などの特徴を持ち、慢性関節リウマチの特異的検査である
血清リウマチ反応が陰性である疾患群を、まとめて「血清(リウマチ)
反応陰性脊椎関節症(炎) Seronegative Spondylarthropathy」
と呼びます。これらの疾患群の間で相互に症状が重複することもあり、
鑑別が困難な場合も少なくありません。
細菌感染が先行することが示唆されており、病巣部に
微生物が証明される感染症とは異なるものの(従って、抗生物質は
無効なことが多い)、免疫学的検査により、たとえば細菌に対する
アレルギーといったように細菌感染との関連性が証明されつつ
あります(細菌に対する血清中の抗体価の上昇など)。また、完治が
困難な慢性期疾患ではあるものの生命予後は良好であることも共通の
特徴と言えます。次にこの血清反応陰性脊椎関節症に含まれる疾患と
その概要を述べます。
(1) 強直性脊椎炎
(Ankylosing Spondylitis : AS)
(2) 乾癬性(かんせんせい)関節炎
(Psoriatic Arthritis : PA)
原因不明の紅斑(こうはん)と鱗屑(りんせつ)(皮膚がボロボロ落ちる)
を伴う皮膚疾患(写真(1))であるが、
細菌免疫学的研究から、ASと同じように、その発症には細菌の感染が
関連していることが推定されています。20〜40%に多発性の関節病変
(手の指に多い)や脊椎炎を伴い、その場合には爪の病変を伴うこと
が多い。
しかし、ASのように対称性に発生することは少なく(非対称性)、
竹様脊柱(bamboo spine)になることも稀である。ASと同じように、
患者の約30%にブドウ膜炎を合併する。ASほどHLA-B27の陽性率は
高くないが、脊椎炎を伴う患者では50%に陽性を示す。男女ほぼ同じ
頻度で発生し、小児には稀で30代以降の発症が多い。皮膚病変が
関節病変より先に出現することが多い。
治療は、皮膚病に関しては、角化症(かくかしょう)治療剤の
エトレチナート(チガソン…ただし、催奇形性(さいきけいせい)が
あり服用中は男女とも妊娠を避ける)や、紫外線と薬剤を併用した
PUVA療法などが行なわれるが、脊椎関節炎に関しては、ASと同じで、
運動療法や理学療法とともに、NSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛剤)、
サラゾスルファピリジン(アザルフィジン)、メトトレキサート
(メソトレキセート、リウマトレックス)、さらには漢方薬
(消風散(しょうふうさん)、加味逍遙散合四物湯(かみしょうよう
さんごうしもつとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)、
温清飲(うんせいいん)など)の有効性も証明されている。ムシ歯、
扁桃腺、ニキビ、あるいはまた心理的ストレスも悪化因子となる。
再発し易く重症例では完治困難な場合も多いが、根気良く治療を
続ければ、十分に緩解は得られる。
写真(1) 乾癬 (足、頭部、手)
(リウマチ科、2:1989. 小坂 論文より引用)
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(3) 炎症性腸疾患に伴う関節炎
(Enteropathic Arthropathies:EA)
腹痛、下痢、血便、体重減少などを特徴的症状とする原因不明の
炎症性腸疾患である「クローン病」や「潰瘍性大腸炎」の10〜20%に
関節炎や脊椎炎がみられる。ASのように対称性に発症することは
少なく(非対称性)、竹様脊柱(bamboo spine)となるケースも稀で
ある。脊椎炎を伴う患者の50%にHLA-B27が陽性を示す。多くは、
腸の症状が脊椎・関節より早く生じる。男性に若干多い。クローン病と
潰瘍性大腸炎の区別は、腸粘膜の病変の特徴や発生部位(クローン病は
消化管金体、潰瘍性大腸炎は大腸に限局する)により区別するが、
鑑別困難な場合もある。
結節性紅斑(けっせつせいこうはん)といった皮膚病変を合併すること
