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漢字の成り立ちの俗説  (2008/01/26)
漢字の成り立ちには俗説が多い。今週、放送していたドラマ金八先生では、
金八先生が「親という字は木の上に立って子供の帰りを見守ると書くんです」
と言っていた。これも俗説である。

実際は「親」という字は「辛」「木」「見」から成り立つ。
しかし、こうなった理由については、学者によって説が違っている。

「辛」は、はだ身を刺す鋭いナイフを描いた象形文字。親の左側は「木」を ナイフで切ったなま木。親はそれを音符とし、「見」を加えた字で、ナイフで 身を切るように身近に接して見ていること。じかに刺激をうける近しい間がら の意。(「漢字源」藤堂明保編)
「辛」は取っ手の付いた大きな針。この針を投げて位牌を作る「木」を選び、 その新しく切り出した木で作った位牌を「見て」拝む形が「親」である。 新しい位牌は父母の位牌であることが多いので「おや」の意味となる。 (「常用字解」白川静著)
漢字は約3200年も前にできたものなので、その当時の状況をつかむのは、 かなり難しいことである。いろいろ説がでるのは仕方がないことである。 漢字の字形の変化には次のような歴史がある。 ・甲骨文(約3200年前~) ・金文(約3000年前~) ・小篆(約2200年前~) ・楷書(約1800年前~) 画像 漢字の成り立ちについて最初に書かれた書物は、紀元100年ごろ、許慎が まとめた「説文解字」である。この書物に書かれている説は長く受け入れら れてきた。しかし、この書物が参考にできたのは小篆までで甲骨文、金文は 当時、発見されていなかった。1899年に甲骨文が発見されると、「説文 解字」に間違いがあることが分かった。新しい資料が出土されるたびに、 漢字の成り立ちの説は変わって来た。今後も変わりうるだろう。
今週の金八先生の漢字解説  (2008/02/01)
今週の金八先生の漢字解説は「私」と「友」だった。

前回の記事に続き、金八先生の説明と漢字源と字統の説明を並べて見よう。

「私」

金八先生の説明
「禾」は「木」に目印の「ノ」を付けたもの。「ム」はひじの形。
「私」という字は目印を付けた物は私の物だとひじで押さえつけている姿。

厶は自分だけのものをうででかかえこむさま。私は「禾(作物)+ 音符厶」で、収穫物を細分して、自分のだけをかかえこむこと。 (漢字源)
禾は稲などの穀物。厶はスキの象形。スキを用いて耕作する人を私 という。私とは私属の耕作者で、隷農的身分のものをいう。わが国 では自称の「わたくし」の字に用いる。(字統)
「友」 金八先生の説明 「ナ」は倒れそうな人の形。「又」は両手でそれを支える人の形。 「友」という字は倒れそうな仲間を懸命に助けようとする姿。
かばうように曲げた手をくみあわせたもの。手でかばいあうこと。 転じて、仲よくかばいあう仲間。(漢字源)
又と又とに従う。又は右手の形。各々の手をもって助け合う意。 (字統)
漢字の成り立ちにはいろんな解釈があるのだなと思う。
白川静1  (2008/02/09)
白川静さんの名は、漢字の成り立ちについて調べていると必ず目に
する名である。私は彼の著作「常用字解」「字統」を愛用している。

その白川静さんの特集がテレビで4回シリーズで放送されている。
NHK教育テレビ、火曜日午後10:25-10:50「私のこだわり人物伝:
白川静 漢字に遊んだ巨人」である。

NHKのサイトの紹介記事には次のようにある。
96年の生涯を漢字研究に捧げた白川静(1910~2006)。2千年にわた る定説を覆し、独自の漢字解釈の体系を打ち立てた不世出の文字学 者だ。漢字が誕生した遥か3千年前の、呪術性に満ちた古代中国の 世界観を解き明かした白川静の圧倒的な漢字ワールドに迫り、反骨 孤高の人生を見つめる。
ここに書かれているように、白川さんは新たに発見された甲骨文字 の研究により、約1900年間通用していた「説文解字」の文字解 釈の誤りを指摘した。 例えば、各漢字に使われている、「口」をいう部分の多くは、顔に 付いている口ではなく、祝詞を書いたものを入れる器と解釈した。 これにより、漢字の成り立ちについて謎だった多くのものが解決さ れた。「告」の文字の解釈は、説文解字では牛と口が合わさった形 とみなし、牛が口をすりよせて訴えようとしているが「告」だとし た。しかし、牛が語りかけるというのは不自然な解釈だった。それ に対して白川さんは甲骨文字の形から、上の部分は神に捧げる木の 枝の形、口の形は神への祝詞をいれる器の形だとした。そして、 「告」とは神に祈り告げる意味と説いた。 白川さんの説の特徴は、占い、呪術、儀式など宗教的行為や軍事行 動を軸にしていることである。その理由は、漢字の始まりである甲 骨文字が、王が神に作物の豊作や戦争の勝利を祈願して占った結果 を記録したものだったからである。漢字は人が自然や神に交信する ために生まれたのである。 白川さんは「文字は神と共にあり、文字は神であった。」と語った。 これは、聖書のヨハネによる福音書の「言は神と共にあった。言は 神であった。」のパロディーである。
白川静2  (2008/02/14)
NHK教育テレビ「私のこだわり人物伝:白川静」の2回目の放送
を見た。

白川さんの説は、万人に絶賛されて受け入れられたわけではなかっ
た。藤堂明保さんを始めとする東大の学者から批判されたらしい。
白川さんと藤堂さんとでは、漢字の成り立ちの解釈が違っている。
「道」という字の解釈の違いを見てみよう。

「辶(足の動作)+音符首」で、首(あたま)を向けて進みいくみち。 (「漢字源」藤堂明保編)
首と辵を組み合わせた形。辵(辶)には歩く、行くの意味がある。 古い時代には、他の氏族のいる土地は、その氏族の霊や邪霊がいて 災いをもたらすと考えられていたので、異族の人の首を手に持ち、 その呪力で祓い清めて進んだ。祓い清められたところを道といい 「みち」の意味に用いる。 (「常用字解」白川静著)
白川さんの説の方がより具体的には感じるが、この結論に至った過 程が私にはわからないので、どちらが正しいとは言えない。 「漢字原子論」の発案者のハルペン・ジャックさんは藤堂明保さん から学んだそうだ。だから彼の本「漢字の再発見」は藤堂説になら っている。 私の漢字サイトはハルペン・ジャックさんの「漢字原子論」の検証 という立場から藤堂説を優先している。しかし、説明不足を感じる ものには白川説を採用しているところがある。
白川静3  (2008/02/24)
NHK教育テレビ「私のこだわり人物伝:白川静」の3回目の放送を見た。

今回は、中国で文字が生まれた背景についての話だった。
殷の時代の亀の甲羅や動物の骨に刻まれた甲骨文字が始まりだ。
最初の文字は、人と人との交信ではなく、神と人との交信(占い)
の結果を記録したものだ。だから、宗教的ものを背景とした文字が
多いというのが白川さんの解釈の特徴だ。

阝(こざとへん)は、従来、山の断面を表しているとされていた。
しかし、白川さんは、神が上り下りする階段だと解釈した。
「降」は右の部分が左右の足の形で、神が階段を降りる姿だとした。

犬はいけにえとして貴いもので、犠牲の意味で使われていると説明した。
実際、殷の遺跡からは、犠牲として埋められた犬の骨が多く見つかっている。
「器」は犬の四方に祝詞を入れる器を配置し、犬の犠牲によって、
器を清める行為を表している。

別の人の解釈と比較すると、白川さんの解釈の特徴がよく分かる。

「降」右側の字は、下向きの左足と右足を描いた象形文字で、下へ とくだることを示す。降はそれを音符とし、阜(おか)をそえた字 で、丘をくだることを明示したもの。 「器」さまざまな容器を示す。犬は種類の多いものの代表として加えた。 (「漢字源」藤堂明保編)
本来「犬」の部分が「大」になっている文字がある。器、臭、戻などだ。 「臭」は「自」が鼻を示し、犬の鼻は臭いをよく嗅ぎわけることから 「におい」の意味になった。 「戻」は家の出入り口(戸)に犠牲の犬を埋めて悪霊を祓うことから 「もとる(逆らう)」の意味になった。 (日本では転じて「もどる」の意味で用いる) これらは、戦後の文字改革で「犬」が使われている意味がわからず、 「大」にされてしまった文字たちだ。 白川さんはこのことを非難しておられた。
白川静4  (2008/02/29)
NHK教育テレビ「私のこだわり人物伝:白川静」の4回目の放送を見た。
今回が最後の放送だった。

今回は、日本で漢字がどのように受け入れられたかの話だった。
古代の日本は文字の無い社会だった。
5世紀頃から朝鮮経由で漢字が日本に入った。
日本人には初めての文字との出会いだった。
そして、日本人は漢字を受け入れた。

白川さんは「漢字は国字である」と語った。
よく言われる国字は「辻」「峠」などの日本で作られた漢字のこと
であるが、ここでは違う意味で使われている。
漢字を中国語として受け入れたのでなく、日本語の文字体系に組み
込んだということである。
多くの日本人が漢字の意味は分かっても、中国語は分からないこと
からも国字になったことが分かる。

国字化の一つは、漢字の訓読みである。「眠」は「ミン」という音
しかなかったが、日本人は「眠る」と書き、「ねむる」という音に
あてて使い始めたことである。
もう一つは、漢字をもとにして、日本独特の表音文字である仮名を
作ったことである。

