<BIRTHDAY〜補完編〜>



特別だなんて思ったことは無かった。
ただ年に一回、エースやマキノ達が『おめでとう』と言ってくれた日。
美味い物を腹いっぱいご馳走してくれる日。
そして、一つ年が増える日。
それだけの日だと・・・思っていた。

たまたまウソップとの雑談の最中に誕生日の話をした事。
1ヶ月くらいしか違わねぇくせに
「俺の方が年上だぁ〜!兄貴と呼んで敬いたまへ!」 と、鼻高々と言い放つから、プクリと膨れてゴツッと殴ってやった事。
「なっ、殴る事ねぇだろ〜〜!」 と、涙目で睨まれた事。
全部、日常の刺激に紛れて記憶の底から抜け切っていた。

それに実を言うと仲間の誕生日の時だってその日になるまで気付かなかった。
元来、そう言うことに疎いとわかっているけど、特別な思いもなかったから。
(ウソップの日は知っていたはずだが、やっぱり記憶からは抜け落ちていたらしい)
だから俺は、仲間に特別な何かをあげちゃいない。
ただサンジの作った料理に舌鼓を打ち、みんなと同じように『おめでとう』そう言って、笑っていただけ。
誕生日の意味も深く考えずに・・・・・・。


目覚めれば、まだ夜明けにはほど遠い。
けれど腹の虫がグーグーと鳴き出し、サンジの蹴りを覚悟でキッチンに忍び込む覚悟を決心するのに数秒。
ユラユラと揺れるハンモックからピョイと飛び降りる。
ふと、隣りでしかめっ面で眠るゾロをジッと見てクスリと笑った。
(ほんとに良く眠る奴。)
戦いの後のゾロはいつもこうだ。
まぁ、今回は凍え死ぬかと思ったらしいし。
俺ほど体力回復の早くないゾロはこうして眠りで回復を図る。
皆、ゾロを人間じゃねぇとか言うけど、ゾロは人より少しだけ強靭な肉体と、凶悪すぎる意地と精神力を持っているだけ。
そんな所もキライじゃねぇ。
でも、たまに・・・ホントにたまに悲しくなる時がある。
何故かは俺にもよく判らないんだけど・・・。

フルッと首をふって部屋を出る。
部屋の違和感には、全然気づかないまま。

ザザァーッと波を立て、まだ暗い海を船は進む。
そういえば昨日ナミが、そろそろ島に上陸するとか何とか言っていた気がする。
大分少なくなった雑貨品や食料の補給をする為、今日はきっと大荷物を持たされる事だろう。
まぁ、新しい街を探索する楽しみにワクワクする心も止められないし、一人船番させられる事を思えばその方が数倍良い。
荷物持ちは多少情けないけどなぁ・・・等と考えていたら、また腹の虫がククーッと鳴った。
「あー、こりゃダメだぁ!」
ヒョイッと手を伸ばしタシッと手すりを掴む。
少しだけ加減しながら文字通りキッチンの前まで飛び込んだ。
と、何故かキッチンには明かりが漏れていて・・・。
まさか、もうサンジが朝の仕込みをしているのか?と考える。
盗み食いが出来ない事に半分がっかりし、うまくいけば朝ごはんのおこぼれに預かれるかと期待半分でキッチンの扉を開けた。

「なぁ、サンジ。朝飯の用意してん・・・・・・。」
言葉尻がすぼむ。
中にはゾロ以外の仲間達が揃っていて・・・。
「なっ、ナンダァー、コレ!?」
口をパカッと開けたままマヌケた顔で俺はその場に突っ立っていた。

チッと舌打ちをするサンジをウソップがまぁまぁと宥めに入る。
ナミとビビは顔を見合わせ、大きなため息を付く。
チョッパーとカルーは何故かうろうろとキッチンの中を歩き回っていた。
そして、テーブルの上にはご馳走の山。
キッチンを飾る色とりどりの紙リング。
床に置かれた箱には綺麗なラッピングが施してあって。
「チッ、クソ野郎が!こんな時ばっかり出てくんじゃねぇよ!」
サンジがシュボッとタバコに火を付け、むっとした口調で俺を見る。
「どうせ、お腹が減って起きてきたんでしょ?んもうっ、台無しじゃなーい!」
キッチン内の全員がため息をつく中、俺は一人呆然としたまま。
やがて、苦笑したままのナミが俺に近寄りポカリと頭を殴ってきた。
「なんで、殴る?」
サスサスと殴られた場所を摩りながらナミを見れば
「なんとなく!」
そう言いながら、今度は殴った場所を優しく撫でてきた。
「だってね。口惜しいでしょ?せっかく驚かしてやろうと思ったのにさ。」
俺は十分に驚いているのだが、一体これ以上どう驚けば良かったのだろう?
「まぁ、いいわ。とりあえず日付は変わってるんだし・・・。ルフィ、お誕生日おめでとう!」

