放課後、下駄箱で靴をはきかえていると、晋也が寄ってきた。見るからに緊張してコチコチになっている。
「リラさん…。今日はいろいろすいません」
「何であんたが謝んなきゃいけないのよ。別に悪いことしたわけでもないのに」
「ちょ、ちょっと…。まだ話があるんだ」
「じれったいわね。用があるならさっさと言いなさいよ」
「あの…。いつでも都合のいい日でいいから、ぼくの家に来てほしいんだけど…」
 あたしは上履きを手から落としそうになった。
「あんたが女の子に対してこんなに手が早いなんて意外ね」 
「そんなつもりじゃ…。母がぜひリラさんにお礼がしたいと言ってるし、ぼくもリラさんに見せたいものがあるから…。異世界の話だっていろいろ聞きたいし」
 あたしはしばらく返答につまった。
「いいわよ。こうやってじかに言いに来るなんて、ちょっとあんたのこと見直したかな。もしあんたがこっそりラブレターを忍ばせとくなんてことするようだったら、口もきいてやらないとこだけど。今日はどう? どうせあたしもヒマだし、あんただって今日は何もないんでしょ」
「えっ、今日? 確かに今日は予備校も部活もないけど…」
「じゃあいいじゃない」
「ぼくこれから、自転車をとってこなきゃいけないんだけど…」
「そうだった。確かあんた、家が学校の近くで、自転車で通ってたんだっけ」
 しばらく待ってると、晋也が自転車に乗ってやってきた。
「代わってくれない?」
「ちょっ、ちょっと…。リラさんのいた世界には自転車ってあったの?」
「なかったけど、こないだ光夫から借りて練習したら一日で乗れるようになったわ」
「すごいね。ぼくなんか小学校に入ってから体中傷だらけになるまで練習して、やっと乗れるようになったんだ」
 晋也がしぶしぶサドルから離れると、あたしが代わりにサドルにまたがった。
「さあさあ、早く後ろに乗って。ちゃんと道順教えてね。しっかりつかまってるのよ」
「ほ、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。さ、とばすわよ」
「ナムアミダブツ…」

 それからあたしは力を入れてペダルをこいだ。坂道を猛スピードでかけ下りたり、道路を走る車からクラクションを鳴らされたり、電柱に正面から激突しそうになったり、まあ大変だったけど、こうして見ると自転車ってけっこう気持ちいいものね。
「ちょっとあんた、きゃーきゃー声出さないでよ。恥ずかしいじゃない」
「だってスピード出し過ぎだよ」
「それにいくらしっかりつかまってろと言ったからって、そんなにくっつかないでよね」
「だってしょうがないじゃない。そうしなきゃ危ないんだから」
「もし胸やお尻触ったりしたら、ぶん殴るからね」
「そ、そんなことしないってば! あっ、その角左に曲がって」

 何とかして晋也の家に着いたときには、彼の顔面は真っ白になっていた。
「ほらほら、着いたわよ」
「はひい…。ジェットコースターもここまでこわくないよ。」
「あんたの家、ずいぶん大きくて立派なのね。こういう家見てると、ついついどうやって盗みに入ろうかなって思っちゃうな」
「ちょ、ちょっと、やめてよ!」
「冗談に決まってるでしょ。シーフはやめるって、光夫とも約束したんだから」
晋也に連れられて家に入ると、晋也のお母さんが出迎えてくれた。おっとりとした、育ちのよさそうな感じのする人だ。
「まあまあ。家に女の子が遊びに来るなんて、ほんと何年ぶりかしら」
 そしてあたしを居間に通すと、飲み物とお菓子を出してくれた。
「先日はうちの子が御迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「そんな…。晋也は何も悪くありません。悪いのはあの三人組です」
