<一者択一>



「ノロノロビーム!!」

悪夢、再び。
善戦・・・いや、勝利の見えた戦いに、幕が引かれた。
ゴールの一歩手前で呆然とするサンジ。
ギリと唇を噛みしめるゾロ。
けれど、ゴールの中では勝ち誇るボール役の魚人が居て。

「う・・・そ・・・。」
「そんっ・・・な・・・。」
一部始終を見守っていたナミ達の口から、絶望の声が上がる。
これで、二人。
例え、最後の戦いに勝利しても、取り返せるのは唯・・・一人。
「だから、言ったんだ〜〜〜!!」
ブンブンと肩を揺するウソップにされるがまま、ルフィはジッと一人を見つめていて。
「さぁ、約束だ!仲間を一人、貰おうか!」
ニヤツク笑いを隠しもせず、フォクシーがそう言った。
「船長、船長!その剣士を!!」
「そうだ!そうだ!その剣士を!!」
やいやいと騒ぐ船員達。
ギュッと拳を握り締めるゾロを、フォクシーの舐めるような視線が辿る。
「・・・そうだな。その剣士を貰おうか!」
指を差されて、ゾロは一瞬、ルフィを振り返った。
かち合う黒耀と紅緋の瞳。
けれど、紅緋がフイと逸らされ。
そうして、壇上で涙を必死で堪えるチョッパーへと向く。
「お・・・おいっ、ゾロ!」
どうするんだ?と、言いたげなサンジの声を無視して、ドカドカとゾロは壇上へと向かい。
「ゾッ、ゾロォ〜〜。」
見上げてくるつぶらな瞳に、ゾロは唇を上げて笑みを作る。
安心しろ、と言うように、ポンとチョッパーの頭を叩いて。
チョッパーの隣りに用意された椅子に、ドカッと身体をぶつける勢いで座った。


「フェーッフェッフェッ!これで、二人!あともう一人は、誰を貰おうかな〜!」
まるで値踏みをするように、フォクシーは様々に動揺するナミ達を見た。
もはや、自分達の完全勝利は、当然の事だといわんばかりに。
「ル、ルフィィ〜!!」
不快な視線を振り払い、残った仲間の視線が、一斉に一人に注がれる。
それは不安と、期待と、望みの全てを託す、最後のカードを持つ唯一人へ。
だが。次の瞬間。
全員がピシッと凍りつく。
普段は見せない船長の静かな怒り。
それが、ユラと紅いオーラのように、彼を取り巻いて居る事に気付いて・・・。
そして・・・。
「珍獣と、六千万の剣士!これで我がフォクシー海賊団の格も上がるってもんだ!」
「そうですねぇ、お頭!!」
「ん〜、そうだ。元船長B、元船医C、喉が渇いた!酒ぇ、持ってこい!!」
フォクシーの何気ない一言に、ピクッ・・・と、ルフィの眉が跳ね上がった。
「・・・仲間・・・名前で・・・呼ばねぇのか?」
押し殺した静かな問いかけ。
フォクシーは、何を言ってる?と言うように、又、笑って。
「?使えもしねぇ部下を、どう呼ぼうと俺の勝手だ!それに、 俺の海賊団はお前の所のようにシケてないからなぁ。
奪った奴らの名前なんざ、いちいち覚えていられねぇ!」
「・・・・・・ふーん・・・。」
フォクシーの答えに返るのは、感情を失った呟き。
けれど、僅かに遅れた呟きの合間。小さく笑みを浮かべたルフィに気付いたのは、 ルフィの仲間だけ。
ナミが。サンジが。ウソップが。
息を止めて、その微笑みに魅入られる。
初めて間近で見た船長の劇的な変化に、ロビンがアラ?と目を見張り。
そして、壇上では。
「ゾ・・・ゾ、ロ・・・・・。」
野生動物の直感・・・なのだろうか。
チョッパーはルフィを見ながら、ブルブルと震えていた。
それは、まるで・・・そう、決して勝てない、絶対の相手と対峙したような・・・。
喰われる恐怖で、身動く事も出来ず、なのに、相手から一瞬たりとも目を離せない。
それは、最大の恐怖であり、又、最高の安堵であり。
ヒタ・・・と、縋るように伸ばされた蹄が、ゾロの腕に触れた。
だがいつもなら、そっとチョッパーの頭を撫で、安心させてくれるはずのゾロの手は、ギュッと膝の上で強く握り締められたまま。
ゾロも又、恐怖とは別の感情を持って、唯一人を見つめていて。
「さぁ、最終戦、バトルステージ!始めようじゃないか!!」
処刑台に足を掛けた事にも気付かず、フォクシーはゲラリと笑った。


