第二章 阪大生協事件の経過と内容

    第二節 一生協従業員の解雇

 デモクラティック学生同盟(詳しくはデ学同右派)の同盟員であり且つ阪大生協の学生理事をしているクズノとナカヤの二人は、きたるべき昭和四十三年一月に開かれる後期通常総代会が山場になると思うと身がひきしまる思いだった。特にクズノは今度の総代会で自分達の意にそわぬ敵を抹殺することは自分に与えられた同盟員としての使命であるとさえ感じていた。それはなぜ自分が阪大生協の理事になったのかを思いうかべればあきらかだった。
 三年前、彼は大阪府学連の委員長をしていた。そして当時の大阪府学連の混乱に追われるようにして委員長の座をおりた彼に先輩のワイ氏から「ひとつ阪大生協の面倒をみてくれないか」との話があり、同志のナカヤとともに「阪大生協のたてなおし」にかかったのである。クズノはそのときワイ氏が忠告してくれた言葉を忘れてはいなかった。
 「今の阪大生協はトロツキスト集団におかされている。彼らは阪大生協を私物化している。特にK主任には気をつけ、たえず監視をすることが必要だ。専従理事のSやMはノンポリだから心配はないと思うが、それでも今はトロがかかっているかもしれないから一応は注意しておいた方が良い。だから当面SやMをたえず味方にひきいれるよう努力しつつ、K主任やその他のトロツキストをパージするようにやればよい」
 阪大生クズノはそれなりに正直な人間だった。クズノはトロツキスト追放のために自分が阪大生協に派遣されたのを悟った。正規の手続きをへて学生理事におさまった彼はワイ氏のいう通りに興味をもってK主任の動向に注意した。
 そしてクズノがK主任を敵であると実感したのは生協従業員の慰安旅行の時だった。このときたまたまK主任と議論する機会にでくわしたクズノは、自分のもっている政治的思想のすべてをさらけだしてもうちのめされそうな口論をしなければならない破目におちいり、その結果、単に人からきくばかりではなく、心から自分とK主任とは政治的思想のあいいれない者同志であると思ったのである。そのときからクズノは心情的にもK主任を憎むようになったのである。
 その次にクズノとK主任との個人的な関係の溝を深めたのは、クズノが専従役員として生協の業務を担当しようとする意思をあきらかにしたときだった。ところがK主任を中心とする人達の「主任声明」によってものの見事に自分の野望がうちくだかれてしまった。彼はそれまでは一応理事として生協の活動にタッチしていた。しかし、まさにワイ氏のいう通り、生協は自分達の支配の外にあるという印象をぬぐいきれなかった。理事でありながら、自分の計画案がいつともなくチェックされ、思い通りに実現されたことはないのだ。
 彼はこれにはやはりトロツキスト一派が妨害していると考えざるをえなかった。トロツキスト一派は実際に業務面を担当し権限をもっている。しかも自分は業務面をしらない。いくら理事としていばってみたところで、実務的処理の能力は皆無なのだからどうにもならない。かかるディレンマからのがれるために彼は自分も業務に入らなければならないと考えた。そこで彼はノンポリのM専従をかつぎだし、他の一名の学生理事とともに、すでにしかれているトロツキスト一派の業務体制とは別の業務体制でもって、対抗しようとした。それがK主任を中心とする主任達の主任声明によってはばまれたのである。このとき、主任だけの反対なら強引におせないこともなかったが、生協の理事長であるK教授が公正な裁定として主任声明を支持する形になったのが、敗北を決定的なものにしたのだった。このようにしてクズノのK主任や自分に敵対する他の従業員に対する個人的な憎しみは高まる一方でとどまるところをしらなかった。
 ところで、クズノにみられるような思想上の敵なるK主任等に対する個人的な憎しみの念だけが、今回の「阪大生協事件」の直接原因であるとは誰も思わないであろう。やはりそれの根底にはデ学同という政治的同盟組織があり、デ学同の思想とはあいいれない者を物理的にでも排除するという組織としての不文律があったのである。従ってクズノはデ学同の同盟員であるが故に好むと好まざるとにかかわらず、いわゆる彼の敵であるトロツキスト一派を追放しなければならなかったのである。クズノや他の同盟員に委ねられた唯一の任務は、いつがトロツキスト一派を阪大生協からパージするにふさわしい日かを判断し、デ学同に報告するために、いろいろの資料を集めることでしかなかったのである。
