありますが、ご都合がつくようでしたら、是非お出かけ
ください。

 ***************************************

『遠く安房国から伯耆国へ改易された悲運の武将、里見忠義と
 その一行。                        
 現在の倉吉市関金町堀村へと移り住んだ里見忠義とその一行を
 村人達は心温かく迎えました。
 里見忠義が亡くなった後も、甲冑に身を包んだ八賢士が、忠義公と
 村の人々をずっと見守ってくれていると言い伝えられています。
 南総里見八犬伝でもお馴染みの八賢士。
 その甲冑隊を今に再現し、菩提寺である大岳院での墓参の後、
 八賢士は忠義公終焉の地、堀村へと向かいます』
                :倉吉里見手づくり甲冑愛好会

9月3日(日)、時代行列の日程
11:00 大岳院 墓参り 
      |
    元帥酒造 休憩
      | 赤瓦経由
    高田酒造 休憩
      |
12:00 豊田家 昼食・休憩
       車移動 関金まで
13:30 湯命館前
      |
    関金温泉看板
       車移動 山郷神社まで
14:30 山郷神社 神事
15:00 山郷神社 出発
      |
    山守小学校

なお、詳しくは、下記「倉吉市・交流居住ポータルサイト」
http://kouryu-kyoju.net/312037/index.php
または、「倉吉市」のサイトをご覧下さい。
http://www.city.kurayoshi.tottori.jp/p/gyousei/div/kikaku/kouryuu/9/2/


<お問い合わせ>
*〜*〜*〜*〜*〜*〜*
NPO法人 養生の郷
T/F:0858−45−3988
メール:youjyou@sekigane.net
*〜*〜*〜*〜*〜*〜*
 里見忠義の終焉の地(伯耆国堀村)のあった関金町では、かねてから子供歌舞伎などで里見八犬伝を上演していたそうですが、昨年倉吉市と合併し一つの市になったことに伴い、初めて菩提寺と終焉の地を結ぶイベントとしてスタートすることになったとのこと。興味のある方はどうぞ。

06/08/15 寂しい人・曲亭馬琴
(滝沢昌忠 鳥影社)
 馬琴の遺した書簡から、当時の人気作家の生涯を追う書。病弱な息子・宗伯、数少ない友人である崋山(渡辺崋山)、孫として期待をかけた太郎といった周辺の人物たちへの記述を解説することで、馬琴の人物像に迫っている。「寂しい人」は序章のタイトルによるもので、実際に寂しい人生だったかは馬琴にしかわからないが、せっかく御家人株を買ってまで武士にした太郎が、馬琴の死の翌年に夭折したのは、無念だっただろう。
 ちなみに著者の滝沢氏が、馬琴と関係があるかどうかは不明。

06/06/10 八犬伝っぽいサッカー選手
(J2 横浜FC-ザスパ草津戦・三ツ沢競技場)
 ワールドカップ開催で、ドイツに目が行きがちですが、日本でもJ2リーグはやってます。というわけで三ツ沢競技場で開催された横浜FC−ザスパ草津戦を見に行きました。お目当てはザスパ草津のMF・里見仁義(ひとよし)選手。この、いかにも南総里見八犬伝に出てきそうな名前。里見義実の生まれと同じ群馬県出身というのも、何か縁がありそうな気がします。
 里見選手はベンチからのスタート。出場したのは0−1で草津がリードを許して折り返した後半開始から。中盤に入り、ゲームの組み立てを行います。後半31分にはシュートも記録しました。また、ロングスローのスキルがあるため、左右両方のスローインを任され、早いスローインからGKとFWの1対1の好機を演出するなど、なかなかの活躍を見せていました。しかし、横浜FCのGK菅野を中心とした堅守に阻まれ、0−1のままタイムアップ。J2最下位と2位の力の差が出た試合でした。
 ただ、里見選手の存在は、草津にとっても貴重かもしれません。168cmとやや小柄なのが難といえば難ですが、エースの島田が出場停止の際などは司令塔としても期待できると思います。今後の里見選手の活躍に期待です。八犬伝とは全然関係ないかもしれませんが。

