手のひらの汗
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−手のひらの汗の対処法−

私は医師ではないので,「治療」というようなタイトルでページを作ることには抵抗を感じます.しかし,どうしたら「治る」のかと,そのようなご質問を多く受けます.そこで,あえて「対処法」として,ここから記述させていただくことにします.

手掌・足底多汗症

 手掌多汗症などともっともらしい名前をつけられると,私は病気なの?..そう思いがちですよね.さらに難しく「掌蹠(しょうせき)多汗症」と呼ばれる場合も少なくありません.掌蹠とは手掌,足蹠つまり手のひら,足の裏ということです.まず,ことばの定義を理解しましょう.
 文献的には「精神的緊張時に手掌および足底に過剰な発汗が生じ,日常生活に困難をきたす症状を手掌・足底多汗症という(岩瀬)」,こんな表現があります.
 精神的緊張時?..冗談じゃない.緊張なんかしてなくても,手のひらから汗が出て困るんだよ.そうおっしゃる方もおみえになるかもしれないですね.一応ここは言葉の定義なので,ひとまずこの言葉を使わせてください.
 ところで「高血圧症」というものがあります.みなさんも血圧計で計ってみて,血圧高いんじゃないの?..なんて,いいますよね.これには「外来で日を変えて数回測定し,概ね最高血圧140mmHg以上または最低血圧90mmHg以上」という基準がありますが,手掌多汗症にもそんな基準があるのでしょうか...
 ある一定面積(たとえば1cm2当たり)の皮膚表面から,1分間に○mg以上の発汗量があるから多汗症だ..残念ながら,そういう診断基準はありません.レベル1,2,3なんて呼び方があるじゃないかって...う〜ん.あれはどうなんでしょう? 「発汗」のセッションを持つ日本生理学会,日本自律神経学会で,私はそのような分類方法を見たことがありません.また日本発汗学会でも使われていませんし,それとて「少し多い」,「多い」,「非常に多い」と置き直してもいいような,定性的な指標であることに違いはありませんね.
 手掌多汗症の多くは,「手掌の多汗を苦痛に感じている」という「主観的なもの」であるという理解,これが重要になると思います.手で触れるものが汗で濡れてしまう,たとえばそれで試験の答案用紙を破いてしまう.細かな手作業が汗で滑って難しいなど,職業上あるいは社会生活をする上で不都合な場合が多々出てくる.そういう色々な不都合によって劣等感を感じ,社会的に消極的になってしまう場合も少なくないようです.
 さて,この手掌・足底多汗症,日本人の0.6〜0.8%にみられるという(岩瀬).それからすると,約100万人の方が,少なからずこの症状に「悩まされている」ということになるんですよね.なのにいつまで「汗が多くても死なないから」とか「気にしすぎだよ」で,放っておくのかな?..と私は言いたい.世界に比べ,発汗研究先進国の日本であるにもかかわらず...です.
 ちなみに,岩瀬先生がこれらの方の皮膚交感神経活動を調べられたところ,過剰な発射が認められたそうだ.
(参考:岩瀬 敏ほか「皮膚交感神経活動と発汗」,Iwase,S.et al.「Relationship among skin sympathetic nerve activity,sweating and skin blood flow.」)

