<深海の眠り>



ユラユラと小船は進む。
世界一の大泥棒を夢見る二人を乗せて・・・。
そして、その船を見送りながらゴーイングメリー号もまた新たな進路を目指して進む。
それぞれの夢を野望を未来を夢見て・・・。
けれど・・・。

笑顔で小船を見送っていたルフィがふいに悲しげな表情を作る。
一番側にいたゾロがその変化にいち早く気付いた。
「ルフィ?」
スッと後ろに近寄って、どうした、というようにルフィの肩をポンと叩く。
ピクリと肩を震わせながら、ゆっくりとルフィはゾロを振り返った。
「ゾロ。」
ジッと見つめる視線が、ルフィの揺らぎを伝えてくる。
ふいに、ルフィはゾロの手を掴み、船室へと歩き出した。
ゴーイングメリー号の他の船員は船長に何も言わず、捕まれたゾロですら、只無言でルフィの後をついて行った。

男部屋へと連れ込まれ、ソファーの上へと押し倒される。
どこか陰りを宿しながらルフィはゾロのシャツに手を掛けた。
「ルフィ、どうし・・・」
押付けられる唇が、ゾロの声を奪ってゆく。
「ン・・・んんっ・・・」
けれど、その口付けはルフィの心のように冷たく震えて・・・。
声を奪いながらルフィはゾロの胸元に指を滑らす。
いまだ残る大きな傷跡をゆっくりと辿り・・・そして、まだ新しい毒羽の傷にそっと触れて。
「ん・・・ル・・・フィ?」
唇が離され、ゾロはルフィを小さく呼んだ。
どこか泣きそうな顔でルフィはゾロを見ていて。
「どうしたんだ?」
何よりも愛しい男のその表情にゾロの心がトクンと震える。
ゾロだけに見せる表情。
こんな時のルフィは、いつも何かに耐えているときで。
「なぁ・・・。」
「空っぽになるかと思った。」
「ルフィ?」
ポスリとゾロの胸元に頭を落とし、身体ごとゾロに預けてくる。
両手はゾロの腕をなぞりながらスルスルと下へと落ちてゆく。
やがて指先に辿り着くとルフィはしっかりとゾロの指に自分の指を絡めた。

合わされた手の平が、温もりを閉じ込めて。
「一人、一人。いなくなるたびに、俺の手足がもがれていくようだった。」
心地よさに酔いそうになるとき、ルフィの囁きが耳に届いた。
ギュウッと痛いくらいに、両手に力が籠もる。
「変だろ?俺の手足はちゃんとついてるのに・・・
なのに、お前たちがいなくなるたびに夢を掴むための手も足も奪い取られたような気がして。」
怖いとは口に出さない。
けれど、ルフィの中で恐怖は確実に芽生えていて。
「ル・・・フィ。」
ゾロの声が不安な響きを帯びる。
ピクンとその声に反応を返し、ルフィは途端に声の調子を上げた。
「ま、絶対取り返すと思ってたし、実際、皆、無事だったしな。」
胸元でゾロを見上げるようにしてルフィは視線を合わせてくる。
その顔に笑顔を作るルフィを見て、ゾロは泣きそうになるのを必死で耐えた。
(なんで、こいつは・・・)
なんでもないフリをして、ルフィは船長と言う立場を受け止める。
仲間を率い、夢を掴むための手を差し伸べ、そして、命の重さを背負う。
全てを受け止め・・・なのに、こいつは自分の為に泣く事はしない。
辛くても、苦しくても、それが船長としての使命なのだというように。
「ゾロ、どうした?」
いつの間にか瞳を瞑っていたゾロに、ルフィの声がかかる。
想いの全てを伝える言葉など、ゾロの中には存在しないから。
だから・・・
「なんでもねぇ。」
そう一言返し、クルリと体勢を入れ替える。
ルフィの身体に上から圧し掛かるようにして、そっと唇を触れ合わせた。
「ルフィ。」
もう一度優しく名を呼んで、視線にお前が欲しいと心を添えた。


ゾロの中に欲望の全てを埋め込んで。
ゆっくりと動くゾロを下から見上げる。
いつもと同じようで、少しだけ違う睦み事にルフィは薄っすらと微笑んでいた。
「ふっ・・・あっ・・・ル・・・フィ。」
ゾロが呼ぶ声すら、甘く優しく響いて。
「んぁっ・・・んっ・・・なっ・・・ぁ・・・気持ち・・・い・?・・」
「うん・・・気持ちいい。」
何度目になるのか、同じ言葉を、繰り返し繰り返しゾロに囁いて。
その度にゾロが嬉しそうに微笑んで、もっと深くへとルフィを導くから。
「ゾロの中。あったかくて・・・気持ちいい。」
偽らない気持ちのまま、ゾロに全てを委ねる。
「ん・・・オ・・・レ・・も・・・あつ・・い・・・よ・・・・・。」
快楽に酔いながらも、ゾロはふと優しい瞳でルフィを見下ろしてくる。
視線の意味を肌で感じながら、ルフィはゾロと繋がり続けた。