グルリと囲まれた円陣。
その中心で、フォクシーとルフィが対峙する。
「最終戦、バトルステージ!ルールはたった一つ。相手を倒したものの勝ち!
それでは、レディー・・・」
絶対優位を確信したフォクシーは、始まりの合図を前にしても、構えもしないルフィを挑発するように、クイと手をあげる。
「ふははははっ!お前もノロノロビームの餌食になるがいい!」
「GO!!」

合図と同時にフォクシーの手からビームが迸った。
怪光線がルフィを包み込み、やがて霧散する。
「・・・おやぁ?」
ルフィは腕をフォクシーへと突き出した形で、止まっていた。
いや、ルフィの時間軸では動いているのだろう。
ただ、ビームの影響で止まって見えるだけで。
フォクシーは勝利の笑みでルフィに近づくと、止まったままのルフィの顔面を殴り、腹に蹴りを入れ・・・。
「フェーッフェッフェッ!これはまた、一方的な勝負にな・・・・・うげぇっ!!!」

ヒューン!ドゴーン!!

「おっ、お頭〜〜!」
円陣の輪を突き破り、仲間を巻き添えにして、フォクシーはゾロ達の居る演壇へと叩きつけられた。
「・・・アホか?お前・・・。」
僅かに切れた唇をペロリと舐め、ルフィは壊れた演壇の中に埋まるフォクシーを一瞥して。
止まっているように見えるのは、表面だけ。
時間が立てば、その物質的なエネルギーは変わらず動き出す。
打ち出された砲弾が、時と共に動き出し、フォクシーにダメージを与えたように。
ビームが当る寸前、全力を込めて突き出したルフィの拳は、フォクシーを一撃で粉砕する力を秘めていて。
それに不用意に近寄り、まともに攻撃を受けたのだ。
仲間を盾にしていなければ、フォクシーは立ち上がる事すら、困難だっただろう。
事実、フォクシーの下敷きとなった憐れな船員達は、立ちあがる気配すらない。
ガラリと、瓦礫と化した演壇の一部を押しのけて、頭を押さえながら、フォクシーがフラフラと立ち上がる。
ルフィは片手でザッと円陣を崩してフォクシーに近づくと、グンと腕を振りかぶり。
「なっ!・・・ノッ・・・ノロノロビーム!!」
ハッと気付いたフォクシーが、慌ててルフィに手を翳す。
真っ直ぐに睨み付けて来るルフィから逃れるように。
ヨロヨロとルフィから数メートル、離れて。
そうして、体勢を整えると、両手を腰にふんぞり返り。
「フエーッフエッフエッ!ここなら届かんだ・・・うぎゃぁーーーっ!!!」
ルフィの伸びた腕が、フォクシーの鳩尾に、綺麗に決まった。
その場に昏倒するフォクシー。
パチンと腕を戻したルフィは、無防備にスタスタと近づく。
一方的な展開に、辺りはシンと言葉も無く。
悶絶したままのフォクシーを、ルフィはグイと片手で引き起こすとユサユサと揺さぶり。
「う・・・・・う、う〜ん・・・・・」
「おい、お前。」
ようやく意識を取り戻したフォクシーを見下ろす冷たい視線。
グッと喉元を締め付ける、必殺の握りこぶし。
「・・・まだ、やるか?」
ニィーッと、酷薄の笑みを見せたルフィに、フォクシーは慌ててブルブルと顔を横に振った。
「いやっ!やらんっ!!終わりだっ!ゲームは終わりっ!」
ジタバタと見苦しく足掻き、ルフィの腕から逃れようとする。
フォクシーにとって、コレはゲームで。
ゲームに命を賭けるなどという『愚かな感情』など、彼は持ち合わせていなかった。
だから・・・。
「ふーん・・・。なら、俺の勝ちだな。」
そうルフィが宣言しても、ただコクコクと首を縦に振る。
負けた所で2対1。
珍獣か剣士。
一人は自分の物にする事が出来るのだから。
「あぁ、お前の勝ちだ。さぁ、どっちでも好きな方を取り戻せ。」
ルフィは僅かに思案し・・・。
「―――なら、俺は・・・・・・。」