「「「「「おめでとう!」」」」」

ナミを筆頭に声を揃えて言われたお祝いの言葉に俺は一瞬キョトンとし、
「誕生日って・・・俺の?」
自分ですらうろ覚えの日を、皆が知っていた事に驚きを隠せない。
ましてや、そんなに盛大にするほどの事でもないだろうに・・・。
「あのねぇ、ウソップに言った時点でそれは周知の事実だと思ってね。」
ナミの言葉にほんの少し引っかかる。
「・・・・・・じゃぁ、ゾロ・・も?」
寝たフリをしていただけなのかと聞く前に、首を横に振ってナミが口を開いた。
「あいつは知らないわよ。だって、あんたが教えるべきでしょ?」
クスクスと笑いながらナミがそう言えば、
「それにあいつに言っちまったらこんな楽しいハカリゴトは出来ねぇだろう?」
と、サンジが補足するように付け加えた。
まぁ確かに、ゾロが俺に隠し事が出来るとは思えねぇし、ゾロに最初に告げる権利も他人に渡したくなんか無いけど・・・。
アレコレと考え込んだ俺の前に、トトトッと床に置かれた箱の一つを持ってチョッパーが駆け寄ってくる。
「ル、ルフィ・・・コレやる!」
俺はきょとんとしながらも無意識に
「ん?食い物か?食い物なら喜んで貰うぞ!」
そう答えた瞬間、
「もうっ、あんたって人は!!!」
ボカッ!ドカッ!ゲシッ!と、ナミ、サンジ、ウソップに間髪入れず殴られその場に蹲る。
「へへっ・・・・アリガトな。」
蹲ったままで、おろおろとするチョッパーから箱を受け取ったら、ウソップやビビ達が次々に箱を手渡してくれる。
「たいしたものじゃないんですけど・・・。」
そう謙虚に言うビビ。
「コレはぁ、由緒あ〜る品だがぁ、特別にぃ、プレゼントしてやるぅ!」
いつもどおりの口調でウソップは言い、ポンポンと肩を叩かれる。
「ホラ、俺様からはコレだ!」
サンジの声に顔を上げれば、生クリームをたっぷりと使い、
チョコレートで飾り文字を刻んだ大きなホールケーキを両手に持ってニヤリと笑っていた。
俺はサンジらしいと笑いかけ、ふと真横にいたナミを見上げた。
「あら、あたしがそんな事にお金を使うと思うの?」
ニッコリと微笑みながらナミはチラリと外を窺う。
「あ、そろそろかしら。ウソップ、お願い。」
「お?おっ、おう。チョッパー、行くぞ!」
スタスタと予め決められていたかのようにチョッパーと出て行くウソップに、俺は何だ?とナミを見つめた。
「・・・・・・もうすぐ、この船は港に着くの。そう言ったでしょ?」
コクと頷いたら、ナミはヨシヨシと腰に手を当てる。
「だからね、あんたが一番欲しい物をあげるわ。・・・"名も無い国"では迷惑も掛けたしね。」
「そ・・・れって・・・・・・」
問い掛ける俺の口を優雅に指で塞ぎながらナミはフワリと微笑んだ。
「私達はあの島で楽しんでくるし、あんた達は明日まで留守番しててちょうだい!」
「ナ・・・ミ・・・・・・。」
守る者が増えれば増えるほど、一緒にいる時間は減っている。
ソレはどうする事も出来ない俺たちの宿命だと、二人とも承知の上で・・・。
それでも離れ離れになった後、無性に二人っきりになりたいと望む俺がいるのも事実。
そんな俺の葛藤を、この移り変わる天候を、波を読むようにあっさりと読み取ってしまう俺の航海士。
泣き笑いの顔でナミを見上げたら、
「コレはおまけ・・・」
そう言って、額に一つ触れるだけのキスを落としてきた。
途端、サンジの怒声が上がる。
「クソ野郎!!!ナミさんの、ナミさんの可憐なくちびるを〜〜〜!!!」
さっきまで三つのバスケットにゴソゴソと食料を詰め込み、テーブルとバスケットを満足そうに眺めていたサンジは、
いきなり見せられた衝撃のシーンに思い切り頭に血が上ったらしい。
サンジがツカツカと俺に近寄り、ギョッとする俺の額に、
「ナミさんの、くちびるぅ〜〜!!!」
と、訳の判らない言葉とともにギュウッと唇を押し当ててくるのと、
「お〜い!接岸したぞぉ〜、って、うぉいっ!!!」
と、キッチンに入ってきたウソップが慌ててチョッパーの目を塞ぐのは、ほぼ同時だった。

