ツ〜ン・・・・アパートの部屋の中で突然すっぱい匂いがしてきた。酢でもこぼれていないかキッチンへいってみても変わった様子はない。スンスンスン・・・スンスン・・・部屋中を嗅ぎまわるけれど、どこが元がわからない。それほど充満していた。ドアの外に出てみたらどこもかしこも異常なほどの酢の匂い。
もしかして冬支度?雪の深いルーマニアでは冬は野菜の種類がグンと減るし市場に出回るトマトなどはトルコやほかからの輸入品。どこの家庭でも冬に向けてこの時期、保存食を貯えるのだった。トマト、ピーマン(パプリカ)、アルデイ(青唐辛子)、カリフラワー、キャベツなどを塩と酢で漬け込んだり、ナスとピーマンとトマトを煮詰めたザクスカを瓶詰めにしたり、ルーマニアのママたちは忙しい。
昼すぎにジオから電話で「今からアズガの両親の家に行くから一緒に来る?」と突然のご招待を受ける。アズガはこじんまりとした街だけど周辺を大きなブチェジ山や森が取り囲んでいて景色がいい。しかも今は紅葉の彩りも美しかった。アズガにはスキー場があるのだけどヨーロッパ一の難コースといわれる急勾配で、ここで国際大会も開催されるのだそう。
ジオのパパが車で山を案内してくれる。山のふもとの街ならではの水源を生かした地ビールも美味しいらしい。ジオはあと数日で音楽留学のためにフランスへ旅立つ。そんな我が子のために愛情込めたママの手料理はチョルバ、アヒル肉のグリルにポテトピューレとトマトソースがけ、フルーツコンポート。今までいろんな家庭でおご馳走をいただいたけれど、ジオのママの料理は総じてエレガント。フルーツコンポートは白ブドウ、リンゴ、洋梨、黄桃をやわらかく煮てシナモンとバニラで風味付けしたもの。ふうふうしながらズズッと飲むと美味し〜い。果物がべらぼうに高い日本では材料代いくらになる?なんて考える。ルーマニアの田舎ではあっちこっちに余るほどフルーツが実っているのだ。
ルーマニアの歌手で誰が好き?という話になって私がマルチェル・パヴェルが好きだというと直筆サイン入りのCDをくれた。ジオが彼のフルート伴奏を務めた時にもらったものだそうだ。そしてルーマニアの実力派歌手が集う2000年ニューイヤーコンサートのビデオを見せてくれた。聞くところによるとマルチェル・パヴェルの人気はちょっと下火になってきているという。日本で歌わないかとオファーがあったそうだけど断ったそうだ。歌うときの顔はいっちゃっててとんでもない表情だけど声はとてもいいのだ。特にオペラが好き。メルシー・フルモ〜ス、ジオ。