卵はどこ?
壊れてしまった。
とてもとても大事で、大切で、無くしてはいけないもの。
失わないように。
在るように。
☆ ☆ ☆
今日も雨降りだ。もうずっと。随分お日様を見てない。
灰色の雲。
さらさら、さらさら。
雨が降る。
地面に近い空から。
さらさら、さらさら。
☆ ☆ ☆
壊れてしまったら、直さなければいけない。
何処に行っても、混凝土と土瀝青と玻璃ばかり。
覆い尽くされてしまう。
怖い。
急がなければ。
☆ ☆ ☆
水溜りを蹴散らして駆ける。
滴る雫を振り払って。
雨は止まない。
多分、忘れてしまったんだ。止むのを。
それとも、迷子になってしまったのかな、お日様。
無くしてしまったのかな、陽射しを。
☆ ☆ ☆
全てから護って。
両手でしっかりと抱えて。
片時も離さずに。
温めて。
☆ ☆ ☆
見かけたのは路地裏だった。細くて誰も気づかなくて、通るのは猫くらい。
女の子が俯いていた。
両手を回して、膝を抱えて。
凝っと。
☆ ☆ ☆
早く。
早く、孵って。
☆ ☆ ☆
「どうしたの、そんなとこで」
その子は顔を上げた。汚れて縒れた長い髪の毛が彼女を被う。
「何してるの?」
「…抱いてるの」
女の子の、小さな、声。泣き出してしまいそうな。
「何を?」
「卵」
「…たまご?」
「壊れた卵」
「何の?」
「太陽」
ずっと雨降り。