冬の焼石岳1
2002年3月13日(水)
姥石平から雪の焼石岳
昨年の冬から山スキーを始めて八幡平や網張などを歩きまわるうちに、すっかり冬山の魅力に取り付かれてしまった。今年は冬の焼石岳に登って見ようと思い立ち1月からコースの下見を重ねていたが雪が深く、山スキーを履いて30cm以上も沈み込むようではとても銀明水まででさえも辿りつけそうも無かった。
2月21日に3度目の下見に国道397号中沼コースを歩いて見たところ、雪が締まっていてラッセルの必要が無く銀明水まで4時間で到着できた。これで自信がついて好天が2日続く日を待っていたのだったがとうとうその日がやって来た。
自宅を6時に出発、焼石連峰は雲に覆われているが麓は青空が広がり無風だ。予報でも明日まで良い天気が予想されている、午後には雲も晴れてくるだろう順調にいけば今日中に山頂に立てるかもしれない。そんな事を考えながら車を走らせた。
国道397号尿前林道入り口の駐車場
尿前林道を行く
注 意
2003年現在胆沢ダムの建設工事に伴い国道397号は付け替え工事がおこなわれています。国道397号から中沼登山口に向かう林道は公衆電話のある場所から数百m水沢寄りに付け替えられました。公衆電話のある駐車場から尿前林道を通って中沼登山口へは通り抜けることは出来ません。
国道397号から尿前(しとまえ)林道に入る丁字路には駐車場がある。車10台分ほどだろうか、しっかりと除雪もしてあり公衆電話ボックスも立っている。ここに車を置いて林道を歩いていく、夏ならば中沼登山口まで車で20分も掛らない距離なのだが今日はリュックも重い、時間に余裕も有るので写真を撮りながらゆっくり歩く。
6:40分 国道397号駐車場出発
雪が締まっていて靴が全くめり込まない、しばらくはスキーを履かず歩いて行く。尿前林道を歩き始めて直ぐに左側の斜面から雪が崩れ落ちて林道を塞いでいた、林道右側の尿前川を覗き込むと50mほど落ち込んでいる、足を踏み外したら一巻の終わりだ。 しばらく尿前川を右に見ながら進んでいく、雪解けが進んで林道の所々で地面が露出している、雑木の根元の雪も幹から離れ始めている。風も無く柔らかい日差しを受けて暑くなってきた、上着を脱いでリュックに入れる。
7:30分 荒沢林道分岐着
林道の分岐に荒沢林道の標柱が立っている。丁字路を左に曲がって荒沢林道に入っていくと登りが少し急になった。冬山は何が起きるか解らない、ビバークに備えてテントも持ったのでリュックが重い、頻繁にリュックを下ろし休憩する。遠くで赤ゲラだろうか?ドラミングの音がする、ふと見上げると干からびたキノコが生えた枯れ木に丸い鳥の巣穴が二つ開いている、そして雪の上には木クズが落ちていた。ここは休憩用の巣穴だろうか?
赤ゲラの巣穴だろうか?
金山沢手前、崩れ落ちた雪が林道を塞いでいた、手前の雪は今にも滑り落ちてきそうだった
7:55分 蜂谷山友荘着
「蜂谷山友荘」と玄関の上に看板が出ている無人の小屋に着いた。小屋の向いの道端に洗い場が有り水が勢い良く湧き出している、口に含むと癖の無い美味い水だった。
8時11分、金山沢に架かる橋の手前に着いた。左手の急斜面の雪面が崩れ落ちて林道を塞いでいる、ここも右手は深い沢だ慎重に越えて行く。まだまだ林道は続く、今日歩いているコースは焼石岳の冬山コースの内でも長い方だと思う、一般的なコースはツブ沼コースの西側を登って行く平七沢コースだという。ナンバーの書き込まれた丸い案内標識が銀明水まで立ち木にくくり付けられているという。中沼コースは広い尾根を登って行くので天候が荒れるときには迷う心配が有るそうだ。
9:34分 中沼登山口着
中沼登山口に着いた。トイレの屋根には2m近い雪が積もっている、小屋はすっぽりと雪穴の中に埋もれていた。ここからは夏道に沿って林間を登って行くことになるが広い駐車場の奥の方から眺めると、中沼の直下にブナ林に囲まれた小さな雪原が見える。あそこまで登って行くんだな、と見当をつけて歩き出した。
中沼登山口から中沼方面を眺める
雪原を登り切ると正面に中沼がある
中沼方向↓
冬コースの目印は無いに等しい、有ったとしても登山者が個人的に取り付けた物だから当てにはならない。夏道の目印も深い雪の中に埋まっている。目印は中沼から流れ落ちてくる沢だ、右手に沢を見ながら広い尾根を登る。カラマツと雑木の混合林の中にはウサギやカモシカ、キツネなどの足跡が一杯付いている。
次第に勾配がきつくなり最後の雪原を登りきるとどんぴしゃり、中沼のベンチに着いた。
10:35分 中沼着