原因を作ったナミはケラケラと笑っているし、ビビやカルー達も俺を見ないようにして肩で笑っている。
ハッと我に帰ったらしいサンジが、
「おっ、俺はなにをぉ〜〜〜!!」
と叫びながら頭を抱えているのを、腕をちょいと伸ばしてゴツリと殴ってやってから、俺はナミに手を差し出した。
ナミはまだクスクスと笑いながら、俺の手を掴み立ち上がらせてくれる。
目線を合わせてにししっと笑って、俺は一言だけナミに伝えた。
「ありがとう、ナミ。お前、最高の航海士だ。」
ナミは照れくさそうに髪を掻き揚げて、
「当たり前でしょ。私は海賊王(あんた)の船の航海士よ?」
そう言い返し、上陸の準備を皆に促してからキッチンを出て行った。
ナミに続くようにビビとカルーがキッチンを出て行く。
ウソップもチョッパーの手を引き、最後に残ったサンジが俺の頭をクシャリと撫で、フッと微笑んでからキッチンを出て行った。

「頑張れよ!」
「留守番、ヨロシク!」
「じゃぁね!」
そう思い思いの言葉を残し、朝の爽やかな気配の中を次々に上陸して行く仲間達。
俺は甲板の上からソレを見送り、ふと岸辺に咲き乱れるツツジの花に目を止めた。
満開に花開く、濃く淡いピンクの群れ。
ユラユラと風に揺れるその姿にホンの少しの悪戯心が湧いてくる。

ナミが上陸する寸前にコソリと囁いていった言葉。
「ねぇ、ルフィ。プレゼント、嬉しい?」
「あぁ、すっげぇ、嬉しい・・・ありがとな。」
「ふふん、なら私の時は、忘れてたなんて許さないわよ?」
ギョッとする俺にナミはクスッと笑みを零し
「その代わり、私も忘れないから。」
「ナミ?」
「大切な・・・仲間の産まれた日でしょ?忘れたりなんか絶対しない。」
「・・・・・・そうだな。」
目を瞑り、大切な事に気付かせてくれるナミに感謝の笑顔を贈る。
きっと皆が知っている事。
その日その時に生を受けたからこそ、ココに集う事の出来た仲間達。
だからこそ特別に祝いたい日。
「うん、わかった。特別なんだな。」
「そうよ。・・・特別なの。」
言い聞かせるように俺に告げて、ナミは縄梯子に手を掛ける。
「じゃぁね!」
ヒラヒラと手を振って、ナミは仲間の待つ場所へと降りて行った。

―――と・く・べ・つ―――
何度も何度もその言葉が頭の中で響き渡る。
仲間と一緒に、飲んで騒いで・・・俺はそれだけでも十分に楽しいけど。
でも、特別な日はきっと、それだけじゃない何かがあっても良いのかもしれない。
ならナミ達がくれたプレゼントを最高のモノにする為に、俺はもっと我が儘になってみよう。
キッチンから運んできたバスケットを甲板に置き、両手を合わせて摘んだツツジの花で飾り付けてみる。
アレコレとゾロから貰える物を考えながら、お気に入りの場所に座ってその時を待っている。
ふと、コレだけでもかなりワクワクするんだなと思いつき、クスリと笑みを零していたら背後に覚えのある気配が近づいた。
「ルフィ。」
柔らかな声に呼ばれて振り返る。
俺をジッと見つめているゾロに瞬時に貰いたいものが頭に浮かび上がる。
ソレを貰うために俺は笑顔のままでゾロの側に飛び降りた。



「ル・・・フィ。何・・考え・・て・・・る?」
グイッと顔を引かれ、口付けを強請られる。
「ん・・・んんっ・・・」
ゾロの口内に舌を滑らし、思うさま貪り、
「ん・・・・ハッ・・あぁっ・・・」
離した唇からツツゥーッと引かれる銀の糸を舐めとりながら、緩やかに抽挿を開始する。
俺に組み敷かれ、穿たれたままのゾロは熱い吐息と喘ぎを吐き出し、全てを俺に委ねてきた。