全てを壇上から見ていたゾロは、当然の結果にニッと微笑む。
ルフィは負けない。
負けるはずが無い。
だからこそのキャプテン。俺・・・達の・・・・・・。
けれど・・・。
『さぁ、どっちでも好きな方を取り戻せ。』
そう、フォクシーが言って。
ゾロはハッと、隣りで震えたままのチョッパーを見る。
(そう・・・だ。チョッ・・パー・・・)
シャランと耳元で、ピアスが揺れた。
まるでゾロの動揺を見透かすように。
勝負は2対1。どう足掻こうと、どちらか一人はココに残らなければいけない。
ルフィの元を離れ、望まぬ者達の仲間となって。
それがこのゲームの掟(ルール)。
けれど・・・チョッパーは・・・。
『俺!ルフィが誘ってくれたから、海に出たんだ!!』
泣きながら、悲痛な声でそう訴えた船医。
一途なその願いが、あの心優しき船長に届かないわけが無い。
だが、ゾロは。ゾロの『野望』は。
ルフィの元でなくとも、達成出来るもの。
ここは偉大なる航路(グランドライン)で。
ゾロの目指す、世界一の大剣豪である男は、この海の何処かにいるのだから。

―――ただ・・・。
『海賊王』になるルフィを。
ルフィの勇姿を。
傍らで、ずっと見ていたいと思っていたのも、真実・・・で。

迷いを振り切るように、ゾロはブンと1つ、首を振った。
究極の二者択一。
それに、ゾロを選ぶような、ルフィはいらない。
そんなのは、ルフィじゃない。
だから、いいのだ。
ルフィはゾロを切り捨てても。
今、ゾロはそれこそを望んでいるから。
いつか敵として、会いまみえた時。
ゾロが躊躇なく、ルフィの首を斬りおとせるよう。
きっぱりと、手酷く、いらないと言い切ってくれればいい―――。

そうして、区切りのついた葛藤の中。
ゾロは黙ってルフィの選択を待つ。
チョッパーも隣りで、歯を食い縛るようにして、ルフィの選択を待って。


「―――なら、俺は・・・・・・。」

ゆっくりと上げられたルフィの指が、指し示した人物に、その場にいた全員が、声もなく呆然とした。


「な・・・んだ、と?!」
「冗談・・・でしょ?」
「ル、ルフィィィィ〜〜〜!何、考えてんだ―――っ!!!」
喧喧轟々の非難の声が、まずルフィサイドから上がった。
と、言うより。
いつも意味不明の言動に、悩まされていた賜物かもしれない。
とりあえず、船長の突拍子も無い選択から、いち早く立ち直れた・・・と、いった所が正解だろう。
「冗談でもなんでもねぇよ。・・・俺は、コイツに決めた。」
ルフィの指の先、差された当人もその場で固まっている。
「・・・って・・・。いくら、なんでも・・・お前・・・・・・。」
サンジが訳わからん!とばかりに、流れるような金糸をぐしゃぐしゃと掻き毟る。
ナミも、ウソップも、呆れて声も出ないといった体で、呆然とする。
ロビンは、フフッと妖しく笑って。
「・・・本当に退屈しない、船長さんだわ・・・。」