06/05/25 八犬伝で発見! 江戸庶民の生活文化
(文京ふるさと歴史館)
 文京ふるさと歴史館にて開催されている特別展。馬琴の八犬伝の作中には、執筆された江戸後期の文化が色濃く反映されているとして、文京区にゆかりのあるシーンを中心に、歴史文化資料としての八犬伝を紹介している。とくに、穂北で現八と大角が盗人と間違えられて捕らえられた際に閉じ込められた植木窖は、江戸時代に植木屋が数多く居住していた文京区周辺の風景がモデルになっているとし、説明を多く割いている(また、穂北で会う女性、重戸の名前も植物の「万年青」から取っているという)。展示されている資料はガラスケースに入っているが、挿絵や原文の一部はコピーされてテーブルに置いてあり、落ち着いて読むことができる。個人的には、「犬の伊勢参り」の記事が非常に微笑ましかった。6/4まで開催されているそうなので、一度行ってみるのもいいだろう。入場料も100円で安いし。

05/12/3 世界・ふしぎ発見! 「大江戸ファンタジー里見八犬伝の秘密」
(TBS系列にて放送)
 今週の『世界・ふしぎ発見!』は、里見八犬伝がテーマ。来年正月(1/2,3)に同局で放送するドラマ『里見八犬伝』の番宣も兼ねた企画ではあるが、取り上げてもらうのはうれしいことで。
 番組はドラマの映像を織り交ぜて基本的なストーリーやキャラクターの紹介をしながら、八犬士誕生の秘密を解説するもの。企画当初は当時流行だった北辰信仰にあやかって七犬士だったことや、八犬士に女装の犬士が二人いる理由、犬士の痣が牡丹の形をしている理由などを紹介。このあたり、高田衛著『八犬伝の世界』(中公新書)をずいぶん参考にしていると思われる。
 また、ロケは館山城や伏姫籠穴、そして化猫退治の庚申山など。伏姫籠穴は昔行ったことがあるが、あんな穴の奥まで入れなかった記憶がある。中に珠が入ってるのは知らなかった。また庚申山は初めて見たが、原作の挿絵の地図どおりに関門があるとは思わなかった。
 ちなみにクイズの方は、第一問は八犬伝読者としては余裕だったが、残り二つは八犬伝とは直接関係のない八百善や越後屋といった、当時の江戸文化についての問題で、答えられなかった。まだまだ江戸文化には弱いということか。

05/11/18 八犬士 (第2巻)
(岡村賢二・漫画 日本文芸社 ニチブン・コミックス)
 「別冊漫画ゴラク」連載中の劇画版第2巻。
 村雨丸のすり替えから、犬山道節の登場を経て、古河でのすり替え発覚まで。原作どおりの流れだが、大きく違うのは、犬山道節と接触して、浜路の死に立ち会っているのが、犬川荘助ではなく犬塚信乃ということ。道節は村雨丸の持ち主本人を目の前にしているのに、自分が村雨丸を持っていることを黙ってさわやかに去ってしまう。ひどい奴だ。
 ちなみに原作では早くに死んでしまう糠助が、この劇画ではずいぶん元気。続刊では息子の現八との再会もあるかもしれない。

05/7/17 八犬士 (第1巻)
(岡村賢二・漫画 日本文芸社 ニチブン・コミックス)
 曲亭馬琴の原作を劇画化。「別冊漫画ゴラク」連載中。
 結城合戦の匠作から番作への村雨丸の伝授から、その三十四年後の信乃と荘助の物語へと繋がる。里見家と珠との因縁は、二人の間に現れたヽ大法師によって語られる。順序こそやや違うが、かなりまっとうな原作の劇画化と言えるだろう。1巻は信乃が古河行きを決意し、蟇六や網乾の陰謀がはりめぐらされるところまで。まだ導入部分である。
 今後の注目点は、残り6人の犬士たちとの出会いと、信乃のオリジナルの設定である二刀流がどう生かされるかといったところか。

05/7/17 特務咆哮艦ユミハリ (第1巻)
(富沢ひとし 幻冬舎コミックス)
 タイトルが弓張月っぽかったので、それだけで買った本。だが、全く関係なかった。
 「伝奇スペクタクルコミック」と帯にあるように、ストーリーは大混迷。未来人が起こしたという「時間戦争」によって日本は小さな島に分断され、村上水軍や土偶軍団、連合艦隊といった、その土地で歴史上最も強かった時代の集団が割拠するようになっていた。そのなかでユミハリは、品川連合の鉄道乗務員たちによって運航される海上浮遊砲台である…といってもよくわからないが、ともかく読んでみないことにはわからないし、読んでもよくわからないのがこの漫画の特徴だろう。果たして最後にすべての謎が解かれるのかどうかも、よくわからない。未来人が顔を奪うシーンはかなり気持ち悪い。