 実際のところ、デ学同は阪大生協におくりこんだ同盟員がいつ彼らの敵をパージする期日をきめてくれるのかとじりじりしながら待っていたのである。しかし、クズノとて以前は大阪府学連の委員長をしていたほどの男である。彼の行ないのすべてが失敗するほど、彼は道化者ではなかったのである。
 彼が阪大生協におくりこまれてから、阪大生協もデ学同的特色をもちはじめたのは事実であった。それにはワイ氏等の裏からの支援があったとはいうものの、彼の働きが大きくものをいっていたのである。彼は同志ナカヤの協力をえて生協の組織部の再建をはじめてから、またたくまに理事会、総代会にいたるまで、学生の担当する部門において彼の息のかからぬ者はないほど、実質的な権力を掌握していったのである。そして業務部門においても、本部はともかく支部が彼の所属するデ学同の傘下に入ったのも彼の努力の結果であるともいえよう。
 彼らはただキッカケをまっていたのである。阪大生協の業務部門に勢力をもつトロツキスト一派を追放するには追放するだけの大義名分がいるからだ。トロツキスト一派といっても彼らは生協従業員という身分をもっている。この労働者をいくら同盟の意思であるからと要って、ただやみくもに追放することはできない。摩擦のおこらない方法をとるにこしたことはない。それにはトロツキスト一派の業務上のミスを徹底的につき、それを利用してしかるべき機関決定でもって追放するのが一番であった。彼らは追放すべき人間の業務上のミスをあらいざらいにあげていった中で、「きめて」となると判断をしたのは、既述の団地での生鮮食料品の販売であった。彼らはそれを不法の「外販活動」としてキャンペーンした。
 それではこの「外販活動」がなに故に追放のための有効な手段となりうるのか。それはこの行為が阪大生協という「法人組織」のなしうる行為の限界をこえているからであった。阪大生協には「定款」といういわば憲法のごときものがある。この定款は「生協法」という国の法律にのっとってつくられている。それによれば阪大生協の職域は大阪大学である。従って東豊中、五月ヶ丘団地等への外販活動は職域外にあたるから、(生協組織部発行の同年一二月一○日付のビラによれば)「阪大生協定款第四条《この組合の職域は大阪大学とする》、及びこれを裏付ける生協法違反である」ことになるのだ。この法律違反を行なうと「民法七一条には…『法人がその目的以外の事業をなし、又は設立の許可を得たる条件に違反し、その他利益を害すべき行為をなしたる時は、主務官庁はその許可を取り消す事を得。』」と規定してあるから、阪大生協の「外販活動は、組合員と全く無関係な団地で行われており、阪大生協存立の法的根拠をほりくずす」ことになる。この阪大生協の基盤そのものを破壊しているのは業務を担当しているトロツキスト一派である。だから「違反活動の継続は生協の存立を危くする」のであるから、それを防ぐには、トロツキスト一派であるその業務の担当者を解雇することが第一である。そして解雇という手段をとったとしても、現にトロツキスト一派は法律違反をやっているのであるから社会的にも問題のおこることもあるまい……。
 クズノやナカヤの頭の中では以上の論理が巧妙にうちたてられていったのも当然のことといえるだろう。
 かくて二人のそのような判断からデ学同の最初の具体的方針として次のような決定がなされたのである。即ち「阪大生協におけるトロツキスト追放作戦の第一弾として、業務総務の責任者であるK主任と外販の責任者であるK仕入係とを血祭りにあげる」ということである。この二人は阪大生協の中で理事会、組織部にもっとも反抗的であり、且つ思想的にはそれぞれ異なってはいたとしても、とどのつまりは反デ学同的であるということで一致し、しかももっとも戦斗的であると思われたからであった。
 デ学同がかかる観点から追放すべき人間を二人に設定した丁度そのとき、阪大生協の業務部門において実績が予想を大幅に下まわるという事態が発生したのである。即ち、昭和四十二年度上半期の決算の結果、購買部門と書籍部門の合計の予算上のGP(荒利益のこと)と実際上のGPとに二五○万円誤差がでてきたのだ。個人的物理的排除そのものが目的であったデ学同はその事実をやみくもに特定の人間の、つまりK主任やK仕入係の意図的な「横領不正」の結果生じたものとし、さっそく二人の解雇実現のための行動を開始した。デ学同はまず自己の支配する生協組織部の一一月二五日付の「組織部ニュース」に次のような内容のビラを学内で配布させた。

