続く物語は、ガハムレトがスパーネ(スペイン)の王、つまりプロローグにも登場した、従兄弟のカイレトを訪ねるところから始まる。
このときカイレトは留守。戦をしに出かけたというカイレトを追いかけてヴァーレイスの国にやって来た彼は、そこで、身分高き女王の愛をかけて繰り広げられる激しい戦いを目の当たりにする。
ヴァーレイスの女王の名は、ヘルツェロイデ。彼女の系譜が明らかにされるのはかなり後になってからのことだが、聖杯城の王アンフォルタスの妹であり、聖杯を守る家系の一人である。彼女はヴァーレイスの王カスティスの妻だったが、結婚式を挙げたあと間もなく夫を失ったため、夫とは肌を触れ合っていない。つまり、まだ正式な妻にはなっていない身であった。
この戦いに勝利したものが、彼女と、二つの国---ノルガースとヴァーレイスの国の王冠を手に入れる。そのために、名だたる諸国王たちが、城の面前に布陣して激しく争っていたというわけだ。
しかし、既に妻帯の人々まで真剣に戦っているところからして、これは単なる「花嫁争奪戦」ではない。いわば男たちのウサ晴らし。名を挙げたいだけ、という者も少なくない。
ガハムレト自身も、別にヘルツェロイデが欲しかったわけではなく、単に戦いたかっただけのようだ。なんせ、戦いに行かせてくれないという理由で、妻のもとから家出したくらいなのだから。
参戦するガハムレトに、カイレトは、状況を説明する。この戦いに集まった数多くの者たち、アルトゥース(アーサー王)の父・ウテパンドラグーン、ハルコディース王やブランデリデーン王、ロート王…中には、のちの主人公のひとり、ロート王の息子ガーヴァーンの名も登場する。(英語版ではガウェインとなっている、円卓の主要なメンバーの一人だ。しかし、このときガーヴァーンはまだ少年で、戦いには参加していない。)
従兄弟のために力を貸すことを約束したガハムレトは、戦場に立ち、目覚しい働きを見せる。だが、数多くの王たちが彼の手にかかって馬から突き落とされる中、カイレトもまた、敵軍の手に落ちてしまう。
【余談】
ちなみにこの時、カイレト王の甥で、ガハムレトの母方の親戚にあたるキルリルヤカクも敵に捕らえられている。
この人は、主人公たち妖精の血を引く一族以外で以外に「美しい」という形容詞をつけられている、数少ない登場人物だ。
「この美貌の青年は」とか、「美しい若者」とか、大層な言われよう。
キルリルヤカクは、とかく、よく捕まる人物である。
第一巻でも第二巻でも、さくさく生け捕りにされている。しかもドツき倒して人質にすればいいものを、わざわざ「剣をつかわず、抱きすくめるようにして」捕らえられているところが謎だが、あまり深く考えると余計なことに気がついてしまいそうなので止めておこう…。
戦いのさ中、ガハムレトの過去の愛人であるフランスの王妃アンプフリーゼの使者が、彼のもとを訪れる。
愛人というのは、…この時代にはよくあったことらしいのだが、夫ではない相手と通じることだ。王が亡くなり、彼女はひとり寂しくしていること、かつてガハムレトの愛を受けたときから、そのことが胸を悩ませていることなどを手紙で告げる。
アンプフリーゼの望みはただ一つ。ガハムレトが、ヘルツェロイデのためではなく、自分の騎士となって戦うこと。。
彼女は自信たっぷりだった。自分のほうが美しく、富もあるとさえ言い放つ。それまで目的もなく戦いに参加していたガハムレトは、この手紙に戦いの意義を見出し(大義名分が無いと戦いにも張りが出ない)、さらに多くの槍を折ることになるのだ。
しかしこのとき、彼はまだ知らなかった。
兄、ガーローエスが、とある高貴な女王…アンノーレの愛を得るために一騎打ちをし、ムントーリー城外で亡くなっていたことを。ガハムレトが故郷の近くまで戻ってきているにもかかわらず、ガーローエスがこの戦いに参加出来なかったのは、そのような理由だったのだ。
やがて、男たちの遊戯である戦は終わった。
その戦いは人々の予想を越えて激しかった。疲れきって捕虜となった人々は、ヘルツェロイデに挨拶し、恭順を誓う。戦いの目的のひとつは、勝利者となって美しき女王とその王国を手に入れること。彼女は、自らを勝利の商品とし、最も優れた働きをしたるガハムレトこそ自分を手に入れるに相応しい、と宣言する。だが、これには先に来ていたアンプフリーゼの使者たちも黙ってはいない。ヘルツェロイデか、アンプフリーゼか。二人の高貴な女性のうち、どちらがガハムレトを夫とするのがふさわしいかは、仲介裁定の場に委ねられることとなった。
だが、誉れというべきこの場において、ガハムレトには、胸を悩ませる大きな悩みがあった。
一つは、兄の死の知らせ。そしてもう一つは、残してきた最初の妻、ベラカーネへの思いである。異教徒で、黒い肌ではあっても、彼は最初の妻を愛していた。それを彼は誠実であると言う。妻を嫌がり、逃げ出してきたわけではない、ただ戦いの旅に出て、己の欲求を満たしたかったのだと。どんな旅人にも、帰る場所は必要であった。…
けれど、さきの仲介裁定において下された結論は、異教徒との愛の誓いは無意味、ヘルツェロイデがガハムレットを夫と成すべし、とのもの。
これを受け入れたガハムレトは、ヘルツェロイデと結婚。しかし、以前の妻のように戦いに出ることを禁止しないでほしい、でないと逃げ出してしまうから…と、彼女に強く願うのだった。
そう、誰も、彼が流離うのを止めることは出来ない。それが妖精の血を引くものの宿命であればこそ。
兄のあとを継いで王となり、祖国に投錨の地を見出したガハムレトは、やがて、かつて主君として共に戦った、異国のカリフのもとに危機が迫っていることを聞き、再び戦場に立つ。
そして、再び妻と会うことは無かった。
ある昼間、夫の帰りを待つヘルツェロイデは、夢を見た。きらめく稲妻が彼女を襲い、腹の中に竜の子が宿る。その竜はやがて子宮を引き裂いて飛び出すと、飛び立って二度とは帰らない。そんな夢だ。
恐ろしい夢に叫び声を上げて飛び起きた彼女のもとに告げられたのは、バルダク城外で夫が戦死したという知らせ。
喜びのおわり。
月満ちようとしていた彼女は、衝撃のあまり生と死の境を彷徨いながらも、一人の息子を産み落とす。
この子供が、のちに聖杯王となる物語の主人公・パルチヴァールなのだ。