「いえいえ。晋也はあの通り家にこもりがちで友達が少なかったもので、前から悪い子にからかわれてたんですが、そこまでされているとは知りませんでした。晋也をいじめっ子からかばってくれた人なんて、あなたがはじめてです」
「知らなかったって、どういうことですか。せっかく一緒に暮らしているのに」
「あの子は私たちに余計な気を使わせたくなかったんだと思います。それに主人は病院の方の仕事が忙しくて、なかなか晋也と会う時間がとれないものですから」
「晋也のお父さん…。お医者さんでしたね」
「主人は晋也を医学部に進ませて病院を継がせたいと考えていまして、それで小さいころから晋也を塾に通わせて勉強をさせていたのです。晋也は一人っ子で、一緒に遊ぶきょうだいもいなかったし…。それであの子にはいろんなものを買ってやったのですが、もうちょっと遊ぶだけのゆとりがあってもよかったかもしれませんね」
「勉強ばかりで遊ぶ友達もいないなんて、それでほんとに幸せなんですか」
「…晋也は今までほんとに手のかからないいい子だと思ってたんですが、本人はそういう親の期待をけっこう重荷に受け止めていたみたいですね。塾に行かせても、それがいやだなんて一言も言わなかったし。でもリラさん、昨日あの子は家に帰って来るなり、あなたのことを興奮ぎみにいろいろ話してたんですよ。そのときの晋也の顔は、今までにないくらい生き生きしてました」
「あたしのこと、晋也からどれだけ聞いたんですか」
「ええ。今日あなたに会ってみて、あなたみたいに元気で快活で、まっすぐな子が晋也の友達になってくれるといいなと思いました。これからもぜひ仲良くしてください」
――このおばさん、確かにいい人なんだけど、あたしちょっと苦手だな…。
 そう思っていたとき、私服に着替えた晋也が居間に入ってきた。
「リラさん、ぼくの部屋に来てくれない?」

 二階に上がって晋也の部屋に入り、とりあえず晋也のベッドに腰を下ろして辺りを見渡すと、壁にはアニメのポスターが貼られていた。本棚には参考書から小説やマンガまでいっぱい本がつまっていて、机の上にはパソコンや文房具が並び、ほかにはいろいろな模型が飾られている。
「ちゃんと整理してるじゃない。それにこんな難しそうな本ばかりいっぱい持ってて…。光夫のどっちらかしの部屋とは大違いだわ」
「リラさん、この本見て」
 そう言って晋也は本棚から大きめの本を一冊取り出した。函には「はてしない物語」と書かれている。
「この本はバスチアンという少年が古本屋で見つけた本を読んでいるうちに、この本の中の世界に入って冒険をするという話なんだ。あとこの『ナルニア国ものがたり』も、古い屋敷の戸棚の奥にあるナルニアという国を少年少女が冒険する話だよ」
「あたし、本なんて全然読まないからわかんないけど、この世界にもいろんな本があるのね」
「ぼくはこの本を読んでからずっと、本当にこんな世界があって、冒険ができたらいいのにって思ってたんだ。でも今、こういう異世界から来た女の子が自分と同じクラスにいて、そしてその子がぼくの部屋に来てこうやって話をしてるなんて、夢みたいだよ」
「そんなにいいもんかな。あたしにとっちゃあっちの方こそ普通の世界だったんだけど。それに冒険なんてそんなにいいことばかりじゃないのよ。モンスターと戦ったり、高い山や洞窟で遭難しそうになったり…。まああんなチンピラになめられてるようじゃ、冒険をするには百年早いわね」
「モンスターと戦う…。すごいなあ。どんなモンスターがいたの?」
――だめだ…。こいつ自分の世界に入っちゃってる…。
 辺りを見渡すと、望遠鏡が目に入った。
「ちょっと、これ望遠鏡ね。あたしのいた世界でも、冒険者はよくこれを持ってたけど、これってずいぶん立派なものね」
「そうだよ。ぼく、宇宙のことが好きで、天体観測が趣味なんだ。ここじゃ星が全然見えないけど、田舎の星がきれいで明かりのないところに行くと、星がきれいに見えるんだよ。リラさんのいた世界というのも、ここから見える星の中の一つかもしれないね」