 ─二五○万円の生協資産行方不明か─
 四二年度上期決算によれば、石橋地区の書籍、購買部門において、GP率が異常に低 下していると云うことが判明した。……そこで常任理事会を中心として事態の究明を急 いだが明確な結論が得られなかった。……(以下略)

 この「組織部ニュース」が重大な意味をもっていることを組合員にさらに分からせる必要性からクズノとナカヤはそれから二日後の一一月二七日にデ学同同盟員である一総代をして次の声明をださせた。

        理事会に対する要望(生協総代有志声明)
 去る一一月二五日(土)出された「生協組織部ニュース」によれば、生協の資産二五 ○万円が行方不明の疑いがあるこのことでした。
 近年、諸物価が値上がりして学生の経済生活はますます苦しくなっています。その意 味で生協に対する期待は強まっているし私達は生協をよりよく発展させていかなければ ならないと考えます。
 私達は、組合員を代表する総代として今回の事件について早急に事情を聴取しました。
 その結果、私達は次のことを理事会に要望いたします。
 一、組合員に対して今回の問題の事実とその後の経過をあきらかにすること。
 二、二五○万円の行方を徹底的に追及すること。
 三、GP率低下の対策を具体化すること。
 四、新聞紙上で、阪大生協の東豊中団地に対する生鮮食料品の販売が伝えられていま す。私達はこの行為を生協法、阪大生協定款違反と考えますが、理事会の責任ある解答 を期待します。
 五、理事会は責任をもって以上の諸問題を総代会に報告するよう要望します。
  ………………………………………
私達は生協の発展を勝ち取る為に次期総代会を圧倒的に成功させるよう全力をあげて努力したいと思います。
 理事会も今回の問題に関して、責任をもって対処されるよう要望します。
                  総代会有志 総括責任者 ナルヤマ
                        教養部責任者 タナカ他一九名
                        文学部責任者 ナルヤマ他二名
                        法学部責任者 ニシムラ他三名
                        経済学部責任者 サトミ他一名
                        基礎工学部責任者コマツ他三名
                        工学部責任者 ハシヅメ他五名
                                   以上三九名
 大阪大学生協理事会 K 慎一殿