04/1/12 サムライジ
(倉田英之・原作 山田秋太郎・漫画 秋田書店・週刊少年チャンピオン連載中)
 伏姫および八犬士に関連するキャラクターが、週刊少年チャンピオンの03/12/25発売号から出てきたので紹介。本格的な登場は04/1/8発売号から。
 修行の旅に出た主人公・斬十郎の前に現れた新たな刺客、それが大罪衆の一人「高慢の犬(ダイヤモンド・ドッグ)」伏姫。犬耳で半犬半人の伏姫は、捨て犬を装いダンボールの中で待ち構え、巧みに斬十郎の旅の道連れになることに成功する。狙うのは斬十郎の背にある斬死刀。しかし途中で放尿をしているところを斬十郎に見られてしまい、伏姫は恥ずかしさから逆上。自らの背中にある八つの珠から、八人の戦士を召還する。「八犬士だよ!! 全員集合!!」
 もともとが無茶苦茶なマンガである。21世紀まで鎖国しているという設定の日本に、黒船に乗ってやってきた地獄からの使者。それに立ち向かうのは心に「サムライ」を持つ少年。チャンバラファンタジーとでもいうべき作品であろうか。風俗や言葉遣いも適当で、きっちりとした考証が好きなタイプの私には連載当初なかなか受け入れられなかったが、主人公の父親が敵方の悪魔に「純愛(ピュアラブ)」で立ち向かうという回が、一周回ってやたらと面白かったため、見捨てることなく読み続けている。
 ちなみに八犬士は、敵方らしく「仁・義・礼・智・忠・信・考・悌」ではなく「狂・戯・乱・盗・惑・淫・弄・悦」の珠を持っている。これは山田風太郎の「忍法八犬伝」からとっている。そもそも作画の山田秋太郎(しゅうたろう)というペンネームは、山田風太郎からとっているらしいので、その影響は非常に大きいだろう。もっともデザインから見るに、八犬士の特徴や使う技は「忍法八犬伝」とは違っているようだ(たとえば信乃はインテリ風、大角は大男。これはわざと変えている可能性がある)。とはいえ週刊連載の話の尺から予想して、八犬士のそれぞれが個性を発揮して主人公に立ち向かうのは難しそうである。

04/1/12 忍法八犬伝
(山田風太郎 徳間文庫)
 数年前に読んだものだが、「サムライジ」との差異を確認するため再読。
 徳川幕府の黎明期、里見家の取り潰しを狙う本多佐渡守の陰謀によって盗まれた、伏姫の珠を奪い返すため、甲賀忍法を修行した八犬士の子孫が、服部半蔵配下の八人のくノ一と死闘繰り広げるという、山田風太郎得意の忍法小説だ。
 八犬士の子孫が全員ぐうたら者であるという、パロディの手腕も素晴らしいが、とにかく犬士たちの使う忍術が奇想天外だ。いままで私が読んだ作品の中で言えば「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンドバトルが一番近いが、山田風太郎の作品はそこにさらに一般マンガではできないような性技を駆使した戦いが加わるので、輪をかけて壮絶になっている。八犬伝を知らなくても十分楽しい傑作である。

03/9/14-15 伊豆大島へ行ってきていました
(アップロード:11/9)
 実は、9月14日から15日の連休にかけて、伊豆大島へ一人旅をしてきました。文章や写真のまとめなどでやたらと時間がかかってしまいましたが、以下のリンクに旅の記録を残しています。
大島旅行記