白川さんの字書三部作は「字統」「字訓」「字通」である。
彼はこの分厚い字書をすべて一人で書き上げた。
「字統」は、中国で発見された甲骨文字をもとに、漢字の成り立ち
を解説したものである。
「字訓」は、今回の話題となっている、漢字が日本でどのように受
け入れられ、使われているかを解説したものである。
「字通」は、「字統」「字訓」を統合し、熟語、用例の解説を詳し
くしたものである。

今回の放送を見て思ったことが2つある。
一つは、漢字は朝鮮経由で入ってきたが、もしその時代にハングル
があったら、日本の表音文字はハングルだったかもしれないという
ことである。
朝鮮でハングルが作られ公布されたのが1446年のこと。
ハングルができるのが、千年はやかったら、それはありうる。
表音文字としては、ハングルのほうが使いやすいと思う。
もう一つは、漢字の訓読み方式は、現代のカタカナ語の受け入れ方
式にもなっているということである。
トラブる、ダブる、サボるなど、完全に日本語化している。
数多くのカタカナ語があふれているにもかかわらず、多くの日本人
が英語が分からないことからも日本語になったことが分かる。
朝鮮語は漢字を訓読みのように使わないので、日本がハングルを受
け入れ、朝鮮のやりかたに習っていたら、漢字の訓読みもなかった
かもしれない。

金八先生最終回の漢字  (2008/03/23)
卒業式の日、金八先生は各生徒に漢字を一字ずつ贈った。

「友」 倒れそうな人がいたら腕を伸ばし一所懸命ささえてあげる姿。【×】
「雅」 この字には、カラスと言う意味がある。
     カラスがガーガーと鳴くので牙という字が入っている。
「嬌」 (成り立ちの説明なし)
「駿」 鋤を引っ張りながら懸命に荒地を耕す馬の姿。
「花」 (成り立ちの説明なし)
「球」 王様が求めるもの。【×】
「瞳」 目の中にいるわらべ。【×】
「輪」 (成り立ちの説明なし)
「織」 (成り立ちの説明なし)
「光」 たいまつをかかげている人の姿。
「武」 大きな刀を持っている人を懸命に止めている姿。【×】
「貝」 遠い昔、きれいな貝はお金の代わりをしていた。
「父」 斧の形。父は斧で木を切り倒し家を建て家族を養う。
「仁」 きれいな敷物の上で二人の人が仲良く座っている姿。
「彩」 とってもきれいな色の木の実をつんで、美しく布を染め上げる。
「歩」 少し止まり、一歩一歩進む。【×】
「優」 人を憂いる優しい人。【×】
「食」 人に良いもの。【×】
「直」 眉毛をあげて物陰からしっかり真っ直ぐ物を見つめている姿。
「学」 瓦屋根のしたで子供が学ぶ姿。
「南」 牧場の柵が空いていて小羊がいつでも遊びに行ける風景。【×】
「春」 上下逆にすると、太陽が輝いていて地面から草が伸びている季節。
「香」 実がいっぱい実った穀物を火の中に入れて手に上げている風景。
     穀物を焼いたり炊いたりするとあたり一面にいい香りがする。
「笑」 かんざしを付けた女の人が神様に祈りながら踊っている姿。
「情」 青には人の心を清らかにするという意味がある。
     ひそやかに相手を思いやる心が「なさけ」。

漢字の成り立ちの説明のない字や、俗説的なものも幾つかあった。
誤りと思われるものには【×】のマークを付けた。
正しい成り立ちの説明は下記のサイトで確かめてください。

右と左の書き順  (2008/04/14)
右の字も左の字も、ナという部分があるが、この書き順が
右と左で違うというのはご存知だろうか。

右の場合は「ノ」から書いて次に「ー」を書く。
左は逆に「ー」から書いて次に「ノ」を書く。

なぜこのように違うかというと、右と左の古代文字を見ると分かる。
古代文字では、「ナ」の部分が手の形を表している。
長い線が腕で、短いU字型の線が手の指を表している。

画像

画像

現代の字形から言うと、右の場合、右腕が横に寝ている形である。
「ノ」が右手の指で、「ー」がその腕になっている。
左の場合は左腕が立っている形になっていて、
「ー」が左手の指で、「ノ」がその腕ということになる。
つまり、どちらも書き順は指を書いてから腕を書くというふうになっている。

右の字は、右手の形と口でできていて、
食事のときに口に物を運ぶ右手の姿である。
左の字は、左手の形と工でできていて、
工作するときに定規にそえる左手の姿である。

木の系統の漢字  (2008/12/04)
木の字に一本の印を付けてできている漢字についての話。
「本」「末」「末」「朱」が、それに当たる。
古代の字形を見るとわかる通り、木に一本の印を付けると、
これらの字ができる。

画像

末:木の上部に印を付けたもの。
   これは、木のこずえを示す。
   木の細く小さい部分から、すえの意になる。

未:木の上部に印を付けたもの。
   これは、木のまだ伸びきらない部分を示す。
   伸びきらないことから「まだしていない」意になる。

朱:木の中部に印を付けたもの。
   これは、木の中央を一線でたち切ることを示す。
   切り株の木質部のあかい色から、朱色の意になる。

本:木の下部に印を付けたもの。
   これは、木の根の太い部分を示す。
   木の太い根もとから、もとの意となる。

元犬の漢字  (2008/12/14)
落語で「元犬」という題目があるが、今回は漢字の話。
「器」「臭」「戻」「突」「類」の「大」の部分は元「犬」だった。
「大」よりも「犬」の方が、成り立ちがよく分かる。
ただ、学者によって説が違うので、それぞれ併記する。

器:口が4つ + 犬
  藤堂説
    口はさまざまな容器を表す。
    犬は種類の多いものの代表として加えた。
  白川説
    儀式に使ういろいろな器を並べたさま。
    犬は器を清めるための犠牲の犬。

臭:自 + 犬
  自は鼻の形。
  犬の鼻は臭いをよく嗅ぎ分ける。

戻:戸 + 犬
  藤堂説
    暴犬が戸内に閉じ込められ暴れるさま->逆らう、もどる。
  白川説
    玄関の下に悪霊よけのために埋められた犬。
    悪霊を追い返す->もどす。

突:穴 + 犬
  藤堂説
    穴の中から急に犬がとび出すさま->つく。
  白川説
    かまどの穴に犠牲の犬を供えるさま。
    かまどから煙を出すための煙突->つきでる、つく。

類:米 + 犬 + 頁
  藤堂説
    米は、たくさんの植物の代表。
    犬は、種類の多い動物の代表。
    頁は、あたま。
    多くの物の頭かずをそろえて、区わけすることをあらわす。
  白川説
    頁は、儀礼のときの衣冠を整えた姿。
    米と犬の犠牲を供え、礼装して拝む形。
    常例の祭りににせた臨時の祭礼->にせる、るいする。

白川説の大きな特徴は、犬を儀式の犠牲としている所である。
事実、古代中国の遺跡からは、犠牲に捧げられた犬の骨が多く
見つかっている。

白川氏は著書「常用字解」の中で、「犬」が「大」になったことに
ついて、次のように言っている。

  「今の常用漢字の字形は、犬を大に変えて臭としているが、
   臭は大きな鼻の意味となり、においという意味にはならない。
   ほかにも、常用漢字では器、突、類、戻としているが、
   伏、就は大に変えていない。常用漢字の字形には、このように
   字の構造や意味を理解できないように変えてしまっている
   場合がある。」

私も、大に変えたり、犬のままにしたりという不統一は気になる。
たった一画のことだったら、犬のままにした方が良かったと思う。

漢字廃止で韓国に何が起きたか  (2009/06/17)
呉善花(オ・ソンファ)著「漢字廃止で韓国に何が起きたか」(PHP研究所)
を読んだ。

韓国は、日本と同じように漢字を使ってきた国であった。しかし、現在は漢字
を捨ててしまっている。1948年に大韓民国が成立し、公用文はすべてハン
グルで書くよう法律が制定された。また、1968年からは、学校での漢字教
育が廃止された。だから、現在、50歳以下の人は、いっさい漢字の読み書き
ができない。

韓国語は漢字を廃止したために、日常的にはあまり使われない、しかし概念や
理念を表す言葉、各種の専門用語など、伝統的に漢語で表されてきた重要な言
葉の多くが、一般にはしだいに使われなくなっていった。各種の評論・研究論
文や新聞・雑誌の記事に、総じて書き言葉の世界に、語彙の恐ろしいまでの貧
困化がもたらされたのである。とくに文学の面では、散文でも詩文でも、伝統
的にあった豊かな漢字表現の大部分を失ってしまった。そのため、現在の韓国
人が書く文章は一般的に、簡潔、単純、直接的という傾向が強く、言葉の奥行
きが極めて浅い。

ハングルだけで書くということは、日本語に当てはめると、かなだけで書くと
いうことになる。かなだけで書いた文と漢字かな混じり文で書いた文の例を比
較してみる。

「かきょうしほんの、ゆうちは、さいしゅうかんこうかいはつの、きばくざい
やくわりは、むろん、だいにの、ほんこんかの、ために、こくさいじゆうとし
すいしんにも、めがとんきゅうかつりょくそに、なるという、ひょうかである」

