展覧会の紹介

R E L A T I O N
リレーション・夕張2002
2002
2002年8月11日(日)〜25日(日)
夕張市創作の館(清水沢清陵町37)・
夕張市美術館(旭町4)
 道央地方では、毎年春から夏にかけて、野外を使った大がかりなグループ展がどこかでひらかれているような印象があります。
 おおむね、ギャラリーたぴおでグループ展に出入りしているような若手メンバーが出品していることが多く、美術展というよりはどこかお祭りのような雰囲気がただよいます。
 ことしは、倶知安・寒別、ニセコ・尻別川などでの開催がなく、今回の夕張が最大の催しとなりました。
 しかも、パフォーマンス、シンポジウム、ワークショップなど関連の行事も多彩でした(日程のつごうで、筆者は残念ながら参加できませんでしたが)。
 この手の展覧会では、全体的なことを書いてもしかたないので、各作品について、順番にふれておくにとどめます。    
 「創作の館」は、以前、清陵小学校として使われていたところです。
 さして遠くないところに、いま清水沢小学校がありますから、かつてこの地区の人口がいかに多かったかがうかがえます。
 それにしても、廃校跡はあちこち見てきましたが、これほど乱雑というか、廊下に物が創作の館の体育館。手前は杉吉篤さんの塔積まれているところははじめて見ました。
 体育館にも、いろんなガラクタがあったそうですが、黒い仕切りでかくしてあります。ちなみに、この仕切りは、昨年道立近代美術館で特別展「永遠へのまなざし」で、岡部昌生さんが使っていたものです。
 以下、順路に沿って。
 
 杉吉篤「記憶」
 右の写真にうつっている、絵がかかれた四角形の塔です。
 ピラミッドや、アメリカ先住民をおもわせる意匠などが描かれているあたり、杉吉さんらしい。

 鈴木涼子「秘密 HIMITSU」
 近年は、写真を使った現代美術の作家というイメージがつよいのですが、今回はあそび心いっぱいの、めずらしい木箱型の小品を壁にならべました。
 それぞれ、夕張や札幌、東京に実在する居酒屋やスナックの名前がつけられています。
 戸の蓋をそっとあけると、中はその店のミニチュアになっていて、止まり木やボトル置き場が再現されています。同時に、その店で収録された音声がながれるのです。

 門馬よ宇子「私へ べに花」
 という題がつけられていますが、じっさいは、昨年の個展で出品した「記憶の解放」など2点です。(写真の後方)
 ただ、廃校になった学校の体育館という場所が、この作品に共鳴しあい、過去を呼び起こすはたらきをつよめていることは否定できないでしょう。
 いいかえれば、この作品が展示されるのにもっともふさわしい場所のひとつであるといえるとおもいます。
 今回のグループ展最高齢者ですが、自宅を改装してギャラリー門馬として開放するなど、元気いっぱいの人。

 ステファン・ベル「Utopia」
 夕張にほど近い空知管内由仁町に越してきたばかりのオーストラリア人。
 水辺をあかるい色調で描いたリアルなタッチの絵画。

 吉田ひでお
 なぜか札幌に住んでいる特殊メークのプロ。
 体育館の器具室入口に、巨大なカニや、コウモリ、クマの模型などなど。映画のセットで使われたんでしょうか。はっきり言って、怖いッす。

 荒井善則「Soft Landing to Season 2002」
 例によって、いすなどからなる立体。

 真野朋子「夕張へ」
 カラー写真連作。この他校舎内のあちこちにも「五月」「十月」「真谷地」「緑青」などの写真をならべていた。

 加藤宏子「Improvisation U」
 今春のサッポロ未来展の延長線上の作品か。
 6つの帯が天井から吊るされていますが、帯は床の上で石に変化したりしています。そもそも平面とか立体とかって何? という問題を考えさせられる佳作。

 長谷川裕恭「宮崎先生」
 チープな材料による立体を得意とする若手。札幌から平取に移り住んだそうです。
 今回はトロフィーとメダル。廃校のなかのあちこちにある手作り教材に感動して、制作者の宮崎先生に贈呈しようとしたものだけど、先生は故人になってらしたようです。 
 つづいて校舎のなかへ。
 ひとつの教室でインスタレーションなどが展開できるので、なかなか見ごたえがありました。
 とくに、野又圭司「グローバリズムの暴力」。
 野又さんは数年前に、札幌から、夕張とおなじような昔の炭鉱町である万字(空知管内栗沢町)に転居して、立体などの創作をつづけている人ですが、昨年の米国のテロを機に、世界への直接的な言及をふくんだ作品をつくるようになったようにおもいます。
 今回のインスタレーションは、なかでも、米国主導の資本主義の暴力への抗議を織り込んだ力作です。
 長い机の上に置かれた、アルマイトの給食皿と、小さなお碗が5組。後者の中には、古い不鮮明な写真や、「北炭社歌」の楽譜の紙が入れられ、その下から電球があわい光を発しています。それぞれのもののもつ意味はかならずしも判然としませんが、荘厳なイメージが祭壇のような厳粛な空気をかもし出しています。

 中尾峰「夏休みの月面着陸」
 ちいさく不鮮明な写真パネルという発表形態は、中尾くんのトレードマークのようになった感があります。
 今回も、ロケットの月面着陸のようすや、上空から見た旭川駅、海でうつしたスナップなどが転写されたパネル11枚が並んでいます。
 中尾くんのような若い世代にも、月面着陸って、なつかしいイメージなんでしょうか。
 机の上に、手足と頭のない、ちいさな人体模型が置いてありました。