 そしてクズノとナカヤはこの自ら脚色した総代有志による要望書について、これは総代からの理事会に対する責任追及であるとし、これを理事会に答えさせるという意図から、今度は学生理事として、理事会で問題視した。彼ら二人には十分勝算があった。これだけ情宣しておけば、理事会でK主任とK仕入係の二人の解雇提案しても、なにも知らない教職員理事は承認せざるをえなくなるであろう。そう判断した彼らは一二月一日の理事会で、はじめて公然と挑戦状をたたきつけたのである。当日はナカヤ学生理事個人の資格で突然次のように提案された。
 「K仕入係は理事会で承認されることなく独断で外販活動を行なった。当生協の機関運営無視は生協運営にいちぢるしくマイナスになった。K仕入係の行なった外販活動は生協法及び定款違反であり阪大生協の存在基盤をおびやかした。それに外販活動に関する伝票処理が不明確で、生協にマイナスになった。よってK仕入係を懲戒解雇をする。次にK主任であるが、彼はさきほどの事実について十分に知っていながら、K仕入係に仕入に要する資金をまわした。それは彼自身の権限をこえる行為であり、K仕入係の行なったことが生協に多大の迷惑をかけたことにかんがみて、K主任に対する処置も懲戒解雇が妥当と考え、ここに提案いたします」
 クズノやナカヤがこれら二人の解雇提案にかくも自信ありげであったのは、彼らが個人的にハッスルした結果からだけではなく、その直前にデ学同の「大いにやるべし」の組織決定があったからである。いわば彼らはデ学同によっておスミツキをもらっていたのであり、彼らの行為はデ学同に貢献する行為なのであった。
 デ学同の組織決定のなされたことの情報はそう簡単にはもれるべき性質のものではなかったのであるが、一部同盟員の先ばしった言動が、解雇提案のなされる前後にあったものだから、事情に通じる者をして明らかに、この提案はデ学同の政治的介入であるという事実を認めさせるにいたったのである。
 しかもクズノとナカヤ自身ですらも、たまたまK主任とK仕入係の両名に会ったとき、「これからすることで阪大生協の労組ともめるようなことはしたくないが、組織決定があるから仕方がない」といったり、他大学生協のS理事が阪大生協の従業員の解雇問題で、前に登場した阪大デ学同の一幹部であり工学部大学院生のワイ氏とボス交渉をもった際、ワイ氏は「外販でK仕入係が横領したとか、K主任がリベートをポケットに入れたとかが事実でないことは十分承知しているが、彼らを生協から追放するために政治的にそういう風にいうだけだ」と本音をうちあけたり、又元阪大教養部自治会委員長をやっていたキムラなどが大衆の前で興奮のあまり「これ(解雇の方針)は阪自連(デ学同系)決定だ!」と口ばしっていたのである。
 ところでデ学同が組織決定として「阪大生協のトロツキストを追いだすべし」の至上命令を出したのにはもう一つ理由があったともいわれている。それはクズノやナカヤといった下部の同盟員のあずかりしらない上部機関の事情にあった。阪大のデ学同の上部機関は日本共産党をパージされた人間によって組織された「日本共産党・日本人の声」であった。当時この組織には、どういういきさつでか知らないが、日本共産党への復党の動きがあった。そこで日本共産党の心証をよくするために、この組織が阪大のデ学同に命じたのは「現在トロツキスト一派に実権をうばわれている阪大生協をデ学同の権力下におき、それを前々から阪大生協の支配を望んでいた日本共産党への手みやげとして元に復帰しやすい状況をつくること」であったというのだ。
 それはともかく、ナカヤから発せられた挑戦の口火が後に大阪大学をゆるがす大事件になるまでに燃えひろがっていこうとは誰が予想できようか。そのときの理事会は懲戒解雇問題というはじめての問題に緊迫した重苦しい空気が流れたが、結局、学生理事会の結束ぶりにおしきられ、K仕入係の解雇提案の方は若干数の反対をもちつつ可決するところとなった。ただK主任の方は「解雇になる十分な理由がない」ということで学生理事達の思い通りにはならなかった。そして外販活動の即時中止の決定が同時になされた。それはまったく学生理事とそれを支持するデ学同系の一部教職員理事のペースではこばれた。今まで出席のなかった学生理事もデ学同の組織命令で出席していたし、彼らの発言も熱気をおびているというよりも、むしろ狂気じみていた。
 阪大生協労組は、この決定がなされたことを知るや、解雇の背景にはデ学同の政治的野望があるとして[K仕入係の解雇は不当であり、一日決定を白紙撤回せよ」と石橋地区の全面ストライキに突入した。それにより、食堂をはじめ、購買売店、書籍売店の営業が一時ストップし、学内の福利厚生施設の機能がマヒしてしまい、大学人に打撃をあたえた。学内は理事会を支持する者と労組を支持する者との二つにわかれ、マイク合戦がはでにくりひろげられるなど、騒然たるふんいきをかもしだしてきたのである。
 その間にあって、クズノ、ナカヤをはじめ他の学生理事の活躍はめざましいものがあった。彼らはデ学同が主導権をにぎっている阪自連をはじめとする各学部の自治会、寮自治会、それにサークルにいたるまでの、ありとあらゆる組織の情宣機関を使って、理事会決定を支持する声明をださせるために奔走した。ここで筆者は幾百枚もでた同じ内容をもったビラの一つを紹介するにとどめておこう。

 法学部自治会臨時ニュース   一二月一三日
 生協問題解決の為、教職員、全学友に訴える
 理事会を支援し、スト中止を要求しよう


 K(仕入係)解雇の一二月一日理事会決定は正当である
 一二月一日、理事会で仕入部K氏が解雇決定されましたが、それは、生協法、定款違反の外販活動を行なったというものであり、私達の生協の存立基盤が危うくされるという重大な問題をもっており、解雇は、生協の発展へむけて正当です。私達法学  部学生自治会として、一二月八日の午前中法学部生集会、午後学生大会、一二月一二日法学部三年集会を持ち、いずれも多数の参加のもとに、現在生じている生協問題への理解を深め、我々の姿勢を打ち出すべく努めてきました。

