din ROMANIA 〜ルーマニアからコンニチハ

6.Aug

本日より2泊3日、クルージュへ。

日本では夜型生活で朝起きが苦手だった私もルーマニアでは6時間遅れの時差が幸いして早起き人間になった。今日はクルージュへ出発だ。

目覚まし時計無しで8時起床。タクシーで駅に向かう。気のいい運転手さんは「ドゥルム・ブン(道中お気をつけて)って日本語ではどう言うの?」と訊くので「いってらっしゃい」と教えた。耳慣れない言葉だし、たぶん5分後には忘れているだろう。

駅の出発案内板にクルージュ行きが表示されていない。近くにいた女の子に訊いたら私の代わりに窓口まで尋ねに行って「LINIA4から出発よ」と教えてくれた。

ホームで待つ間、人々を眺める。ルーマニアの人たちはクロスワードパズルが大好きだ。周囲の他人まで覗き込んで解いている。赤ちゃんをあやす若いママに「まぁ何て可愛い娘でしょう」と話し掛けるお婆ちゃん、犬と遊ぶ子供、木彫りの民芸を広げた土産売り。ルーマニア語のアナウンスがあり何を言っているかは聞き取れなかったが直後に列車が入ってきた。

私の手に温かいものが触れる。振り返るとホームの番号を教えてくれた女の子が「この列車よ」と私の手に触れていた。わざわざ教えにきてくれたのだ。ぬくもりと笑顔に満ちた親切がとても嬉しかった。

大きなリュックを背負って列車内の通路を歩くのは大変で汗をかきながら人を交わしていると、お婆ちゃんが「あらまあ大変だこと」と笑う。指定のコンパートメントには既に7人がいて私の席には女性が座っていた。お互いキップを差し出すと同じ番号。大雑把なルーマニアらしいトラブルだ。一人の若い男性が「はぁぁ、ルゥマ〜ニア」と呟く・・・。

一つ空いていた席に私は収まり電車は動き出した。キップコントロールが来て女性は事情を説明しようとしたが無関心。どうやらキップを持たないで乗ったオヤジたちと通路で言い争いの最中で、チャキチャキッとキップを切ると出て行き、また口論に戻ったのだった。

なだらかな丘が続く風景のところどころに民家の集落があり、その中央には必ず教会の屋根が一つ突き出している。砂利道をカラフルない色合いの人々が歩き、線路沿いの道に置かれたベンチには民家の塀から伸びた葡萄のツルが影を作っていて年配の女性たちが座って会話をしている。トウモロコシ畑とウイキョウの黄色い花。晴れ続きで空気がけむっているけれど美しい牧歌的な風景が流れていく。観光局からもらったパンフレットに書いてあった「ルーマニアの豊かな自然あふれる風景に心を癒されることでしょう」というフレーズに間違いはない。うむうむ。

トンネルに入ると灯りは一つも無く昼間だというのに真の闇になる。日本では夜でも街灯が部屋に漏れたり、どんなに遮光したつもりでも目が慣れると明かりを感じるけれど、ここは真っ暗だ。そんな状況で二畳ほどのコンパートメントに8人もの人間が座っている。たまらず誰がプッと笑って喋り出した。どこに住んでいて何処へ行くのか、自分の家族のことや将来のこと、今ある問題など。みんな素性がわかると席を立ってどこかへ行ったり眠ったり警戒は無用だった。以前は置き引き、睡眠薬入りのジュースやアルコール類を薦められて寝ている間にドロンされてしまった、なんて話をよく聞いたけれど。

坊主頭みたいな丘が連なる景色には人っ子一人見つからない。それを眺めながら「あの丘のてっぺんに行きたいなぁ」と思っていたところ、突然駅でもない丘の谷間で列車が止まった。走行のガタゴトいう騒音は消えて虫の声に替わり、暑かった列車内に涼しい風が吹き抜ける。15分ほど停車している間ひとときの風景を楽しんだ。おそらく到着時刻はズレ込むだろう。 クルージュが近づくにつれ雲が重たくなっていく。

30分遅れでクルージュに到着。途中の陽気がウソのように雨が降っていた。
「ハーイ!」。傘を差したクラウディアが駅で待ってくれていた。初対面なのに何故か彼女だと判る。クラウディアはルーマニアをキーワードにインターネットで知り合ったT氏の恋人で、私の知っている範囲のルーマニア女性はすこぶる活発なのだけれどクラウディアはしとやかな女性だった。私たちは年齢が近いせいか昔からの友達かのように気楽に話ができたのだった。