「華僑資本の誘致は、済州観光開発の起爆剤役割は、無論、第二香港化の為に
国際自由都市推進にも、メガトン級活力素になるという評価である」

このように、漢字語が多い文章では、非常にわかりにくくなる。漢字語では、
同音異義語があるので、表音文字だけでは、意味がつかみにくい。そして、漢
字語は使われなくなっていく。漢字語は韓国語の語彙の70%を占めていた。
漢字を捨てることは、その語彙を捨ててしまうことになったのである。概念語
や専門用語の大部分が漢字語であるのに、それが使えなくなった。そのため、
韓国人は、抽象度の高い思考を苦手とするようになってしまった。

韓国では、英語の教育が非常に熱心だと伝え聞く。これは、漢字語の抽象度の
高い語彙を捨ててしまったために、それを英語に頼らざるを得なくなったから
である。アジアの国々の中で、日本人は最も英語を苦手とするとよく言われて
いる。インド、フィリピン、香港では英語が堪能な人が多い。しかし、日本人
が英語が苦手なのは、日本語のもつ機能が英語に負けていなかったからではな
いか。日本では明治時代に多くの外国の単語を漢字語にして日本語として吸収
した。高等教育を日本語のままで、受けることが可能になった。たとえば「哲
学」は日本以外のほとんどの国では、philosophieとして万国共通語になって
いる。日本は「哲学」という独自の形で「文明語」を保持しているのである。
それ以外のアジアの国々では、その言語の中に「文明語」を持っていなかった
ため、国を文明化するために、英語をそのまま利用するしかなかった。このよ
うな国では、大学の講義はほとんど英語で行なわれている。韓国は漢字語を捨
ててしまったため、そのような国の仲間入りをしたのである。

国字について  (2009/12/16)
・国字とは、漢字に似せて日本で作られた字のことである。

・国訓とは、中国に元からある字だが、日本で別の意味を与えられ
 たものである。その発生パターンには次のものがある。

  ・日本で作った字と同じ形の字が、じつは、中国にもあった。
   例)吋はインチを表す字で、寸の約3cmとインチの約2.5cmが
     近いため、寸に口を合わせて作られた字であるが、
     中国には「しかる声」という意味ですでにあった字。

  ・ある漢字の意味を勘違いして、訓を当てた。
   例)鮪の原義はチョウザメだが、日本にはいないため、
     わからず、大きな魚という情報からマグロに当てた。

  ・すでにある漢字を利用して音に当てた。
   例)「米」を「メートル」や「アメリカ」に当てた。

  最後のパターンを除いて、国字としてリストに入れた。

・幽霊文字とは、JIS漢字の内、漢字辞典に載っていない字
 のことである。その内訳は次のものであった。

  ・人名・地名にしか使われない字。

  ・JISに収録の時、誤って写された字。

  これも、国字としてリストに入れた。



このリストには、JIS第1水準と第2水準の文字だけから
選んでいる。それ以外からの国字については、下記のサイト
が詳しいので、こちらを参照してほしい。

日本語を読むための漢字辞典

干支の漢字  (2010/01/14)
今年の干支(えと)は寅(とら)。なぜ虎ではなく寅なのだろうか。

干支(えと)は、音読みでは、「カンシ」と読む。
支は、十二支で、干は、十干のことである。
干は幹を表し、支は枝を表している。

十干の説明は後にして、まずは十二支の説明から。

十二支には12の動物を当てているが、
本来、各漢字は、その動物の意味を持っていない。
元々は、物事の順番を表す、数字的なものだった。
のちに、わかりやすくするために、動物を当てたようだ。
十二支の漢字が使われ始めたのは殷の時代(約3200年前)だが、
動物に当てはめるようになったのは、戦国時代(約2200年前)
からだと言う。

十二支は、現在は、年を表すのに用いているが、
昔は、月、日、時刻、方角を表すのにも用いていた。
方角は、艮、巽、坤、乾を追加し、16方位で表す場合がある。


字  音    訓      動物 時刻  方角

子  シ    ね・ねずみ  鼠 夜十二時 北
丑  チュウ  うし     牛 午前二時 北北東
艮  ゴン   うしとら   =丑寅    北東
寅  イン   とら     虎 午前四時 東北東
卯  ボウ   う・うさぎ  兎 午前六時 東
辰  シン   たつ     竜 午前八時 東南東
巽  ソン   たつみ    =辰巳    南東
巳  シ    み・へび   蛇 午前十時 南南東
午  ゴ    うま     馬 正午   南
未  ビ    ひつじ    羊 午後二時 南南西
坤  コン   ひつじさる  =未申    南西
申  シン   さる     猿 午後四時 西南西
酉  ユウ   とり     鳥 午後六時 西
戌  ジュツ  いぬ     犬 午後八時 西北西
乾  ケン   いぬい    =戌亥    北西
亥  ガイ   い・いのしし 猪 午後十時 北北西


それぞれの漢字の本来の意味は以下のとおりである。
△は本来の意味よりも、十二支の意味で用いられるほうが多い。
×は本来の意味が失われ、十二支の意味でのみ用いられる。

子:こども。
丑:(物をつかみ)引き締める。×
艮:とまって動かない。△
寅:(緊張して体のばし)つつしむ。△
卯:無理に入り込む。(かぶさる)△
辰:元気よくふるいたつ。△
巽:へりくだる。△
巳:胎児。×
午:上下に交差する。(杵)△
未:いまだ。
坤:つち。
申:もうす。(伸びる)
酉:酒つぼ。×
戌:収穫する。(ほこ)×
乾:かわく。
亥:骨組み。×

これらの漢字が十二支に用いられた理由として、
植物の成長になぞらえているという説がある。

子:植物がこれから子をふやし生長しようとする種子。
丑:植物が地下において、なお屈曲して伸びかねている。
寅:植物がすくすくと伸び始める。
卯:植物の若葉が茂って、上からかぶさる。
辰:植物が芽をなびかせて動き、盛んに生長する。
巳:植物が種子をはらみ始める。
午:十二進法の前半と後半が交差するポスト。
未:木のこずえの未熟な枝。
申:作物の伸びきった時期。
酉:収穫した穀物で新酒を作る。
戌:武器で収穫物を守る。
亥:十二進法の体系(骨組み)が全部張りわたった所。

十二支に当てられたそれぞれの動物の由来は不明だ。
しかし、いくつかは推測ができる。

子は、鼠の小さいところ。
丑は、五行の土が当てられているので、農耕に使われる牛を当てた。
辰は、竜が天地を震わせるイメージ。
巳は、字の形が蛇の形に似ているから。
午は、杵の字の原型。固い穀物を杵でつきならすように、
   きつい馬をならし柔順に制御することから。
未は、味の字の要素になっている。そこで、食用になる羊を当てた。
申は、神の字の原型。そこで神の使いと思われた猿を当てた。
戌は、11月に当てられている。この時期は狩猟の季節なので、
   狩猟に使われる犬を当てた。
亥は、元々、豚の骨の象形文字なので。

現在、よく聞く言葉の中には、十二支に由来するものがある。

正午、午前、午後は、午(うま)の刻の昼12時の意から。
丑三つ(うしみつ)は、丑(うし)の刻の夜中2時頃。
子午線は、子の方角の北極と、午の方角の南極を結ぶ線。
端午の節句は、5月の月初めの午(端午)の日の行事。
酉の市は、11月の酉の日の鷲神社でおこなわれる祭礼の際、
神社境内に立つ市。
艮(うしとら、北東)を鬼門とするのは、鬼が牛のような角を持ち、
虎皮のパンツをはいているから。
桃太郎の鬼退治の動物が、犬、猿、キジなのは、艮の反対方向が
申(猿)、酉(鳥)、戌(犬)であるから。



次は十干の説明。

十干も元々は、物事の順番を表す、数字的なものだった。
のちに、陰陽五行をあてた。
陰陽五行とは、万物の元素である、木、火、土、金、水の五行と、
陽を示す「え(兄)」、陰を示す「と(弟)」を組み合わせたものである。
実は、「えと」の語源はこの「え(兄)と(弟)」である。


字  音     訓     訓の語源

甲  コウ    きのえ   き(木)のえ(兄)
乙  オツ・イツ きのと   き(木)のと(弟)
丙  ヘイ    ひのえ   ひ(火)のえ(兄)
丁  テイ    ひのと   ひ(火)のと(弟)
戊  ボ     つちのえ  つち(土)のえ(兄)
己  キ     つちのと  つち(土)のと(弟)
庚  コウ    かのえ   か(金)のえ(兄)
辛  シン    かのと   か(金)のと(弟)
壬  ジン    みずのえ  ず(水)のえ(兄)
癸  キ     みずのと  みず(水)のと(弟)


十干は高低のランクや、仮名として用いられることがおおい。

音楽では、甲は一番高い音をしめす。
甲高い(かんだかい)という言葉はここからきている。
乙は甲より一つ低い音で、低く渋い魅力があるので、
おもむきが良いと言う意味で使われる。「乙な味」等。
昔は、成績のランクとして、甲乙丙丁が用いられていた。
焼酎は甲類・乙類に分類される。
契約書などで、関係当事者に使われる。
ABC株式会社(以下、「甲」とする。)等。

