中世騎士文学/パルチヴァール-Parzival

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第五巻 パルチヴァールの最初の聖杯城訪問



  このとき、パルチヴァールはまだアルトゥース王の「円卓の騎士」には入っていない。彼は聖杯を探す目的のために旅に出たのではなく、血統による継承権のため、偶然に聖杯と出会うのであった。(彼の母は聖杯王の妹)



 出会いは、こうである。
 旅を続けていたパルチヴァールは、あるとき、湖のほとりで猟師たち出会い、宿を取れる場所はあるか、と訪ねる。漁師の一人は、この辺りには何もないが、しばらく行ったところに城がある、もしそこを尋ねるつもりなら自分がもてなそう、と言う。果たして、その城は確かに在り、立派なもてなしが用意されていた。漁師は、その城の主、アンフォルタスだったのだ。

 不思議な城での立派なもてなしと宴。華やかな人々の装いとは裏腹に、漂う悲痛と城主の憂鬱な表情。しかし若き騎士は、その城が何であるかを知らない。
 やがて彼の目の前に、純潔の乙女レパンセ・デ・ショイエの運ぶ聖杯が現れる。それは聖杯というよりも聖石であり、表面に文字を浮かばせ、さまざまな恵みを生み出す。これらの奇跡と不思議を目の当たりにしたパルチヴァールは、問いを発したい衝動にかられつつも、師グルネマンツの教えどうり、無粋な問いかけは差し控えていた。純粋なので、人に言われた教えをそのまんま守ってしまう人なのだ。
 このことが、彼にとっても、また城主アンフォルタスにとっても、最大の不幸を招くことになる。

 アンフォルタスはパルチヴァールに剣を譲り、食事が終わり、客人は眠りにつく。だが、その眠りは、豪華なベッドの上にあって深い苦悩とともにあるものだった。苦い夢で目を覚ました彼は、辺りに誰もいないことに気づく。城は、人の気配の消えたもぬけの空になっていた。
 ひとり身支度を整え、城を出ると、城の跳ね橋が上がり、ののしり声が飛んでくる。それは彼が問いかけを怠り、城主の苦しみの訳を聞かなかったことから来る非難なのだが、彼は、自分がどうしてそのような扱いを受けるのかを理解することが出来ないのだった。

 城から続く馬の蹄の跡を辿っていくうち、パルチヴァールは、従姉妹のジグーネと再会する。かつての面影は失われ、痩せて見る影も無くなった彼女は、いまだ、死せる婚約者シーアーナトゥランダーの亡骸を抱いていた。
 死体はもちろん腐っていくわけだから、パルチヴァールが「そんなおそろしい方は葬ってしまいましょう」と、言ったのも当たり前だろう。

 ジグーネは、パルチヴァールが見たという城について語ってくれる。
 その城はムンサルヴェーシェ、聖杯を守る一族の城で、見つけようとしても見つけられず、見つけるさだめの者だけがたどり着ける場所なのだと。そして、現在の城主アンフォルタスは、神の不興を買い、聖杯の力でも癒せぬ傷を負って苦しんでいた。
 その怒りの傷は、血縁者にあたるパルチヴァールの問いかけによって癒されるはずだった。
 だがパルチヴァールが愚かにも問いかけを発しなかったのだと知った時、ジグーネの態度は一変する。
 「栄誉を失いし者、呪われし男よ、そなたは狼の毒牙を持っておられる。」
ひどい罵りの言葉とともに、それ以上の会話を拒んだジグーネと別れ、深い自責の念にかられながらパルチヴァールはその場を後にする。せめて一言、城主を気遣う言葉を発していれば、と。その気遣いこそが、神に見捨てられた者を救う唯一の方法だったのに。

 打ち沈んで馬をすすめるパルトヴァールの行く手に、貧しい馬に乗せられた、ひとりの貴婦人が見えた。
 それは、かつてパルチヴァールが少年だった頃、母の教えを誤解して無理やり指輪を奪った、オリルスの妻・エシューテ夫人だった。
 夫の怒りに触れた夫人は、ぼろを纏い、駄馬に乗せられていわれの無い罰を受けている。浮気をしたという確証も無いのに貴婦人にそのような仕打ちをするとは、何とも短気な夫であるが、この時代は、そう簡単に離婚するなど出来ない。自分の過去の過ちと気づいたパルチヴァールは、婦人を救うため、先をゆくオリルスと一騎打ちに臨む。
 それは激しい戦いとなった。オリルスはそれまで、負けを知らぬ勇士だったからだ。
 しかし、最後にはパルチヴァールが勝利する。勝った彼は、オリルスに対し、妻に対する仕打ちを撤回すること、アルトゥース王の宮殿へ行き、先のキングルーンやクラーミデーと同じように、自分のせいでケイエ卿に殴られた乙女に恭順の誓いをせよと要求する。
 エシューテ夫人は名誉を回復され、夫と再び夫婦の仲に戻ることが出来た。

 実は、くだんの殴られた乙女クンネヴァーレはこのオリルスの実の妹であり、オリルスの兄レヘリーンは、ジグーネの恋人シーアーナトゥランダーを殺してパルチヴァールの継ぐはずだった国を奪った男なのだが、彼はまだ、そのことに気づいていない。
 無知なることがいかなる運命を招き入れるのか。

 パルチヴァールは指輪をエシューテ夫人に返し、さらなる旅を続ける。
 




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