(ゾロの中で溺れていたい。)
ずっと、ずっと、この暖かい温もりの中に全てを委ねてしまいたい。
心の中に巣くう不安と恐怖と責任感に押しつぶされそうになるたびに、ゾロはこうしてルフィを抱いてくれるから。
妖艶に誘いながら、ルフィの心を抱きしめ包み込み、いつも受け止めてくれるから。
(俺の・・・ゾロ)
「ふぁッ・・・あぁっ・・・俺・・・もっ・・・」
一際、甘い嬌声を上げながら、ゾロが限界を訴える。
ルフィはゆっくりと手を差し伸べ、ゾロの中に深く穿ち、欲望の全てをゾロに注ぎ込み。
「うあっ・・・あぁぁぁっ・・・ル・・・フィ・・・・・・」
共に登りつめ、ゾロはピクピクと快楽の余韻に浸りながら、ホウッと小さく吐息を落としてルフィの胸の中にその身体を預ける。
「ゾロ・・・大好き・・・だ。」
自らの使命を終えたというように、酷く満足げな表情で、ゾロはルフィに両手を廻した。


「なぁ、ゾロ。」
余韻の波も去り、どこか気だるげで、穏やかな時間を過ごしていた時。
不意にルフィが話し掛けてきた。
「ん?何だ?」
なんとか衣服だけは整え、二人して床に寝転がっていて。
真横で腹ばいになりながら、まだ少し熱い身体を持て余すようにゴロゴロしているルフィに、首だけ動かして視線を合わせた。
ルフィも薄っすらと微笑みながらゾロを見ていて。
「あのな、俺、海が怖かったって言ったら、信じる?」
「あ?」
何を言っているんだ?と声音に潜め、ゾロは首を傾げた。
「やっぱ、信じられねぇか?」
「・・・一人で海に出た奴の言葉とは思えねぇな。」
「まぁな、その先に夢があったから・・・」
そう、怖がってなどいられない。
何故なら、夢を掴む道は海を越えたところにあるから。
だから、怖くなくなった。いや、怖くないと思い込んだ。
夢の為に命を捨てると決めたその瞬間から。
「昔の話・・・なんだろ?」
ゾロはルフィの言葉がさり気なく過去形だったのに気付いていた。
ルフィはクスリと笑って
「あぁ、今は大好きだ。」
そう言いきると、なんでだと思う?とゾロに訊ねる。
「俺が知るかッ・・・」
答えられない事に少しだけむくれて、ゾロはフイッとソッポを向いた。
ルフィはそっとゾロの側まで近寄って、ゾロの耳に聞こえるか聞こえないかの囁きを落とした。
「ゾロと出会えたから。」
「なんっ!」
ルフィの言葉に慌てて振り返り、目の前にルフィの顔があって、一瞬硬直してしまう。
ルフィの視線はジッとゾロだけを見つめていて。
「だって、ゾロは俺にとっての、海そのものだから。」
真摯な瞳が真実なのだと伝えてくる。
けれど、あまりにも赤面モノの台詞に、何故と問えなくて。
ゾロの左胸に頭を乗せるようにして、ルフィは身体をゾロに添わす。
トクトクと聞こえる心臓の音を子守唄代わりにしながら、うとうとと目を瞑り始め。
「ゾロとこうしてると、生命の源が海なんだってわかるんだ。」
「・・・・・・。」
「命が生まれ、還って行く場所。還りたいと望む場所。・・・俺の還る場所はココだから。」
「ルフィ。」
「だから・・・な・・・・何処にも・・・・・行くな・・・ずっと・・・俺・・の・・・そ・・・ば・・・・・・。」
疲れがルフィを夢の世界に誘っていく。
小さな寝息を立てながら、瞳を瞑ったままのルフィは少年の面影を強く残していて。
海賊船の船長に似つかわしくないほど、あどけない寝顔。
そっと右手を伸ばして、漆黒の髪をクシャリと撫でる。
「俺が海なら・・・お前は・・・・・・。」
―――――風だろう?
そんな台詞を飲み込みながら、ゾロはクスリと笑った。

そう、そうだな、ルフィ。
お前がこの大地を渡る風になるなら、俺は海になってお前を見つめていよう。
お前の巻き起こす風に吹かれ、時に荒々しく、時に緩やかにお前を見守る者であろう。
ゾロは安らかに眠りに付くルフィをそっと胸の中に引き寄せ、全てを包み込むように抱きしめる。

だから、ルフィ。
戦いを終えた今のお前は、凪いだ風だから。
俺の側で、俺の腕の中で。
どうか安らかに眠って。
また、世界がお前の変革の風を欲するまでは。
俺だけの心をざわめかす、小さな優しい風でいて。


―――還りたい場所に抱かれて、ルフィは深海の夢を見ていた。




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戯言:えと、話の中でルフィが海が怖いと言う場面がありますが、あれはfumiの勝手な設定です。
いや、だってあんなに小さい時に溺れかけたら、少しくらい怖いと思ってもおかしくないかなと(-_-;)
今は大好き!毎日、見つめちゃうくらい(笑)だって、愛しい人と同じ存在だから♪
すみません!何を言っているのやら。しかし、コレUNDERに置くほどのエリョないですね。
でも、表にもおけない、必殺中途半端SS・・・なんなんだか(自爆!)