それぞれの漢字の本来の意味は以下のとおりである。
△は本来の意味よりも、十干の意味で用いられるほうが多い。
×は本来の意味が失われ、十干の意味でのみ用いられる。

甲:かぶと。こうら。
乙:押さえてつかえさせ止める。△
丙:(左右に張り出る)魚の尾。△
丁:ちょうど。(T型)
戊:ほこ。×
己:おのれ。(起きる)
庚:強い心棒。△
辛:からい。(刃物)
壬:ふとい。△
癸:(コンパスを回して)はかる。△

これらの漢字が十干に用いられた理由として、
十二支と同様、植物の成長にあてはめたと言われている。

甲:植物が固いカラにおおわれている。
乙:植物がなお抑圧されて伸び出せず、地下で屈曲している。
丙:植物の根がいよいよ左右に張り出る。
丁:植物の芽が伸びようとして、地表にT型にあたり、
   なお表面に出きれない。
戊:植物の芽が、固い地表をおかして、無理に地上に顔を出す。
己:植物の若芽がむっくと起き立つ。
庚:植物の茎が固く成長する。
辛:成長した植物を切りとる。
壬:植物を取りこんで収穫物で蔵もふくれる。
癸:数がひとめぐりした所。

「旬」は10日のことだが、十干を日に当てはめた場合の、
一回りである。



十二支と十干を組あわせて用いる場合がある。

組み合わせは、12×10=120だが、
実際は2つづつずらして組み合わせるため、60とおりになる。
この60とおりを年や日に当てる。
年に当てた場合、60年で一回りになるので、
60歳を還暦と言う。

今年2010年は庚寅(かのえとら)である。
戊辰戦争は、1868年の戊辰の年に起きた戦争である。
甲子園球場は、完成した1924年が甲子の年だったから。
丙午(ひのえうま)の年(1966年)に出生数が少なかったのは、
丙午の年に生まれた女性は気性が激しく、夫の運勢を圧倒して
短命にするという俗信があったから、出産が差し控えられた。
丙(ひのえ)は、火と陽の組み合わせだし、
午(うま)は、正午の熱い時刻、南の熱い方角を示し、
共に激しいイメージがあるからだろう。



陰陽五行についての補足

土用について

季節に五行を当てはめると次のようになる
春=木、夏=火、秋=金、冬=水
そして、土は、季節の変わり目に当てはめる。
季節の変わり目の各18日が土用と言われる。
18×4=72日は、ちょうど360日÷5である。
つまり、1年の約360日を、五行の各要素に割り振っている。
土用の丑の日は、夏の土用(立秋前の18日間)の丑の日。
風呂に入ったり、灸をしたり、「ウ」のつく食べ物を食べると
よいとされる。

曜日、惑星との関係

陽は太陽、陰は月、木火土金水は惑星に当てはめている。
火は、軍神の焼き尽くすイメージから。
水は、水銀のイメージから。
木は、不明だが、火水金土を当てはめたあまりだろうか。
金は、女神の美しいイメージから。
土は、農耕の神の土を耕すイメージから。
曜日は、これらの天体に当てはめて作られた。


太陽 sun
日曜 Sunday   sun(太陽)の日

月   moon
月曜 Monday   moon(月)の日

火星 Mars    軍神
火曜 Tuesday   Tiw(チュートン族の軍神の名)の日

水星 Mercury   神々の使者、水銀
水曜 Wednesday  Woden(ゲルマンの神)の日

木星 Jupiter   神神の王
木曜 Thursday  Thor(雷、天候の支配者)の日

金星 Venus    美と愛の女神
金曜 Friday   Frigg (Woden の妻)の日

土星 Saturn   農耕の神
土曜 Saturday  Saturn(土星)の日


漢字の数  (2010/01/23)
漢字全体の数

・日本最大の漢和辞典である諸橋氏の「大漢和辞典」は
 約5万字を収録している。
・中国の漢字辞典である「中華字海」は85,568字を収録している。
・コンピュータの文字集合のUNICODEは約7万字を収録している。
 その内、Windowsの標準フォントに登録されているのは
 約27,000字である。
・文字フォント集「今昔文字鏡」は約16万字を収録している。



使用されている漢字の数

・白川静氏によると「大漢和辞典」の約5万字の内、
 3分の2は用例の無い不要な字であるとのこと。
 残りの半分も使用例のきわめて乏しいものだそうだ。
 実際に使われている字は約8000字ほど。
・JISの第1水準の2965字と第2水準の3390字を合わせると6355字。
 第3水準の1259字と第4水準の2436字も含めると10050字。
・常用漢字は1945字。人名用漢字は985字。合わせて2930字。



漢字原子の数

漢字は複数の漢字を組み合わせてできているものが多い。
たとえば、「解」は「角」「刀」「牛」の組み合わせである。
漢字の要素となっている基本的な漢字を漢字原子という。

・ハルペン・ジャック氏の「漢字の再発見」によれば308字。
・私が常用漢字の範囲内で調べたところによると367字。
・白川静氏によれば約800字。

数の漢字  (2010/01/31)
数を表わす漢字


字   意味 大字    大字の本来の意味

〇   0  零     しずく
一・弌 1  壱・壹   ひとつ
二・弍 2  弐・貳・貮 ふたつ
三・弎 3  参・參   まいる
四・亖 4  肆     つらねる
五   5  伍     五人組
六   6  陸     陸地
七   7  質・柒・漆 質=なかみ,漆=うるし
八   8  捌     さばく
九   9  玖     黒色の美しい石
十   10 拾     ひろう
卄・廿 20
卅・丗 30
卌   40
百   100  佰・陌   佰=百人の長,陌=みち
千   1000 仟・阡   仟=千人の長,阡=みち
万・萬 10000


大字=改ざん防止のために使われる文字



大きい数


字   音   意味

億   オク  10の8乗
兆   チョウ 10の12乗
京   ケイ  10の16乗
垓   ガイ  10の20乗
秭   シ   10の24乗
穣   ジョウ 10の28乗
溝   コウ  10の32乗
澗   カン  10の36乗
正   セイ  10の40乗
載   サイ  10の44乗
極   ゴク  10の48乗




小さい数


字   音   意味

分   ブ   0.1
厘・釐 リン  0.1の2乗
毛・毫 モウ  0.1の3乗
糸・絲 シ   0.1の4乗
忽   コツ  0.1の5乗
微   ビ   0.1の6乗
繊   セン  0.1の7乗
沙   シャ  0.1の8乗
塵   ジン  0.1の9乗
埃   アイ  0.1の10乗
渺   ビョウ 0.1の11乗
漠   バク  0.1の12乗


仮名の元になった漢字  (2010/02/06)
仮名の元になった漢字

平仮名、片仮名は漢字を元に作られた。
平仮名は元になった漢字の草体(崩し字)から作られたものが多い。
片仮名は元になった漢字の一部を取って作られたものが多い。
元になった漢字は、その音読の呉音に当てたものが多い。
漢音や訓読に当てたものもある。