○K氏、法学部生集会で、法学部委員長への暴行事実を認める
 生協の問題が生じて以来、一二月五日以降、学内で暴力事件が続発しています。生協の理事、組織部員、工学部ウエダ君、各自治会の役員等に対して、K(仕入係)ら一部 労組員、学外暴力者、あるいは反戦者会議等が、数多くの暴行を加えています。又ビラの配布は妨害、強奪され、立看もたてられないような状態が続き、学友あるいは、生協 労組のおばさん達に事実が十分伝えられませんでした。私達はこのような事実を隠し、大学自治を破壊する暴力を断じて許せないし、これら暴力集団に対し、我々共々、教授会も断固とした態度を示すべきと考えます。

 ○一二・八学生大会で生協問題の緊急決議さる
 一二月八日午後一時半より開かれた「法学部学生大会」(六三名参加)において私達は生協問題を緊急にとりあげ次のような決議(集会決議)を全会一致で採択しました。
 一、暴力を排し、民主的討論の場を保障する。
 二、理事会が事実経過で理由を説明するよう要望する。
 三、定款を守り、民主的改善を行い、生協を発展させよう。

 ○生協問題解決の為私達法学部三年生一同(約五○名)は次の様に提案、要望します  
 私達法学部三年生は一二月一二日、九○分にわたる討議の上、次の諸点を確認決議しました。
 一、一二月一日の理事会決定を支持する。
 二、K(仕入係)証言(団交席上)にあらわれたS、M両専従理事の責任は、事実を調査し、事実であれば、理事会     は両名の責任を追及せよ。
 三、理事会、労組、生協組合員との話し合いの場をもつよう要求する。
 四、ストライキを直ちにやめ、その上で生協の改善策を追求するよう要求する。
 五、理事会は今後の発展へむけて積極的な方針を示すよう要求する。

 ○生協労組のおばさん達、私達学生の声にも耳を傾けて下さい。
         (以上全文)法学部学生自治会運営委員会発行

 こういった状態について、学外のいわゆる第三者はどうみていたのであろうか。四二年一二月二二日付の「朝日新聞」は次のような記事をのせている。

  団地進出で対立
 阪大生活協同組合の団地進出をめぐって、生協理事会と従業員の労組が対立、これに学生運動の主導権争いがからんで、阪大学内で暴力事件まで起こり、二十一日「暴力にはきびしい態度でのぞむ」との岡田実総長の告示が学内にだされた。団地への販売を正式に認めるよう要求する生協労組、外販活動は定款違反という生協理事会、外販は生協法違反という大阪府福祉課、「安いものを売ってくれる生協がなぜ悪い」という主婦達の声がまざりあって、いまのところ簡単には解決しそうにない。
 同生協はさる八月から豊中市東豊中第二団地で週二回、青空市場を開き、市価より格安の生鮮食料品を販売。その後、池田市五月ヶ丘団地にも進出、両団地に毎日約千本の牛乳を売り込んでいる。
 紛争はさる一日、理事会が団地販売担当の従業員一人を、一、外販活動は生協の定款に違反、二、理事会の承認しない外販活動に生協の資金を使い、赤字を出した、として解雇をきめたのがきっかけ。労組側は「外販活動は生協の発展に必要」と主張、解雇の白紙撤回を要求して六日午後からストに入った。S労組委員長らは「購買者の限られている大学生協ではコストを下げるのに限度がある。どうしても販路の拡張が必要だった」といっており、この考えに沿ってこれまで関西大、大阪経済大の生協と結び「北大阪大学生協中央企画室」をつくって共同仕入などを進めてきた。
 「暴力事件」はさる六日、このいきさつを知らせようとした同大自治会連合(阪自連)のビラを、労組を支持する反戦者会議(三派全学連系)の学生が奪い、取り返そうとした学生達に労組員が乱暴した、というもの。阪自連は、デ学同が主導権をにぎり、生協の学生理事もほとんどが同派。生協労組、反戦者会議がこれと反目、生協紛争を一層あおりたてた、と同大学学生部(滝川春雄部長)はみている。
 一方、団地の主婦達は気をもむばかり。東豊中第二団地の主婦、岡村昌子さんは「生協の品物は三、四割も安く、月平均三千円近く家計が助かる。団地自治会の委託購入というかたちで、わたしたちも販売を手伝ってきた。いま手を引かれては」と、訴えている。
   
 実際、それ以後、阪大生協の「地域化構想」は頓挫したのである。


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