「じっ、冗談じゃないぞっ!小僧っ!!」
ココに来て。
遅ればせながら。
ようやくショックから立ち直ったのか、フォクシー側から非難の声が上がった。
「そうよんっ!あんた、何、考えてるわけ?!」
睨み付けて来るフォクシーの側近二人に、ルフィは当然の事のように。
「ゲームは俺の勝ち。こいつもそう認めた。なら、決定権は俺にある!・・・だよな?」
グッと二人が詰まった。
それはまさしく正論で。
そうやって彼らは、他の船の仲間達を、奪ってきたのだから。
「んで、指名された奴は、相手の船長に忠誠を誓う。・・・これも『決まり』なんだよな。」
それは・・・そう・・・なのだが・・・・・・。
「なら!!たった、今から!!コイツは俺の仲間だ!そうだなっ!!」
激した口調。
反論を許さない、その断定。
言葉も無く項垂れるフォクシー一行を睨みつけながら、ルフィは続けて。
「けどっ!俺は、偽りの忠誠なんかいらねぇし、来たくもねぇ奴を無理矢理連れてく気も、認めてもねぇ奴を仲間と呼ぶ気もねぇっ!!」
どよっ・・・と、ざわめきが上がる。
一体、この少年は何を言いたいのか?・・・と。
その視線の中。ルフィは自分が指差した人物の襟首を捕まえて。
「フォクシー!最初で最後の船長命令だ!!お前の海賊団はココで解散!!」
「なっ、なにぃーーーっ!!」
「元の仲間の所に、戻りたい奴は戻せ!お前の元に残りたい奴は、それでもいい。
だが!もう二度と!!仲間を奪うようなゲームをする事は、この俺が許さねぇ!!!」
拒絶を許さない、王者の宣託。
気圧されたように、シ・・ンと、辺りが静まり返る。
フゥッと一つ息を吐いて、緩やかな動きで演壇を見上げたルフィは、成り行きをジッと見守っていた二対の瞳に優しく笑いかけて。
「・・・行くぞ。ゾロ、チョッパー。」
「う、うんっ!うんっ!!ルフィィィーーーッ!!」
ポロポロと泣き崩れながら飛びついてきたチョッパーを受け止める。
壇上では複雑な面持ちで、ゾロがルフィを見ていて。
「・・・・・・ゾロ?」
「・・・てめぇ、反則技ばっか使ってんな。」
ガリと頭を掻き毟る。
「・・・ゾロ。」
ガリガリ・・・・・。
「・・・ゾォーロ。」
三度、名を呼ばれて。ようやくゾロは立ち上がった。
この破天荒な船長に、忠誠を誓い、仲間と呼ばれる事を喜び、付いて行く事を決めたのは全て・・・ゾロ自身。
ヒョイと壇上から飛び降りて、ゾロはルフィの隣りに並ぶ。
チョッパーを抱いたまま、ルフィは立ち尽くす仲間の方へクルと踵を返し。
「行くぞ、ゾロ。」
「・・・・・・わかったよ。・・・キャプテン。」
ピクッと歩き出そうとした足を止め、ルフィはゾロと視線を交わす。
時間にして、ほんの数秒。
見交わす瞳の中、何を読み取ったのか。
やがて、零れるような満面の笑みを見せたルフィに、ゾロもクスッと微笑んだ。


「ねぇ、チョッパー♪今日は、私と寝ましょうね。」
全員揃っての夕食後のキッチン。
サンジが手早く後片付けを済ませ、食後のコーヒーもそろそろ終わりと言う頃。
無事に取り戻した船医を抱き上げ、ナミがチュッと頬に口付ける。
「おっ?おぉっ?!だ、だめだぞーっ!ナミッ!チョッパーは今日はオレ様と寝るんだ!」
ウソップも又、失うと思った良き相棒の存在を確かめようと、ナミの手からチョッパーを取り返そうと躍起になり。
「・・んのっ、非常食のくせにっ!!ナミさんの愛らしい唇を奪っただけでなく、腕の中で眠るだとーっ!!」
ウソップがようやくナミから奪取したチョッパーを、背後からサンジの拳がグリグリと小突く。
ロビンはパラ・・・と、本を捲り、珍しくもクスクスと声を上げて笑いながら、優しくチョッパーに視線を向けて。
「・・・愛されてるわね。船医さん。」
「うっ、ウレシクなんかねぇぞっ!コノヤローッ!!」
ウソップの腕の中。サンジに小突かれながらも、ニコニコと相好を崩し、チョッパーは笑う。
時折、ポロ・・・と涙が零れそうになるのを、コシコシと蹄で拭って。
誰も・・・そうとは口にしないけれど。
大切な『家族』を失わずに済んだ幸運に、笑顔が零れて。
ナミが伸ばした手から、必死でウソップはチョッパーを退ける。
いつもは気弱い狙撃手の、強固な姿勢に苦笑しつつ、チョッパーを更に奪い返す事をナミは諦め。
「・・・今日は、疲れたし。明日も早いし。・・・そろそろ、寝ましょうか?」
ファ・・・と、欠伸をしながらそう言った。
つられるように、ウソップの腕の中でチョッパーがフアァ・・・。
時を同じくして、ウソップとサンジがフアァ・・・・・。
少ぅし遅れて、ロビンもファ・・・と欠伸を噛み殺して。
クスッとロビンがまた笑った。
「今頃、船長さん達も欠伸しているかしら?」
夕食後早々に消えた二人が何をしているのかなど、十二分に承知の上で。
あえてそう言葉に乗せてみて。
ヒョイと肩を竦めたサンジが、おどけた口調で言った。
「奴らはどーぶつですからね。体内時計に『食う、寝る、遊ぶ』しか記されてないんですよ。ま、眠くなったら眠るデショ。」
キッチンの中。
ため息交じりの苦笑と、クスリと忍び笑いが入り混じる。
「・・・そうね。じゃあ、私達は寝ましょうか。」
ロビンがパタンと本を閉じた音を合図に、全員がキッチンを後にした。