03/5/25 新潮日本古典集成別巻 南総里見八犬伝 一
(濱田啓介・校訂 新潮社)
 新潮社から新しいハードカバーの八犬伝が出た。註が付いているわけでもなく、全挿絵掲載といってもそれは岩波文庫新版も同じなのだから、それほど強い興味をそそられたわけではなかったが、ファンだから買った。
 しかし少し目を通してみたところ、案外と読みやすいことがわかった。字が大きくて行間を十分にとっているのがポイントだ。私の場合、文庫を読んでいるとうっかり1行読み飛ばしてもう一度元に戻る、ということがたまにあるのだが、この本に限ってはそんなことなど起こり得ないと確信できるほどの行間の広さだ。正直、本を読むにあたって、余白の広さがこれほど重要であるとは思ってもみなかった。
 挿絵も、サイズが大きくなったことでいっぺんに見やすくなった。岩波文庫では挿絵の文字が読みづらいこともあったのだが、今回は画中の文を追うことも含め、じっくりと挿絵を鑑賞することができる。またサイズが大きくなったといっても極端に大きく重いわけではなく、寝転んで読んでもさほど手が疲れるということはなかった。もちろんこの部分は文庫が圧倒的に有利な分野であるが。
 ということで最初は岩波文庫と変わらないと思っていた新潮社版だったが、ユーザーインターフェイスの面で工夫がされていてなかなか良い物であった。もし初心者が八犬伝の原作を読むのなら、岩波文庫よりもこちらの方がとっつきやすいのではないだろうか。もっともハードカバーは高くてかさばるので、図書館で借りて読むなら新潮社版、買い揃えるなら岩波文庫版、という具合に区別するとよさそうだ。

03/1/11 アイドル八犬伝 原画集
(向島ホエホエ工房・編 同人誌 コミックマーケット63にて購入)
 1989年に発売されたファミコンゲーム『アイドル八犬伝』の原画を、当時の製作スタッフの了解のもとでサークル「向島ホエホエ工房」が編集した同人誌。初版は2001年8月で、購入したのは第二版である。(『アイドル八犬伝』というゲーム自体のレビューは以前に書いたものがあるのでそれを参照していただきたい)
 原画は現在イラストレーターとして活躍している近藤ゆたか氏によるもので、ファミコンのドット絵に移る前のキャラクターの絵や、設定が固まるまでのラフ絵が数多く収録されている。またスタッフの開発秘話もあり、システム制限によるシナリオ削除など、ファミコン時代のゲーム開発の様子も伺える。またそれによると『アイドル八犬伝』のタイトルは、『アイドル水滸伝』や『アイドル三国志』などの候補の中から選ばれただけのもののようで、内容に関して馬琴の『南総里見八犬伝』へのオマージュといったものはまるで無かったことがわかる。原作ファンとしては、「このくだらないダジャレの中に重大な隠微が含まれていたらどうしよう」とか心配していたので、どちらかというとほっとした。

03/1/5 房総里見水軍の研究
(千野原靖方・著 崙書房)
 戦国時代、房総を支配した里見家の「水軍」の部分に焦点をあてて、水軍勢力の成り立ちや北条氏との争いの様子を研究した書。里見水軍は、外房・勝浦を拠点とする正木氏と内房・勝山を拠点とする安西氏を中心とした、海賊領主たちの連合によって成り立っており、北条氏との抗争において、国府台合戦など陸戦上の敗北がありながらも最後まで房総に割拠できたのは、安房の海民たちのゲリラ活動によるものだったことがわかる。また一方で、その海賊領主たちへの支配は絶対的なものでなく、里見家の近世戦国大名への脱皮は遅れていたこともわかる。
 戦国大名・里見家には、多かれ少なかれ常に『南総里見八犬伝』のイメージが付きまとう。これは馬琴の八犬伝があまりにも有名なフィクションであることがその原因であり、またそれがあってこそ里見家が今でも注目されているのだが、この書において「八犬伝」の名前は一切出てこない。水軍・海賊という歴史の表舞台からはなかなか描かれない勢力に焦点をあてることで、里見家の等身大の姿を浮かび上がらせているように思う。
 またこの書には、里見水軍の拠点となった房総の海賊城の図解もついている。史跡巡りにおいては非常によい案内資料になっている。

03/1/2 北越雪譜
(鈴木牧之・編撰 京山人百樹・刪定 岡田武松・校訂 岩波文庫)
 江戸時代の雪国の暮しを、越後塩沢の文人・鈴木牧之が現地人の立場から紹介している書。牧之は塩沢にあって江戸上方の文人達とさかんに文通しており、『北越雪譜』の出版においては馬琴とも交渉した経緯がある。『八犬伝』の小千谷の段は、牧之から送られた資料が元になっている。
 今でこそスキーリゾートの発展によって、雪国にとって雪は重要な観光資源となっているが、交通の発達していない江戸時代においては、ただ里人を里に閉じ込め、辛抱を強いさせるだけの、非常に迷惑なものであったのだろう。吹雪や雪崩のくだりは、被害に遭った家族に焦点をあてたドキュメンタリーとして記されていて、真に迫っている。ただしこのような暗い話だけでなく、行者が寒行の威徳によって傍若無人な武士を懲らしめる話や、座頭が明かり窓から落ちてくる話など、コミカルな話も多く含まれ、読んでいて面白い。
 なかでも私が好きなのは、谷に落ちた男が熊に助けられる話だ。牧之が逗留していた家の主人が、酒宴の最中に老農夫を呼びとめその体験談を語らせるという形をとっているのだが、その話はもちろんのこと、老夫が酒をねだったり主人が話の途中で横槍を入れたりする様は、まるで酒宴の情景が浮かんでくるようだった。

