展覧会の紹介

地上インスタレーション計画 9月18日(火)〜24日(月)
札幌市中心部

 札幌の都心部で、若手造形作家たちが作品を並べる企画で、昨年に続き2回目。

 結論から言うと、作品そのものも悪くないけれど、それより「どこにあるんだろう」と、作品設置場所の地図が印刷されたDMを片手にうろうろ歩き回ることで、札幌のマチがふだんと違って見えました。その体験のほうが愉快でした。

白戸麻衣「衣」 まずは、白戸麻衣「衣」
 地下街オーロラタウンのオーロラプラザにあります。マクドナルドの近くです。
 写真でいうと、奥が東豊線の入り口、および「わしたショップ」の方面。手前が地下街です。
 なんだか、これだけ見てると、ブライダル衣裳の広告スペースが臨時に設けられたみたいで、あんまし作品っていう感じがしませんね。
 説明文がついてましたが、むずかしくて筆者の頭では理解できませんでした。ゴメンなさい。

藤本和彦「罪の優劣」 続いては、藤本和彦「罪の優劣」
 これもわりと簡単に見つかりました。大通西1の地下鉄換気塔に取り付けられています。写真の奥の壁はマルサです。右側には丸井今井の駐車場ビルがあり、写真を撮っている人の後ろ側に位置するのが丸井今井です。
 作品も簡単です。三つのビニール袋に、タバコの吸殻がびっしり入っています。
 題名から察するに
「タバコのぽい捨ては罪だけれど、罪の重さ軽さは、だれにも決められない」
ってなとこがテーマなんでしょうか。
 そういえば、今年の「北の創造者たち」展でも、藤本さんのインスタレーションは三つの部分から成り立っていました。弁証法的な論理がすきなのかも知らん。
野上裕之「鉛の造型物1」

 お次は、野上裕之「鉛の造型物1」
 なんだか、そのまんまのタイトルです。
 でもこれは、探すの苦労したぞー。DMの地図と違ってるんだもの。
 南2西1の、2丁目通り沿いの歩道にありました。バモスとか山岡屋とかの近所です。
 即物的な作品です。 

 次は、福積仁志ですが、「狸小路1丁目」とあるけれど、どこを探してもない!
 「千と千尋の神隠し」を上映している帝国座のあたりを何回か往復しましたが、ついに分かりませんでした。
 後から分かったのですが、どうやら、夜間から朝だけの展示のようです。谷口顕一郎「無題」

 気を取り直して、谷口顕一郎「無題」
 狸小路1丁目から、創成川の下をくぐって二条市場へと向かう地下通路に設置してあります。
 この地下通路、かなり前からあると思います。「時計台」「羊が丘」など名所の絵(かなり安っぽい)がいくつか貼ってありますが、どこか湿っぽくうらぶれた感じのする(まあ、昔の池袋駅地下道ほどじゃないけど)所です。
 いやー、これもなかなか見つからなかった。彼の作品を見たことのない人には、発見が困難じゃないかな。
 やっと、階段に、彼がよく使う意匠である北斎の波をコピーして重ねたものが貼り付けてあるのを見つけました。知らない人が見たら落ちてるごみだと思うゾ。いや、作品がごみだといってるんじゃないけどさ。湿っぽくじめじめした感じから発想したのかもしれないな。

椎名勇仁「巨人」 椎名勇仁「巨人」
 個人的な好みですが、この作品がいちばん力を感じました。サイズがでかいせいかもしれないけど。正直なところいつもの椎名さんの作品はよく分からんのですが、この「巨人」はストレートなイマジネーションの広がりみたいのを感じましたね。
 実際に掘り出された黒曜石の石器を30倍に拡大したものです。
 写真ではみづらいと思うのですが、作品の右側に張ってあるやつです。縄文時代の黒曜石の大産地として知られる網走管内の白滝村から出土したもので、大きさは116×26×11ミリ(協力・北海道埋蔵文化財センター)。
 大昔は、われわれよりもずっとでかい人間がのっしのっしと歩いていたんだ、と想像すると、なんだか楽しくなってきませんか? え? 「ウルトラQ」みたいだって?
 順番が逆になりましたが、これは南3西1の中小路にあります。写真の左側には札劇(スガイのビル)や東一そば屋、右側には東豊線「豊水すすきの駅」出入り口です。
 筆者は東側から来ました。見つけづらい作品が続いたので、排気管をみただけで
「お、これが作品か」
って思ったりして、なんだか「目」というか、街の見方がいつもとすこうし変わってきたような気がします。