もあり(10〜25%)、さらには下肢の皮膚潰瘍や血栓性静脈炎を合併
することもある。時にブドウ膜炎も合併する(3〜11%)。
サラゾスルファピリジン(サラゾピリン、ペンタサ、アザルフィジン)が
特効薬とされており、本薬剤は腸病変に限らず脊椎関節炎にも有用である。
その他、重症例に副腎皮質ホルモンが使われ、また、脊椎関節炎には、
ASと同じくNSAIDsが有用である。腸症状が激しい期間は、絶食が必要で、
静脈から栄養剤を投与し、再重症例では稀に腸の切除術が行われることも
ある。また、日頃の食事療法も大切である(高エネルギー、高蛋白、
低脂肪、低残渣食(ていざんさしょく)、高ビタミン特にビタミンKと
B12とC、亜鉛補給など)。
(4) ライター症候群と反応性関節炎
(Reiter Syndrome:RS, Reactive Arthritis:ReA)
ライター症候群は、サルモネラや赤痢菌などによる
大腸炎(下痢、腹痛など)やクラミジア(性交渉後に多い)による尿路
・生殖器の感染症の後、しばらくしてから(多くは1ケ月以内)発症
する関節炎、尿道炎、結膜炎の3徴候を示す疾患である。しかし、
これら3徴候が揃うことは少なく、その不全型が多いため、最近欧米では
反応性関節炎と呼ばれるようになっています。通常、関節炎は1つか
2つの関節に限局して発生する。細菌感染症が契機となるが、尿道炎や
子宮頚管炎(しきゅうけいかんえん)などは症状が軽いため見過ごされる
ことも多い。関節の中に細菌が証明することはできず、従って、
抗生物質も無効である。
ASと同じく、腱・靭帯付着部炎(アキレス腱や
足底筋膜の付着部の踵の痛みなど)で発症することがあり、また、
時に口内炎、亀頭炎、皮膚膿漏性角化症(ひふのうろうせいかくかしょう)、
爪萎縮なども伴う。化膿性(細菌性)関節炎、慢性関節リウマチ、
痛風などが否定された若年者の関節炎の中に本疾患が紛れ込み、初期
診断が遅れることが多い。発症には遺伝的要因が関与することが明らか
となり、HLA-B27の陽性率も60〜80%と高い。ASと同じく男性に多く
発症する。仙腸関節炎は30%程度に生じるが、脊椎炎を伴うことは稀で
ある。NSAIDs、関節炎が激しい場合にはステロイドにより多くは6ヶ月
以内に治癒する。一般に予後は良好で、多くは1回のみの発症であるが、
40%に再発するという報告もある。
(5) 掌蹠膿疱症性骨関節炎(しょうせきのうほうしょうせいこつかんせつえん)
(Pustulotic Arthro-0steitis : PAO)
掌蹠膿疱症とは手掌や足蹴(そくせき)(底)に無菌性の多数の小膿疱
を生じ、緩解・増悪を繰り返す疾患で、ある種の細菌(免疫学的研究に
より連鎖球菌が疑われている)に対するアレルギー疹(反応性無菌膿疱)
と考えられている(写真(2))。
本疾患の10%に、骨関節炎が生じる。骨関節病変のうち最も多く見られる
のが前胸部の上部にある胸骨と鎖骨と第1肋骨間の靭帯骨化として生ずる
胸肋鎖骨異常骨化症である。(写真(3))。逆に、
胸肋鎖骨異常骨化症がみられた場合、その60〜80%に掌蹴膿抱症が合併する。
稀に、骨盤・仙腸関節、脊椎や四肢の長管骨にも骨関節病変
(化膿性骨髄炎様(かのうせいこつずいえんよう)のレントゲン像を示すが
細菌は証明されない)が発生する。
中年に発症することが多く、ASと違って男女比率はほぼ同じか若干
女性に多く、HLA-B27の陽性率は一般人に比べて特に高くない。皮膚病変が
先に発症するケースと骨関節病変が先に発症するケースがあり、また、
皮膚症状と骨関節症状が並行するケースとそうでないケースがある。
血液検査では、ASと同じく軽度の炎症所見(血沈、CRPなどが亢進)
を示すことが多い。
病変部の疫病(夜間痛も多い)が主たる症状で、
胸肋鎖骨異常骨化症では、前胸部の疼痛や腫脹(
写真(4))が生じ、進行すると胸骨、鎖骨、肋骨間の靭帯骨化による
可動域制限のため、いわゆる「いかり肩」を呈するようになる。