汗を止めるには

 多汗症の治療をする.言い換えれば「汗を止める」ためにはどうしたらいいのか.それを理解するために,前にお話した手掌部発汗が出るまでの,その信号の発現から末梢効果器に至る経路を思い出してください.そのどこに焦点を当てるかによって,採るべき方法は変わってくるのです.
 また一般には,薬物療法(精神安定剤,抗コリン剤など)→物理療法(イオントフォレーシス,塩化アルミニウムなど)→手術療法(胸腔鏡下交感神経節切除術など)と進むことが多いようです.まずは薬で汗を減らし,心の痛みを和らげようってことになりますか...
 これを言うと「私は精神病じゃない!」..そんな抵抗をし,拒否反応をされてしまうかもしれないのだけれど,手のひら,足の裏の局所的な多汗症は,精神的な要因が大きいのです.つまり「多汗であることを苦にすること」.これがよくないわけで,気にすればするほど汗はいっそう増えてしまいます.
 最初は些細なことかもしれません.子供の頃,遊んでいてちょっとベタベタするなぁ.私って,なんでこんなに手に汗かいてんの?..それくらいのことかもしれません.ひょっとしたら,鉄棒が汗で滑ってうまくできなくて笑われたり,「お前,手に唾でもつけてんのかよ,汚ねぇなぁ..」,そんな心無い言葉を浴びせられ続けてきたのかもしれません.思春期になり異性と手をつなぐ.学校のフォークダンス.自分の手がベタベタしてたら嫌われちまうぞ...そんな心配がグルグル回りに心の中に固着しているのかもしれませんね.
 そうなると汗出せ信号はどんどん送りつづけられ,今度は汗腺までもが汗を出しやすく訓練されてしまう.少しの信号でも汗が出やすくなるってワケなのです.かくして気にしなくても四六時中,ちょっとした精神的活動で汗が出てしまう状態が出来上がる.だから多汗症を治すには,この悪循環を断つことが一番だと,私は思うのですね.
 ここのメインコンテンツでもある「心身症」.もちろん体質(遺伝)的な要素もあるでしょう.しかし私は,手掌多汗症もその多くが,その部類であるのではないかと考えています.たとえば過敏性腸症候群.これは,また腹痛が襲ってくるのではないか,トイレがなかったらどうしよう...そんな不安が原因で,下痢症状を生じます.心因性頻尿過換気症候群.要は頭が何に執着し,過敏になった神経が,どこに症状をもたらすか,その違い...いま風に言えば「発汗恐怖」とでもなりますか..
 多汗症のあなたは,きっと優しい心の持ち主なのだと私は思います.だからこそ,汗で濡れた手が嫌だという言葉に深く傷つき,それを発した相手に言い返すこともできず思い悩むのです.ただ,それがために「多汗であることを隠す」,「多汗を治す」このことのみに執着し(心がとらわれ),さらに症状を悪化させてしまう.
 そこで提案です.いまの多汗をそのままに受け入れ,その優しい心を他人に向けてみようではありませんか? 汗で嫌だと言われた人に,そこから逃げるのではなく,より大きな,あなたの優しさで包み込んであげようではありませんか.他人の痛みをわかるあなたには,それができると私は信じます.そしてそれができた時,多汗という悪魔から解放されている自分に,きっと気づくことでしょう.

手のひらの汗は精神性発汗

 何度も言います.手のひらの汗は精神性発汗なのです.手のひらは心の窓なのです.
 「手掌多汗症に心理療法など聞いたことがない.自分は精神的な疾患じゃないんだから,そんなもの効くはずがない」.頑なにそう言って汗を忌み嫌い避けつづけるのも自由です.いわゆる自律神経失調症は,一頃「怠け病」などと言われ,精神論で叩かれる時期がありました.パニック障害が増え,思うように動けない.そんな人々が増えつつある現代社会においても,いまだ社会的認知度は低く,患者はそれをひた隠し,独りで苦しんでいることが多いです.
 でも恥じることはありません.汗はキレイなものなのです.少し気持ちを大らかに持って,自分の手のひらを愛してやろうではありませんか? 鎮静剤や安定剤の力を借りることもありです.制汗剤やイオントフォレーシスなどの対症療法.それで汗から意識を反らすことができたなら,きっとその悪循環も断ち切れるのではないのかな.
 「精神ではなく交感神経が過敏すぎるから汗が出るのだ」.この言葉に,ネットの中の多汗症の多くの方は納得され,安堵されてきたのでしょう.しかし,ならば,なぜ交感神経が過敏になるのかを,いま一度考えてみてください交感神経に信号を出す源は大脳皮質であり,温熱性発汗や情動を司る中枢の視床下部を経て,手のひらに至るわけなのです.頭が元だから「精神性」なのです.この「精神性発汗」という言葉にたじろぎ,本質を見失ってはいけません.もちろん途中や末梢の問題,ホルモンの関係もあるでしょう.しかし,手掌多汗症の多くは,汗を無意識にでも嫌うそんな気持ちにあるのではないでしょうか?
 多汗から逃れたい.そう思われているあなた.いま一度,そういう現実から目を背けずに自分の心と対峙し,その方向を外に向けて行きましょう.優しいあなただからこそ必ずできる.
さて,本題に入る前に,いきなり極論を書いてしまいましたね.なんだ,ゆう星☆は手掌多汗症を分かってないじゃないか...怒りを覚えた方もみえるかもしれません.しかし,自律神経失調症の診断名をつけられ長年苦しんだ私には,多汗も1つの症状にしか思えないんですよね.
次回からは各論に入っていきますが,汗を抑える様々な方法を,文献などの引用によりご紹介します.


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