|
|
このシリーズ、06年2月末に第三巻が刊行され、ようやく全体像がみえてきた感じ。
一人の少年の成長をえがく<大河もの>とのことで期待できる反面、短気な読者は冗長な感じをいだくのではあるまいか。ともかく主人公の少年、ようやく自分の運命をうけいれ戦う覚悟をした様子。彼の領民と共に少年の活躍を祈りたい。
七つもの次元世界を統合した文明があった。が、しかしなんらかのトラブルで、各世界は分断され孤立していったと思われる。高度な文明も数千年のあいだに後退し、人々は科学の残滓にすがりつくようにして生活している。中世的世界にわずかな文明利器が混在するこの世界であるが、それでもかっての栄光をとりもどすべく、ふたたび他次元世界との接触をくわだてようとする勢力がある。ソレを実現することで世界を独裁しようとたくらんでいるというところ。
主人公の少年の周囲にまきおこるトラブルは、この勢力と無関係ではない。
というか、各地をおさめている領主たち、そして更にその上位に存在して世界そのものを統べている<真貴族>とやらいう未知の存在と、なにかしら因縁めいたモノがあるらしいのだ。謎の<猫>ノワールは、少年を<蒼い螺旋をもつ騎士>と呼んだのだ。螺旋とは何なのか?<真貴族>との関係は?
それらの真実が明らかとなるには、もうすこし巻をかさねばならないとおもう。なにしろ、リジュー少年は、ようやく道程のスタートにたったばかりなのだから。
あと興味深かったのは、民主主義の扱いだろうか。科学技術の残滓とともに、この思想はかっての統合文明の<忘れもの>と思われる。戦乱の時代に、民主主義をとなえたところで何の役にもたたぬ。力なき正義は、無力であり、罪悪でさえある。少年が身を寄せることとなったディオデイト子爵家の当主はその民主主義を信奉し、リジューの友となったクロウはすべてを圧倒する<力>を肯定した。
さて、それでは少年はどうするのだろう?僕としては、理想を追い求めるのではなく、力を志向するのでもない、第三の道を模索してもらいたいのである。がんばれ、リジュー! |
|
|
|
「ランブルフィッシュ第10巻 学園炎上終幕編」(三雲岳斗 角川スニーカー) |
|
|
前巻「大会開幕奇襲編」よりずいぶん間が空いてしまって、あるいはこのまま出ないのでは?
と思わせてくれた<サバイブ決着篇>ついに刊行。しかも500ページを超えるボリュームと、最終巻とのオマケ付き!読みとおすのに、まる二日かかってしまった・・・。
サバイブ決戦場では、恵里谷側が圧倒的に不利な状況。強力なフェニックス陣営に対し巻き返しなるか!そして場外では恵里谷に迫るRF軍団と謎の怪物体!はたして、恵里谷の運命は?
これまで登場してきたキャラたち、オールスター・キャストがほぼカオをみせ、それぞれが活躍の場を与えられたというイミでは、まさにクライマックス。
にしてもこの物語、敵・味方がラスト近くまで判別できない「難点」があった。「機構」とか「連盟」あるいはレイステル財団、そして恵里谷のメンバーたち!各陣営の思惑、動向が複雑に絡み合い、ラスト近くになるまで誰が味方で、敵なのかよく判らなかった。読者としては沙樹や瞳子らに肩入れせざるをえないし、ディヴィス・レイステルは悪党になってしまったワケなのだが(苦笑)物語が一応の完結をみせたアトでも、これが未だに判然としない。
ホントにアレで良かったのか、人類の未来を考えたらレイステルの方針がよい結果を生んだのではないか。そんな風にも思えてくる。
ま、だからこそ、沙樹たちは未だに戦い続けるだろうし、そのイミでもこの物語は未完の体裁をとっているのかもしれない。いつか、「ガンヒルダU」を駈る沙樹の勇姿を見てみたいものである。にしても、「ガンヒルダU」は、「アース・リバース」に登場した「デミ・エンジェル」のプロト・タイプ機なのだろうか? |
|
|
|
|
|
僕にとって江戸川乱歩とは、明智小五郎と少年探偵団、そして怪盗二十面相の作者であった。
かくいう僕も、小学生のころ、「怪人二十面相と少年探偵団」物語には熱狂したクチである。が、「サーカスの怪人」の中で語られているという、二十面相の正体が「遠藤平吉というサーカス団に勤めていた男」だったという事実には気付かなかった。
この北村氏の作品は、その「意外な真実」を発端に、「かっての少年少女」たちが楽しめる「怪盗VS名探偵」の物語に仕上がっている。
「完全版」との注がついているように、この奇想に満ちた物語はかって二冊にわけて上梓されたことがある。本書巻末に付された「北村想著書リスト」を見てみる。
(1)「怪人二十面相・伝」(1989年2月15日 新潮社)
B6判 カバー 246ページ 1200円
(2)「怪人二十面相・伝」(1995年12月15日 早川書房)
ハヤカワ文庫JA A6判 カバー 310ページ 560円
(3)「怪人二十面相・伝 青銅の魔人」
(1991年1月25日 新潮社)B6判 カバー
225ページ 1262円
このうち、(2)は(1)を文庫化したもの。僕の本棚にあるのは、このハヤカワ文庫版である。
太平洋戦争終結10年のち、明智小五郎と二十面相の対決は第一ラウンドをおえ、それぞれの後継者へと闘いは引き継がれる。戦後、名探偵と怪盗は二代目同士が激突するのだが、(3)がその物語。が、この本はとうに絶版になっており入手困難。
しかもどういうワケか、(1)とは違い、文庫としてはでていない。
今回の「完全版」でようやく、二代目同士の闘いの結末を読めるワケで、本書を見つけた僕が、どれほど舞い上がったことか!
