フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第39章
Yhdeksäsneljättä runo


 「くそっ、何で俺がこんな思いしなきゃならんのだ!」
イルマリネンは、ポホヨラに対しかなりの不快感をあらわにします。
 「あんな召し使いなんぞ雇わなきゃよかった! ポホヨラの連中は、サンポのお陰でいい暮らししてるってのに…。」
 「しかし、そのサンポを造ったのは、イルマリネンよ、お主じゃぞい。」
そうです。たとえ嫁さん欲しさに…とはいえ(笑)、サンポの鋳造者はイルマリネン。妻と引き換えにサンポを渡したのに、妻を失い、さらに新しい妻も寄越さないままサンポだけを横領しているというのは、ちょっと腹立たしいものですよね。

 と、その時、ジジイの脳裏に、とある「いい考え」が浮かびました。
 ジジイもポホヨラは嫌い。んでもって、1人じゃステータス上、イロイロと不都合があるもんの、イルマリネンがいれば、けっこういいパーティーが組めるかもしれない?!

 「そうじゃ…。そのテがあったわ」
ジジイは目を輝かせ、イルマリネンの肩をガッキと掴みます。
 「のう! イルマリネンよ。お主が造ったんじゃから、サンポはお主のもんじゃ。そのお主に、たかだか1人の女も寄越さんポホヨラの連中なんぞ、どうなっても構わんわい。サンポを取り戻そうじゃないかい!」

 普段なら、耳も貸さなかったかもしれないイルマリネンですが、今の彼は、ちょっと正常じゃなくなっていました。
 「そうか。そうだな。全くそのとおりだよ」
しょげていたイルマリネンに、見る見るヤル気が戻ってきます。
 「いよっしゃア! 行くか」
 「うおおっ。それでこそお主じゃあ。よし、殴りこみのために武器を作るのじゃー!」
 「アイサー! 任しとけっ」
 って、何か…愛しさと憎しみは裏表っていうか、その…、悲しみを乗り越えられなかった男が、その悲しみを憎しみに転化したという感じがしなくもありません。(それを助長したのはジジイよ、あんただ。鬼だな)
 イルマリネンは精魂こめて立派な剣を作り上げ、ワイナミョイネンは、浜辺で立派な船をナンパします。

 難破じゃないのよ、ナンパなのよ。本当に。「戦に行きたいよう」と嘆いていた立派な略奪船をスカウトするのです。勿論、ポホヨラに攻め入るために。

 「ふむ。船には漕ぎ手が必要じゃのぅ。」
と、ワイナミョイネン、なんと魔法で千人の男女を召喚! …人間なんですか? それとも擬似生命体? あるいは精霊とか。
 何にせよ、普通の人間じゃなさそな気がします。ジジイ…恐るべし。

 この人間たちを櫂のもとに座らせ、いよいよ出陣の時。
 「さぁ漕ぐのじゃ、皆のもの! いざ行かん、暗き北の大地へッッ!」
ワイナミョイネン自らが指揮を取り、船はゆっくりと海へ滑り出します。

 ところで、この様子を、岬の上から見ていた者がいました。
 誰在ろう―――レンミンカイネン。
 彼は不作(不漁)続きなので、いー加減キレかかっていました。お腹もすくし、イライラするし。何か面白いこと無いかなー、などと、ぼんやり海を見ていたら、立派な船がガンガン波を蹴立てて走っていくところだったんですね。
 普通の人なら遠すぎて見えない距離ですが、彼の視力は5.0です。バッチ見えます。
 「何だ、あれ。面白そうじゃん」
と、彼は、海に向かって怒鳴りました。
 「おーい。そこ行く船、一体誰のなんだ? 何処へ行くんだー?」
って、そんなん見えるのがやっとの距離で叫んでも聞こえないでしょうが、たぶん、「遠話(ログ)」の呪文とか使ったんでしょうね(笑)
 船からは、ワイナミョイネンの召喚した人々が答えます。
 「この船はワイナミョイネンの領地から来たのよ。見てわかんない? これから北へ向かうところだよ。サンポを取り戻しにね」
これを聞いた彼は、思案します。
 「ははん。あのジジイ、さてはポホヨラに殴り込みだな? こいつぁいいや。あのジーさんは色ボケでお間抜けだが、忌々しいあの魔女と対等に渡り合える唯一の人間だしな。…らっきー、ついてっちゃえ」

 仕事なんか放り出していそいそと準備したレンミンカイネンは、ワイナミョイネンに「指示に従うから連れてってくれ」と、珍しく殊勝なことを言って頼み込みます。今度は母も止めません。と、いうか出てきません。相手が高名な賢者サマなので、止めないでほっとこうと思ったのかもしれません。
 この申し出を、ジジイはあっさり承諾します。戦力は多いほうがいいですしね。しかも、レンミンカイネンも、ポホヨラにはかなりの恨みを持っているのですから。(ほとんど自業自得なんだけどね。)


 ――――こうして、ついにサンポ戦争のメインキャストなる3人は揃ってしまいました。
 不滅の賢者にして大魔法使いのジジイ、ワイナミョイネン。
 バツいちの鍛冶屋にしてサンポの製造者、イルマリネン。
 気まぐれな魔法戦士の若者、レンミンカイネン。

 いよいよ伝説の幕開けです。
 サンポ奪回のため、遠きポホヨラの地へと向かう彼らは、まだ知らない。
 その先に、何が待ち受けているのかを…。



{この章での名文句☆}

おお老ワイナミョイネン、この俺を連れて行ってくれ、
三番目の男として
あんたがサンポを持ち上げて、飾った覆いを運ぶとき!


ジジイが後衛、レンミンカイネンが中間、いかにも肉体派のイルマリネンが前衛で、
なかなかバランス取れた、戦いやすいパーティーじゃありませんか。
うーん、しかし女っけが全く無いというのは…(笑)


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