ラリー・コーエンのストーリー・テラーとしての手腕は『刑事コロンボ』の数々の傑作(原案を担当)からうかがい知ることが出来る。特に『別れのワイン』はシリーズ中1、2を争う傑作である。
しかし、監督作となるとどうしたことか、破綻を免れない。ブッ飛び過ぎているのである。
出世作である『悪魔の赤ちゃん』は手堅くまとめた方である。
しかし、続く『ディーモン/悪魔の受精卵』あたりから破綻が始まる。「神のお告げ」を受けた者が無差別殺戮を繰り広げる前半は、電波系とカルト宗教を連想させる展開で興味深い。ところが、後半で突然UFOが出現し、今までの物語がすべてうっちゃられて、エイリアン・アブダクションものへとシフトチェンジしてしまうのである。この展開には驚いた。まるで行き当たりばったりで脚本を書いているかのようである。
そして、コーエンの物凄いところは、その破綻が心地よいことなのである。あまりにもブッ飛んだ破綻の仕方に、ついつい引き込まれてしまうのである。
『空の大怪獣Q』もまたしかりだ。謎の連続殺人事件を描いた前半が全てうっちゃられて、後半で怪獣映画になっちまう。
つまり、ラリー・コーエンという人は確信犯なのだ。エド・ウッドや水野晴郎は破綻が判っていないで書いている。しかし、コーエンは判っていて書いている。これは大きな違いである。
彼の目的は観客を驚かせることのみ。それに尽きる。そうでなければ、いったいどうしたらアイスクリームが人を喰う『スタッフ』のような無茶苦茶な物語が書けるというのだ。
『スペシャル・エフェクツ/謎の映像殺人』も注目すべき作品である。
落ち目の映画監督が主人公。彼の趣味は自宅の寝室に売れない女優を招き、ナニを盗撮することであった。ところが、或る女に隠しカメラを見破られて、
「出歯亀、ヘンタイ、田代まさし」
となじられたのに憤慨して、カメラの前で彼女を絞殺してしまう。
で、普通なら犯行の隠蔽を巡るミステリーになるところだが、そうはしないんだなあ、コーエンは。なんと、この主人公は撮影した殺人フィルムをもとに事件のドキュメンタリーを製作し、再起を図ろうとするのだよ。こんなこと普通は思いつかないって。
例によって矛盾は満載だけど、いちいち説明していると面倒なので全てはしょって、殺した女とそっくりの女を探してきて、再現ドラマを撮影するあたりからヒッチコックの『めまい』が入って来て物語はどんどんと転がり、ラストで殺人フィルムをうっかり破損してしまったことから、もう一度本物の殺人フィルムを撮るためにそっくりの女を殺そうとするという.....。後から考えると、
「そんなバカなッ」
ってな内容だけど、観ている時はどんどんと引き込まれて眼が離せない。
ラリー・コーエンはホント天才的なストーリー・テラーである。どうしてこの人がもっと評価されないのか、不思議でならない。
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