02/11/8 馬琴忌オフでした
 「ばきんぐ」のゆこさんとユリアンさんが学校行事で東京に滞在するということになったので、東京圏在住である「でーた・あ・ら・かると」の杏庫之介さんと「みんくポコペン」のみんくさん、そして私を交え、オフ会をすることになりました。2日前の11月6日が曲亭馬琴の命日だったので、お墓参りも兼ねてのことです。
 茗荷谷に11時集合。私が到着した頃にはすでに4人は揃っていました。そこから拓殖大学の前を通って深光寺へ。そこに馬琴の墓があります。杏庫之介さんの話では戦後すぐくらいまで「馬琴学会」というのがあり、馬琴忌には法要なども行われていたそうなのですが、今では馬琴忌にも特別何かあったような形跡がなく、ひっそりとしておりました。せっかくだから花や線香でも持ってくれば良かったと後悔しました。
 お墓参りを終えて、茗荷谷から後楽園へ移動。そこから杏庫之介さんの案内で、神田神保町へ向かいます。途中杏庫之介さん行きつけの古書店を紹介してもらい、「三七全伝南柯夢」が収録されている「日本名著全集・読本集」を500円という特価で手に入れることができました。今まで神保町は秋葉原から歩いて御茶ノ水から帰るというルートがほとんどだったので、水道橋からのルートを案内してもらうことでよい古書店に出会えたのは幸運でした。そのルートには「奥野かるた店」というカルタや碁盤などの室内ゲームを扱う店があり、昔ながらのかるたの雰囲気を楽しんだり、ちえのわを一生懸命といたりしました。
 昼食は神保町駅の近くで摂りました。看板が「おぱく堂」さんのところのキャラに良く似ている和食屋です。そこで杏庫之介さんがわざわざ調査して持ってきてくださった「よろめき亭」起源に関する資料を拝見しました。これによると、第九輯巻之一の第92話本文においては「兵兵く」となっており、それをわざわざ「校閲遺漏再訂抄録」において「誤写か誤刀なり」と訂正していることがわかりました。この「よろめく」の字は、私がサイト名にするほど感銘を受けた文字ですが、どうやら当時の人たちにとってもエキセントリックな字だったようで、これだけのドラマがあったのかと感動いたしました。また杏庫之介さんはそれぞれの分の絵葉書も作成して持ってきてくださったので、そこにお互いに寄せ書きを行いました。ゆこさん、ユリアンさん、みんくさんはかわいいイラスト付きでしたが、私は絵が描けないので、マンガやアニメの名台詞類に「よろめき」を掛けた言葉を考えましたが、正確な元ネタがうろ覚えで中途半端になりました。
 食後は表参道へ移動して、ユリアンさんが行きたいと言う洋服屋へ行って、そのあと太田記念美術館へ行きました。ここは浮世絵を扱う美術館で、その日は風景画を中心に扱っていました。八犬伝の挿絵も担当した渓斎英泉の画もありましたが、私はすこし歩き疲れていたので館内のベンチでみんくさんと共にうたた寝をしていました。
 5時を回って、みんくさんはレッスンのために帰り、残った4人で表参道を歩きました。そこでゆこさんが行きたいと言っていたビーズの店を偶然発見し、そこで買い物をすることになりました。たくさんの種類のビーズやボタンなどをバラ売りしている店で、男一人がぽつんといるのは大いに場違いな感じもしましたが、キラキラしたビーズは眺めているだけで楽しめました。
 ゆこさんとユリアンさんがじっくりと見極めている間に杏庫之介さんは家事のために帰り、夕食は3人ですることになりました。明治通りとの交差点に八丈島料理の店があったのですが、飲み屋で割高なのでパスして、東京ならでは、ということで「アンナミラーズ」へ行くことになりました。これは大いに私の欲望を反映させたものだったのですが、ゆこさんとユリアンさんも楽しんでもらえたようで何よりでした。
 ということで、今回の馬琴忌オフはこれで終了しました。馬琴のお墓参りだけでなく、原宿など自分ひとりでは滅多に足を運ばない場所にも行けたので貴重な経験になりました。「よろめき」の資料提供に加え、東京案内のお膳立てまでほとんど任せきりにしてしまった杏庫之介さん、レッスンで忙しい日々の間に来てくださったみんくさん、そしてオフ会のお誘いをかけてくださったゆこさんとユリアンさんには感謝いたします。また来年も、さらに人数を集めてオフ会ができればいいな、と思います。