あ:「安」の草体。呉音「アン」に当てた。
ア:「阿」の偏の略体。呉音「ア」に当てた。

い:「以」の草体。呉音「イ」に当てた。
イ:「伊」の偏。呉音「イ」に当てた。

う:「宇」の草体。呉音「ウ」に当てた。
ウ:「宇」の冠。

え:「衣」の草体。呉音「エ」に当てた。
エ:「江」の旁。訓読「え」に当てた。

お:「於」の草体。呉音「オ」に当てた。
オ:「於」の草体の偏。

か:「加」の草体。漢音「カ」に当てた。
カ:「加」の偏。

き:「幾」の草体。漢音「キ」に当てた。
キ:「き」の上の部分の転形。

く:「久」の草体。呉音「ク」に当てた。
ク:「久」の最初の2画。

け:「計」の草体。呉音「ケ」に当てた。
ケ:「介」の略体。呉音「ケ」に当てた。

こ:「己」の草体。呉音「コ」に当てた。
コ:「己」の最初の2画。

さ:「左」の草体。呉音「サ」に当てた。
サ:「散」の草体の上部。呉音「サン」に当てた。

し:「之」の草体。呉音「シ」に当てた。
シ:「し」の転形。

す:「寸」の草体。呉音「スン」に当てた。
ス:「須」の草体の旁の終りの部分。呉音「ス」に当てた。

せ:「世」の草体。呉音「セ」に当てた。
セ:「せ」の転形。

そ:「曽」の草体。呉音「ソ」に当てた。
ソ:「曽」の最初の2画。

た:「太」の草体。呉音「タイ」に当てた。
タ:「多」の上画。呉音「タ」に当てた。

ち:「知」の草体。呉音「チ」に当てた。
チ:「千」の転形。訓読「ち」に当てた。

つ:「州」か「川」の略体の草体。呉音「ス」に当てた。
   または、「鬥」の草体。呉音「ツ」に当てた。
ツ:「州」か「川」の略体。

て:「天」の草体。呉音「テン」に当てた。
テ:「天」の最初の3画の転形。

と:「止」の草体。訓読「とまる」に当てた。
ト:「止」の最初の2画。

な:「奈」の草体。呉音「ナ」に当てた。
ナ:「奈」の最初の2画。

に:「仁」の草体。呉音「ニン」に当てた。
ニ:「仁」の旁。

ぬ:「奴」の草体。呉音「ヌ」に当てた。
ヌ:「奴」の旁。

ね:「祢」の草体。呉音「ネ」に当てた。
ネ:「祢」の偏。

の:「乃」の草体。呉音「ノ」に当てた。
ノ:「乃」の最初の1画。

は:「波」の草体。呉音「ハ」に当てた。
ハ:「八」の全画。呉音「ハチ」に当てた。

ひ:「比」の草体。呉音「ヒ」に当てた。
ヒ:「比」の旁。

ふ:「不」の草体。呉音「フ」に当てた。
フ:「不」の最初の2画。

へ:「部」の旁の草体。訓読「べ」に当てた。
   または、「反」の草体。漢音「ハン」に当てた。
ヘ:「部」の旁の草体。

ほ:「保」の草体。呉音「ホ」に当てた。
ホ:「保」の終りの4画。

ま:「末」の草体。呉音「マツ」に当てた。
マ:「末」の最初の2画の転形。

み:「美」の草体。呉音「ミ」に当てた。
ミ:「三」の草体。訓読「み」に当てた。

む:「武」の草体。呉音「ム」に当てた。
ム:「牟」の上画。呉音「ム」に当てた。

め:「女」の草体。訓読「め」に当てた。
メ:「女」の略体。

も:「毛」の草体。呉音「モウ」に当てた。
モ:「毛」の下画。

や:「也」の草体。呉音「ヤ」に当てた。
ヤ:「也」の草体の略体。

ゆ:「由」の草体。呉音「ユ」に当てた。
ユ:「由」の終りの2画。

よ:「与」の草体。呉音「ヨ」に当てた。
ヨ:「與」の一部。

ら:「良」の草体。呉音「ロウ(ラウ)」に当てた。
ラ:「良」の最初の2画。

り:「利」の草体。呉音「リ」に当てた。
リ:「利」の旁。

る:「留」の草体。呉音「ル」に当てた。
ル:「流」の終りの2画。呉音「ル」に当てた。

れ:「礼」の草体。漢音「レイ」に当てた。
レ:「礼」の旁。

ろ:「呂」の草体。呉音「ロ」に当てた。
ロ:「呂」の上画。

わ:「和」の草体。呉音「ワ」に当てた。
ワ:「和」の旁の転形。

ゐ:「為」の草体。呉音「イ(ヰ)」に当てた。
ヰ:「井」の略体。訓読「い(ゐ)」に当てた。

ゑ:「恵」の草体。呉音「エ(ヱ)」に当てた。
ヱ:「恵」の草体の終りの部分。

を:「遠」の草体。呉音「オン(ヲン)」に当てた。
ヲ:「乎」の初めの3画。呉音「オ(ヲ)」に当てた。

ん:「无」の草体。呉音「ム」に当てた。
ン:「尓」の上部の転形。呉音「ニ」に当てた。
   または、撥音記号「V」の転形。

ひらがなの表

画像

カタカナの表

画像

表の訂正:「ヨ」の元の字:「興」は間違い。正しくは「與」。

元素の漢字  (2010/02/11)
111の元素のうち、漢字で表されるものは22しかない。
あとは、英語等からの外来語で表される。

あまり使われないが、各元素の漢字が作られている。
下の表では、それを「単漢字」の欄に記載した。
気体のものは「气」、液体のものは「氵」「水」、
固体の金属は「金」、固体の非金属は「石」が付く。
原語の頭の音に合う中国語の音を持つ字が旁になっている。
2文字になっている部分は実は1文字である。
パソコンの標準フォントにこの文字がないためである。

英語欄では、元素記号と英単語が食い違う場合、
元素記号の元となったラテン語等の単語を括弧書きで記載した。


    漢字     単漢字 片仮名       英語

001 H 水素(スイソ)  氫 -         Hydrogen
002 He -        氦 ヘリウム      Helium
003 Li -        鋰 リチウム      Lithium
004 Be -        鈹 ベリリウム     Beryllium
005 B 硼素(ホウソ)  硼 -         Boron
006 C 炭素(タンソ)  碳 カーボン      Carbon
007 N 窒素(チッソ)  氮 -         Nitrogen
008 O 酸素(サンソ)  氧 -         Oxygen
009 F 弗素(フッソ)  氟 フリュオリネ    Fluorine
010 Ne -        氖 ネオン       Neon
011 Na -        鈉 ナトリウム     Sodium
                         (Natrium)
012 Mg          鎂 マグネシウム    Magnesium
013 Al          鋁 アルミニウム    Aluminium
014 Si 硅素(ケイソ)  硅 シリコン      Silicon
015 P 燐(リン)    磷 -         Phosphorus
016 S 硫黄(イオウ)  硫 -         Sulfur
017 Cl 塩素(エンソ)  氯 -         Chlorine
018 Ar -        氬 アルゴン      Argon
019 K -        鉀 カリウム      Potassium
                         (Kalium)
020 Ca -        鈣 カルシウム     Calcium
021 Sc -        鈧 スカンジウム    Scandium
022 Ti -        鈦 チタン       Titanium
023 V -        釩 バナジウム     Vanadium
024 Cr -        鉻 クロム       Chromium
025 Mn -        錳 マンガン      Manganese
026 Fe 鉄(テツ)    鉄 アイアン      Iron
                         (Ferrum)
027 Co -        鈷 コバルト      Cobalt
028 Ni -        鎳 ニッケル      Nickel
029 Cu 銅(ドウ)    銅 -         Copper
                         (Cuprum)
030 Zn 亜鉛(アエン)  鋅 ジンク       Zinc
031 Ga -        鎵 ガリウム      Gallium
032 Ge -        鍺 ゲルマニウム    Germanium
033 As 砒素(ヒソ)   砷 -         Arsenic
034 Se -        硒 セレン       Selenium
035 Br 臭素(シュウソ) 溴 -         Bromine
036 Kr -        氪 クリプトン     Krypton
037 Rb -        銣 ルビジウム     Rubidium
038 Sr -        鍶 ストロンチウム   Strontium
039 Y -        釔 イットリウム    Yttrium
040 Zr -        鋯 ジルコニウム    Zirkonium
041 Nb -        鈮 ニオブ       Niobium
042 Mo -        鉬 モリブデン     Molybdenum
043 Tc -        鍀 テクネチウム    Technetium
044 Ru -        釕 ルテニウム     Ruthenium
045 Rh -        銠 ロジウム      Rhodium
046 Pd -        鈀 パラジウム     Palladium
047 Ag 銀(ギン)    銀 シルバー      Silver
                         (Argentum)
048 Cd -        鎘 カドミウム     Cadmium
049 In -        銦 インジウム     Indium
050 Sn 錫(スズ)    錫 -         Tin
                         (Stannum)
051 Sb -        銻 アンチモン     Antimony
                         (Stibium)
052 Te -        碲 テルル       Tellurium
053 I 沃素(ヨウソ)  碘 ヨード       Iodine
054 Xe -        氙 キセノン      Xenon
055 Cs -        銫 セシウム      Caesium
056 Ba -        鋇 バリウム      Barium
057 La -        鑭 ランタン      Lanthanum
058 Ce -        鈰 セリウム      Cerium
059 Pr -        鐠 プラセオジム    Praseodymium
060 Nd -        釹 ネオジム      Neodymium
061 Pm -        鉕 プロメチウム    Promethium
062 Sm -        釤 サマリウム     Samarium
063 Eu -        銪 ユウロピウム    Europium
064 Gd -        釓 ガドリニウム    Gadolinium
065 Tb -        鋱 テルビウム     Terbium
066 Dy -        鏑 ジスプロシウム   Dysprosium
067 Ho -        鈥 ホルミウム     Holmium
068 Er -        鉺 エルビウム     Erbium
069 Tm -        銩 ツリウム      Thulium
070 Yb -        鐿 イッテルビウム   Ytterbium
071 Lu -        鑥 ルテチウム     Lutetium
072 Hf -        鉿 ハフニウム     Hafnium
073 Ta -        鉭 タンタル      Tantalum
074 W -        鎢 タングステン    Tungsten
                         (Wolfram)
075 Re -        錸 レニウム      Rhenium
076 Os -        鋨 オスミウム     Osmium
077 Ir -        銥 イリジウム     Iridium
078 Pt 白金(ハッキン) 鉑 プラチナ      Platinum
079 Au 金(キン)    金 ゴールド      Gold
                         (Aurum)
080 Hg 水銀(スイギン) 汞 マーキュリー    Mercury
                         (Hydrargyrum)
081 Tl -        鉈 タリウム      Thallium
082 Pb 鉛(ナマリ)   鉛 -         Lead
                         (Plumbum)
083 Bi -        鉍 ビスマス      Bismuth
084 Po -        釙 ポロニウム     Polonium
085 At -        砹 アスタチン     Astatine
086 Rn -        氡 ラドン       Radon
087 Fr -        鈁 フランシウム    Francium
088 Ra -        鐳 ラジウム      Radium
089 Ac -        錒 アクチニウム    Actinium
090 Th -        釷 トリウム      Thorium
091 Pa -        鏷 プロトアクチニウム Protactinium
092 U -        鈾 ウラン       Uranium
093 Np -        鎿 ネプツニウム    Neptunium
094 Pu -        鈈 プルトニウム    Plutonium
095 Am -        鎇 アメリシウム    Americium
096 Cm -        鋦 キュリウム     Curium
097 Bk -        錇 バークリウム    Berkelium
098 Cf -        鐦 カリホルニウム   Californium
099 Es -        鎄 アインスタイニウム Einsteinium
100 Fm -        鐨 フェルミウム    Fermium
101 Md -        鍆 メンデレビウム   Mendelevium
102 No -        鍩 ノーベリウム    Nobelium
103 Lr -        鐒 ローレンシウム   Lawrencium
104 Rf -        鑪 ラザホージウム   Rutherfordium
105 Db -       金杜 ドブニウム     Dubnium
106 Sg -       金喜 シーボーギウム   Seaborgium
107 Bh -       金波 ボーリウム     Bohrium
108 Hs -       金黒 ハッシウム     Hassium
109 Mt -       金麥 マイトネリウム   Meitnerium
110 Ds -        鐽 ダームスタチウム  Darmstadtium
111 Rg -        錀 レントゲニウム   Roentgenium
112 Cn -        鎶 コペルニシウム   Copernicium


