昼、彼らの姿が消えた隙に私のゴミを捨てる。そのあとでイウリウ・マニウ通りにあるITセンターに出かける。というのも自宅でインターネットの接続ができなくなったため。このITセンターは武蔵野市がブラショフ市民のために立ち上げたものでインターネット、ワード、エクセルの操作などパソコン全般を教授している。決して日本人旅行者のためのITよろず相談所ではないのだけど厚かましく、お邪魔する。そのあとCDR-Wディスクを買おうとITセンター近くのコンピューター専門店『PROCOMPUTER』に行くと扱っていないとのこと。どうやらブラショフで販売している店はあんまり無いらしい。『2NET
COMPUTERS』にならあるだろうということで道を尋ねながら、ようやく探しあてた。一枚60,000レイ(約240円)日本より高い。この店ではドル表示で当日のレートで換算してレイで支払う。ついでにCDR-Wドライブも欲しいので値段を尋ねると「毎日違うから要チェック」とのこと。モニターを買ったのが予定外の出費だったから今は諦める。
明日のクルージュ行きのために列車のキップを購入しようと『CFR』へ。中に入るなり、お婆さんが「お金をくれ」と寄って来た。それを避けて窓口に並ぶ。お婆さんは私についてくる。それを振り切ろうと私は違う窓口へ行った。それでも私についてくる。ほかに幾らも人はいるのに私を選ぶのだ。
確かに遠出の旅をする金を持った人が集まる場所なのだから、ここで稼ぐのは効率が良いだろう。ここでは金ありますと証言しているも同然だから無視しにくい。子供の物乞いには将来働く気が失せてはいけないから渡さないけれど年寄りは働こうにも、どうにも出来ないのだろうと思いポケットにあったコイン全部をお婆さんの手に乗せた。しつこかったお婆さんはお金をあげたら即その場を去っていった。残念ながら、お礼の言葉はなかった。
それから10分後、ちょっと高めのシロモノが売られているノンストップの雑貨店「LUCA」の前を通りかかると入口に座っている母子が「金をくれ」と声を掛けた。スタスタ歩いて過ぎると息子のほうが「ヘイ、ヘイ!金ちょうだい」と追ってきた。
スタスタ、スタスタ・・・・・「ヘイ!ヘイ!ヘ〜イッツ!!」。
しつこい。私じゃないといけないのか?バス停まで追ってきたところで母親が息子を呼び戻した。まったく、親が子供に変なシゴト教えてんじゃないゾと思ったが、もしかして病気とか何かやむをえず働けない事情があるのかもしれない。しかし、まだ子供だから働き口が無いということはない。新聞売りをしている少年少女を見かけるのだ。
用事は済んだし疲れを感じたので帰ろうと思ったところで急に甘いものが食べたくなった。材料を一から集めて作るより買ったほうが早いと思い、バス停のそばのお店でケーキを買った。甘いパン類は安いけれどケーキとなると値が張る。包みを抱えてバスを待つ。
目の前にスッと手が出た。手にはコインが乗っている。目線を上げると男が無言で立っている。その手にコインを乗せろという合図だ。無視した。贅沢品であるケーキを手にしている私が無視するのは心底、嫌な気分だった。行く先々、いや、その道すがらでさえ金をくれと誰か寄ってくる。いい加減、勘弁して欲しいと思った。とどめのこの男のおかげでドッと疲れに襲われた。
疲れを感じながらアパートに辿り着くとジプシーがいて、またゴミ捨て場を荒らしていた。
私は自分の出したゴミを思い出しゾッとする。
買い物をしたレシート類、使用済みの生理用ナプキン、スイカの食べカスは嫌な臭いを出していたっけ。