「ふーん、星ねえ…。あたしにとっても、暗いところで方角を知るためには、星のことは知っとかなきゃいけなかったけど」
「すごい…」
「何でこれでここまで感動できるんだか…。ともかくこれは、シーフとして生きてくために必要だったからなの。星を見てロマンに浸るなんて趣味、あたしにはなかったなあ」
「ねえリラさん、盗賊の世界ってどんなところだったの」
「まあね…。あんたには想像もできない世界だわ。うまくいけば大金や財宝をごっそりいただくこともできるけど、そうそううまくいくことの方が少ないくらいだし、運が悪いときにはなかなか目ぼしい収入にありつけないことだってあるのよ。それどころか門番か自警団につかまるかもしれないし、最悪の場合には命を落とすことだってあるんだから。それにシーフというのは一見ギルドをつくって団結しているように見えても、ギルド間の抗争なんてものもあるし、ギルドの中ですら分捕り品の分け前をめぐって争いが起きるなんていうのはしょっちゅうあったわね」
 晋也は黙って聞いている。
「ねえ晋也、あたし最初この世界に来たときには、ここの人たちってあたしなんかから見ると想像もできないような多くの便利なモノに囲まれて、あくびが出そうなくらい平和な生活を送っているように見えたんだ。あんただってちゃんと両親がいて、学校に行かせてくれて家に帰るとおやつを出してくれて、さらにいろんなものを買ってもらえるなんて、あたしから見たら天国みたいなものよ」
 そう言いながらあたしは、胸のポケットから赤いピアスを取り出して両耳につけた。
「リラさん…。ピアスは校則違反だよ」
「でもね、これはあたしが生まれてすぐ両親に捨てられて、シ−ヴズ・ギルドに拾われたときに両手に握っていたらしいの。言ってみればあたしのお守りみたいなものかな。…でもね、あたし、別にシーフとしての生活に不満があったわけじゃないんだ。確かにシーフの世界と言うのはシビアなところだけど、あたしはずっとこれが普通だと思ってきたし。それにシーフというのもね、人からあれを着ろこれをしろなどと指図されることもないし、朝から晩まで窮屈なところに押し込められることもない、何をしようとどこへ行こうと自由、この点だけはシーフという点に満足だったな」
「だったらリラさん、何で今までの生活を捨ててここに来たの? そりゃぼくだって、本とか読んで別の世界にあこがれることはあるけど、ここには家族も自分の生活もあるし、とてもこの世界を捨てることはできないよ」
「光夫も同じことを言ってたわね…。あたし今でもときどき、何であいつ、こうまでしてこの世界に帰りたがったんだろうって思うけど。ここの人たちってそんなに幸せそうにしているようにも見えないし」
「実を言うと、ぼくはリラさんが高校をやめると言ってたという話を聞いたとき、ちょっとだけリラさんのことがすごいと思った。ぼくにはとてもじゃないけど高校をやめるなんて言うだけの勇気はないし、それにぼくなんか勉強をとったら何の取り柄もないから…。もしぼくがシーフになれなんて言われたら、一カ月だってやっていけないと思うよ」
「シーフができるなんて、そんな自慢するほどのことでもないわよ。あんた、もっと自分に自信持てばいいのに。勉強ができる、それだけで十分立派だと思うけど」
「でもぼく、ずっと悩んでたんだ。ぼくは今まで両親や学校の先生に言われるままに勉強してたけど、それが本当に自分のやりたいことなんだろうかってね。その点でぼく、リラさんの何ものにもとらわれない自由なところ、悪いことは悪いとはっきりいえるところにあこがれてるんだ」
「あたし、その『自由』ってどういう意味か、いまいちわかんないんだけど…」