 野口裕司「跡」
 廊下の一角の、床も天井も壁も、四つ切画用紙で埋め尽くした、白いトンネル。それを、見に来た人が土足で踏んでいくことで完成していく作品。トンネルの手前に石炭ガラがまいてあるので、かなり黒っぽくなっていました。
 野口さんは1994年から毎年、札幌時計台ギャラリーで現代美術の個展を開いている若手作家ですが、お正月の第一弾であることにくわえ、毎年毎年作風が変わるので、どういう作家なのか、いまひとつ筆者のなかで焦点が定まりきらなかったきらいがありました。でも、今回は、シンプルな佳作。
 「誰もが幼少時代、学校という場で触れたことのある4ツ切り画用紙というものは、どこまでも無限に広がる窓になると僕は感じている」
 作者の言葉です。この素材は、廃校跡にふさわしい。

 椎名勇仁ワークショップ「想像する未来」
 椎名さん本人の作品というより、訪れた人が自分の死の場面を自由に想像して画用紙に描いてもらうというプロジェクト。
 椎名さんって、きまったときとそうでないときの落差がでかいような気がする(^.^)。これは、きまったほうだと思います。みんな、自分の死にいやでも向き合わざるを得ないわけで、けっこうヘビーな音楽室でした。
 屋外。学校のグラウンド。
 排水設備がいかれ、湿地帯のようになっているので、主催者が用意した長靴を借りての鑑賞です。

 堀江隆司
 野焼きの跡みたいです。

 藤本和彦「夢に残った」
 地面にでんと置いてある巨大な、組み立て前のプラモデルのような作品。
 「住宅用窓枠セット」という但し書きがありますが、ほんとにこんなのあるの?

 渡辺潤「view」
 黒光りする木と石からなる抽象彫刻。凹んだところに雨水がたまっていて、いかにも野外彫刻らしいワイルドな作品。

 中嶋貴将「熱変」
 地面に円筒形に穴を掘り、透明なアクリル(?)板でふたをした、一種のアースワーク。
 穴の底から草がたくましく生えています。生命の強さを見たおもいです。
山岸誠二「コワガラウナ」
 山岸誠二「コワガルナ」
 高さのまちまちな鉄の管が地面から何本もにょきにょきと生えています。
 地面の下で生きている人が潜望鏡で世間の様子をのぞいているような感じです。
 その人たちに「勇気を出してでてこい」と呼びかけているのが題名の由来ですかね。ちがう?

 泉修次「空へ」
 バランスの作家、泉さん。
 今回も、投石器のような立体に、吊り下げられた石が絶妙の均衡を保っています。
 作品のてっぺんに木の枝が取り付けられているのがおもしろい。

 野村裕之「幸福の背中」
 近年活躍のめざましい彫刻家。メーンは石なんでしょうが、それにとどまらないのが強みです。今回の素材は、色とりどりの細長い風船。彫刻というと、色のない作品が多いので、とりわけカラフルな印象をうけます。
 その風船が祭壇のような、赤い階段状の金網の上にならんでいます。軽やかでたのしい作品。

 吉田英子「ズリ山の風に吹かれて」
 木の柱に細長いビニール製の吹流しを取り付けただけのシンプルな作品。
 ところが、これが風を受けて刻々とかたちを変えていくので、見ていて飽きないのです。自然の中にあって、自然の力を生かしたのが首藤晃の作品いい。

 首藤晃「樹海の船」
 メモが消えかかっていて、タイトル自信ない。ごめんなさい。
 グラウンドのいちばん奥に設置された作品(右の写真)。
 裏手は山になっており、降り続いている雨の水がちいさな沢になって、グラウンドへと流れ込んでいました。
 これまたシンプルな造形が、風景の中に、自然に溶け込んでいます。
 先年、テンポラリースペースで個展を開いた弘前の作家。

 田村陽子
 山の斜面の手前に11枚の布がさらしてありました。左から、黄緑、ピンク、青、黄緑と、あわい色彩がうつろっていきます。
 ちなみに、夕張の美術館でも、小品展がひらかれていましたが、どうしてわざわざ会場をふたつにしたのかは、正直なところよくわかりません。

 備忘として作品名をしるしておきます。間違ったらごめんなさい。
 荒井善則「Soft Landing to Season 2002」(シルクスクリーン)
 泉修次「ARC Series」
 加藤宏子「Improvisation U」
 椎名勇仁「ワークショップ 究極の未来」
 Stefan Bell「PARM SPRING COWBOY」
 杉吉篤「黒い男」(レリーフ)
 鈴木涼子「untitled」(写真、コラージュ)
 田村陽子「S・Sさん」(わらじ)
 中尾峰「にわづくり」(ドローイング)
 中嶋貴将「熱変」(立体)
 野又圭司「携帯電話」(立体。古い箱の中にモールス信号打鍵器を収めた皮肉っぽい作品)
 野村裕之「場所」
 長谷川裕恭「Thinking Car!!」
 藤本和彦「隠れ里」
 堀江隆司(陶芸)
 真野朋子(写真)
 門馬よ宇子(沖縄で拾った銃弾)
 山岸誠二「そこにとどまる理由はない」(錆びた鉄板に絵の具)
 吉田ひでお「ダミーヘッド(女性)」
 渡辺潤「北方U」「北方V」
 吉田英子「la vida(その人生)」
 首藤晃「無題」
 野口裕司「跡」

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