グルネマンツのもとで教えを受けたパルチヴァールは、騎士としての礼儀作法を身につけて、ようやく一人前の男に近くなった。
彼が次に訪れたのが、ブローバルツ王国だった。ここは、タンペンテイレ王が娘に遺産として譲った国で、つまり今は女王が治めているわけなのだが、クラーミデー王の国との戦争の真っ最中にあった。パルチヴァールの最初の師である、グルネマンツの息子たちを殺した人物である。
とつぜん現われた立派ないでたちの騎士を見て、ブローバルツの人々はこれこそクラーミデー王と誤解して追い返そうとするが、彼に敵意がないのを見てとると態度は一変。逆に、不利な戦況を覆すための天からの救いだと、パルチヴァールを歓迎する。
この国の若く美しい女王、コンドヴィーラールスはリアーセやグルネマンツとは親戚であり、面立ちも似ている。パルチヴァールは、さきに出会ったリアーセの面影を重ねていた。
だが、長引く戦争のため国は疲弊しており、食料もなく、ろくなもてなしは出来なかった。このまま戦いが続けば、いずれは城内の者全員が飢えて死ぬさだめであった。
すでに騎士たちのほとんどを殺され、後がないコンドヴィーラームールスは、意を決して女の最強装備でパルチヴァールに夜這いをかける。しかし、まだ少年から完全に脱していないパルチヴァールには、シルクの夜着(魅力・色気+200)の意味が分からない。
(さすが聖杯探求に出る純粋無垢な騎士殿。口説き落としが通じないとは…。)
床の中で、互いに距離を置いたまま、若き女王は語る。
王である父が死んでから、国土は、クラーミデー王とその宮内卿キングルーンによって奪われつづけていること。クラーミデーは求婚してくるが、自分は彼の妻になるくらいなら死んだほうがマシだということ。またキングルーンは、リアーセの兄、シュンタフルールスを殺し、リアーセを苦しめたのだということ。
これを聞いた人のいいパルチヴァールは、女王の体目当てなどではなく、ただ純粋に困っている人を助けるために、自分が援助しようと申し出る。
翌朝になると、早速、一騎打ちのため城門の外に出た彼の前には、クラーミデー配下の剛勇の騎士、キングルーンがいた。パルチヴァールにとって、これが最初の「正しい一騎打ち」だった。グルネマンツの教えどうり、彼は騎士としての戦いで今まで敗北を知らなかったキングルーンを馬から撃ち落し、勝利する。
一騎打ちに勝った者は、負けた者に誓いを立てさせることが出来る。パルチヴァールはまず、息子を失ったグルネマンツへの恭順を要求する。だが、これは拒否される。次にコンドヴィーラームールスへの恭順を要求。しかし、これも拒否される。
最後に彼が言い、キングルーンが受け入れた条件は、アルトゥース王とその王妃のもとへ行き、奉仕し、自分に微笑んだために折檻を受けた乙女、クンネヴァーレの恥辱をそぐように、というものだった。
戻って来たパルチヴァールは歓喜に迎えられ、コンドヴィーラームールスの抱擁を受ける。女王は彼以外の男の妻にはならないと思い、その夜二人は、再度床をともにする。しかし、パルチヴァールはやはり、このような状況に戸惑い、結局女王の体には手を出さないまま朝を迎える。
こうして彼らは清いまま夜を重ね、三日めにしてようやく男女の仲になるのだが…まぁ…そこは美しく隠しておくとしよう。
さて、クラーミデーの軍には、見慣れぬ赤い騎士によってキングルーンが打ち倒された知らせが届いていた。彼等は、この騎士をイテールだと思い込み、沈み込む。イテールの名声は、広く轟いており、勝てるかどうか分からなかったからだ。
イテールが、パルチヴァールに負けて命を落としたのは第三巻の前半である。情報が遅い、というか、当時はそんなものだったのかもしれない。
クラーミデーの軍は、恐ろしい赤い騎士を避けて戦おうとするが、パルチヴァールはこれを許さない。連日の勝利の末、彼はついに敵将クラーミデーとの相対の時を迎え、激しい一騎打ちの果てにこれも討ち取る。
捕らえたクラーミデーに対しても、さきのキングルーンと同じ三つの要求が出される。最初の二つについては「出来ない」と断られ、結局、最後のひとつ、アルトゥースの宮殿に行くようにとの要求が受け入れられる。これでアルトゥースの宮殿には、キングルーンとクラーミデー、二人の地位ある騎士が迎えられることになった。先方からしてみれば、何もしていないのに味方が増えるのは何ともオイシイ話である。
アルトゥースのもとに送られたキングルーンとクラーミデーはそこで再会し、アルトゥース王らも、行方不明になっていたパルチヴァールの行方その他を知ることになる。
ケイエにしてみぱ、彼らが自分のクンネヴァーレへの仕打ちに対してパルチヴァールがまだ怒っていることを知って、あまりいい気持ちはしなかっただろうが。
こうして、戦いは終わる。コンドヴィーラームスとその国は、パルチヴァールの手によって守られた。パルチヴァールは、妻となったコンドヴィーラームールスのもとに、しばし留まることになる。
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パルチヴァールが王冠を戴いた国は、戦争の傷跡も日ごとに癒え、平和な日々が続いていた。
だが彼は、再び旅に出たい気持ちをどうしても押さえることが出来ない。彼は妻に言う、久し振りに母のもとを訪ね、様子を知りたいと。また、再び冒険の旅にも出てみたいのだと…。
かつての父と同じように。だが、父のように帰らぬ旅ではない。
妻は、これを承諾する。
すべての部下に別れを告げ、小姓も連れずたった一人で旅に出るパルチヴァールは、まだ知らない。
この別れが、彼の思うよりずっと長いものになるということを。