「ねえリラさん、ぼくは最近になってやっとわかったんだ。自分はやはり医者としてつとめてきた父を尊敬しているし、そのあとを継ぐのもひとつの立派な生き方だということがね。ほんとの『自由』っていうのは、こういうふうに自分のやりたいこと、なりたいもの、大切に思うものがある、そういう心を大切にすることじゃないかな。もしそうなら、いつでもどんなところでも『自由』は心の中にあると思うよ。大切なのは、たとえどんな世界でも、そこで自分の気持ちを失わずにいることだよ」
「えっ…」

 あたしが口を開くまでに、少し時間がかかった。
「晋也、あたしの『大切に思うもの』って、何だと思う?」
「何?」
「あたし、光夫に合うまではシーフとしてだれにも頼らず、だれも信じずに一人で生きてきたんだ。そんなあたしに、光夫はあの冒険を通して人を信じる、そして人を思いやることの大切さを教えてくれた。どんなときもあたしを疑ったりせず、あたしのことを仲間として考えてくれた。光夫がこの世界に帰る前の晩になって、冒険のことをいろいろ思い出してたら、そのことにあらためて気づいたの。そしてそれから自分の気持ちを抑えられなくなって光夫のところに行ったんだけど、そこでも自分の気持ちを素直に伝えられなかった。…それ以来そのことがずっと気になって、元いた世界もそこでの生活も、そこで知り合った友達もみんな捨ててここに来たの。あたし、前からずっと夢に見てたんだ。子どもがあたしみたいな思いをしなくてすむような、幸せな家族を持ちたいって。その夢をかなえることができる相手は、光夫しかいないと思ったの」
「なら今のその気持ちをもう一度光夫さんに伝えてみたらどうかな。ぼく、光夫さんってまだ会ったことないけど、いきなり別の世界にとばされてもそこを冒険して帰って来るなんて、すごいと思うよ」
「…あんたって優しいんだね。あたし、どうすれば光夫やあんたみたいに人に対して優しくなれるんだろう。特にここに来てからは、いつも人に何かしてもらってばっかりで…」
「その気持ちだけで十分だよ。おとといだってぼくを助けてくれたじゃない」
「…ありがと、晋也。…でもあんたってほんとにヘンなやつね。せっかく自分の部屋に女の子を連れこんどいて、こんな説教話ばかりするなんて」
「だったらどうすればいいの? ぼく、今まで女の子とつきあったことなかったから、何すればいいかわかんなくて…」
「またそんな辛気くさい顔しちゃって。そんな顔してるから彼女できないんだよ。ほらほら、顔を上げて」
 晋也があたしの方を向き直すと、あたしはすかさず彼の顔からメガネをひったくった。
「あんた、メガネとったらなかなかいい顔してるじゃない。いっそコンタクトにしたら?」
「か、返してよ! ぼくって近視なんだから」
 晋也がメガネを取り返そうとすると、あたしはふざけて手でメガネを高く持ち上げた。晋也が無理に手を伸ばすと、いきなり体勢を崩してあたしの方に倒れかかってきた。あたしがベッドにしりもちをつくと、晋也があたしの上にのしかかるような感じになった。…気がついてみると、あたしの唇の上に晋也の唇が重なっていた。
――やだ…。こいつ相手に何ドキドキしてるんだろ、あたし。
 やがて晋也が顔を上げた。彼はまだぼんやりしている。
「ちょっと…。早くどいてよ」
「ぼ、ぼく…。はじめて…キス…」
「バ、バカ! 変なこと言わないでよ。いいかげん目を覚ましてってば」
 晋也がやっと我に帰り、あたしから離れてメガネをかけ直すと、ドアが開いて晋也のお母さんが入って来た。
「何やってるの。部屋の中でバタバタして」
「い、いや、何でもないんです…。ね、晋也」
「そう? でも話もいいけど、もう遅くなるからリラさんを帰した方がいいんじゃないかしら。駅まで送っていきなさい」

 並んで家を出て、すこし離れて歩いた。あたしは制服に通学カバン、深夜は私服とちぐはぐな取り合わせだが、それ以上にあたしと晋也の間には気まずい雰囲気が流れていた。やがて晋也がばつが悪そうに小声で言った。