脊椎や長管骨に病変がある場合には、病的骨折を起こすこともある。
疼痛に対してはNSAIDsが有効で、症状が激しい場合には、少量の
ステロイドが有効であり、また細菌の巣窟であるムシ歯(治療材に
対するアレルギーも)や扁桃腺炎や中耳炎の治療を行うと病状が
改善する場合が多いので、これらが存在していれば、まずその治療を
実施してみる。また、感染症ではないものの抗生物質療法が効果を
あげたという報告があるが、有効な抗生物質の種類は不定で、その
有効性もまちまちであるため、標準的治療とはなっていない。
局所の骨の手術は無効かまたは一時的効果に過ぎないことが多い。
漢方薬の三物黄苓湯(さんもつおうごんとう)が有効だったという報告
もある。予後は良好であり、50歳を過ぎると鎮静化することが多い。
写真(2) 掌蹠膿疱症蹠部(足底)の膿疱
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写真(3) 掌蹠膿疱症の胸部レントゲン
前胸部の上方、第1肋骨、胸骨の間の靱帯が骨化している
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写真(4) 掌蹠膿疱症
鎖骨の中枢(内側)端に膨隆がみられる
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(6) その他
分類不能な脊椎関節症とか靭帯症と呼ばれ、上記のような疾患にも
分類できない脊椎・関節炎、骨関節炎、靭帯付着部炎がある。
また、先天性の遺伝病で、黒色尿を呈するアルカプトン尿症、全身に
鉄分が沈着するヘモクロマトーシス、体内の銅代謝異常(どうたいしゃ
いじょう)によるウィルソン病などでは、AS類似の脊椎炎・関節炎や
靭帯炎を生じる。
(7) 強直性脊椎骨増殖症(きょうちょくせいせきついこつぞうしょくしょう)
(Ankylosing Spinal Hyperostosis : ASH)
ASと同じように、広範囲に脊柱の靭帯に骨化が生じて、可動域が
減少し、稀にはASと同じように脊柱の強直(可動域消失)をおこす
疾患である。しかし、ASのような激痛を生じることは少なく、
中年以降になって見つかる(発症)ケースが圧倒的に多いこと、ASの
ような血液炎症反応(血沈亢進やCRP上昇など)が見られないこと、
HLA-B27の陽性率は一般人と同じであること、仙腸関節が強直することは
稀であること、そして、レントゲン上、縦にきれいに入る靭帯骨化像で
脊椎間がつながるASに比べて(syndesmophyte)、横方向にモコモコと
張り出すように骨化像が見えることなどから(osteophyte)、鑑別可能
である(写真(5))。
略語もASと似ており、頚部〜背部〜腰部の疼痛、そして脊柱の
運動制限と症状も似ているため、しばしばASと誤診される。肥満体の人、
糖尿病の人に多いとされており、またカルシウム代謝異常やフッ素中毒、
末端肥大症、副甲状腺機能低下症などとの関連性も注目されている。
ASと同じく、原因は良くわかっておらず、脊椎に限らず四肢の関節周辺
にも骨化傾向を呈するので、先天性に全身の靭帯が骨化し易い素因(遺伝)
があるとも言われている。
ASと同じく根治療法はなく、痛みやこわばりに対して種々の薬剤や
理学療法などでは症状は軽減する。脊椎を連結する靭帯、例えば頚椎の
前方を走る前縦靭帯(ぜんじゅうじんたい)に骨化が起こると気管や食道を
圧迫して呼吸障害や嚥下障害(えんげしょうがい)を起こすことが稀にある。
また後方の後縦靭帯(こうじゅうじんたい)が骨化すると、すぐ後ろを走る
脊髄を圧迫して脊髄麻痺を起こすこともあり、その際には骨(棘)切除術や
脊柱管拡大術などの手術が必要となる。
写真(5) 強直性脊椎骨増殖症
強直性脊椎炎(Q.15の写真(3)参照)
と違って、靱帯骨化像がモコモコと張り出して見える
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