二人っきりでサンジの料理を平らげた後、どちらからともなく求め合う。
キッチンから浴室を経て、いつもの格納庫へと辿り着く。
誰もいない所為か、それとも俺の為なのか、いつもよりも淫らに蠱惑的に俺を誘い、受け入れていくゾロ。
俺の望み通り生身の素顔を惜しげもなく晒しながら、今日を振り返る俺を『今』に引き戻す。
愛しいと髪に口付けを贈れば、ギュウッと背中を掴まれ嬉しいと顔に書いて見つめてくる。
その顔に俺はいっそう嬉しくなり、ふともう一つ見たかった表情がある事に気付いた。
「ゾロ。」
「あっ・・んんっ・・・ル・・・フィ。」
俺が動くたびにゾロの熱は昂ぶり、腰は揺らめき・・・。
「あ・・・ぅ・・・クッ・・・俺・・・もっ・・・・・」
限界を訴えるゾロにニッと笑い、今にもはちきれそうなゾロのモノをギュウッと握りしめた。
「ふぁっ!あぁっ・・・やっ・・・」
根元で止められたゾロの顔は瞬時に苦しげに歪み、何故と訴えるように俺を見て、
右手が俺の手を引き剥がそうと空しく伸ばされてくる。
「うぅっ・・あぅっ、ル・・フィ!やッ・・めぇ・・・」
ゾロの欲望を止めたまま、俺は間断なく刺激を与え続ける。
本当は俺だって限界に近いけど、すべて望んだ表情を引き出す為。
「くぁ・・・ん・・・あっ・・・たの・・む・・から・・・・ル・・ィ」
一際激しい抽挿に、ゾロはクウッと身体をしならせ、潤んだ瞳に薄っすらと銀の膜を張らせる。
「うぁっ・・・あぁっ、オネガ・・・イ・・・んっ・・・オネ・・ガ・・イィ・・・」
キュウッと瞑られた瞳から、ツツゥーッと雫が伝い落ち、俺は満足の笑みを零しゾロのモノを扱き始めた。
「あうっ・・あぁっ、ルフィ・・・ルフィィッ!」
いきなり許しを与えられたゾロはビクンと戦慄き、俺の身体を力いっぱい抱きしめて己の欲望を解き放つ。
その熱に浮かされるように俺もゾロの中へと全てを放った。

ズルリと自身をゾロの中から引き抜いて、ピクピクと余韻に震えるゾロをそっと抱きしめる。
ゴメンと言葉にする代わりに頬に一つキスを落とす。
だって、決めてたから。
ゾロが俺だけに見せてくれる全ての顔が見たいって。
心のままに移り変わるゾロの全ての表情。
怒って、笑って、泣いて・・・・・・。
普段は滅多に見せてくれない特別な表情の数々。
だからソレを拝むまでは我が儘に徹しようと思ってたんだ。
それにきっとこんな風に素直に泣いてくれるのは、俺の腕の中だけでだろう?
わかっているからこそ無性に見たくなってしまう。
特別の中の特別。
もう一度、唇に啄ばむようなキスを落としたら、ゾロはフワリと微笑んでいた。

身体の火照りが徐々に薄まり、空間を互いの柔らかな吐息だけが埋めていく頃。
「満足・・・したのか?」
緩く俺の身体に両手を巻きつけて、ゾロが小さく呟いた。
「ん・・・ゾロ、ありがとう。」
腕の重みを心地よく受け止め、そう返したら。
「そうか・・・なら次は来年だ。」
「ゾロ?」
少しだけ身を起こしてゾロと視線を合わせる。
「来年は忘れねぇ。・・・だから、来年も同じモンで良いよな。」
ほんの少し頬を染めるゾロに、コクコクと大きく頷き返す。
それは、来年もこうして俺と居てくれるという事で。
「なら・・さ。ゾロの時も同じモンでいい?」
「アホゥ、てめぇは誰かれなしに見せてんだろうが!ちったぁ、頭を使ってみろ!」
そうでもねぇと思うんだけどなぁ、とムクれた俺にククッとゾロが笑った。
「でも・・・仕方ねぇな。ソレ以外、特別欲しいモンもねぇしな。」
シカタネェカラ、モラッテヤルヨ
そう耳元で囁かれ、小さな誓いが結ばれる。
俺は満ち足りた気持ちでゾロの胸に顔を伏せて―――。

うん、ゾロ。俺も忘れない。
俺が、お前が、そして仲間達が産まれてきたそれぞれの特別な日。
『誕生日』が特別なんだって事、きっと永遠に忘れない。

ゾロの寝息に守られて、俺の『特別な日』は終わりを告げた。



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戯言:表の誕生日SSが、あまりにも中途半端だったのでその前後を補完にしてみました。
それと、もう一つ見せたい表情があったから・・・ってのもあったんですけどね。(笑)
とにもかくにも、お誕生日おめでとう!船長さん♪
遅くなった呪いはそろそろ解いてくださいね。(まだ、呪われているらしい・・・笑!)