 野上裕之「鉛の造型物2」で、西2丁目通りに出たら、ちょうど札劇(スガイのビル)の前にあったのがこれです。野上裕之「鉛の造型物2」
 巨大なイチゴに見えますが、そうとも限らんようです。
 ちなみに、車道の側は、すぱっと縦に切れています。
 スガイビルの前は自転車が多く、若者がたむろしているので作品鑑賞の雰囲気ではないようです。まあ、仕方ないか。
 それにしても、これ、DMの地図には出てません。
 なお、小林万里子、村岡賢治の作品は、ラルズプラザ壁面に午後8時から10時までのみ展示されるということなので、今回はパスさせていただきました。

清司拓真「定礎」 続いて清司拓真「定礎」
 これは、南1西3の中通(通称シャワー通り)にあるパレードビルの入り口にあります。ちょうど大丸藤井の裏側です。
 すぐ見つかりますが、周りはけっこうごちゃごちゃしてて(例えば、写真ですぐ背後に立っているのは、パレードビルのカレー屋「ガラム・マサラ」の看板)、通りすがりの人の目にはつかないかもしれません。
 これはアンテナですね。空からの電波をとらえようというのでしょうか。
 でも、おわん部分は既製品ですが、電波を集める部分などは木製です。つまりこれは、ファンタジーのアンテナ、といえるのではないでしょうか。想像の電波をあつめているのですね。
 まあ、筆者のようなオジサンには「マスプロアンテナ」というと、PTAから指弾されたお色気CMという印象なんですが、若い人には関係ないことですね(^_^メ)。

 高橋奈々恵「Dots&Loops!!」同じビルのエントランスにあるのが、高橋奈々恵「Dots&Loops!!」です。
 大きな銀色の熊のぬいぐるみと、スーツケースからなる作品です。
 熊のぬいぐるみの中にまたぬいぐるみのようなものがあるという、ロシアのマトリョーシカ人形みたいな入れ子構造になっているのが面白いところです。
 ラブリー系なので、あんまり美術作品として見る人はいないのかもしれません。

中嶋貴将 最後は、仲嶋貴将さんの作品なのですが、いやー、これだけ遠かったっス。なんでなのー?
 南3西7。南3条通りに面しています。創成小学校の北向かいです。
 歩き疲れたせいか、作品の題をメモするの忘れてしまいました。すいません。
 たしか「芽生え」とか、そんな感じのタイトルだと思ったなあ。
 いすを重ねたようなフォルムの中から、すっと細いものが立ち上っているのが見えるでしょうか。
 ここまでたどり着いたとき、作品がライトアップされているのを見て、なんだかすごくほっとしました。そして、単純なフォルムではあるけれど、ひそかな希望みたいなものを表しているのではないかと思いました。

 というわけで、全部見て回ると50分くらいはかかります。
 ただ、筆者が見たり写真を撮ったりしていても、それを気にかける人もなければ、なんだろうと思って足を止める人も、いませんでした。
 今回の催しは、とにかくなんでもいいから見る人を増やそうという「大衆路線行事」ではないようなので、それでもいいのかもしれませんが、せっかくものすごい人出の多い場所で、しかもふだん美術館とかギャラリーなんて行かない人々も大勢歩いているのですから、だれも作品に気が付かない(まあ、あのスガイの前のイチゴは気づくだろうけど)のは、ちょっと寂しいというか、もったいないような気がしないでもありません。そうそうある機会ではないので「ひとりでも多くの人に現代美術に触れてもらおう」という姿勢がもうちょっとあったほうがよかったのかもなあ、などと考えてしまいました。

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