単漢字は、下記のサイトを参考にした。

漢字で元素
http://www.akatsukinishisu.net/kanji/genso/

GlyphWiki - グループ : 元素記号
http://glyphwiki.org/wiki/Group:%E5%85%83%E7%B4%A0%E8%A8%98%E5%8F%B7



漢字名の由来は次のとおり。

水素(スイソ)は、燃やすと水ができることから。

硼素(ホウソ)の硼は、もろい意。硼素を含む硼砂はもろいから。

炭素(タンソ)は、炭の主成分だから。

窒素(チッソ)は、空気中の80%を占めていて、
空気から酸素がなくなると、窒素だけになり、窒息するから。

酸素(サンソ)は、昔、酸の主要な構成元素と思われていたから。
(現在では、違うことがわかっている。)

弗素(フッソ)の弗「フツ」は、フリュオリネの「フ」に当てた。

硅素(ケイソ)は、珪石の主成分だから。

塩素(エンソ)は、ナトリウムと化合して塩になることから。

砒素(ヒソ)は、砒石の主成分だから。

臭素(シュウソ)は、劇しい刺激性の臭気をもつことから。

沃素(ヨウソ)の沃「ヨウ」は、ヨードの「ヨー」に当てた。

燐(リン)の原義は鬼火。燐を燃やすと鬼火のように見えるから。

硫黄(イオウ)の硫は、火山から流れる溶岩。
火山地帯に産する黄色の鉱物だから。
「イオウ」は「リュウオウ」の転。

金(キン)の文字は、土の中に含まれた砂金をあらわす。
和名は「こがね」。黄色い金属。

銀(ギン)の旁の艮は、あとが残る意。
いつまでもあとをとどめる、腐食しにくい金属だから。
和名は「しろがね」。白い金属。

銅(ドウ)の旁の同は、あなをあけてつきぬく意。
あなをあけやすい、柔らかい金属だから。
和名は「あかがね」。赤い金属。

鉄(テツ)の旧字の鐵の旁は、まっすぐ切る意。
まっすぐに物を切りおとす鋭利な金属だから。
和名は「くろがね」。黒い金属。

白金(ハッキン)は、金のように貴重で白い金属だから。

水銀(スイギン)は、常温で液体の金属だから。
和名は「みずがね」。

錫(スズ)は、涼しい色(銀白色)の金属だから。
音読は「シャク」。
旁の易は平らにのばす意。平らに伸びる金属。

鉛(ナマリ)の「なま(生)」は柔らかい意。
柔らかい金属だから。
音読は「エン」。
旁は穴から水の流れ出る意。溶かせば水のように流れる金属。

亜鉛(アエン)は、鉛に似た柔らかい金属だから。

連綿字  (2010/03/23)
普通、漢字は一文字、一文字に意味を持っている。
しかし、一文字単体では意味を持たず、二文字が組み合わさって、
初めて意味を持つ字がある。これを連綿字という。

これらには、琵琶(ビワ)、葡萄(ブドウ)、琥珀(コハク)などがある。

中国語は1音節が意味を持つので、1音節が1文字になっている。
ただし、外来語やオノマトペ(擬音語や擬態語)は2音節で
意味をもつものがあり、これを連綿語という。
連綿字は連綿語を表すために作られた文字である。
連綿語は意味は一つであるが、音節数に従って漢字二字が当てられる。
一音節目と二音節目で部首を同じくする形声文字を使って
作られている字が多い。
2字同じ字を並べる場合もある。(擬音語、擬態語に多い)

例外として、廿(ニジュウ)、卅(サンジュウ)のように、
2音節で1文字のものもある。

連綿字のリスト
http://www5b.biglobe.ne.jp/~shu-sato/kanji/family-kan2.htm#renmen

六書  (2010/03/24)
六書(リクショ)とは、漢字の成り立ちを説明する六つの原理である。
象形(ショウケイ)、指事(シジ)、会意(カイイ)、形声(ケイセイ)、
転注(テンチュウ)、仮借(カシャ)がある。



象形、指事、会意、形声は、新しい漢字の作り方を示す。

象形は、ものの形をかたどって漢字を作ることである。

例)「川」「日」「月」「人」「木」「子」

指事は、形のない物事を、線や点で象徴化して表わすことである。

例)「一」「二」「上」「下」「本」「天」

会意は、既にある象形文字や指事文字を組み合わせて、それぞれの
意味を生かした新しい漢字を作ることである。

例)「木」+「木」=「林」:木々のある林
  「口」+「鳥」=「鳴」:鳥の口から鳴き声
  「人」+「言」=「信」:言葉を人が実行する->信じる
  「手」+「目」=「看」:手をかざしてよく見る

形声は、意味を表わす要素と音を表わす要素を組み合わせて、
新しい意味の漢字を作ることである。

例)「猿」「園」「遠」:袁(エン)が音を表す。
  「固」「枯」「姑」:古(コ)が音を表す。

形声文字は、漢字全体の80%を占める。
意味を表わす要素を意符、音を表わす要素を音符という。
意符が部首になる。



転注、仮借は、既にある漢字の新しい使い方を示す。

転注は、もともとの意味と関係ある別の意味に使い方を広げる
ことである。字音を変えるのを普通とする。

例)「楽」の元の意味は「音楽」だが、音楽は楽しいので、
  「楽しい」という意味でも使われるようになった。
  音楽の意味では「ガク」、楽しいの意味では「ラク」。
  「悪」は「悪い」の意味では「アク」、
  「憎む」の意味では「オ」。

仮借は、字のもとの意味とは無関係に、字の音だけを借りてほかの
意味を表わすことである。ある語に当てるべき漢字がない場合、
本来の意味は違う同音の他の漢字を借りて当てたものである。

例)「我」の本来の意味は、「のこぎり」であるが、
  「わたし」を表す「ガ」の音と同じであるため、
  「わたし」の意味で、使われるようになった。
  「豆」の本来の意味は、食物などを盛る器だが、
  同じ音の「まめ」の意にも使われるようになった。

「亜米利加(アメリカ)」「巴里(パリ)」などの当て字も
仮借に含まれる。



後漢の学者、許慎(キョシン)は、紀元98年、中国最初の字書
「説文解字(セツモンカイジ)」を著し、六書を用いて漢字の成り
立ちを説明した。許慎は、文字の構造についての説明をした、
文字学の祖といわれる。



ほとんど、辞典、書籍、サイトでは、象形、指事、会意、形声の
言葉を使って、漢字の成り立ちについて説明している。
ここの「漢字原子論」では、この言葉は使わない。
その代わり、象形や指事の基本漢字は、漢字原子とし、
会意や形声の合成漢字は、漢字化合物とした。
各字を象形、指事、会意、形声のどれに分類するかは、
学者によって意見が違うものがあるからである。



*形声についての補足

形声の音符は、その字の本来の意味とは、関係ないものが多い。
例えば、「工」は「穴を空ける」という意味があるが、
「紅」の「工」は音だけで、意味を引き継いでない。
べに色の糸を「コウ」と言っていたが、それに当たる字がなかった
ので、同じ音の「工」を借りてきて、「工」と区別するために、
「糸」を付けて造った字である。
これは、仮借的な形声文字である。

一方、意味を引き継いだ、音符もある。
「青(セイ)」は「すみきった、きよらか」という意味がある。
「清」は「すみきった水」、「精」は「きれいな米」、
「晴」は「すみきった空」で、どの漢字も音はセイであり、
意味の関連がある。
これは、会意的な形声文字である。

また、その漢字の意味が転じて他の意味になったため、
元の意味を、保存するために、意符を付加した字もある。
例えば、「申」は「神」を表す字だったが、「もうす」の意味に
転じたため、「示」を付加して「神」という字を作った。
また、「土」は「やしろ」を表す字だったが、「つち」の意味に
転じたため、「示」を付加して「社」という字を作った。
これは、転注的な形声文字である。



*転注についての補足

転注に関しては、実は、諸説あり、上での説明はその一つである。
これは「説文解字」での説明が不足し、例字も少ないためである。
「説文解字」では「共通の構成要素を持つものには共通の意味が
ある。」と書かれ、例字として、「考」「老」があげられている。

このため、幾つかの説がでてきている。
「考」「老」は両方とも老人を表す。「老」は現在でも、老人を
表すが、「考」は老人の腰が曲がったようすから、曲がりくねっ
て奥までかんがえるという意味に発展した。このように、意味が
転じていくことを、転注というのではないかというのが1つの説
である。

また、別の説では、音と意味を共有する漢字グループ(単語家族)
について説明しているというのもある。たとえば、
「副」「幅」には、「フク:ふくらんだ」という共通の意味があり、
「倫」「輪」には、「リン:連なった」という共通の意味ある。

