吉奈温泉


 奈良時代に行基が発見したと言われる吉奈温泉は、子宝の湯として知られています。山間にある温泉には、「さかや」「東府屋旅館」の2件の旅館しかありませんが、いずれも創業400年の歴史をもつ味わいある旅館です。温泉街もありませんが、それだけに素朴な自然と吉奈川のせせらぎの中で、長い歴史に思いをはせ、昔も今も変わらぬ風情を感じながら静養できるような気がします。

【東府屋旅館】
吉奈温泉・東府屋旅館

 東府屋旅館は、400年の歴史をもつ風情ある旅館です。今から400年前、徳川家康公の側室お万の方がこの地に滞在し、家康公がしばしば訪ねたことに由来し、この旅館名が付いたと言われています。また、この旅館は志賀直哉をはじめ、多くの文人墨客が滞在し、最近では巨人軍選手たちがオフシーズンに滞在することでも知られています。旅館のロピーには巨人軍選手の色紙が沢山飾ってありました。今回滞在した客室は「天城の間」と呼ばれる、吉奈川沿いの別館角部屋であり、広く清潔感ある部屋と風情ある浴室が大変魅力的でした。新しい中にも長い伝統に培われた「和風旅館の粋」が感じられ、高い満足感を得ました。お風呂は大浴場、露天風呂(男性用1 女性用2)、家族風呂がありますが、特に露天風呂は川沿いの森の中にあり、野趣満点の広いお風呂でした。お湯は透明・マイルドであり、子宝の湯に相応しく、体に大変やさしい感じです。夕食は「いのしし鍋」「キジ鍋」「山菜焼き」からの選択となり、「いのしし鍋」を楽しみました。いずれも魅力的な名物料理のようです。
 旅館の近くには、行基が建立したと言われる子授けの寺
「善名寺」があります。また、吉奈温泉を起点に、湯ヶ島温泉、いのしし村、浄蓮の滝、修禅寺等、天城の見どころを周遊することもできますが、「川のせせらぎを聞きながら、自然と一体になって子宝の湯で静養する」、そんな味わい方がこの温泉に最も相応しいのではないかと感じました。

 天城の山々が雪化粧した冬の平日に再び東府屋を訪れました。冬のウィークデーということで宿泊客は少なく、静かに過ごすことができました。秋冬平日限定のインターネット特別プランのため、客室は別館庭園側のこじんまりとした10畳間
「宇月の間」でしたが、川の音が聞こえないため、却って静かであり、雪化粧した庭園と借景の山々を客室から美しく望むことができました。夕食・朝食とも部屋でゆっくり味わうことができました。ゆっくり静養するには冬場がお勧めかもしれません。

【御宿さか屋】[NEW]

さか屋玄関 本館 ロビー 渡り廊下
岡本太郎ギャラリー 鐘打荘 鐘打荘・霜の間
鐘打荘・霜の間 客室露天風呂 客室・内風呂

 東府屋旅館のすぐ向かいにある御宿さか屋は、元造り酒屋で創業400年の歴史ある旅館です。古くは徳川家康の側室、お万の方(養珠院)様が滞在されたことで知られ、当時使用された部屋の梁二本、雨戸六枚、障子六本を館内に残し、1棟を「養珠亭」と命名しているようです。 近年では黒澤明監督や岡本太郎氏等の著名人に愛された旅館として知られており、館内廊下には写真や色紙が展示されています。特に岡本太郎氏と先代館主殿との親交が深かったとのことで、玄関上の2F会議室は岡本太郎ギャラリーとなっていて、数々の作品が展示されています。
 この旅館には、小学生の時に家族で一度宿泊したことがあり、名物大名焼きを食べたことが強く印象に残っていました。今回30年ぶりに訪れることができました。本館でチェックインを済ませ、ロビーから階段を上り、昔ながらの木造の渡り廊下を歩いて、川の対岸へ移動すると、そこに鉄筋6Fの
養気楼という建物があります。エレベータで5Fへ上がると、養気楼の左側に「鐘打荘」、右側に「館山荘」という木造2階の離れがあります。養気楼の5Fが、それぞれの1Fになっています。地形の高低差があり、高台に離れを建てたため、このような構造になっていると想定します。
 滞在した客室は、
「鐘打荘」の一番奥にある5Fの520号室(霜の間)です。昔ながらの木造建築の客室に、レトロなタイル張りの内湯浴室と広縁の木造のベランダ、和風庭園と小さな長方形の総檜造りの露天風呂が付いています。お湯は源泉かけ流しで、常に流れ出ているのが客室内から見えます。ベランダの木造ガラス扉やテーブル・椅子は、昔ながらの雰囲気であり、とても風情があります。美しい庭園と紅葉した美しい山々を見ながら、露天風呂に浸かっていると、何とも言えない満足な気分になります。お湯は、透明マイルドでほのかな香りのある、体に大変優しい感じのお湯です。
 客室でゆっくりした後、館内のお風呂巡りをしました。まず、内湯は、養気楼3Fの
「太郎さんの湯」と、4Fの「お万さんの湯」があり、夜朝で男女入れ替え制になっています。太郎さんの湯は、岡本太郎氏がデザインしたお風呂であり、瓢箪型のモダンなタイル張りの湯船と、木造の小さな湯船の2つがあります。前者は温めのお湯になっています。お万さんの湯は、タイル張りの大きな湯船が2つあり、1つが温めのお湯になっています。浴室と繋がっている露天風呂「オリオン座風呂」には、石造りの湯船があります。屋根のないエリアには寝湯があり、温めのお湯に浸かりながら、夜空や山々の自然を望むことができます。露天風呂は、この他に3つあります。まず、養気楼2Fには、つげの木で造られた長方形の露天風呂「白藤の湯」があります。温めのお湯で、春は藤の花を眺めながら入れるとのことです。(この露天風呂を貸し切ることのできるプランも設定されており、15時〜16時の間は貸切となっていました) 養気楼5F(鐘打荘1F)には、貸切露天風呂「はなの湯」「酒樽の湯」があります。このうち、「はなの湯」に入りました。小さな楕円形の木造の湯船から、山々を望むことができます。高台にあり、屋根がなく、遮るものが少ないため、抜群の眺望と開放感があります。雨天時でも入れるよう湯船の隣に傘が備え付けてありました。
 食事は夕食・朝食とも、館山荘2Fの大広間「大丸」で取りました。館山荘は昭和28年築の銘木建築の風情ある建物で、特別室の客室があります。夕食は、岡本太郎氏や命名したという大名焼きを楽しみました。大名を模したかつらと衣装を纏い、城郭風のこん炉で猪肉・牛肉・野菜を焼いていただきます。他に蟹や刺身等、美味しいメニューを楽しみました。朝食は、鍋焼きうどんや、こんにゃく田楽、蟹味噌汁等のヘルシーなメニューでした。(夕食は、大名焼き、猪鍋、創作会席料理から事前予約で選択できるようになっています)
 元造り酒屋らしく、客室には、さか屋と書かれた徳利に入ったお酒が届けられていました。とても飲みやすい美味しいお酒であり、楽しんだ後、売店で購入して帰りました。良質のお湯と美味しい料理、女将さんを初めとしたスタフの暖かいサービスに大変満足して、旅館を後にいたしました。

 

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