〔感情は心身両面の健康に影響を与える〕 ASの痛みは、私たちが心配したり怒ったりする時に通常強まる。 だからこそ「肩の力を抜く」ことを学ぼう。 そのことを徹底的に話そう 心配なとき、それを隠すことはやめよう。あなたが信頼できる誰か 分別のある人、良い友人か、家族か、あなたの主治医か、牧師さんに 打ち明けよう。話すことは、あなたの緊張を緩和し、あなたの心配を よりはっきりと把握し、そしてしばしばあなたがそれに対して何が できるかを理解する助けとなる。 しばらくエスケープしよう 時々、映画や本やゲーム、あるいはちょっとした小旅行に出かける ことが、自分を解き放つ助けとなる。一息ついてバランスを取り戻す のに十分なくらい、エスケープすることは非常に現実的で健康的なこと である。あなたが落ち着きを取り戻し、あなたの持っている困難に 取り組むのにより良い状態になったら戻れば良い。 あなたの怒りを他のことで発散させよう もしキレそうになったら、その衝動をしばらく押さえてみよう。 明日まで待ってみよう。しばらくの間、その鬱積したエネルギーを何か 体を動かすこと、テニスとか、車を洗うとか、強化運動をするとか、 長い散歩をするとか、に向けよう。少しの間、頭を冷やすことで、 あなたはその状況に対処する準備をするのにより良い状態になるだろう。 時には譲ろう 自分が知っていることについて自分の主張を通すことは正しいが、 穏やかにやろう。そしてあなたも間違うかも知れないということに 関しては見逃そう。もしも絶対に正しい時でさえ、当面、いったん 譲る方があなたの体に良い。その結果、満足と賢明という気分で 緊張から解放されるだろう。 人のために何かをしよう いつも自分のことばかり心配しているように感じたら、誰か他の人の ために何かをしてみよう。このことが、あなた自身の心配を発散させ、 さらにはあなたに何かを上手に達成したというすばらしい気分をもたらす だろう。 一度に一つずつしよう 普通の作業量でも、その一部分でさえ取り組むのが耐えられないように 感じることが時々あるだろう。そういう時には、それが一時的なもので、 あなたはそういう状態から抜け出すことができるということを思い出そう。 最も急ぎの仕事に、一度に一つずつかかろう。物事がとんとん拍子に 進むときには、他の仕事ももっと簡単にできるだろう。もし、物事を こんな風に賢く処理できそうもないと感じるときは、考えてみよう。 あなたがやっていることの重要さ、つまりあなた自身の重要さを過小評価 していないか?と。 他人の批判はやめよう 他の人があなたの期待に応えないからと欲求不満になってない だろうか?。人にはそれぞれ価値観、短所(実際にも、想像上のものも)、 個人として成長する権利もあることを思い出そう。批判的になる代わりに、 良い点をみつけよう。このことは、双方に満足を与え、自分自身について もより良い前途を見出す助けとなるだろう。 他の人に一休みさせてあげよう 感情的に緊張しているとき、人々はそのゴールが長い道のりの中で つまらないものであっても、他の人にわずかでも勝つために「一番乗り」 しなければと感じることがしばしばある。すべてのことが競争になったら、 誰かが、身体的、感情的、精神的に傷つくことになってしまう。 競争には伝染性があるが、それゆえに協同作用でもある。もしある人が もはやあなたを脅威でないと感じるなら、その人もあなたにとって脅威で あることをやめるだろう。 あなたを「役立て」よう 私たちの多くは、自分が、忘れ去られ、軽視され、拒否されていると 感じることが時々ある。私たちはしばしば、他の人たちが自分たちのこと をそんな風に感じていると想像している。実際にはその人たちが、私たち のためにまず行動したいと思っている時でも。引っ込んでいないで、 いつも声をかけてもらうのを待っていないで、何か提案する方がずっと 健康的で実際的である。 レクリエーションの計画をたてよう 中休みは心身両面の健康に必須である。何かレクリエーションをする 予定の具体的な時間のプログラムを計画しよう。一般的には、ほとんど すべての人にとって、オフの時間に楽しめる趣味、自分を完全に没頭 させることができ、仕事のことをすべて忘れて楽しめる趣味を持つこと が望ましい。 〔訳者コメント:日本ではこのような指導をしてくれる人が 少ない!いても聞く耳を持つ患者が少ない!〕