02/11/2 夢想兵衛胡蝶物語
(和田万吉・校訂 岩波文庫)
 馬琴の読本。生物知りで議論好きな夢想兵衛が、浦島仙人からもらった凧に乗って少年国・色慾国・強飲国・貪婪国といった風変わりな国々を遍歴するという話。馬琴版のガリバー旅行記と言った方がわかりやすい。
 実は数年前に、大学の図書館にあった和泉書店の影印本(底本を写真にとってそのまま印刷したやつ)を借りて読んだことがあった。しかしそのときは少年国の途中で断念してしまった。影印本に初挑戦であったため読むのが難しかったということもあるが、その困難を乗り越えようと思うほど面白くはなかったというのが正直な理由だった。少年国という子供ばかりの国の乱れた風俗(すなわち当世の子供の風俗)を、夢想兵衛(つまりは馬琴)が凧の上から眺めてぼやくという形式であったため、馬琴の特徴である説教くささが特に鼻についてしまったのだ。
 しかしながら今回岩波版で再挑戦してみると、色慾国のくだりから俄然、楽しくなった。夢想兵衛が地上に降りて、直接住民と対話し、その思想を変えようと議論を始めるようになったのだ。これで馬琴の説教くささが治ったわけではなく、仮名手本忠臣蔵のヒロインを忠孝の道から非難するなど、むしろさらに拍車がかかるのだが、重箱の隅をつつくような批判で議論のための議論を続けるさまは、そのためにかえって夢想兵衛の器の小ささ、えせ聖人ぶりを際立たせる結果となってなんとも滑稽だった。とくに哀情郷で話し相手がいなくなって髑髏に議論をふっかけるくだりなどは、まさに哀愁であった。
 このあたり、先に「馬琴版のガリバー旅行記」と書いたが、確かによく似ていると感じた。ガリバー旅行記といえば巨人国・小人国といったおとぎ話をイメージしがちだが、スウィフトの原作は社会風刺をたっぷりと含んだ毒のある小説だ。この夢想兵衛胡蝶物語は、まさに「ガリバー旅行記からファンタジーを抜いて毒の部分だけを抽出して和書漢籍でたっぷりと味付けした作品」と言えるだろう。聞いただけで胸焼けしそうな内容だが、ひねくれた人間には面白い、と思う。

02/10/17 少年少女古典文学館22 里見八犬伝
(図書館で借りて読む 栗本薫著 講談社)
 児童書。
 「戯言を信じて八房敵将の首級を…」の部分から古那屋での親兵衛登場の部分まで、ダイジェストではなく原作の内容になるべく忠実に従った上で読みやすい形に書き下ろしている。しかし注釈がないとわからない言葉も本文中に多いので、もし私が小学生だったとしたら、「うわっ、難しいっ」と思ったかもしれない。
 解説は高田衛。児童書のためわかりやすい解説文を書いているが、「八犬伝は『八字文殊八大童子』になぞらえている」という持論を始めたとたん、内容がいっぺんに難解になったのは微笑ましかった。注釈は高木元。

02/10/13 ライバル日本史7 鈴木牧之VS滝沢馬琴
(図書館で借りて読む NHK取材班編 角川書店)
 NHKで平成6年度に放送されたテレビ番組を本として編集したもの(「鈴木牧之VS滝沢馬琴」は平成7年3月16日放送分)。同じ巻には「後醍醐天皇VS足利尊氏」「足利尊氏VS直義」「高浜虚子VS河東碧梧桐」「忠臣蔵裁判」が収録されている。
 「越後の文人、江戸に挑む」というサブタイトルのこの回は、越後塩沢在住の商人である鈴木牧之が「北越雪譜」を出版するまでの間に、馬琴をはじめとする江戸の文人達と行われた駆け引きや苦労などを紹介し、小説家・新井満とノンフィクション作家・足立倫行の対談形式で解説している。
 対談者が二人とも雪国出身のためか牧之に好意的で、執筆を依頼されながら結局その約束を破った馬琴に対する評価は厳しい。ただやはり私としてもこの件に関しては馬琴の分が悪いと思うし、そんな中でも粘り強さを失わずに、ついに自分の名前を後世に残す事ができた牧之は立派だと感じた。なんにしても私はまだ「北越雪譜」を読んだ事がないので、はっきりとした評価は後日行いたい。

