「どうしてルーマニアにいるのですか。ルーマニアの何が好きですか」と訊かれて人が好きで写真に撮りたいというと、ふう〜っと息を吐いて口を歪めた。「ルーマニアにはジプシーがいるでしょう?彼らは困りものです。できれば殺したい」と真顔で言う。えっ?と聞きなおすと「殺したいです。本当に悪い奴ばかりです。一度は生きるチャンスをあげてもいいでしょう、でも罪を犯したら死刑にしたいくらい」お役人にしては辛辣なご意見だ。
私にもジプシー系の友人がいる。家族ぐるみの付き合いだけど皆いい人達だ。私の友人の名はマリアン、奥さんはミハエラ。彼は仕事で今、夫婦揃って日本に住んでいる。お父さんはアコーディオン奏者でお母さんは専業主婦、お兄さんはブラジルのオーケストラ団員でお姉さんは靴屋を経営している立派な家庭。毛色で一つのジプシーにまとめられては気の毒だ。
それを話すと「仕事がある人はいいのです。仕事のない人は・・・そのぉ・・」と言いにくそうに手をモジモジさせる。ツァプツァラップ(くすねる)ですか?と言うと吹きだして「珍しいルーマニア語をご存知ですね」と笑った。
ブカレストでは地下鉄でキップ代を払う横からサッとお金を奪い取って下水溝の寝ぐらに逃げ込んでいく子供達がいる。いわゆるマンホールチルドレン。宗教上、貧しいものには与えなさいという考えがある。ジプシーがお腹がすいている自分は恵まれるべきなのだという解釈(働かないから金がない自分が悪いことはさておき)でツァプツァラップしたとすれば法の裁きも変わるのだろうか。いいも悪いもツァプツァラップの範囲は広い。
純潔ルーマニア人と自由人のジプシーは大きく違うけれど同じ国民。統一のルールのもと一つの土地で生きるのは難しそうだ。いつもそうなのだけどジプシーの話題は私から始めるのではなく先にルーマニア人の口から出るのであった。