展覧会の紹介

     2002年7月23日(火)−28日(日)
コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階)
 まず、執筆が大幅におくれたことをおわびします。

 作者は、札幌在住の版画家。作品は木版モノタイプです。

 これまでは、三角形や、ドーナツ型など、シンプルな形のなかに、どこか日本的な薫りのする色彩や飛沫が展開する、落ち着いた作風でしたが、近年は、形を取り払い、画面全体に、微妙にうつりゆく色が広がる作風に変化しています。

 渋谷俊彦展の会場風景形がなくなり、色だけになったときに持ち上がる抽象的な平面作品の難点は、作品が壁紙のようになってしまいがちなこと。そこで、作者は、パターン模様の反復や、規則的なグラデーションを避け、まるで雲に着彩したような、なんとも形容しがたい落ち着いた色合いを展開しています。むやみにたくさんの色をもちいるのではなく、青と黄緑、黄色と茶色など、主軸となる色が作品によってきまっているのはもちろんですが、パッと見よりはたくさんの色がかくされているようです。

 今回の個展の特徴として、これまですべて無題だった作品に「花あかり」「朝霧」「森の鼓動」「入り江の記憶」といったタイトルがつけられていることがあげられます。

 「これは、賛否両論でした。見る人に最小限のヒントのようなものをあげたいと思って」
と作者は言います。もちろん、抽象作品ですから、実際の入り江がかかれているわけではありません。制作にあたって、着想のもとになったモティーフはあるそうで、たとえば黄色いが主調の作品は、この春札幌に降った黄砂が出発点になっています。とはいえ、それを知らなくても、作品に接するにはなんら不都合はありません。

 そうやって見ていくと、作者の感受性でとらえられた四季のうつろいが、日記のように定着されている画面だともいえそうです。古来、日本では「古今和歌集」に見られるように、花のひらく順番など季節の移り変わりを、微細な感覚でとらえてきました。渋谷さんの感覚にも、それと共通するものがありそうです。

 ただし、そこで展開されている色調それ自体は、以前にくらべ純和風な味わいが薄れ、北海道らしさを漂わせています。「そのへんは、無理がなくなってきた」と作者は言います。あまり「日本」を意識することは、北海道ではむしろ作為的なことになってしまいます。

 破綻なく手堅くまとめるのは、この作者の以前からの特徴ですが、やや鮮烈な色彩の対比が見られる小品も出品されていました。これからどのように作風が変化していくのか、あるいは変化しないのか、注目したいとおもいます。

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