02/10/12 図書館→神田神保町といろいろ回ってみました
 休日を使って1日探索しました。とりあえず目的は、岩波文庫の旧版とか、それ以外のどっかで出てる南総里見八犬伝(原作)を探すこと。うちのサイトのタイトル字が新版のみの誤植だったりしたら恥ずかしいな、とかそんな不安を解消するためです。
 まずは川崎駅前の市立図書館。市内の分館もまとめて検索してくれるというのでやってもらいましたが、結局岩波以外は全部訳本でした。とりあえず書架を回ってるうちに見つけた栗本薫の「少年少女古典文学館・里見八犬伝」「鈴木牧之VS滝沢馬琴」が載ってる「ライバル日本史・7」を借りました。
 つづいて神保町に移動(その前に秋葉原で1時間過ごしましたが)。とりあえず目に付いた本屋から当たっていこう、ということで探しましたが、結局岩波の旧版とハードカバーしか見つかりませんでした。もともと所要の回が見れればいいだけで買うつもりなどさらさらないだけに、店員に聞きにくかったですし。ただとりあえず岩波のシリーズにおいては活字を変えても同じ字だったので、半分は安心です。ちなみに和本のみを扱ってる古書店に106巻全巻揃いのセットがあって、「これさえあれば漢字関係の問題は全部解決だよっ」と思ったのですが、値段を聞いてみたら218万円ということでした。それだったら車買います。
 どっちにしても、ただ八犬伝を探してただけじゃないので戦利品はあります。それが以下のとおり。
 ・岩波文庫 胡蝶物語
 ・帝国文庫 馬琴傑作集(南柯夢、俊寛僧都、頼豪阿奢梨とかが収録)
 ・岩波書店 開巻驚奇侠客伝
 実は帝国文庫のやつと侠客伝は以前に大学の図書館で読んだ事もあるのですが、すでに内容は失念しております(だからこういうページを作ったのですが)。とりあえず今回は戦利品の報告だけで、感想については後日。

02/9/27 パブロフの犬
(書店にて購入 後藤羽矢子作 白泉社)
ヤングアニマルに連載中の4コママンガ。大の犬好きにして犬的気質なヒロインが、同じく犬的気質の青年と出会い、交際をはじめるという内容。たまたま雑誌を立ち読みしているときに見つけて、ヒロインの名前が「布施姫子」、青年の名前が「多田八房」だったので、何か八犬伝にまつわるエピソードがあるかと思い単行本を買ったが、単に名前を借りているだけで、これでもかというくらい八犬伝と関係なかった。まあ「美少年録」におけるお夏と清十郎みたいなものだと思えば、いっこうに構わない。ちなみに最近の連載では、布施姫子の恋のライバルにシズちゃんというキャラが登場しているが、これは角川映画の薬師丸ひろ子を意識しているのだろうか?

02/9/23 南総里見太平記
(図書館で借りて読む 戸田七郎著 新人物往来社)
 義実から忠義まで十代にわたって続いた里見家の歴史をまとめた本。序文に「戦国乱世のなかで三綱五常の八つの徳を守り続けた里見家は…」などとあって、なかなか微妙な雰囲気がしたが、著者がそもそも安房の出身者らしく、そのあたりは割り引いて読むべきだろう。郷里で発見した『里見軍記』の写本を土台のテキストにしている。この『里見軍記』は八犬伝の「回外剰筆」にも「疎漏にして且あやまりも少なからねば考証に備るに足らず」とコメントされている本なのだが、著者はそれを承知の上でその他の資料との比較検証を行ったとあとがきに記している。信憑性はともかく、里見氏の歴史についての基礎知識を得るには十分だった。