そして、表記の少ない体内時計を持つ二人は・・・。

「はっ!・・・く・・ぅ・・・・」
食事後早々に、いつもの格納庫へとシケ込んで。
「あ・・・んっ・・・・・んぁっ!!」
ナミ達が優雅なティータイムを取り、そろそろ眠ろうかと言う時刻には、すでに一戦を終え、二戦目へと突入していて。
「・・・あっ・・・あぁっ!―――ル・・・フィ・・・っ・・・」
砲台を背にして座り込むルフィの膝の上。
クチクチと淫靡な音を立てて、ゾロが淫らに身体を揺らす。
そそり立つルフィのモノを、奥深くまで導いては、ズルと抜き出す事を繰り返し・・・。
小さな丸窓から差し込む仄かな灯り。
淡くたなびく光の帯を身に纏ったゾロは、月の女神もかくやの美しさを、かもし出していて。
「ゾロ・・・。」
熱を伴う漆黒の瞳。
その心地好い熱さに焼かれ、ゾロは更なる高みへと押し上げられる。
「は、ぁ・・・ア・・・ぁ・・・ぁ・・・んっ!・・・んんっ!!」
唐突に塞がれる唇。
絡まる舌先。
甘い吐息を互いの胸に流し込み、口角から溢れ出た蜜をチロリと舌先で舐めとって。
「フ・・・ぅ・・・んっ・・・」
子猫のように細められた紅の瞳。
その中に揺らめく快楽の炎は、ルフィの熱で勢いを増す。
そうして、本日二度目の絶頂に、ゾロが身を委ねる寸前。
「・・・なぁ・・・ゾロ。」
キュッと止められた欲望。
ゾロは眉を顰めて、目の前のルフィを睨み付ける。
「・・・ん・・・だよ・・・。」
目を見た瞬間に、解ってしまったから。
ルフィの問いが、ゾロにとって答えたくないモノである事。
だから、こんな答えざるを得ない時を狙いすまして・・・。
「・・・一瞬でも、俺と・・・離れてぇと、思った?・・・離れてもいいと・・・思ったか?」
ホラ、やっぱり・・・と、内心で舌打ちする。
けれど、促すようにルフィの手はせき止めた欲望をやわと扱いて。
「んっ!!・・ん、んっ・・・」
「なぁ・・・ゾロ?」
この悪魔め!と、心で毒づき、ゾロはギラリと視線に殺気を込める。
「そうだ・・・つったら、どうすんだよ。」
「・・・許さねぇし。」
低い否定。
グチッと更に深くへと、食い込まされる楔。
「ひっ!」
仰け反る身体を抱きとめられ、ゾロの両手は無意識にルフィの首に廻されて。
「・・・俺は・・・離さ・・ねぇ。離す気も・・・ねぇ。それが・・・この、海の定めた・・・掟(ルール)でも・・・。」
上がる息。
激しくなる抽挿。
潤んだ瞳の先で、見下ろすルフィの髪がユラユラと揺れる。
「くっ・・・や、くそく・・・は・・約・・・束だ・・。んっ!・・・俺ァ・・・ソレに・・・従・・・う。」
そう。どんなに理不屈であっても、どんなにくだらないゲームでも。
約束は約束。
それを覆す事は、ゾロの信念に反する事。
だからこそ、ゾロはチョッパーに決意を促したのだ。
もしも。もしもの時。
誰も・・・責めずにいられるよう。
ずっと大切にしたい、仲間への想いすら、否定しないで居られるように。
けれど。
「いいさ。ゾロが、従うなら、それはそれで・・・。」
「ル・・・?」
「でも、ゾロ。俺は海賊だ!大切なモンが奪われたら、命を賭けて取り返す!例え・・・世界中に嫌われても!!」
フルリ・・・と。
ゾロの身体に戦慄きが走った。
その強い独占欲。揺らぐ事なき、その信念。そして、世界を敵にしてもいいと言い切る、その・・・強さ。
「はっ・・・ははっ・・・はっ!ぁ・・・んっ・・・」
軽い笑いが、ゾロの喉奥から漏れた。
同時にグイと突き上げられて、噛み殺しきれない嬌声の欠片が後を追う。
「ゾロ・・・。」
静かな怒りにも似た突き上げが、知り尽くされた快楽のポイントを確実に抉り。
ゾロは噛み殺したはずの嬌声を、再び迸らせて。
「ん、くっ・・・ふっ・・・ぅんっ・・・ァ・・・ぁぁあっ!!」
「・・・ゾロ。」
嘘は許さない、と。
誤魔化しは聞かない・・・と。
真実だけを望むルフィに、苦笑して。
「・・・捨て・・・れば、い・・・と・・・思・・・・・・った。」
「ゾロ?」
「くっ・・・オレ・・・ぁ・・・てめ・・の、船で・・・無くて・・・も・・・野望・・・は、追え・・・る。」
それが真実。
嘘、偽りの無い・・・。
だが、唇を噛み、言われた言葉の意味に堪えようとするルフィを、ゾロはギュッと抱きしめる。
「けど・・・な。俺・・・ぁ・・・ココ、に・・・イル・・・」
あの時、差し出された手を拒む事は出来た。
ルフィの突きつけた選択は、そういうモノだった。
けれど。チョッパーは迷わずルフィの胸に飛び込み。
ゾロもまた、新たに選んだ。
悔いの無い、道。悔いの無い・・・生き様。
そして、その道を共に歩んでもいいと。
「・・・ユルした・・・のも・・・てめ・・・だけ・・・・・・。」
ほんの少しの戸惑い。
それが、ゆっくりと喜びに変化する。
今、ここに。二人、こうしている、意味。
「ゾロッ!」
「っ、ぁっ!!」
背中から押し倒されて。
ゾロは圧し掛かる重みに、グッと息が詰まった。
けれど、覗き込む満面の笑み。
柔らかく落とされる口付けの甘さ。
穿ち続ける熱の全てが・・・愛しくて。
「ル・・・フィ・・・」
しなやかな身体に絡みつく、白い両足。
巻きつけられた腕は、しっかりとルフィを抱きしめて。
より深く。より熱く。
愉悦に仰け反る首筋に、付けられた所有の華―――。
「ゾ・・・ロ・・・・・・。」
「ふ・・・ぁ・・・。ル・・・っ・・・ぁ・・・あぁァァ―――!!」
快楽の頂点でのみ感じる、真っ白な世界。
その中で、身交わす黒と紅の瞳だけが、確かな記憶に残った。