クリンコフ博士はアーネット博士がASが97%の確率で遺伝子に 関連するという結論に達したことを語った。環境的な影響として感染も 少しはあるが原因ではない。たくさんの研究が行われたにもかかわらず、 HLA-B27 の役割と遺伝子と細菌の相互作用は未だ不明である。 ASの原因として3つの説が挙げられている。 1つは、細菌のような生物による慢性の感染。この感染が引き金と なって体の免疫が反応するのである。この最も一般的な細菌が クレブシェラである。 2つ目は、下痢のような伝染性の病気が引き金となって感染し易く なってしまうという説である。 3つ目の説は、食べ物の中に、細菌か体の蛋白質を真似るものがあって、 それに対する拒否反応が逆戻りできない免疫系の異常反応となってしまう というものである。 クリンコフ博士はヒトゲノム計画が、人間のDNA、ひいては人間の 病気を理解するのに役立つ研究であると語った。 人によって HLA-B27 を持っていない人もいる。なぜなら、HLA-B27が ASに関連する唯一の遺伝子ではないからである。ほかにも似ている 遺伝子があり、それがASに関連して来るのである。また、15の小さい 遺伝子が一緒になってASの原因になる遺伝子に変身することもあると 言われている。 「AS患者は皆 虹彩炎 になりますか?」という質問に対し、「いいえ、B27を持っていない人は なりません(すなわち、B27陰性の人)。ASの人でも虹彩炎や心疾患に なる人の割合は大きくありません」というのがクリンコフ博士の 答えだった。 「目の痛みや炎症は医者に見せなくてはいけないのですか?。眼の炎症は 1週間続くと聞きました」と誰かが聞いた。「虹彩炎はすぐに治療して もらった方が良いです。なぜなら、視覚に影響を与える恐れがあるからです。 たいていは副腎皮質ホルモン剤で大丈夫です」と答えた。 CTスキャン検査を行った時に注入された造影剤により体が異常に 反応し、落ち着くまでに4時間半かかるような人がいる(これは、 造影剤に含まれるヨウ素に対して起こるアレルギー反応・拒絶反応に よるものである)。そういう人は必ず事前に医者に言うこと。CT検査の 造影剤には2つのタイプがあって、10倍高価であるため、 あまり使用されていないが、このような激しい生命を脅かすような反応を 起こす人に使える造影剤もある。 「腸はASとどのように関係するのですか?」という質問に対して、 クリンコフ博士は、大腸内視鏡検査では、AS患者には高率で潰瘍形成が 認められる。 IBD(炎症性腸疾患…潰瘍性大腸炎またはクローン病)が ASを引き起こす原因になるという説がある。もし腸疾患に対して有効な 治療があるなら、それはASにとっても有効であろう。 クリンコフ博士は次に診断について話した。伝統的、歴史的に、ASの 診断は、早朝の凝りと背中の痛みがひどく、文字通り患者はそのために 起きてしまう。その後、痛みは動くことによって約30分以内に劇的に 軽減する。診断のためのほかの因子は、熱、疲労感、慢性の食欲不振、 そして、レントゲンで明らかな仙腸関節の骨増殖である。 ヨーロッパでは、ASの診断には、必ずしもレントゲン変化ではなく、 他の6つの要素が必要である。背中の凝りと痛みが非ステロイド系 消炎鎮痛剤に反応する場合、5つの要素で診断する。この診断方法は 患者ケアにおけるすばらしい進歩である。なぜなら、骨の成長が始まる 前に治療が出来るからである。もし非ステロイド系消炎鎮痛剤と運動で、 可動域の減少が劇的に改善したなら、この診断基準でASの診断が 可能である(この基準を利用すれば、高価で時間を費やし、時には 不快な検査に何百ドルも使わず済む)。 有名なイギリス人の理学療法士のジェーン・ベアフット氏はASの 専門家だが、「運動!運動!運動!」と提唱している。