中沼は真っ白な雪原になっていた。正面には横岳から伸びる稜線が大きく立ちはだかっているが白い雲が覆い被さり霞んでいる。雪原を舐める様に突風が襲ってきた、頭上には青空が広がっているのだが焼石の山並みには雲が一杯だ、山頂は荒れているように見える。中沼の南の縁を廻り込んで沼の西端に着いた。ここからは夏道の右側の尾根を登って行く、ブナ林を少し進むと上沼に着いた。
中沼と横岳の稜線、左端が獅子ヶ鼻岳、(2月21日撮影)
沼の西側から見た上沼
(14日帰り道に撮影)
11:10分 上沼着
沼の南端は雪解けが進んでいた、雪の割れ目から湿原が少し覗いている。沼の中央を真っ直ぐ進んでブナ林に入っていく。ここまで来ればもう銀明水に着いたも同然そんな気分になると疲れが出て来た、リュックを下ろしてゆっくり休む。ブナの幹に貼り付いたミズゴケの繊維が風を受けてふわふわと舞っている、梢の先の芽はだいぶ膨らんでいてもう春の準備は出来ているようだ。だがまだまだ山は冬、陽射しは春だが山はゴーゴーと唸り始めた。夏道の右側の広い尾根を進んで行くと向い風が強くなって来た、所々に目印の赤いテープが有るが強い風に震えている。
ツブ沼コースとの分岐付近に着く頃には地吹雪が始まっていた、コースの黄色い旗を確認して右に曲がって雪原を登って行くと突風と共に頭上から雪が吹きつけてきた。天候が急変している、瘠せ尾根の林間に入ったが風は弱まらない、正面から雪つぶてが容赦無く顔面を襲ってくる。正面に小さい三角形をした兜岩が見えてきた、その手前を左に巻きながら下るとダケカンバの幹に丸いナンバー標識がくくりつけてあった。数字が殆ど読み取れないほど古い、これは地元山岳会の方々が開設した平七沢コースの標識だ。 (写真は「冬の焼石山麓」のページに有ります、中沼コースとツブ沼コースの合流点からは夏道の右手の尾根の上に標識が有る、銀明水避難小屋が100番になっている)
上沼の先でブナを見ながら休む、この後
天候が急変した。
銀明水手前の兜岩、左に巻きながら進んでいく
(14日帰り道に撮影)
兜岩を廻り込んで進んでいくと雪原の向うに小高い尾根が見えてきた。ここまで来れば尾根の林間の中に銀明水避難小屋が見える筈だが地吹雪に遮られて見えない。だが先日銀明水まで下見に来ていたので方角は解る、見当をつけて進んでいく。風に逆らって一歩一歩進む、この辺にもナンバー標識が有ったはずだが...幹には雪がへばり付いていて見つけにくい、もう小屋に着いてもいい当たりなのだが...周囲を見渡し上を見上げると20m程の高みに避難小屋が霞んで立っている。急斜面を登りヘトヘトになって銀明水避難小屋に辿りついた。
12:35分 銀明水避難小屋着
凍りついた階段を強風に背中を押されながら登る、玄関の戸は開くだろうか?2月21日に下見に来た時は玄関の引き戸が凍りついて開かなかった、吹き溜まりになった雪が陽射しで解けて引き戸のレールに流れ込み凍りついてしまっていたのだった。私よりも前にきた人が中に入ろうと必死で引いたのだろうか?3cmほど隙間が開いていたがその隙間から雪が入り室内に吹き溜まりが出来ていた。仕方なく裏の窓からよじ登って入ったのだったが今日は地吹雪だ、重いリュックを持って窓までよじ登って.....だが引き戸には隙間が無かった、あの後来た人が氷を取り除いて戸を開けたようだ。取っ手を持って力を入れると少しづつ開いていく良かった!!室内は予想外に暖かい、窓が二重サッシになっていて機密性が高い為だろう。横岳の方角は真っ白でなにも見えない状態だが南の窓からはダケカンバの林が大きくなびいているのが見える。雪は降っていないが猛烈な風にあおられて雪が舞い視界は10mと言ったところか。1時間前からは想像もつかないほどの変わり様だ。時間に余裕を持って出かけてきて良かった。後1時間遅く出かけていたらと思うとぞっとしてきた。
二階に場所を取って南側の窓から外を眺めながら荷物を広げた。水は雪を溶かして利用する計画だ、早速雪を取って来て溶かし沸騰させてからコーヒーフィルターで濾して使う。風はますます強くなって来た、二重サッシの窓を点検しても何処にも隙間は無いのだがスースーと風が入ってくる。これではとても寝てはいられない、そこで持ってきたテントを組み立てて中に入ってみた。これは良い、隙間風も無く体温で暖まって温度が随分と違う。18時、風の唸り声を聞きながら明日の好天に期待して休む。
銀明水避難小屋の二階に
テントを組立てて中で休んだ
国道397号駐車場→50分→荒沢林道分岐→2時間04分中沼登山口→1時間01分→中沼→35分→上沼→1時間25分→銀明水
国道397号駐車場→5時間55分→銀明水
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えんど