フッ・・・と、目覚めたゾロは僅かな重みに身じろぐ。
途端、離れるなと言うように、しがみ付く腕。
すぴすぴと、子犬のようにゾロの胸に潜り込むルフィは、酷く幼くて。
ゾロの顔には自然、笑みが浮かんで。
本気で、捨てていいと思っていた。
それでもゾロは変わらないから。
ルフィと離れても、変わらず野望を追い続け、自分に恥じる事など決してしない。
それがゾロの信念であり。「海賊王の仲間」でもある誇り。
例え、今。共に、歩めなくなったとしても。
いつか出会う、その時。
傍らに立てる者で、在る為に。
けれど―――。
くしゃりとざんばらな黒髪を撫で上げる。
ムニムニと寝言を零すルフィに、クスッと笑いが漏れる。
(絶対、てめぇは何とかするって・・・。)
「―――わかってた・・・っつったら・・・どうする?」

照れ屋なゾロの最上の告白に、夢の中のルフィは、嬉しそうに頬を緩めた。



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CLOSE
Let's go☆ UNDER

戯言:現在サンゾロ(若しくはゾロサン?)色で埋まっている原作・・・。
その少し前の、おっとこまえゾロにやられまして(〃〃)ゞ
でも、この展開だと、次負けたら、ゾロが取られる?・・・( ̄□ ̄;)!!
そ、それだけは嫌だ〜〜〜!!と、涙乍らの訴えSSです(笑)
相変わらず、うちのルフィは姑息だ・・・ね(苦笑)
でも、今の展開だと・・・勝ちそうだな・・・あの二人・・・・・・。
嬉しいけど・・・なら、船から抜ける人って・・・誰なのかしら?(謎??)