クリンコフ博士は、 運動療法についてのいくつかの研究では、標準的なAS向けの毎日の 運動プログラムに従えば、1年、そして2年後の経過追跡でも (胸郭拡張の程度などによる評価)、運動をしなかった患者に比べて 改善が認められたと述べている。プールプログラムでも、実施後の改善が 認められている。しかし、一般の医師には、どのような運動のタイプと 方法が適切なのか判らないいため、運動方法(体操療法)について 具体的に書かれている研究論文は少ない。 次のトピックは治療についてである。クリンコフ博士は非ステロイド系 消炎鎮痛剤が一般的な治療法であり、他のいかなる薬物療法もいまだ それに代わるものとなっていないと語った。もう一つの薬剤は、 サラゾスルファピリジン(サラゾピリン®、 アザルフィジン®、ペンタサ®)で、 これはアスピリンとサルファ剤の化合物である。AS患者の一部の人には、 1日3グラム(6錠)で効果的だが、効果が現れるまでに16週間かかる 場合もある。 クリンコフ博士は「ASをいかに治癒するかはまだわからない」と 強調する。「はっきり言って、薬物によるいかなる治療も一時的に症状を 抑えるだけものであり、日常の活動と時間をより気分よく過ごせるように するものである。我々はこの病気を治せていない。痛みや筋肉の凝りや 動きを良くし、正常に機能し、家庭生活を営み、より少ない痛みでより 多くのことに参加できるようにはしているが……」と述べた。 非ステロイド系消炎鎮痛剤の問題点は、胃壁に穴を空けたり、潰瘍を 形成したり、出血させたりすることである。しかし、炎症を抑えるために、 非ステロイド系消炎鎮痛剤に代わる薬は未だなく、そうすると運動を するしかないということになる。非ステロイド系消炎鎮痛剤から胃腸を 守るために他の薬剤を飲む必要があるときもあるだろう。サラゾスルファ ピリジンは胃腸の潰瘍の原因にはならない。 聴衆の一人が、「一部の人は痛みを我慢して運動をし続けるが、 これによって痛みに対して鈍くなるのではないかという心配がある」 と発言したが、これに対して、「ブルース・クラーク氏によると、 可動性、強さ、姿勢を維持するために運動は最も大事だが、やり過ぎ にも注意しなくてはならない。このことは、過剰な運動で誘発される 痛みの増強によりわかるであろう。運動後の軽い痛みは仕方ないが、 運動した後、2時間以上痛みがあればやり過ぎである」 との回答であった。 一人のメンバーが、「その他の治療としてGLS(グルコサミン サルフェート)はどうだろうか。細菌のクレブシェラが血流に入り得る 部位での「蛋白漏出性胃腸症(?)」が起こる可能性があると言われた」 と発言した。また、ASにおけるカンジダ(真菌)感染についても 尋ねた。 クリンコフ博士は、「ASの治療としてのGLSの研究については 聞いたことがないが、骨関節炎の治療としてのGLSは聞いたことがある」 と答えた。クラーク氏もGLSはASにあまり関係がないのではないかと 述べた。GLSは軟骨の修復を助けるが、これはASにおいて一次的問題 ではない。クレブシェラ菌の原因説を支持する根拠が混同されている。 現時点では、この理論を支持するはっきとした根拠はない。ただし、 このことに対する注目が高まって来てはいる。 「重症のASとはどう定義できるか?」という質問に対して、 クリンコフ博士は、若年での発症、腰の症状がある、高い血沈値であると 答えた。 次の質問は、「第2の治療法は何か?。そして長期的使用による副作用 は何か?」であった。クリンコフ博士は、サラゾスルファピリジンの 長期使用による副作用はないと答えた。考えなくてはならないのは値段と 便利さである。一部の人にはかゆみを生じる場合もある。ほとんどの 専門家は、手首、指、足といった末梢の関節が罹患している場合、 この薬は適切であり、安全であると言っている。ASが重症で、満足に 治療できない場合、または患者に潰瘍の既往歴がある時でさえも、あるいは 重症の乾癬関節炎の治療にもこの薬は使用されている。 メトトレキサートも人によっては末梢の関節炎(股関節と脊椎以外) にも有効である。 