02/9/22 江戸の悪 『八犬伝』と馬琴の世界
(図書館で借りて読む 野口武彦 角川書店)
 八犬伝の書かれた時代を思想史的な転換期ととらえて、その中で馬琴が「悪」というものをどのように扱ってきたかを論じている。専門的な用語もあって難しいが、「結城法要で終わるはずだった八犬伝がなぜ続いたか」「せっかく対管領戦で善の勝利を書ききったのに、そのあとどうして里見家の没落まで描かなければならなかったのか」など、興味深い考察をしていて面白かった。

02/8/19 サクラ大戦スーパー歌謡ショウ 『新編 八犬伝』
(青山劇場にて鑑賞 作・演出・総合プロデューサー 広井王子)
 ゲーム『サクラ大戦』の声をあてている声優たちが、そのキャラに扮してミュージカルをやるという、かなり特殊な部類に入る公演である。ゲーム中の設定では登場人物たちは劇団員(帝国歌劇団・花組。以下花組)であるので、「八犬伝」という演目はその劇中劇として扱われることになる。すなわち、第一部で花組メンバーの日常を描き、第二部でその花組の公演としての「八犬伝」をやる、というわけである。
 さて内容であるが、八犬伝的な最大のポイントは「八犬士が7人しかいない」ということである。これは花組メンバーが7人であることによる(以前は8人だったが、前回公演で一人が引退した。第一部はそのことによるメンバーたちの葛藤と、それを乗り越えて結束するまでが描かれている)。ともかく配役は以下のとおりである。
 配役 花組としての役名 演者
犬坂毛野真宮寺さくら横山智佐
犬山道節マリア・タチバナ高乃麗
犬村角太郎  アイリス西原久美子
犬飼現八李紅蘭渕崎ゆり子
犬田小文吾 桐島カンナ田中真弓
犬塚信乃ソレッタ・織姫岡本麻弥
犬川荘介レニ・ミルヒシュトラーセ  伊倉一恵
 大まかな筋としては、玉梓の呪いによって悪人となり里見家を乗っ取った家老の山下定包を、里見家にゆかりのある犬士たち(近習の子だったり毒見役の息子だったり)が協力して討ち取り、最後の仲間を探す旅に出るという話で、ずいぶん原作から離れている。時代的にはどうやら戦国というより江戸時代を想定しているらしく、花のお江戸で隅田川おどりを踊るし赤岩一角の化け猫屋敷は葛飾にあるし、山下定包は将軍家に賄賂を贈って「関東御支配役」という微妙な職についていたりしている。パンフレットの広井王子のコメントでは、「一見ぼくのオリジナルのように見えますが、実は馬琴の作り上げた世界にかなり忠実です」とあるのだが、原理主義と言えるくらい原作に傾倒している私から言えば、やはり違うと言わざるを得ない。
 ただこれは、脚本がうんぬんというよりも、舞台演目としての八犬伝というテーマそのものの問題ではないかと思う。つまり、たかだか2時間やそこらで、プロローグとして伏姫と八房のエピソードを最初にした上で、犬士たちそれぞれの見せ場を作りつつ、最後に全員そろってなんらかの目標に向かって結末をつけるとなれば、どうしても原作どおりにやれるはずがない。同じく広井王子のコメントには、作劇手法としてスーパー歌舞伎をずいぶん参考にしたと書いてあるが、そのスーパー歌舞伎だって6時間くらいやっていたはずだから、やはり2時間では無理があったと思う。まあ「サクラ大戦」というゲーム自体が、練りこまれたシナリオの妙とかを味わうような類のものではないので、あまり気にせずに見ればそれで良いだけの話だった。
 で舞台であるが、赤岩一角の化け猫屋敷がおもしろかった。赤岩一角を演じているのが千葉繁なのだが、あの北斗の拳のザコ声というかねずみ男声というか、あのはっちゃけた声でにゃんにゃん言いながら踊るのだから、そりゃあ楽しくないはずがない。そこに田中真弓が絡んできて掛け合いをやるので、もう圧倒されてしまった。しかしながら千葉繁は、ゲームに出演していない特別ゲストなので、あんなにおいしいところを持っていってしまってはサクラ大戦的にはどうか、と少し心配にもなった。
 また八犬士が7人だけなこともあって、北斗七星をイメージした歌や演出が多かった。そのあたりパンフレットには「高田衛著『八犬伝の世界』(中公新書)」に興味を持ったいうことが書いてあって、妙見信仰などに関する記述にかなり影響を受けているらしいことがよくわかった。



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