「世界一受けたい授業」武田鉄矢先生の漢字の成り立ち講義  (2010/04/17)
日本テレビの番組「世界一受けたい授業」では、
金八先生こと武田鉄矢先生が、今まで、何回かに渡り、
漢字の成り立ちについて講義している。

ドラマの「3年B組 金八先生」では、所々に漢字の成り立ちに
ついて、話をすることがあったので、その縁で、講師を引き受けて
いるのだろう。

ただ、初めのころは、現在では間違いだと言われている説での
説明もしていた。

たとえば、「東」の成り立ちについて、木の向こうに日が昇る
姿だと説いていたいたが、甲骨文字の研究から、現在では、
両端をとじた袋の形だというのが、定説となっている。

たぶん、番組に対して、間違いだという抗議でもあったのだろう。
2009年4月25日の放送分からは、漢字学者の白川静さんの学説に
準拠した説明をこころがけているようである。



以下は武田鉄矢先生の登場回

2008/04/19
『日本語ミステリー 武田流 漢字の感じ方』
http://www.ntv.co.jp/sekaju/200910/class/080419/03.html

2008/10/04
『アナタの知らない漢字ミステリー 武田流!漢字の感じ方』
http://www.ntv.co.jp/sekaju/200910/class/081004/06.html

2009/04/25
『あなたの知らない漢字ミステリー!武田流 漢字の感じ方』
http://www.ntv.co.jp/sekaju/200910/class/090425/02.html

2009/11/28
『あなたの知らない日本語ミステリー!武田流漢字の感じ方 動物編』
http://www.ntv.co.jp/sekaju/onair/091128/03.html

2010/04/17
『あなたの知らない日本語ミステリー!武田流漢字の感じ方 新学期スペシャル』
http://www.ntv.co.jp/sekaju/onair/100417/02.html

みんなでニホンGO 漢字スペシャル  (2010/05/29)
NHKの「みんなでニホンGO」の2010年5月20日放送は
「漢字スペシャル」で、漢字の成り立ちの特集だった。

前半は人という字の成り立ちの俗説について、
後半は漢字学者の白川静さんの業績についてだった。

金八先生でおなじみの「人」という字は、人と人が支えあう形とい
う説明は、俗説で間違いだという。解説者の漢字文化研究者の阿辻
哲次さんによると、一人の人を横から見た形である。

金八先生の脚本家の小山内美江子さんに聞くと、これは彼女のオリ
ジナルでなく、女学校の校長先生が話したことだという。この説の
ルーツを探っていくと、新渡戸稲造さんが発祥だった。彼は漢字を
分解して、説明することが多かった。そのとき、学説として正しい
かということよりも、教訓として人の心を捉えられるかということ
を優先していたようだ。

後半は、解説者が山根一眞さんに交代し、白川静さんの業績について。
漢字の含まれる「口」の多くは、「くち」ではなく、「サイ」という
神様へのお祈りの言葉を入れる箱を表すという学説の説明だった。
白川静さんの学説の特徴は呪術的な事柄に結び付けたものが多いこと。
独特なので、批判も多い。前半の解説者の阿辻哲次さんも、白川説を
批判している。だから、解説者が山根一眞さんに代わったのだろう。

後半も阿辻さんに解説させると、白川さんの説の他にも、こういう
説がありますという話になっていただろう。前半で学説と俗説を取
り上げ、学説の正しさを話しておいて、後半で、学説もどれが正し
いか確証がないというのでは、視聴者を混乱させることになる。
解説者交代は、それをさけるための措置だったのだろう。

新常用漢字 ( 改定常用漢字表 ) について  (2010/06/19)
2010年6月7日、文化審議会は改定常用漢字表を文部科学大臣に答申した。

2010年11月30日、内閣告示された。

「漢字原子論」を、追加された常用漢字に対応した。

今回の改訂は、昭和56年以来、30年ぶりである。
「情報化時代に対応する漢字政策のありかた」と題して、
今まで手書きでは、使われなかった漢字で、パソコンの普及で、
最近使われるようになった漢字が、今回、追加になった。
たとえば、語彙の「彙」や憂鬱の「鬱」など、画数の多い漢字など。
その他、府県名に使われる漢字として、埼、阪、栃、岡、茨、奈、
媛、梨、阜、鹿、熊が追加された。

1945字に、196字を追加し、5字を削除して、計2136字になった。
削除された字は、時代の流れによって、現在では使われなく
なった字である。

勺(シャク)現在では使用されない容積の単位。0.018リットル。
匁(もんめ)現在では使用されない重さの単位。約3.75グラム。
錘(スイ、つむ)「紡錘」等。一般的には使われない言葉。
銑(セン)「銑鉄」等。一般的には使われない言葉。
脹(チョウ)「膨脹」等。現在では、「張」が使われる。

朕も現在では使われないと思うのだが、天皇に敬意を表わして、
残しているのだろう。

追加要望の多かった「鷹」「碍」「玻」は今回、追加されなかった。
ただし、私のサイト「漢字原子論」には、これらの字を入れておいた。
詳しい経緯は以下のサイトを参照してほしい。

常用漢字 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%B8%E7%94%A8%E6%BC%A2%E5%AD%97



今回の改訂によって、コンピュータ業界は、ある問題に直面している。

新常用漢字が引き起こす文字コード問題
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20091209/341831/

従来、パソコンの漢字コードには、シフトJISコードが使われてきた。
今回、追加された字の中に、シフトJISコードには、略体字や、
異体字はあるが、正字が無いものがある。以下の4文字である。

異体字:正字  :ユニコード
叱  :𠮟(口七):20B9F(WINDOWS XP以下のバージョンでは表示できない)
填  :塡(土眞):5861
剥  :剝(彔刂):525D
頬  :頰(夾頁):9830

これらは、最近、普及しはじめたユニコードには含まれる。
OSやワープロ、表計算などのオフィスソフトはユニコードに、
対応してているが、会計や給与等の業務用ソフトは、いまだに、
シフトJISコードにしか対応していないものが多い。

答申の付則の中で、「情報機器に搭載されている印刷文字字体の関係で、
本表の通用字体とは異なる字体(通用字体の「頰・賭・剝」に対する
「頬・賭・剥」など)を使用することは差し支えない。」とあるので、
シフトJISコードを使っても問題ないと思われる。
問題になるのは、これらが固有名に使われる場合であるが、
見ての通り、固有名に使われる例は乏しいと思う。

みんなでニホンGO 漢字スペシャル 第2弾  (2010/09/18)
NHK総合テレビの「みんなでニホンGO」は、2010年9月16日と
23日の2週に渡って「漢字スペシャル」の第2弾を放送した。

1つ目は、今年、29年ぶりに改定された常用漢字の話。
2つ目は、戦後の日本でGHQが日本語から漢字を廃止して、
ローマ字だけにしたかもしれない話。
3つ目は、最近、名前の漢字に読めない読みを付けることが多い話。



今回の改訂で追加される字の中から、「鬱」という字を
番組では取り上げた。画数がとても多い字である。
多くの人が読めるが書けないので、字の覚え方を紹介した。
「リンカーンはアメリカンコーヒーを3杯飲んだ」というのが
わかりやすかった。
「リン(林)カーン(缶)は(ワ=冖)アメリカン(米=※)
コー(凵)ヒー(ヒ)を3(彡)杯飲んだ。」だ。

「鬱」は、現代では、「気持ちがふさぐ」という意味で使うことが
多いが、本来は「草木がおおい茂る」という意味だった。
「草木がおおい茂る→ふさがる→気持ちがふさぐ」という意味の
変遷をたどった。

字の成り立ちからいうと、缶(かめ)と冖(閉じ込める)と鬯(香草)と
彡(周囲に放つ香り)で、酒に香りを付けるため、かめに閉じ込めた草。
林を加え、木々が一定の場所に閉じ込められて茂る意になる。



GHQが漢字が廃止しようとした話は次の記事が詳しい。
=>  「連合国軍最高司令官総司令部」の「日本語のローマ字化計画と断念」

GHQの民主化政策の一環として、ローマ字化が行われようとした。
「漢字は文字数が多いので、日本人は字の読めない人が多いに
違いない。ローマ字にすれば誰でも字が読めるようになる。
民主化のためには、ローマ字化は必須だ。」ということだったらしい。

そこで、約2万人のサンプルを集めて、漢字の読み書き調査が行われた。
その結果、識字率は98%だった。
アメリカの識字率は70%から80%らしいので、それより高かった。

識字率は文字の問題というよりは、教育を受ける機会の問題だと
証明されたわけである。
アメリカはまずは、他国の民主化を心配するより、自国の黒人差別
問題をなんとかすべきだった。

というわけで、日本語のローマ字化計画は廃止になったのである。

もし、日本語がローマ字化されていたらどうなっていただろうか。
おそらく、お隣の韓国のようになっていただろう。
(「漢字廃止で韓国に何が起きたか(2009/06/17)」の記事を参照)


最近の名前付けのランクで男子の1位は「大翔」と書いて「ひろと」、
女子の4位は「結愛」と書いて「ゆあ」と読ませるものだった。
このように、なんと読むのかわからない名前が多くなっている。
極端な例では「星(きらら)」「月(るな)」「騎士(ないと)」
「希彩(ゆあ)」などがある。

法律では、名前に使える漢字は、常用漢字の1945字と人名用漢
字の985字の合わせて2930字に制限されているのだが、
読みに関しては、法律上、全く制限されていない。
だから、「太郎」と書いて「はなこ」と読ませるのも、法律上は可能だ。

