バイクパート
佐渡島は、北側の山塊からなる大佐渡、南側の山塊からなる小佐渡、そしてそれを結ぶクビレの部分の平野部、国中平野で構成されている。
したがって、佐渡島には、中央部が唯一の平野部で、あとは、海岸線まで山がせり出した地形となっている。
ミドルディスタンスのバイクコースは、105km。
トランジットエリアのある、クビレの左側から、中央の国中平野を東に向かって、クビレの逆側の海岸線、両津湾まで出てから右折し、あとはひたすら海岸線を走り、小佐渡を時計回りに周回して、スタート地点に戻ってくる、そんなコースである。
ちなみに、ロングディスタンスのバイクコースは、クビレの左側のトランジットエリアから、そのまま海岸線を北上し、大佐渡、小佐渡の両方、つまり島全体を、時計回りに周回する190km(!)のコースである。
バイクのスタートラインを越えてから、サドルに跨り、ペダリング開始。距離が長いので、周りのペースに惑わされないよう、マイペースで行こう。
トランジットエリアを出てからしばらくは、市街地を走る。
島のくびれの平野部を東に向かい、昨日上陸した両津の港を目指して、内陸部のコースを走る。
平野部とは言え、昨日バスに乗って両津港から会場入りした時に分かっていたのだが、結構アップダウンがある。
徐々に、ペダリングという行為に体が順応してきたので、TTバーを握ってスピードを上げる。
すぐに汗が噴出してくるのが分かる。暑い。ギラギラと太陽がまぶしい。
前後に参加者が走ってはいるが、混雑してはいない。
快調に進む。
軽く坂を上り、右にカーブを切りながら坂の上に上がると、眼前に両津港が見える。
島の逆側まででてきたのだ。
海が青い!
20km地点の住吉のエイドステーションは、水の補給も必要ないし、疲れてもいないので、そのまま通過。
暑いので、ボトルの中の水をドンドン消費していく。
空から、容赦なく、夏の太陽が照りつける。
左手に小さな波頭がギラギラ輝く濃紺の海。
天空は真っ青な空と真っ白な雲。
右手は葉っぱが香ってきそうなほど濃緑の山塊。
そんな原色の中を、白く光るアスファルトのコースが蛇行しながら見渡す限り前方へ続き、彼方、緩く登っていく道路が、目を細めたくなるような眩い青空と接して、消えていく。
なんて気持ちのいいコース。
サイコォー!
大声で絶叫しながら、ペダリングする。
33km地点の水津のサービスでは、水分を補給する。
ここで、佐渡島独特のウォーターサービスを知る。
仕組みはこうだ。
エイドステーション手前数百mの地点に、看板とともに、後方に高さ2mほどのネットの壁がついた畳一畳ほどの大きさの箱が置かれている。
参加者は、空になったボトルをネットに向かって、走りながら投げつける。
ボトルはネットに当たり、箱の中に回収される。
こうして、あらかじめエイドステーションに着く前に、余分なボトルを投げ捨てて、ボトルケージを空けておく。
エイドステーションでは、テーブルが並び、手間から順に、アクエリアス、コーラ、水と、種類ごとにそれぞれゾーンわけされている。
ボランティアの学生さんたちが、「アクエリアース!」とか、「コーラ!!」と叫びながら、テーブル越しに、大会側で準備したボトルを差し出してくれる。
自分の欲しい中身の入ったボトルを受け取り、そのままケージに入れて出発するのだ。
それこそ、バイクを降りずに、徐行しながら、ボトルを受け取って、補給を済ませることも可能である。
おぉ〜、なんともカッコいい、素晴らしいシステムではないか。
なにより、大会側で準備した、白地に赤字の専用ボトルがカッコいい。
しかしながら、初参加のわたしは、そんな給水システムであることを知る由もなく、3つのボトルケージに、自分の家から自分のボトルを3個付けて参加しているので、大会ボトルを受け取る空きスペースがない。
当然、そういう人のために、ボトルごとの補給ではなく、空のボトルに、飲み物を注いでの補給もしてくれる。
ボランティアの女学生に空のボトルを渡し、自分の欲しい飲み物を告げる。
TTバーの間の一番飲みやすいボトルには、氷水を入れてもらう。フレームのボトルケージに入れたあと二つのボトルには、アクエリアスと、氷の塊を入れてもらう。
かち割り氷を入れてくれるのが、本当にありがたい。
さぁ、出発。
でも、あのボトル、欲しいな・・・。
再び、絶景の海岸線を走る。
島の海岸線を走る幹線道路際には、ポツリポツリと集落がある。
集落に差し掛かると、家々の、道路に面した玄関が脇に、島の人々が座り込んで陣取り、家族で自転車に乗って走る我々を応援してくれる。
おじいちゃん、おばあちゃん、と子供たちが目に付く。
一斗缶や、タライを木の棒で、カンカン叩きながら応援するスタイルが多い。