「ごめんなさい、リラさん…。わざとじゃないんです」
「そんなことくらいわかってるわよ。あんたみたいな甲斐性なしに、わざとあれだけのことする度胸があるわけないじゃない」
 晋也はまた黙ってしまった。
「あんたねえ、もうちょっとぴしっとしたら? あんたってただのガリ勉のオタクかと思ってたら、ずいぶんいろんなこともやってるし、話だってわかるみたいなのに。それにね、こんどああいう連中に何かされたら、こう思ってやればいいのよ。自分だって女の子を部屋に連れ込んでキスすることくらいできるんだってね」
 晋也はしばらくうつむいていたが、やがて恥ずかしそうに口を開いた。
「…あの、リラさん、今度一緒にプラネタリウムに行かない?」
「プラネタ…? 何よ、それ」
「丸い天井があって、そこに星の形をした光が映し出されるんだ。きれいだよ」
「何だかよくわかんないけど」

 そうやっているうちに駅前に着くと、でばったり光夫に出会った。
「リラ、何やってるんだ、こんなところで」
「げ…。光夫」
「あなたが光夫さんですね。リラさんから話は聞きました」
「お前が話してた晋也ってこいつだったのか。それにしても盗賊娘に病院のおぼっちゃん…。ずいぶん妙な取り合わせだな」
「相変わらず口が悪いんだから…」
「すいません、光夫さん…。ぼくは帰ります」
 そう言って晋也はすごすごと引き下がろうとした。
「ちょっと、晋也、どうしたのよ、いきなり…」
 あたしに呼び止められると、晋也は振り向いた。
「ぼく、今光夫さんを見てると、やっぱり光夫さんじゃなきゃリラさんにはつりあわないのかなあって思って…」
「そんなことないよ。だったら何で今日、あたしを家に誘ってくれたわけ?」
「ふーん。どうりで仲がよさそうなわけだ」
「ち、違うんだってば!」
「そ、そうですよ!」
「でも光夫、これから晋也とは毎日学校で顔を合わせるんだからね。そういうことばかり言ってると、ほんとに晋也に乗り換えちゃうかもよ」
「えっ、これから毎日…ということは、リラさん、高校やめないんだね!」
「当たり前じゃない。やめるわけないでしょ。せっかくあんたみたいな面白いやつがいるのに」
「面白いやつ…」
 晋也は複雑な表情を浮かべた。
「ねえ晋也、さっき『自由』ということばの意味を教えてくれたでしょ。そのときわかったんだ。みんな…そして光夫自身が自分の世界で自分なりに一生懸命生きてるんだってことがね。そしてそれを受け入れることができたら、今までのもやもやした気持ちがとれて、すっと気持ちが楽になったの。そうなると今まで変に意地を貼ってた自分が急にばからしくなってね。あんたの言ってた『自由』って、そういう意味だったんだね」
「リラさん…」
「そのかわり、晋也、勉強のわかんないとこ教えてくれない?そしたら今度プラネタ何とかにも一緒に行ってあげるから」
「え、ええ、もちろん…。ありがとう」
「勉強のことだったらおれにも聞きに来い。多少なら教えてやれるから。…でもよかったよ。何とかリラが元気出してくれて」
「…あの、すいません、光夫さん。出過ぎたまねをしたでしょうか」
「いや、おまえにはお礼を言いたいよ。まあこれからもこいつがいろいろ迷惑かけると思うけど、そのときはよろしくな」
「あんた、いつからあたしの保護者になったわけ?」
「いいじゃないか、リラ。おまえ、ここに来てから変に身構えすぎてたんじゃないのか。もっと肩の力を抜いて自然にすればいいのに」
「そうかもね…。光夫」
「リラ、やっぱりおまえにはそういう笑顔が似合ってるよ。落ち込んだおまえなんて、おまえらしくないもんな」
「そうですよ、リラさん」
「ありがとう…光夫、晋也。…そしてみんな」



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