漢字に、あまり使わない読み当てることは、昔から行われてきた。
源頼朝の「朝(とも)」、菅原道真の「真(さね)」などである。
これらは、名乗り読みと言われ、名前でしか使われない読みである。
たとえば、「和」は、通常の読みは「なごむ」「やわらぐ」であるが、
名乗り読みは「あい」「あえ」「かず」「かた」「かつ」「かのう」
「たか」「ちか」「とし」「とも」「な」「のどか」「ひとし」
「まさ」「ます」「みきた」「やす」「やすし」「やまと」
「やわ」「やわら」「よし」「より」「わたる」等いっぱいある。
だから、読めない名前は、古来からの伝統というわけである。

簡体字  (2010/10/06)
簡体字

簡体字は、簡化字とも言い、1960年代に中華人民共和国で作られた、
簡略化した字体である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B0%A1%E4%BD%93%E5%AD%97

日本でも、1946年の当用漢字で、かなり簡略化されたが、
中国では、それ以上の簡略化が進められている。
すべての漢字を9画以内で書けることを目指したようである。

簡体字の全体を眺めてみると、日本では使いにくいものが多い。
中国音で同じ簡単な字に置き換えたものなどである。
ただ、一部は、わかりやすいものもあるので、これは利用できる。
黒板の板書を書き写すときや、会議のメモを取るのに役立つだろう。
以下に使えそうなものをあげてみる。

へんやつくりなど
  讠 = 訁
  饣 = 飠
  纟 = 糹
  钅 = 釒
  只 = 戠
  汤 = 湯(単独のつくりがないので湯で代表)
  竖 = 竪(単独のかんむりがないので竪で代表)
  览 = 覧(単独のかんむりがないので覧で代表)
  临 = 臨

へんやつくりなどにも使えるもの
  贝 = 貝
  见 = 見
  质 = 質
  页 = 頁
  鱼 = 魚
  鸟 = 鳥
  马 = 馬
  车 = 車
  东 = 東
  乔 = 喬
  韦 = 韋
  专 = 專
  门 = 門
  仑 = 侖
  仓 = 倉
  几 = 幾

文字を省略したもの
  冈 = 岡
  网 = 網
  风 = 風
  凤 = 鳳
  个 = 個
  书 = 書
  长 = 長
  乐 = 楽
  买 = 買
  农 = 農
  为 = 為
  义 = 義
  卫 = 衛
  兴 = 興
  无 = 無
  头 = 頭
  卢 = 盧
  齿 = 歯
  灵 = 霊
  龙 = 龍
  备 = 備
  圣 = 聖
  币 = 幣
  陆 = 陸
  养 = 養
  伤 = 傷
  顾 = 顧
  执 = 執
  热 = 熱
  势 = 勢
  报 = 報
  兰 = 蘭
  拦 = 攔
  栏 = 欄
  烂 = 爛
  师 = 師
  帅 = 帥
  欢 = 歓
  观 = 観
  权 = 権
  劝 = 勧
  汉 = 漢
  艰 = 艱
  叹 = 嘆
  仅 = 僅
  鸡 = 鷄
  戏 = 戯
  树 = 樹
  炼 = 煉
  练 = 練
  扑 = 撲
  仆 = 僕
  朴 = 樸
  补 = 補
  亿 = 億
  忆 = 憶

文字の一部を取り出したもの
  龟 = 亀
  广 = 広
  灭 = 滅
  乡 = 鄉
  飞 = 飛
  丽 = 麗
  习 = 習
  产 = 産
  节 = 節
  爷 = 爺
  业 = 業
  电 = 電
  击 = 撃
  竞 = 競
  开 = 開
  关 = 関
  术 = 術
  归 = 帰
  妇 = 婦
  扫 = 掃
  标 = 標
  际 = 際
  时 = 時
  浊 = 濁
  烛 = 燭
  务 = 務
  录 = 録
  亲 = 親
  杀 = 殺
  显 = 顕
  离 = 離
  杂 = 雑
  类 = 類
  夸 = 誇
  壳 = 殻
  儿 = 児
  虏 = 虜
  虑 = 慮
  奋 = 奮
  夺 = 奪
  粪 = 糞
  寻 = 尋
  宁 = 寜
  垦 = 墾
  恳 = 懇
  盘 = 盤
  启 = 啓
  茧 = 繭
  从 = 従(從)
  众 = 衆
  丰 = 豊(豐)

新たな会意文字
  尘 = 塵
  阳 = 陽
  阴 = 陰
  队 = 隊
  孙 = 孫
  笔 = 筆

「幸」という字は、なぜ「しあわせ」という意味になったか  (2011/05/08)
「幸」という字は、字源からいうと刑罰に用いる「手かせ」だった。

画像

「漢字源」によると、「手にはめる手かせを描いたもので、もと手
かせの意。手かせをはめられる危険を、危うくのがれたこと。」で、
「しあわせ」という意味になったとある。

これを見たとき、「幸」という一字で、「手かせをはめられる危険
をのがれた」という意味の飛躍が納得いかなかった。

一方、「執」という字がある。これは人が手かせをはめられている様子である。

画像

「漢字源」によると、「すわった人の両手に手かせをはめ、しっか
りとつかまえたさまを示す。」で、「とる」という意味になったと
ある。

この2つの字を見てふと思いついたのは、実は、先に「執」があっ
て、そのあと「幸」ができたのではないかということである。
つまり「執」は手かせをはめられた様子で、「幸」は人がいないこ
とから、人が手かせから開放された様子をあらわしているのではないか。
それで、「幸」は手かせからのがれてしあわせだということかなと思う。

女偏の漢字 男偏の漢字  (2011/12/25)
女を含む漢字は多いのに、男を含む漢字はほとんどない。なぜなのか。

常用漢字に限れば、女を含む漢字には次のものがある。

  婚妥姉婿媒要妃桜接好妻奴努怒如嫁婆嫌委妹姓威婦娠妄嫡妨姻
  安妊嬢娯妖妙娘姿姫始

しかし、男を含む漢字は一つもない。
常用漢字外に広げると次のものが見られる。

  甥(おい)
  舅(しゅうと)
  娚(ぺちゃくちゃしゃべる、めおと)
  嬲(なぶる)
  嫐(たわむれる、なやむ)

男を表す漢字の部品は、「男」より「士」がよく使われる。
常用漢字では、次のものがある。

  仕壮荘装

それでも、女を含む漢字の方が多い。

まず、「女」の使い方によって分類してみよう。

・女性そのものを表すもの

  姉(あね)  ←→  兄(あに)
  妹(いもうと)  ←→  弟(おとうと)
  嫁(よめ)  ←→  婿(むこ)
  妻(つま)  ←→  夫(おっと)
  婦(女性)  ←→  夫(男性)
  婆(ばあ)  ←→  爺(じい)
  嬢(むすめ)  ←→  息子(むすこ)
  娘(むすめ)  ←→  息子(むすこ)
  妃(きさき)  ←→  王
  姫(ひめ)  ←→  彦(ひこ)

  女性に対する男性をあらわす方の漢字には、一貫性がない。
  婿にいたっては、男なのに女偏である。
  下に、掲げるとおり、「婿」は婚姻によって生じる関係なので、
  女偏になるのだろう。

・婚姻関係を表すもの

  婚(結婚)
  姻(結婚)
  姓(名字)
  嫡(よつぎ)
  婿(むこ)
  妊(妊娠)
  娠(妊娠)

  婚姻関係は男女の事柄であるが、
  「女」を代表させて使用しているようである。

・字源をさかのぼると女と関係あるもの

  媒:男女の結婚の仲人→なかだち
  要:女の腰→かなめ
  奴:女の奴隷→奴隷
  努:女の奴隷が強く力を入れる→つとめる
  怒:女の奴隷が強く心を緊張させる→いかる
  安:女を家の中に落ち着かせたさま→やすらか
  妥:いきり立つ女を落ち着かせる→ほどよい所に落ち着く
  娯:女が笑う姿→たのしむ
  嫌:女が気兼ねして実行をしぶる→いやがる
  接:交接する→接する
  始:胎児をはらむ→物事のはじめ
  好:女が子どもをかわいがる→このむ
  妙:女の小がらで細く美しい姿→たえ
  姿:女が身づくろいして顔や身なりを整える→すがた
  桜:女の首飾りのように花が咲く木
  如:女のようにしなやかに言う
  威:か弱い女を武器でおどす
  委:女が力なく垂れる→ゆだねる
  妖:女が身をくねらせ人を迷わす→あやしい
  妄:女に惑わされ目がくらみ無茶をする
  妨:誘惑する女に近づかせまいとする→さまたげる

  女性の持つ多様な性質(感情豊か、子を生み育てる、美しい、
  しなやか、魅力的など)が多くの漢字を生んでいる。

結論としては、漢字を作った人々は、おそらく男だったので、
女の持つ多彩な性質に惹かれ、「女」の漢字が多く作った
のだろう。

白川静氏の学説では、宗教行事に女性が携わっていたことが
述べられている。たとえば、つぎのような説明がされている。

  安:女性が先祖をまつる部屋をお参りする姿→やすらか
  婦:先祖をまつる部屋をほうきで清める女性
  娯:神の前で女性が舞う→たのしませる

古代から女性は神に通じていると思われていた。(シャーマン)
これも、女の漢字を多くした原因だと思われる。


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