鉛温泉


藤三旅館本館

藤三旅館・本館

藤三旅館客室

宮沢賢治童話館

藤三旅館・本館 藤三旅館・本館客室 宮沢賢治童話村

【藤三旅館】
 鉛温泉は、500年の歴史のある、昔ながらの湯治場の雰囲気を持った温泉です。この当りは花巻南温泉と呼ばれ、鉛温泉、新鉛温泉、大沢温泉、志戸平温泉といった一軒宿の古い温泉が点在しています。鉛温泉の一軒宿・藤三旅館は創業500年と言われる古い温泉で、湯治部と旅館部に分かれています。新緑美しい初夏の週末にこの温泉を初めて訪れました。

 JR東北新幹線の新花巻駅から車で走ること約40分、山間の旧道から下った川沿いに藤三旅館はありました。旅館部は左、湯治部は右という標識に従い、左に下りると、昭和17年建築の重厚な木造3階建ての旅館部・本館の建物が現れました。旅館部の建物の下をくぐり、湯治部との間の駐車場に車を止めた後、館内に入ると、重厚で黒光りのする古い廊下・階段が目に入ります。右手には昔ながらの帳場風の事務室があり、歴史ある湯治場旅館の雰囲気です。素朴で親切な係りのお兄さん達が出てきて暖かく迎えてくれました。伝統旅館にありがちな敷居の高さは全くなく、とても入りやすい雰囲気です。湯治場ということで1人客も少なくないようで見かけましたが、1人でも家族でも気兼ねなく滞在できる感じがします。

 滞在した客室は本館2階の10号室です。トイレ・洗面のないこじんまりした6畳間ですが、窓や天井等昔ながらの風情満点の客室です。窓からは今入ってきた正面玄関が左下に見える、山側の客室です。(本館客室は山側と渓谷(川)側に分かれています)川の音も車の音もなくとても静かに過ごせる客室です。

 お風呂は、湯治部に白猿の湯(混浴、女性専用時間を設定)、桂の湯(男女)、河鹿の湯(男女)、旅館部に白糸の湯(男、女性専用時間を設定)、龍宮の湯(女、男性専用時間を設定)の5つがあります。お湯はいずれも100%源泉かけ流しの効能豊かなもので、透明でマイルド、ほのかな香りがあります。全く加水しないので、全般的に熱め(源泉57度)ですが、体にやさしく、心地よいお湯です。一度入ると1年間風邪を引かないと言われていますが、決して濃厚ではなく、さっぱりした湯質です。また、どのお風呂も清潔感があり、白猿の湯以外は、広いスペースにシャワー付の洗い場が完備されており、快適に湯治を楽しむことができます。

 夕食前は先ず湯治部の湯巡りをしました。最初は「桂の湯」。最近リニューアルされ、真新しく全体に明るい雰囲気です。お風呂は、岩をくりぬいたような感じの内湯と川を望む露天風呂が2つです。お湯が熱めで、(子供連れのため)内湯には入れず、自然に冷まされ入りやすい温度になった2つの露天風呂に入りました。いずれも川の清流を望めますが、川沿い側の小さな露天風呂は、すぐ下が川で、新緑の山々や川の清流との一体感を味わうことができます。
 2つ目は、この温泉の代名詞にもなっている「白猿の湯」。「桂の湯」の前にあり、リニューアルされた真新しい廊下から扉を開けると一瞬にタイムスリップしたかのようなレトロな異次元空間が現れます。昔ながらの湯屋造りの高い天井と石造りの広大な浴室、浴室内に一体化した2ヶ所の脱衣場とそこへ下りる長い石の階段、浴室全体が貴重な温泉文化財と言って過言ではない位、重厚で昔ながらの湯治場のムードが満点です。湯舟は、非常に深く、最も深いところで1.25mあると言われています。立ったまま入ることになるため、血行を促進し、体に良いと言われています。湯舟は2つあり、1つは源泉そのままの熱いお湯、もう1つは水風呂です。深い湯舟に立ったまま入り、高い天井のレトロな湯屋を見上げていると、何ともいえない豊かな気持ちになります。
 3つ目は、昔ながらの湯治部客室を通り抜けた奥にある湯治部浴室「河鹿の湯」。入口の木造りの扉はレトロな雰囲気ですが、浴室と湯舟は広く明るく清潔感あるタイル張りです。お湯はやはり熱めで、窓からは川を展望することができます。

 夕食後に、本館2階にある旅館部・殿方浴場の「白糸の湯」に入りました。やはり川を展望する場所にあり、レトロな雰囲気ですが、広く明るく清潔感あるタイル張りのお風呂です。立地的に窓からの風で冷まされるためか、熱めではありますが少し入りやすい感じでした。また、翌日朝食後に、本館1階にある旅館部・婦人浴場の「龍宮の湯」に入りました。「白糸の湯」の真下に位置し、川の清流や滝を望むことができます。お湯は5つのお風呂の中では、一番温めで、入りやすいお湯でした。

 食事は、夕食・朝食とも部屋食で、山菜と魚中心のとてもヘルシーなメニューでした。夕食後に湯治部の売店に立ち寄りました。お菓子・飲み物・土産物から果物・野菜・パン・タオル・衣類・日用品に至るまでコンビニエンスストア以上の品揃えがあり、湯治場の生活感が強く感じられました。「(営業時間は)夜7時までだが、あのお兄さん(湯治客)と話していて遅くなったので、閉めなきゃ。(明朝は)7時すぎに開くのでまた来てちょうだい。」と話していた店のおばあさんの素朴な姿に心を惹かれ、飲み物・バナナ・パンを購入して売店を後にしました。

 鉛温泉・藤三旅館は、昔ながらの湯治場の雰囲気を色濃く残しながら、子供連れでも1人でも快適に温泉を楽しめる旅館と感じました。館内の雰囲気、従業員の方の飾らない親切な対応、お湯の良さ、周りの素朴な自然、そして気軽に泊まれる料金と、大変満足し、また何回か訪れたいという思いを残して、この地を後にしました。旅館から徒歩圏内に鉛温泉スキー場もあり、近場には宮沢賢治ゆかりの見どころも多数あります。盛岡からも車で1時間の距離にあり、日帰り入浴も終日受け付けていますので、温泉と併せて色々な楽しみ方ができそうです。

 温泉に訪れる前にJR新花巻駅に近い、
「宮沢賢治童話村」を訪ねました。賢治生誕100年を記念して造られたこの施設には、「賢治の学校」を初めとして、宮沢賢治の世界を味わえる色々な展示と自然があります。銀河ステーションと名づけられた正門から「賢治の学校」まで銀河鉄道の夜に登場する汽車の形をしたバスが走っていました。



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