ハンドメードパイプの楽しみ
Part 3
ハンドメードパイプに、のめり込んだものの、形だけに囚われて 居た事を初めて知り、最高のパイプを作るには先達の知識を吸収 せざるを得ない事にやっと気が付きました。 当時、幸いな事に、東横線の学芸大学に「薫」と云う喫茶店があり、 ここの店主の林さんがパイプ好きで、店内にパイプ磨き用のバッファー を設置し、毎週火曜日にパイプ作りの達人達が集まって居るとの 情報を得る事が出来ました。 幸い、当時は隣の駅、祐天寺に住んで居たので、たちまちここの 常連さんになってしまいました、 火曜日の夜には10人位のパイプ作りに自信の有る面々が、 それぞれに作りかけのパイプを持ち寄り、パイプ作り談議に夜の ふけるのも忘れ、大変な熱気に溢れて居ました。 ここで得た情報は実に貴重なもので、井の中の蛙状態の私に とっては初めて知る知識の洪水に遭ったようなもので、大量の 情報がアッという間に手に入りました。この貴重な情報をもとに材料、 工具、加工方法、デザイン等の研究を深め、夢中になって新しい パイプの制作に没頭しました。 このページではここで得た、良いハンドメードパイプ作りの要点を ご披露します。 |
ハンドメードパイプはマシンメイドと違い、自由なデザインばかりが 目につきます、しかし折角、ハンドメイドという手法で作るのですから、 時間に縛られず充分に手間と時間を掛けてマシンメイド以上の 素晴らしいパイプにして見たいものです。 では、素晴らしいパイプとはどんなものでしょうか? パイプはたばこを喫う道具でも有ります、たばこはどうして喫われる のでしょう、それは美味しいから喫われるのではないでしょうか。 パイプたばこの楽しみの一つに使うパイプにより、同じたばこが違う 味わいがする、という事が有ります、これは何故でしょう、もちろんブライアー の木質も大きく影響しますがパイプの内部構造により、まったく味わいの 違うパイプになってしまいます。 火皿の大きさ、深さ、底の形状、底部の口径等で味が変わりますし、 煙道の口径、マウスピースのリップまでの口径、煙道の段差、煙の出口の 構造等がたばこのマイルドさやドライスモークに大きく関与して居ます。 そこで、参考までに、出来上がったパイプを真っ二つにしてご覧に入れる事に しました。 |
上の写真を参考に説明をしますが、 まず、火皿ですが、ボールと火皿との肉厚が重要です、少なくとも5mmは欲しいものです。 カットの仕方でちょっと判り憎いですが火皿上部と底の方では直径が違い、 底の方が孔が小さくなって居ます、つまり火皿にテーパーを付けて居ます。 これは微妙ですが味にも火付きにも影響しますし、吸い終わったたばこがパイプの上を ポンと叩くと簡単に排出する事がし易くなります。 次に火皿の底と煙道の接点を見て下さい、火皿の底丁度に煙道が明いています、これが 上下するとたばこが燃え残ったり、ジュースがじくじくしたりし、不愉快なものです。 シャンク部の煙道は4mmで市販マシンメードより若干大きくなっています、 このパイプは緩いベントになって居ますのでダボ孔と煙道を明けただけではモールが ダボの所でつかえて通りません、そこで煙道とダボの接点をモールが通り易い様に修正 して居ます。 マウスピースは、まず、ダボの入り口を漏斗状に削り、煙の流れをスムーズにします、 ピースの煙道は3mm、出口で1.8mmにして居ます。 写真では判りませんが、煙の出口の孔は煙が細く直線的に出て来ない様な構造の広げ 方をして居ます。 以上ですが、パイプの美味しい喫い方は、Cool & Dry だと言うます、 まず火皿の形状と煙道の煙の流れがスムーズに流れる仕上げが重要な事がお判り 頂けたと思います。 ジュースがじゅくじゅくして、たばこが辛く、舌の一部分が痛くなるようなパイプがマウスピース を交換しただけで、とても美味しいパイプに変身したという例も有ります。 |