絶対、コレは「買い!」である。 |
|
|
|
『偽書「武功夜話」の研究』 (藤本正行・鈴木眞哉共著 洋泉社新書) |
|
|
「武功夜話」なる戦国時代の文書がある。
読んだことはないが、その名前は知っていた。学生時代、史学の授業でその名を聞いた覚えがある。織田信長、そして秀吉に仕えた前野長康なる人物とその一族が遺した記録で同時代の有名人が次々と登場する。よって、歴史学者、作家、評論家たちの多くが「武功夜話」を典拠とし、数多くの論文、小説のたぐいが生み出され歴史像の形成に大きな力を発揮したというシロモノ。
が、コレが遙か後世に書かれた「偽書」だったとしたら?慄然とする話である。
愛知県江南市の旧家、吉田家に保存されていたいわゆる「前野家文書」が見つかった経緯からして出来すぎの観がある。(コレがのちに「武功夜話」の原本となった)
新人物往来社が「武功夜話」として刊行、朝日新聞はじめ歴史学者、そして有名作家が大いに持ち上げたこともあって、戦国時代の研究資料として第一級のシロモノとされた。
が、ここで問題なのは、「武功夜話」の原本となった「前野家文書」がキチンとした史料批判を受けていない点にある。文書が多くの研究者に公開され検討される機会をもつことなく、一部の「権威ある人々」からのいわば「お墨付き」をもらうことで「市民権」を得てしまった。本書はそうした過ちを、いちど「リセット」し、曇りのない視点でもって歴史を見直そうという提言である。少なくとも、僕はそう読んだ。桶狭間の「奇襲」、墨俣の一夜城、信長の雑賀攻め等、この文書を前提とした誤った認識と思われる「史実」は、じつに多数にのぼるのだ。
一部の「識者」の思いこみや、マスコミの無責任な推奨により、人々の歴史意識が歪まされていく・・・怖ろしいことだと思う。一読を乞う。 |
|
|
|
「張学良 忘れられた貴公子」(松本一男 中公文庫) |
|
|
時として、歴史の闇の中に、一瞬の光芒をなげかけ、消え去っていく存在がいる。この人物もそのひとり。
〈張学良氏が危篤 ハワイの病院で〉
とのニュースが、世界を駈けめぐったのは、2001年10月11日のことであった。
<台湾筋によると、9月28日から肺炎のためハワイの病院に入院していた張学良氏(101歳)は、入院直後から意識不明の危篤状態が続き、ハワイ時間10日午前、家族の希望により生命維持装置がはずされた(人民網・台北)>
張学良、この人物の役割は、中国共産党と国民党の共闘、いわゆる「国共合作」の立役者となったことである。歴史はその一点にのみ彼の存在を認め、再び張学良がその姿を顕わすことを赦さなかった・・・そんな風にも思える。
15年戦争を共に生きた「同時代人」ともいうべきヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、チャーチル、ルーズベルト、そしてヒロヒト・・・彼らが逝ったあとも唯一人生き残って歴史を見守ってきた張学良。1世紀を越えて生きた「歴史の証人」は、逝く寸前にアフガニスタンに燃え上がった戦火をどうみたのだろうか?本書は、そんな彼を題材とした小説の一冊である。
ともあれ余りにも長すぎた「余生」の果てに、ようやく得た永久の眠り。その眠りが安らかなものであったことを祈りたい。 |
|
|