秩父と千葉の東大演習林

 東京大学演習林は通常立ち入りが禁止されていますが定期的に一般公開されています。 通常は樹木などの植生を見学するのでしょうが普段では入れない林道やトンネル、 森林軌道跡に興味があったので一般公開日を狙って入ってみました。
 秩父演習林では森林軌道跡の探索を、 また千葉演習林では素掘りトンネルの探索を主な目的として立ち入っています。

 @秩父演習林
 A千葉演習林

 2010年12月
 2011年11月 川又八間橋周辺を追記


(画像をクリックすると拡大できます)

 【秩父演習林】
 

 東京大学秩父演習林は荒川の源流域にあり、秩父湖の西側で国道140号線(秩父街道)より南の 滝川側にある樹木園と、北の入川側にある演習林とがあります。 樹木園については毎年定期的に自由見学日が設けられて開放されています。 そして多種類の樹木について見学・解説が受けられます。

 秋の自由見学日は例年であれば紅葉がちょうどよい時期のはずですが、今年はちょっと早いようでした。

 見学コースの中には滝川軌道跡があり、かつての森林軌道の一部を歩くことが出来ます。 滝川森林軌道は入川と滝川との出合(合流点)の川又から滝川にそって引かれた約5kmの軌道敷きです。

 歩けるのはそのうちの2kmほどで、その間のレールは剥がされていて存在しません。 まくら木もまとめて道の脇に片付けられています。滝川軌道は昭和23年に全線開通し、 昭和44年まで使用されました。

 軌道跡には2箇所ほど切通しがありましたがトンネルはありませんでした。 現地の案内板によれば滑沢近くに滝川隧道が、そしてもう一つ奥のほうにもあるようになっていましたが。
 軌道跡の途中から国道側に登っていって見学コースは終了です。

 せっかくここまで来たのでこの後、単独で入川側の軌道跡に移動しました。

 国道から川又の集落に下りて入川橋の下をくぐるようにして進むと入川林道となり キャンプ場と観光釣り場があります。その観光釣り場から奥が東大演習林ということになり、 ゲートがありますが徒歩では入れます。ここは十文字峠への登山道でもあり、歩くだけならば特に規制はされていません。 ちなみにすぐ手前の観光釣り場の駐車場に車を停めることが出来ます(500円)。

 ゲートからはさらに入川林道が続きます。
 渓谷側には軌道敷きの廃材レールを活用したガードレールのような手すりがところどころにありました。 もともとは川又からのこの林道部分も軌道敷きだったのです。

 約1.5km歩くと分岐が現れ、下に降りていくと十文字峠への登山コースになり森林軌道敷となります。

 分岐を下るとすぐに軌道レールが現れますが、この場所は複線になっており トロッコのすれ違いが行なえるような形になっています。

 そしてこの先は不十分ながらもレールの存在はずっと続き、右側が岩盤、 左側が渓谷という位置を縫うようにして緩やかに赤沢谷出合の終点まで登っていきます。 この軌道の起点は入川と滝川の分岐にある川又八間橋(国道の入川橋の下)で、起点からの 距離は5km以上あったそうです。(先の林道分岐から赤沢谷出合までは2.9km、標高差は150m位です。)

 この軌道敷は昭和11年に赤沢出合まで完成し、木材運搬に利用されましたが その後トラック輸送に変わって使命を終え、昭和44年に一旦は廃止されました。ただ、 上流にある発電所の取水口工事のため再活用されたこともあるとのことです。
 後から知ったことですがこの赤沢谷出合から上部にも2kmちょっとの軌道敷き(赤沢上部軌道:昭和26年開通) があったそうです。現在ほとんど廃状態らしいですが。




(赤沢谷出合にあった森林軌道を説明した看板)

 

 後日、川又八間橋周辺を確認しました。
 国道から下って300mほどのところに観光釣り場の案内とともに木製の橋が架かっています。 これが川又八間橋ですが板敷きの下は鉄骨構造です。 手前にある小屋は「車庫」となっていますので何か軌道関係の車両を保管したところだと思います。 また橋の向こう側にも何かわからない小さな小屋があり、手前にレール材を使用した基礎のような構造物も見られます。

 橋を渡って対岸を見上げるとなんとも古めかしい「便所」が見られますがかつて建築会社の事務所が あったのだとか。そして滝川森林軌道はここから滝川との合流点まで下り、滝川に沿って登っていきます。 この二つの軌道の合流点、つまりこの画像の手前付近は方向転換可能なデルタ線で構成されていたようです。
 

 【千葉演習林】
 

 数年ほど前に房総の林道と素掘りトンネルを探し歩いているとき、 この東大演習林の手前のゲートに阻まれてあえなく退散したことがありました。 猪ノ川林道(郷台林道)といって清澄寺へと抜けていて数本以上のトンネルがあるはずです。 この林道は車両はもちろん、自転車・歩行者に至るまですべての通行が規制されているところです。 今回はそのようななかで貴重な一般公開日を狙っての立ち入りです。

 地形図によればトンネルは7つあることになっています。 亀山湖にかかる黄色い折木沢橋を渡って南下するとやがて最初の素掘りトンネルになります。 手前に比較的簡単なゲートがありますがこの先が東大演習林です。ここまでは当たり前のようにたどり着けます。

 短い素掘りトンネルを出るとこのコースのビューポイントでもある黒滝があります。 黒いナメタキですが落差はそんなにありません。

 滝の近くにもう一つの頑丈なゲートがあります。実はここまではかつて、 先のゲートをすり抜け徒歩で入ってきたことがありますが、このゲートは下に隙間がなく上を越えれば串刺しになり、 脇を通れば川に落ちるという進入不可能なものでした。今回は堂々と先に進みます。

 猪ノ川に沿って続く猪ノ川渓谷なのですが、この時期、天候にも恵まれて素晴しい紅葉を見ることができました。

 林道にはお目当ての素掘りトンネルが次々とでてきます。入口のものから数えて5本ありました。 川廻しのトンネルも見られました。林道は峠を越えて清澄寺へとさらに続き、 トンネルもあと2本はあるはずですが残念ながら今回の公開区間は柚ノ木歩道の下で終わりです。

 このあと山道を登って地蔵峠に出、細いやせた尾根道を1時間ほどかけて三石山観音寺方面へと戻ります。
 この東大演習林は林業やその他の研究のため、古くは明治時代から実験研究が続けられているとのことで、 このためむやみに立ち入りを許すと取り返しのつかないことになってしまうのでしょう。 マナー低下や不法投棄などでいったん失われれば取り返しのつかない事態にもなり、やむをえないことだと思います。

 三石山観音寺に寄り道しました。その名の通り山頂に三つの大きな岩があります。 本殿の裏手に奥の院(縁結びの祠)へと続く岩に挟まれた狭い道があります。 そこをすり抜けるとたくさんのハンカチが結ばれてる奥の院 になります。
 亀山湖までは林道片倉三石線を下りました。なお、草川原隧道に至る林道は崩落のため通行止めでした。

 実は東京大学の所有する土地の99%は演習林だということです。秩父と千葉以外にも北海道、愛知、 伊豆などにありますが、ここ千葉演習林は「演習林発祥の地」となっています。 日本で最初の大学演習林として明治27年に内務省から東京帝国大学農学部払い下げられたそうです。 なお秩父演習林は大正5年の開設です。


 【参考URL】
(1) 東京大学秩父演習林
(2) 東京大学千葉演習林



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