続いて、パイプが道具である限りは、色々な状況で使われます、 パイプは使い捨ての道具ではなく、何年も何年も使われ、愛着さえ湧いてくる物です。 その様なパイプがダボがゆるくなったり、狂って来りしたらどうでしょう。 道具として永年、狂いもなく使用出来る為には加工の精度がどうしても必要になります。 パイプに特に精度が必要なのはシャンクとマウスピースの接点であるダボとダボ孔です、 ここの仕上りがパイプの良否を決めるようなものです。 ここではビリヤード型のストレートなパイプの擦り合わせダボの加工方法の説明をします。 ダボの寸法は8mmから5.5mm位いのものが有りますが、出来得れば7mm以上ほしい ものです、それに対してダボ孔はそれより小さい孔を明けます、 例えば、私の標準的なダボ孔は7.8mmにして居ますが、それに対するダボは7.86mm +-0.01mmにしています。 ダボ孔を明け、マウスピースのダボを切り、そのまま差し込むとかなりきつく、ダボが 摩擦熱で焼けて、ざらざらになってしまいます、石鹸などをダボに塗って差し込んでください、 私は弦楽器の調音ペグに塗るWAXを楽器店で求め使用しています、これはすぐれもの で適度に滑り過ぎず、音もしなくなります。 マウスピースは旋盤加工でダボが直角が出ていますが、シャンクの方はマシンメード と違い平らな面にサンドペーパーを置き、ダボの受け面を隙間が出来ぬ様に平面を直角 にしなければなりません、マウスピースを差し込み、隙間の有る無しを確認しながら直角 を出して行きますが最終的にはマウスピースを差し込み、ニ、三度左右に廻して引き抜き、 木部に接触して木が光った様子で隙間が有る無しを判定します、完全に全面が当たり 光ったら擦り合わせダボの完成です。 |
シャンクにマウスピースを装着し、継ぎ目を中目の棒やすりで成型して行きます。 ストレートのパイプの場合はマウスピースを180度廻しても段差が無い様に 仕上げて行きます、ビリヤードの様にシャンクが円形の場合は360度のどの位置 でも段差が無い様に削って行きます、非常に手間を食う仕事ですがハンドメード を作るプライドが掛かった工程と思い充分時間を掛けて下さい。 加工の方法はマウスピースを廻し、出っ張った所を削る事を繰り返して行くと 最後には真円になるはずです。 この擦り合わせ部分が完成した所で、ボール、シャンク、マウスピースの形を整え て行きます。 この後もサンドペーパー掛けで上記の工程に狂いが出たら修正が必要です。 |
パイプが仕上がり着色が終わり、バフ掛けWAX掛けが終わったら完成と 思わないで下さい、 最後の工程が有ります、シャンクのダボ孔の周辺を見てください、 着色時に染料が隙間から入り、ダボ口の木部を汚しているはずです、 平らな面に#1000のサンドペーパーを置き、丁寧にダボ口を研磨します。 ここに缶入りのWAXを塗り、乾いたら布でふき取り光沢を出して下さい。 ここまでやれば貴方のハンドメ−ドパイプはマシンメードより誇りを持って 一生使えるベストパイプになる事でしょう。 これらの事が完全に出来て初めてデザインが生きてきます、ハンドメードパイプ をアートと考える為にも、美しいデザインの前に道具としての完全さを求めたい ものです。 |
ハンドメードパイプ制作の基本となる部分の、なかなか知る事の出来ない
ノウハウを、ご披露しました、これも多くの先達との交流から得た知識ですので
すべてをオープンにしました、これを参考に素晴らしいパイプを作って下さい。
加工法などの詳細までは書けませんでしたが、細かい点での質問等が有れば
ご遠慮なくMAILを下さい。
次回は木目出し、着色、磨き、WAX掛けの説明でもしようかと思って居ます。