放射線治療は、1950年代に多用されたが、現在は最終手段として使われて いる。患者が仕事もできず、歩けないほど重症の場合のみ、この方法が 使われる。リスクを伴うが、重症例では恩恵もあるのである(これは ラジウム温泉とは違う)。 手術によって背骨をまっすぐに出来る。あまりにも後弯がひどい場合は 手術によって、金属性のロッドを入れることも出来る。 いかなる場合も、治療に何を期待するのか、何が得られるか、そして 結果が出るまでどのくらい待つのかということを事前に考えておくこと である。自分の思い通りに行かなければすぐやめればよい。 抗生物質を使い過ぎると抗生物質に対して抵抗力のある細菌が生まれる ことがある。この場合、どんな抗生物質を使っても効果がないのでやめる べきである。 ノルウェーでの研究によると、女性では発病の平均年齢は23才である。 多くが末梢関節炎から発症する。妊娠中は、1/3が変化なしで、1/3 が良くなり、1/3が悪くなった。AS患者の男性対女性の比率は3:1 である。 ASは子供にも見られる。これは 「若年性慢性関節炎」の1型である。また大人の症状とは少し違い、 慢性関節リウマチとか他のタイプの関節炎と間違われることがある。 子供の場合は脊椎には痛みが現れず、踵部や膝や腰に痛みが発生する傾向 がある。脊椎の症状はその子供が10代になってから現れることが多い。 一人のメンバーが、「筋の痙攣(攣縮・硬直)に効く治療はありますか?」 と質問した。答えは、「これには、誰でもなるものと、炎症によってなる ものがあり、まず原因をドクターに診てもらった方が良いでしょう」 とのことであった。 私たちはクリンコフ先生が私たちのグループに話に来て下さり、 いろいろな質問に答えて下さったことに感謝した。先生は最後に ASグループにいろいろなことを話に来るようにと私たちに勧めた。 さて、私たちのグループのような組織に貴重な時間をささげてくださり、 慢性疾患と戦うために必要な知識を得る必要のある人々を助けてくださる クリンコフ先生のようなドクター方に感謝しましょう。クリンコフ先生、 ありがとうございました。すばらしい会合でした! 〔訳者コメント:日本にも、ASに関するどんな質問にも即座に 答えられる専門家、特に患者さんを研究対象として見るのみでなく (勿論、一部それも必要)、患者さんの気持ちを理解しようと努力し、 患者さんのことを真に思い、温かくやさしく包み込んでくれる クリンコフ博士のようなASを専門とする“女医”が欲しい!。 大阪には、AS専門医ではありませんが、田中会長を初め何人かの会員も 相談に乗っていただいている内科医で漢方医でやさしい土方康世先生が いらっしゃいます〕
本研究では、88人の患者をランダムに2つのグループに分けた。 1つのグループには少量のアミトリプチリンが与えられ、もう1つの グループには偽薬が与えられた。結果は、アミトリプチリンを与えられた 患者の方が普段より深い眠りに就くことができ(66%対20%)、疲れが 取れると同時に症状も和らいだ。また、副作用もほとんどなかった (あったとしても、服用をやめれば全て消える程度の副作用だった)。 我々の当初の懸念は根拠のないもののようだった。なぜなら深い眠りは 朝のこわばりを悪化させるどころか、実際には緩和させた。一つの 可能性として、疲労が取れ、機能が改善されたことにより筋肉の凝りも 和らいだためと考えられる。 しかし、この実験はたった2週間の研究でしかなかった。もし アミトリプチリンがASに対して長期的効果があるかどうかを証明する ためには、長期間の実験を要する。また、実験に参加した患者は 全員活発な運動プログラムを実行しており、非ステロイド系消炎鎮痛剤 を服用していたことを付け加える必要がある。明らかに、 アミトリプチリンは患者の消炎鎮痛剤服用の助けするものとして 作用したのである。 〔訳者コメント:日本では、整形外科医が抗うつ剤のような 精神科用剤をうまく使える能力はなく、さりとて、AS患者を 精神科に回そうものなら、患者さんが怒る〕 |