53km多田のエイドステーションが近づいてくる。
今度は、ボトルをもらおう。
東京から持ってきた3本のボトルのうち、750mlサイズの一本は、この日のために購入した500円の安いボトル。
これなら、捨ててしまってもいいや。
エイドステーションが近づいてきたことを、道路わきの標識が教えてくれる。
しばらく行くと、左手前方に、ボトル回収ボックスを発見。
ちょっとだけスピードを落として近づき、家から持ってきた500円の空ボトルを、左手でネットに向かって下手投げすると、ボトルは放物線を描きながら、ボックスの中に無事回収される。
エイドステーションでは、TTバーに付けたボトルに、再び氷水を入れてもらう。
もう一本のボトルには、アクエリアスを入れてもらう。
そして、念願の大会ボトルは、氷水入りのやつをもらう。
ボトルゲット。
氷水を補給してもらったハンドルに付けたボトルには、昨日、受付会場で買ったタブレットを入れる。
水に入れると、泡を出しながら、勝手にシュワーッと溶けてくれる優れもの。
ボトルをシェイクする必要がない。
味は柑橘系で、脚の吊り防止に効くらしい。
さぁ、あと半分、がんばるぞ。
エイドステーションを後にして、海岸線をひた走る。
景色がいいので、灼熱の暑さも、脚のだるさも、気にならない。
前方に、また上り坂が見える。
海岸線とは言え、山岳部がそのまま海に接しているので、平坦な路ではない。
上り坂の頂点には、左手の海へ、右手の山岳部からと連なる山塊の末端に穿たれたトンネルの入り口が見える。
スピードが落ち、坂の頂部のトンネルに向けて、ギアをギリギリいわせならが、ゆっくりと登る。
ブラケットの握り、顔を下に向け、重いペダルを下に向かって踏みつける。
見えるのは、白い路面と、自分の太もも。
そして、左手前方から、一斗缶を叩く音。
「がんばれ〜!」
家族総出で応援してくれる。
「ありがとぉ〜」と心の中で叫びならが、ちょっとだけ顔を上に上げて、軽く会釈しながら、応援団の前をゆっくりと通過する。
もうすぐ山頂だ。
トンネル入り口に到着。
オフィシャルが一人、立っている。
「トンネル出口、急カーブ注意です!」
「おう!ありがとぉ!」と叫びながら、トンネルに突入。
涼しい!
ひんやりと冷えた空気に包まれて、下り坂になっているトンネル内を気持ちよくスピードアップ。
前方のトンネルの出口は、青空でいっぱい。
アスファルトの路は、右に曲がって視線から消えていく。
トンネルの出口に差し掛かると、前方に見えるのは、一面真っ青な海!
緩い下りでスピードを上げながら、前方の海に向かって走る。
トンネルを出ると、再び熱気に包まれる。
右にカーブする路に沿って進み、どんどんスピードを上げて下って行く。
その先、眼下に見えるのは、海岸線と、次の集落と、そして緑の山。
嗚呼絶景!
76km地点、小木のエイドステーションに到着。
大会案内のコースプロファイルで、ここから、ゴールに向けて、キツイ登り坂であることを知っているので、ここでゆっくりと休憩も兼ねて補給することを決めていた。
エイドステーションでは、ヘルメットを脱いで、頭から氷水をひしゃくでかけてもらう。
一瞬、頭がシャキーンとする。
ヘルメットを被る。
水分をボトルに補給し、出発する。
エイドステーションを出ると、すぐに「小木の坂」が始まる。
コース終盤で疲れのたまった脚には、かなりキツイ上り坂が延々と続く。
止まりそうなスピードで、意地でも降りるもんか!とジリジリと進む。
時には、蛇行してしまうほど、脚がキツイ。
前を見ても見えるのは、上り坂と、芥子粒ほどの他の参加者。
バイクを降りて、押している参加者もいる。
どこまで登りなんだぁ〜。
容赦なく太陽が照りつける。暑い。頭がボーっとする。
先ほどのエイドで補給してもらった氷水のボトルを頭上で絞り、冷たい水を浴びる。
頭がキリッとして、100mほどの間は元気に登れる。
すぐに頭の熱が再発して、ボーっとしてくる。
しかも、風が前方から吹いてくる。熱風の向かい風。最悪。
先ほどまでの海岸線の気持ちのいいサイクリングとは一点、ゴール前の最後の苦行となる。
命からがら、小木の坂をクリアした後、しばしの下り坂のあとは、再び緩い上り坂に、海から吹きつける向かい風と闘いながら、市街地を走ってトランジットへ向かう。
このパート、景色もイマイチ、スピードも出ない、暑い、一番キツイ区間。
やっと見覚えのあるコースに出る。
宿泊している宿の前を通過する。
幹線道路を真っ直ぐ進み、アーケードの商店街に辿り着く。
この区間は、特に応援がたくさん。
ありがたい。
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